──
水害特集なので、あちこちに幾つもの記事がある。まずはこれだ。
昨年10月の台風19号やその後の大雨で東日本の142カ所が、今年の7月豪雨では九州などで5カ所の河川堤防が決壊した。被害を防ぐための河川整備は続けられているが、近年は気候変動の影響で大型の台風や豪雨が相次ぐ。ダムや堤防だけでの対処は難しく、国は流域全体で取り組む「流域治水」にかじを切った。
( → 豪雨対策、「流域治水」に転換 堤防・ダムに加え、貯水施設や住民移転 「どこが決壊、もはや誰にも」:朝日新聞 )
国はこれまで(八ツ場ダムなどの)巨大ダムで治水する、という方針を取ってきた。しかし近年の水害からは、この方針ではもはやどうにもならない、ということが判明してきた。そこで「ダムや堤防だけでの対処は難しく、国は流域全体で取り組む「流域治水」にかじを切った」というふうに方針転換をすることになったわけだ。
これは、私が今まで主張してきたことに合致する。そもそも、ダムよりも上流に降る雨水をいくら貯めても、ダムよりも下流に降る雨水を制御することはできない。ダムの治水能力には根源的な限界があるのだ。
特に、中流や下流域で集中豪雨が起こった場合には、上流のダムはまったく無効となる。(鬼怒川の水害が典型的だ。千曲川や阿武隈川や球磨川もそういう面がある。)
こういう原理的な限界には気づかなくとも、「今のままでは駄目だ」ということには、ようやく気づきつつあるようだ。
ある県の担当者は「堤防だけを強化しても今の洪水には対処できない」と打ち明ける。「どこで決壊するかはピンポイントで予測できない。周辺の住民や企業など、流域の力を合わせて被害を減らしていくしかない」と話す。
国交省の幹部は「堤防が完成したから安全というわけではない。どこが決壊するかは、もはや誰にもわからない」と話す。
こうした状況を受け、国交省の社会資本整備審議会は今年7月、気候変動を踏まえた水災害対策として、流域治水への転換を打ち出した。堤防やダムだけでなく、水をためる施設の整備や浸水の危険がある地域から住民や施設の移転を促していく治水対策だ。
( → 豪雨対策、「流域治水」に転換 堤防・ダムに加え、貯水施設や住民移転 「どこが決壊、もはや誰にも」:朝日新聞 )
このように正しい方向に転換しつつあるそうだ。ただし、記事には、オマケの話が続く。
流域治水の考え方は、国交省内では以前から議論されてきた。ただ、国交省の幹部は「(流域治水の)考え方は、ある意味で『治水政策の敗北』とも受け取られかねない。河川部門の担当者には、抵抗感を持つ人もいた」と打ち明ける。しかし、今後も従来の治水対策では対応できない洪水が続く恐れは高く、方針転換を迫られた形だ。幹部は「あらゆる施策に取り組み、流域全体で洪水に備えたい」と話す。
一応、方針転換はできたのだが、省内の守旧勢力がいて、「ダムこそ治水だ」と言い張り続けて、なかなか脱却しにくい事情があるようだ。なるほどね。
それでもとにかく、政府もようやく、私が前から述べていた方針に近づきつつあるようだ。
──
では、それでうまく行くかというと、そうでもない。
別記事には、こうある。
国はダムや堤防だけでは洪水を防げないとして、貯留施設の整備や避難体制の強化など、流域全体で安全性を高める「流域治水」を打ち出している。
( → 流域全体で水害に備える 台風19号から1年:朝日新聞 )
この記事では「事前放流」や「遊水地」という概念が紹介されている。その二点は、私が推奨してきたことと同じであり、好ましい。
一方で、記事では「霞堤(かすみてい)」というものも紹介されている。その原理は、下記で紹介されている。
→ 画像
堤防に切れ目を入れて、その切れ目から水を押し出すことで、川の外側を遊水地のように使う。川の水位が下がったら、外側に押し出された水は川にまた戻っていく。
これは、昔ならばいいが、今では良くない。今なら、普通の遊水池を作る方がいい。遊水地に溜まった水は、ポンプで川に戻せばいい。(ポンプを使うのがポイントだ。
その具体的な例は、新横浜の遊水地だ。)
→ 新横浜の遊水地: Open ブログ
→ 新横浜の遊水地(台風の後): Open ブログ
この遊水地は、面積はあまり大きくないのだが、堤防の高さが十分にあるので、水位が高くなる。だから、大量の水を溜めることができる。これまでにも十分に氾濫防止の役割を果たしてきた。
その原理は、下記に説明がある。
出典:国立環境研究所
越流堤の高さの分だけ、遊水地の水位が上がる。その分、貯水量は多くなる。
一方、霞堤は、越流堤がないので、遊水地の水位は低い。その分、貯水量は少なくなる。狙いの貯水量を得るには、高さでなく広さで稼ぐしかないから、霞堤をたくさん作る必要がある。遊水地なら一つで済むところを、霞堤では 10個ぐらいを作る必要がある。これでは、工事費も土地代もやたらとかかるので、コストが上がりすぎる。
