2020年10月27日

◆ 京アニのレベル低下?

 京アニの「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」という新作が公開された。火災のあとで、レベルの低下はあったか?

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 京アニの火災があったのは昨年の7月。それから1年あまりを経て、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」という新作が公開された。火災の被害が深刻だったので、レベルの低下が懸念されたが、どうだったか? 

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 まず、 twitter の評判を見ると、非常に評判がいい。「号泣した」「人生で一番泣いた」「感動した」という声がたくさん出ている。


 しかし世評はどうかというと、ほとんど話題になっていないも同然だ。聞こえてくるのは「鬼滅の刃が大人気」という声ばかり。ヴァイオレット・エヴァーガーデンの「ヴァ」の字も聞こえてこない。
 それでも探すと、次の記事が見つかる。
 9月18日に公開され、10月25日付で興行収入が15億円を突破したことが分かった。観客動員数は約111万人を記録するなどヒットしている。
( → 劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン:興収15億円突破 動員は111万人 京都で舞台あいさつも - MANTANWEB(まんたんウェブ)

 かなりヒットしている部類だろう。ちなみに「響け!ユーフォニアム」の興収は、1作目が2億2300万円、2作目が1億3400万円。
  → 響け! ユーフォニアム - Wikipedia
 それに比べると、ヴァイオレット・エヴァーガーデンは 37日間で 15億円。最終的には 20億円ぐらいだろうか。桁違いに増えている。
 興行的には成功したと言えるので、作品としても成功したと言えそうだ。
 では、レベルの低下はなかったと言えるか? 火災の影響はなかったと言えるか? 

 ──

 そこでひとまず、動画を見てみよう。

 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の動画はこうだ。





 これを見て、私は非常にがっかりした。
 技術的に言うなら、技術は前よりもずっと向上している。背景などの細部が上手にていねいに描かれている。人物の髪なども細かく描かれている。
 一方で、キャラクターの魅力が大きく損なわれている。主人公の女性だけはとても美しいのだが、男性キャラのデザインがひどい。どれもこれも、少女マンガにある男性の顔であって、オカマふうだ。宝塚ふうとも言える。いかにも女性受けしそうな顔だが、男の目から見ると気持ち悪すぎる。生理的に受け入れられない顔だ。男性キャラの顔がひどいので、全体が少女マンガ趣味になってしまっているから、「これを見たい」という意欲が大きく損なわれる。
 さらに言うと、主人公を含めて、どのキャラクターにも「溌剌たる魅力」がない。別にことさらレベルが低いというわけではないのだが、そこいらの少女漫画ふうのアニメ作品と同レベルに見える。「君の膵臓をたべたい」というアニメが、少女漫画ふうで気持ち悪かったのに似て、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」にもそういう気持ち悪さ(少女マンガ趣味)がある。これでは、男性ファンはあまり来ないだろう、と思えた。

 「号泣した」という観衆が多いので、脚本の出来は良かったのだろうし、ストーリーも良かったのだろう。しかし、絵画のレベルとしては、とても褒められたものではない、というのが私の感想だ。

 ──

 一方、以前の京アニはどうだったか? 

 「響け!ユーフォニアム」の動画はこうだ。





 雲泥の差と言えるだろう。技術的には、背景などに粗さがあるが、絵としては人物の魅力が圧倒的に素晴らしい。「輝くばかりの魅力」と言える。「生きている人間の魅力」があふれている。
 ひとことで言えば、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のキャラはみんな死んでいる(生きていない)が、「響け!ユーフォニアム」のキャラはみんな生きているのだ。特に、主人公が。
 1コマ1コマの絵画がとても素晴らしいので、どの1コマからも芸術的感動が得られる。それは「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」からは得られなかったものだ。

