2020年10月21日

◆ 京都に原爆(反知性主義)

 大戦末期、「京都に原爆投下」という案があった。これと似た発想は、現在もある。ともに「反知性主義」による。

 ──

 第二次大戦末期、「京都に原爆投下」という案があった。しかも、京都は投下の最有力候補だったそうだ。
  → 本当は京都に原爆が投下されるはずだった | 京都トリビア
  → 京都や横浜も原爆投下の有力候補地だった | 東洋経済
  → 原爆投下候補としての京都について

 京都が最終的に外されたのは、京都が文化的遺産を備えているからではなく、占領後の日本人の精神的反発を恐れていたから(占領政策のため)ということだったらしい。
 要するに、米国には、文化を尊重しようというような気概はなく、単に政治的実利だけで京都に原爆を落とそうとしていたわけだ。たったの 二百年あまりしか歴史のない米国には、京都のような歴史の開く都市の文化的価値を理解できないわけだ。

 ちなみに、京都は世界の旅行・人気ランキングで、堂々トップの座を占めた。
  → 外国人客99%減だけど… 世界一魅力的な都市、京都に:朝日新聞
  → 世界人気都市ランキングで京都が初の1位 昨年トップの東京は6位に|京都新聞

 世界で一番魅力的な都市で、歴史のあるかけがえのない都市を、原爆で一挙に破壊しようというのだから、巨大な仏像を破壊したタリバンよりももっと悪質だと言えるだろう。(野蛮というか、馬鹿というか、知性がないというか。)
 その際、文化的価値というものをまったく理解しようとしないのだから、(当時の)米国大統領を含めて、米国の政治家どもがいかに知性を欠いているかがわかる。(反知性主義とも言える。)

 ──

 さて。ここまで書いてきて、既視感を感じた。これとそっくりのことは最近、他のことでもあったのでは? 

 そうだ。あれです。学術会議の任命拒否。菅首相がそれをやった。まさしく学問の軽視であって、これもまた反知性主義と言える。
 
 そのことは、これまでの首相発言でも窺えたが、本日になって、とうとう馬脚を現した。これまではずっとすっとぼけてきて、「他人がやりました」という素知らぬ顔をしていたが、「衣の下から鎧が見える」とばかり、学問を侮蔑する姿勢を明らかにした。
 菅義偉首相は21日、訪問先のインドネシア・ジャカルタで記者会見し、日本学術会議の会員候補6人を任命しなかったことについて、「現在の会員が後任を推薦することも可能な仕組みになっていると聞いている。こうしたことを考え、推薦された方々がそのまま任命をされてきた前例踏襲をしてよいのか考えた結果だ」と改めて語った。具体的な理由は明らかにしなかった。
 首相は学術会議に関して「年間10億円の予算を使って活動している政府の機関で、任命された会員は公務員になる。国民に理解をされる存在であるべきだ」としたうえで、学術会議の梶田隆章会長との会談で「より良いものにしていこうと合意した」と強調。
( → 菅首相「前例踏襲でよいのか考えた結果」 学術会議問題 [日本学術会議]:朝日新聞

 わかりにくい記事なので、解説が必要だ。首相はこの話で、「任命拒否の件は自らの判断で決裁した」と白状しているのである。

 これまでは「自分で決裁した」とは言っていなかった。むしろ、「首相のところに名簿が来た時点では、名簿の人数は 99人であった。6名を落としたのは、首相よりも前の誰かが決裁したからだ」というふうに述べて、他人に責任転嫁しようとしていた。官房長官も、誰が決めたのかを、ぼかしつづけてきた。
 さて。仮にそうだとすれば、「部下が勝手にやった」と言うことになるから、首相としては「その間違った裁定を取り消して、6人を含めて任命する」というふうに裁定のやり直しをするのが当然だった。
 しかし実際には、首相は「裁定の取り消し・やり直し」をしなかった。「6名を落とした」という名簿を維持した。このことだけからしても、「決裁をしたのは首相だ」と窺われる。……ただしこれは状況証拠にすぎなかった。

 しかるに、本日の記事で、「決裁をしたのは首相だ」とはっきり判明した。なぜなら、「6名を落としたのは正しい」と首相が弁明しているからだ。これはつまり、「6名を落としたのは自分であって、自分のやったことは正しい」と弁明しているのと同じだ。その証拠は、次の台詞だ。
 「推薦された方々がそのまま任命をされてきた前例踏襲をしてよいのか考えた結果だ」
 首相はこう語った。ここで、「考えた」の主語は首相自身である。首相がそう考えたから、そういう結果になった、と言っているわけだ。これはつまり、「首相がそう考えたから、首相がそう決裁した」ということだ。

 しかも、である。この説明は、論理的にはまったくメチャクチャだ。なぜか? 
 「推薦された方々がそのまま任命をされてきた前例踏襲をしてよいのか考えた結果だ」
 というのが理屈であるなら、提出に上った 105人を全員、任命拒否するべきだからだ。「推薦された方々がそのまま任命」というのは、105人の全員に当てはまるのであって、6名だけに当てはまるのではない。
 換言すれば、6名だけを任命拒否するのであれば、6名だけに当てはまる理由を述べる必要があるのであって、105人に当てはまるような理由はまともな理由になっていないのだ。非論理的。