それでも昔は、そうするしかなかったから、霞堤を作った。しかし今では、ポンプというものがあるのだから、ポンプを使うことで、水位の高い遊水池を作ることができるのだ。こういう近代的な方針を取る方が利口だろう。
──
なお、朝日の記事では、重大な間違いがある。次の二つの言葉だ。
「どこで決壊するかはピンポイントで予測できない」
「どこが決壊するかは、もはや誰にもわからない」
この二つは、同じことを言っているのだが、どちらも間違いである。
なるほど、通常ならば、その言葉は成立する。しかし、越流堤を作れば、事情は異なる。
越流堤は、堤防に切り込みを入れたもので、そこだけが通常の堤防よりも少し低い。だから、そこだけが早めにあふれる。ゆえに、決壊が起こるとしたらここであるとわかるのだ。
「どこで決壊するかはピンポイントで予測できる」 → 越流堤の場所だ。
「どこが決壊するかは、誰にもわかる」 → 越流堤の場所だ。
こういうふうになるのだ。
そして、決壊する場所が特定できれば、あとは対策を取れる。
「そこだけをコンクリートで被覆して、補強する。そうすれば、そこは決壊を免れる」
つまり、決壊が起こる場所をあらかじめ知った上で、そこでは決壊が起こらないように補強するわけだ。これによって、ごく小額の補強をするだけで、流域全体の堤防を補強したのと同等の効果が発生する。(もはやどこでも決壊は起こらないからだ。)
「そんなうまいことが起こるのか?」
と疑うかもしれないが、実際にそれが成功しているのが、新横浜の遊水地だ。
出典:鶴見川の洪水対策
左上の写真:越流堤の部分は、他よりも低くなっている。川側(内側)はコンクリートで補強されている。
左下の写真:越流堤の遊水地側(外側)もコンクリートで補強されている。
右上の写真:洪水時には越流堤の部分で水が外側(遊水池)にあふれる。
というわけで、コンクリートで補強された越流堤は決壊しない。そして、あふれた水は遊水地に貯水される。大雨が去ったあとでは、ポンプで水を川に戻す。
これで、すべてがうまく行くわけだ。
※ 霞堤なんかを紹介している朝日新聞はピンボケだ。
※ 氾濫する場所が予測できないと述べる国交省は、もっとひどいボケだ。
ご指摘の通りで、
国も流石に荒川では調整池を整備したし、さらに第2、第3調整池も鶴く予定です。
推奨の越流堤もついています。
もともとは2500億円かかる計画でしたが、
一部計画を変更し、用地買収を不要にして費用を圧縮したそうです。
渋谷駅の地下貯水槽や、環状七号線地下の地下貯水池も、
費用対貯水量では、荒川貯水池の2〜3桁以下の効率になりそうですが、
荒川貯水池だけでは都心のゲリラ豪雨被害を完全には抑えることができず、
そして、ときどき起きている都心ゲリラ豪雨被害は(被害面積の割には)莫大であり、
かといって(部分的にはともかく)都心全域をを非可住地域、非商業地域にできるわけもなく、
垂直方向の対策として高層化はできても、
すでに高度な地下利用を廃止するわけにもいかないので、
お金をかける価値はあると思っています。
どのようにお金を配分するか、
それは政府の予算だけではなく、民間の自己資金も含めて、
そして治水対策以外との配分も含めてですが、
基準、方式を明確に決めることはできません。
だから討論闘争、試行錯誤、非難批判、自己懺悔するしかなく、
衆の力をまとめる政治家も、市民活動家も必要なのでしょう。
しかし、世の中には害悪にしかなっていない、政治家や市民活動家が溢れているように見えます。
でも世の中には、害悪を減らそうと格闘している、
(多くの場合、害悪を未然に防ぐので目立つことがない)、アンサングシンデレラである、
真の政治家、市民活動家がいるはずです。
見つけたいですね、そういう人々を。
open blog様もアンサングシンデレラの一人なのでしょう。
政治家ではなく、市民活動家でもなく、そして世間で歌われることもない、
だけど諦めることなく大声で歌い続けている
荒川だけでなく、綾瀬川も大門下池、上池などいくつもの調整池(遊水地)を作りました。それで昨年の台風19号の時にも綾瀬川は氾濫せずことなきを得ました。前知事の上田清司さんの推進、科学の勝利です!
埼玉県の公共土木事業は、
治水以外も含め(たとえば外環道など)、
バランスが良いと思っています。
隅田川があふれそうになると水門を閉じて荒川に負担をかけるようになっている
埼玉は損害が少ないから犠牲になってるのよ
霞帝は、洪水時にはこの不連続なところから洪水が逆流して滞留することから、洪水調節の効果があると誤解されがちであった。しかし、霞堤が存在するのは河床勾配が数百分の1より急な扇状地河川に造られており、その不連続空間に逆流し滞留する水量はたかが知れており、洪水ピークの低減効果はほとんどない。霞堤の目的は、堤内からの排水や、上流で破堤氾濫した時に被害を拡大しないように氾濫流をできるだけすみやかに河道還元することにあった。ただ、この洪水の逆流空間は、実は濁流渦巻く洪水時の魚類の避難場所となっており、魚にやさしい工法となっているのである。
霞帝→霞堤