 ──

 では、どうしてこうなったか? その秘密は、過去記事を見ればわかる。
  → 京アニ・池田晶子を称えよ: Open ブログ

 「響け!ユーフォニアム」のキャラ・デザインをしたのは、京アニの池田晶子という天才的な絵師だった。彼女が原画を描いて、作品全体をレベルアップさせた。
 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」でも、彼女の原画は残っていた。サーバーに原画のデータが残っていたからだ。
  → 京アニ、制作データすべて回収成功 原画の一部は展覧会で救われた(サンスポ)
  → 『ヴァイオレット・エヴァーガーデンっていう京アニの映画が良いらしいですよ』『あ、それ知り合いがデータ復旧して取り出したやつですね』という会話に「圧倒的感謝」の声が集まる - Togetter

 原画が残っていたから、主人公の顔は魅力的な顔になった。
 しかし、原画は残っても、アニメの全体が残っていたわけではない。というか、そもそもアニメの全体は描かれてもいなかった。そこで、残された原画から、アニメを作っていったのだが、そこには池田晶子という天才はいなかった。どこにでもいるレベルの普通の絵師がいるだけだった。だから、原画のキャラはいることはいるが、そのキャラには息吹が備わらなかったのである。
 つまり、池田晶子の命が消えたとき、キャラの命も消えてしまったのだ。

 「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を見ると、残されたものと失われたものとがわかる。池田晶子がいかに偉大であったかもわかるし、池田晶子を失ったことでわれわれがいかに大きなものを失ったかもわかる。

 冥福。



 [ 付記1 ]
 「鬼滅の刃」であれ、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」であれ、背景を描く技術は、ここ2〜3年で大幅に向上したようだ。これは、新海誠の方法を応用したとも言えるが、具体的には、3DCG の手法を使っているようだ。

 鬼滅の刃を制作した ufotable という会社については、Wikipedia に記述がある。
 映像面の制作に必要な制作部門のすべてを社内に擁しており、各部門が連携を取りやすい体制を築いている。
 映像制作に必要な工程を社内のみで行える環境にあることから内製率が高く、2010年以降の自社元請制作作品においては一般的なテレビアニメシリーズにみられる1話単位の制作を数話分まとめて外注の制作会社へ委託するグロス請けの工程を行っていない。一般的には専門会社への外注が多い背景美術・撮影・3DCGも同社スタッフが担当しており、連携を強く取れることによる作業の効率化を図っている。

 作画に撮影処理を加えることを前提とした絵作りをしているほか作画を3DCGと組み合わせて融合させるカットが起用されることが多く、作画部とデジタル映像部(撮影・CG)のスタッフがレイアウトの段階から密接に連携している。また、色彩・背景美術・撮影を社内で行うことから、1つのカットが完成するまでの全行程を原画を担当したスタッフが他部門と直接連携して最終工程まで関われる環境を整えている。レイアウト設計を行う前段階としてデジタル映像部が3DCGレイアウトを作成することが多く、これにより原画マンがレイアウト作成にかける時間を短縮できるほか、全体的な構図の統一感を生み出している。

 作画や背景美術にかける作業時間や工程数を削減して作画や美術スタッフの負担を減らすために、3Dレイアウトなど事前に必要な素材を設定制作や絵コンテ制作の段階で用意している。これにより、各セクションの作業時間短縮につながり、1カットの完成までの時間を短縮できるほか、各工程がさらなるクオリティアップへ時間を費やすことができる。

 デジタル映像部では、作画で表現されたキャラクター・背景美術と3DCGのコンポジット(合成)によるマッチングを常に意識しており、正しくライティングを行えば、どんなスタイルのキャラクター・背景美術とも3DCGは自然に融合するという理念をもつ。『がくえんゆーとぴあ まなびストレート!』や『劇場版 空の境界』が放送・上映された2007年以降、寺尾優一を中心としたデジタル映像部が手がける映像は「フォトリアリスティック(写実的な描画方法)」な画面と評価されている。

 背景美術は……デジタル映像部と共同でデジタルペイントや手描きで描かれた背景美術に3DCGを組み合わせるハイブリッドな背景美術の制作に取り組んでおり、作品の舞台となる街の全てをデジタル映像部と共同で3DCGにて制作することもある