 では、真相は? もちろん、こうだ。
 「6名は政府の方針に反して、政府は間違っているという見解を示した。つまり、政府に逆らった。だから、クビにしてやりたい」
 これが菅首相の本心だ。

 とはいえ、クビにしてやりたくとも、学術会議の委員はたったの年間 30万円しかももらっていない特別公務員であるにすぎない。それでもとにかく年間 30万円をもらってるのだし、公務員のはしくれである、という理由で、何が何でも自己の支配下に置きたがる。そして、そうならないやつは、見せしめのために、何としてもクビにしてやりたがるわけだ。
  ※ 「見せしめのために左遷して、恐怖政治を敷く」というのは、菅官房長時代からの方針。公務員対策。スターリン流かも。

 ここで注意。
 「6名は政府の方針に反して、政府は間違っているという見解を示した。つまり、政府に逆らった。だから、クビにしてやりたい」
 というのは、「真実を言ったから懲らしめたい」というのと同じである。「政府が白だと言えば、黒を見ても白と言え。逆らえばクビだ」というのと同じだ。ここでは、「真実を語ること」は許されない。真実を語ることよりも、政府に従って、政府の嘘に追従することが大事なのだ。……それが菅首相の方針だ。
 そして、あくまで真実にこだわるような学者は、何としてもたたきつぶしてやりたい……というわけだ。

 ※ ここで「真実」は、科学的真実ではなくて、法的真実。具体的に言えば、法理論によって、集団的自衛権は合憲になるか、という問題。ここでは学問的には「違憲」になるが、そういう学問的真実などは政府の意見に屈服せよ、という方針だ。そして、屈服しないやつを弾圧しようというのが、独裁者の方針だ。

 これまでの歴代の首相は、どんなに政治的偏向が激しくとも、学者や学問を尊重しようとする分別があった。しかし、菅首相は違う。彼は「公務員はすべて部下として首相に従え」という方針だ。換言すれば、「俺様には独裁的な権限がある」という方針だ。その方針ゆえに、学者や学問を自分の下に置こうとするのである。
 こういうふうに学者や学問を軽視する(尊重しない)のは、反知性主義だと言えるだろう。

 ──

 反知性主義として興味深いのは、トランプ大統領だ。先日も、次のことが話題になった。

 これには「科学者の言うことに耳を傾ける」というのがどうして悪口になるんだ、わけがわからん、……という感想が続出した。
  → はてなブックマーク

 しかし、これもまた反知性主義の一つなのである。「知性があること」が悪口になると思い込んでいるのだから、まったくの反知性主義だと言えるだろう。
 そして、「反知性主義」という点では、トランプ大統領も、菅首相も、似たり寄ったりなのである。どちらも学問や科学というものを尊重しようという心は かけらもないからだ。

 日米で同時に反知性主義のトップが政権を占めているというのは、興味深くもあるし、嘆かわしくもある。どちらがいっそう馬鹿であるかを、競争している感じだ。

posted by 管理人 at 20:57| Comment(5) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
学術会議が「知性」であるというお立場のようですが、本当にそうだろうか?学術会議は任命拒否に異を唱えていますが、それなら、議長が全員の辞表をとりまとめて、総辞職すればいいだけ。そうしないのは、誰もやめたくないから。学術会議が「知性」ではなく、権威や褒章の意味合いに成り下がっているからと思えてなりません。
Posted by グラードン at 2020年10月22日 09:56
日本学術会議について、日本学術会議HP冒頭に「日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。職務は、以下の2つです。
*科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。*科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。」とある。菅の言っていることが如何に出鱈目か明らか! きちんと説明したら墓穴を掘るのでのらりくらり逃げているだけだろ。グラードン氏の主張はネトウヨの論点ずらし主張そのもの。だいたい甘利明、下村博文、高橋洋一、橋下徹などの学術会議攻撃根拠はフェイク情報をよりどころにした思い込み、すなわちデマだらけだ。Netでよく出てくる迷惑広告に「太平洋戦争の大嘘」というネトウヨ精神のごみダメの様なプロパガンダがあるがこれも「太平洋戦争の大嘘」という大嘘である。まぁ今回は三浦瑠麗さえあきれているということだが。ネトウヨは日本を共産中国化しようとしているんかね!
Posted by 花咲じいじ at 2020年10月22日 19:09
管理人様の文章中で『菅』(すが)総理が『管』となっているのが最近気になります。「かん」で変換かけておられるのでしょうけれど。
Posted by けろ at 2020年10月22日 22:11
 ご指摘ありがとうございます。調べてみたら、ATOK で、「すが」と入力すると「管」が最初に出るようになっている。「菅」は30番目ぐらいになっていた。
 私がどこかで誤変換して変なふうに学習されてしまったのかもしれない。
 自分では「すが」と入力していたので、「すが」のつもりでいたが、いつのまにか「管」になっていたんだ。気づかなかった。

 目に付いたところから直すことにします。


Posted by 管理人 at 2020年10月22日 22:19
原爆を落とさなくても空襲が無くても、京都は勝手に開発等でボロボロになっていてるのは悲しいです。
貴重な文化財級の建物は次々に解体され(平楽寺書店や同志社フレンドピースハウス、京都最古の町家建築である川井家住宅など…)、京町家も、この8年で6千軒近くが消失してます。
Posted by 名無し at 2020年10月28日 00:59
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