( → ユーフォーテーブル - Wikipedia


 ufotable の映像については、次のページに具体的な画像が掲げられている。(製作物は、エヴァンゲリオンや Fate など。)
  → ヱヴァンゲリヲン新劇場版×Fate/Zeroスタッフが語るデジタル時代アニメ制作 - GIGAZINE

 [ 付記2 ]
 京アニについては、前期(角川・TBS時代)と、後期(自主路線)とに分けて考えられるそうだ。そして、前期に比べて後期は実りが少ないという。「涼宮ハルヒ」や「けいおん」などは、いずれも前期の作品だ。後期の作品は、あまりヒットしていない。
  → 現体制の京都アニメーション(京アニ)は向こう3年は新たなヒット作を生み出せない - Echec Complet

 [ 付記3 ]
 一方で、ヒット続出という会社がある。ソニーの子会社のアニプレックスという会社だ。
  → アニプレックス - Wikipedia

 やたらとヒット作を連発している。そして、そのうちの一部として、「鬼滅の刃」もある。
  → 『鬼滅の刃』ヒットの裏にはアニプレックス有り!? アニプレが手掛けた作品を紹介 | アニメイトタイムズ
 「鬼滅の刃」の大成功の背後には、アニプレックスがあるのだ。京アニとは正反対みたいに、ヒット作の連発をしている。
 だったら京アニは、アニプレックスと提携すればよさそうなのにね。だけど、純粋さを守りたくて、自主独立路線を取っているようだ。……で、そのせいで、貧乏になった。だから、スプリンクラーもないような安物のビルを使っていたが、そのせいで、いったん火災になると、大量のアニメーターを失った。
 京アニは、経営がまずいので、会社を身売りした方がいいだろう。あるいは、アニプレックスと協力した方がいい。とにかく、現状では商売下手すぎるので、もっと商売上手になった方がいい。
 技術的には十分に能力があるのだから、その能力を十分に発揮できる態勢を整えるべきだ。(現状では駄目だ。アニメーターは良くとも、経営者が悪い。)
 


 【 後日記 】
 コメント欄に反論が来た。次の趣旨。
 「ヴァイオレット・エヴァーガーデンの放送開始は、京アニの火災よりもずっと早かった。ゆえに、火災が作画の質を下げたという説は成立しない」

 なるほど。これはごもっとも。
 しかるに、一方で、作画の質の低さは見て取れる。
 では、そのわけは? 火災ではないとしたら、何が作画の質を下げたのか?
 「作画監督が違うからでは?」 
 と思って、調べたら、確かにそうだった。ヴァイオレット・エヴァーガーデンの作画監督は、ユーフォニアムの作画監督とは違う人だった。
  → ヴァイオレット・エヴァーガーデン - Wikipedia
 それが、作画レベルの理由であるようだ。

 ただし、第11話と第12話に限って、池田晶子の名が一部に見られる。部分的には関与したらしい。では、どういう形で? そう思って、調べたら、次のページが見つかった。
  → ヴァイオレット・エヴァーガーデン 第11話「もう、誰も死なせたくない」

 冒頭に非常に魅力的な女性キャラの画像がある。いかにも生き生きとしている。マリアというキャラらしいが、このキャラデザインはユーフォニアムとよく似ている。これがたぶん、池田晶子の作画したキャラであると推定できる。

 結局、本項全体の趣旨は、かなり見当違いであった(作品低下の理由は、死ではなく、担当者が違ったことだった)ようだが、しかし、その一方で、池田晶子の最後の素晴らしい仕事が見つかった、という副産物がわかったことになるようだ。
 
posted by 管理人 at 23:34| Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はまずテレビアニメとして2018年1月から4月に放映されましたが、
引用されている動画「5分で分かるアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』第1回」の内容は、
投稿日時が2018年2月1日である(また動画の最後で各テレビ局で放送中である旨の記載がある)
ことからも、テレビアニメ版のもので、放映から1年後の
2019年7月18日の京都アニメーション放火殺人事件の影響を語られる論拠として適切ではないと考えます。
Posted by 検校 at 2020年11月04日 20:19
 ご指摘ありがとうございました。
 これを受けて、最後に 【 後日記 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2020年11月04日 22:21
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