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これは「マゴットセラピー」(ウジ虫療法)という治療法で、朝日新聞が紹介している。
壊死した組織をウジ虫に食べさせる治療法だ。
治療に使うのは、日本で一般的なヒロズキンバエの幼虫。患部のまわりに囲いをし、虫を入れてフタをする。虫が大きくなったら新しい虫に交換」
( → (けいざい+)命を救うウジ虫:上 壊死した組織、食べて治療:朝日新聞 )
すると、こうなった。
東北地方に暮らす70代の女性は5年ほど前、右足をひざ下から切断する必要に迫られていた。糖尿病がきっかけで足の裏や指の組織が壊死(えし)。命の危険もあった。
「もうだめだ。生きていけない」。救いを求め病院を転々。そしてマゴットセラピーにたどり着いた。
女性は入院しながら、これを繰り返した。治療は成功。親指だけの切断で済んだ。「気持ち悪くてつらかった。でも今は感謝してもしきれない」
素晴らしい医療技術なので、ベンチャーとして受賞して、公的補助も受けて、うまく会社を軌道に乗せた。ところが途中で失速した。受注が激減。
なぜか? 国の制度が、この手の先端治療を禁止しているからだ。それは「混合診療の禁止」である。
順風満帆にみえたが、同社の業績は初年度をピークに下降曲線をたどる。注文は徐々に減少。売り上げは一時、年200万円まで減った。
なぜマゴットセラピーは広まらなかったのか。
この治療法は保険のきかない自由診療で、日本では自由診療と保険診療を組み合わせる混合診療は原則禁止だ。マゴットセラピーを採用するとそれ以外の医療行為まで全額自己負担で、大病院では採用が難しい。一方、自由診療を比較的行いやすい診療所でも、マゴットセラピーが主に対象とする糖尿病性足潰瘍(かいよう)は、血管外科や整形外科など複数の科をまたいで協力しながら治療する必要があり、やはり採用は難しい。
( → (けいざい+)命を救うウジ虫:中 治療法広まらず、倒産の危機:朝日新聞 )
「混合診療の禁止」というのは、効果の不明な、いい加減な診療を排除するためにある。
なるほど、いくら調べても効果のわからないような治療法についてなら、その方針もいいだろう。しかし、新たに開発された新方式の技術にまで、その方針を持ち込むと、まともな新技術まで否定されてしまうことになる。
体力のある大手の製薬会社や医療機器会社ならば、初期の投資に莫大な費用を投じても、最終的には高額な医療報酬を受けることで、長期的にはペイできるだろう。しかし初規模なニッチ市場を狙うような、小規模の新興企業だと、その方法は採用できない。(初期の投資資金がないからだ。)
かくて、将来的には有望な市場のある技術であっても、「初期の投資資金がない」というだけの理由で、技術が不採用になってしまう。そのせいで、「親指の切断だけで住む」というような人が、「膝から下の切断」となる。その結果、その人は「片足のない身体障害者」となるので、身体障害者の年金を受け取るようになる。年額でおよそ 100万円前後だ。(厚生年金か国民年金かで、差が出る。)
→ Google 検索
つまり国は、「無駄な医療費を削減しよう」という狙いを取って、「効果のはっきりしない診療を禁止する」というつもりで、「混合診療の禁止」を打ち出した。
ところがその制度のせいで、「実際には有益である診療」が、「今のところは効果が正式には証明されていない」(国の認可を得ていない)という理由で、禁止されてしまう。せっかくの有益な先端技術が、あえて阻止されてしまう。
その結果、「親指の切断だけで住む」というような人が、「膝から下の切断」となるので、国は多額の身体障害年金を払うハメになる。
差し引きすると、「 100万円の医療費を削減しよう」と寝あったせいで、「障害で数千万円もの年季を払うハメになる」というわけだ。
愚の骨頂。
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では、どうすればいいか? そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「新技術による医療法が開発されても、小規模な市場のせいで、許可を得るための投資資金がない場合がある。そういう場合には、混合診療の禁止の対象外にして、混合診療を認めればいい」
これで当面はカタが付く。
さらに、次の措置があると、なおさらいい。
「混合診療をした患者は、将来、その新技術が公的に認可された場合には、自費で払った分を補填してもらえる」
これならば、「後払い」の形で保険金をもらえるので、当面は混合診療であっても、実質的には健保で払ってもらえるのも同然になる。(タイムラグは生じるが。)
結果的に、どうなるか?
・ 患者は、切断を免れて、ハッピーになる。
・ 企業は、事業が採算に乗り、ハッピーになる。
・ 企業の従業員は、仕事を得て、ハッピーになる。
・ 銀行は、融資に利払いをしてもらえて、ハッピーになる。
・ 国は、多額の年金払いを免れて、ハッピーになる。
つまり、三方が一両得どころか、五方が大幅に得をする。非常に好ましい結果だ。
これぞ「うまい方法」と言える。
[ 付記 ]
現実には、どうなったか?
記事(第2回)によると、この企業は収益が赤字なので、倒産することになった。事業も停止することになった。
ところが倒産する日に、銀行員が来て、相談に乗ってくれた。「社会的意義がある」と銀行が認めてくれたので、当面、融資を受けて、倒産を免れた。
その後、企業は農業分野に進出して、成功を収めたので、存続できるようになった。(第3回)
しかし肝心の「マゴットセラピー」は普及していない。企業は(本業の黒字があるので医療面では赤字覚悟であって)、いくらでもウジ虫を提供できるのだが、肝心の患者の側が、その技術を受けようとしない。「混合診療の禁止」という方針は続いているからだ。
かくて現状は、次の状況に近い。
・ 患者は、切断を免れずに、不幸になる。
・ 企業は、事業が採算に乗らず、不幸になる。
・ 企業の従業員は、仕事を得ず、不幸になる。
・ 銀行は、融資に利払いをしてもらえず、不幸になる。
・ 国は、多額の年金払いを免れず、不幸になる。
このうち、四番目の銀行の問題だけは、かろうじて回避できた。(企業が黒字を出したので、その事業を赤字覚悟で継続してくれるので。)しかしながら、他の点では、いずれも不幸になっている。
うまい方法はあっても、それを採用しないので、現状は非常にひどい状況にあるのだ。困ったことだ。
たとえば、あなたの家族が、糖尿病になって、手足を切断するハメになるかもしれない。そういうことは十分にあり得るのである。国の馬鹿げた方針のせいで。
※ この状況はすでに数年間も続いている。2013年ごろから実用化しているのだが、いまだに国から認められていない。
【 関連サイト 】
→ マゴットセラピー - Wikipedia
YouTube
もう一つ、別の動画があるのだが、グロいので、リンクだけ記しておく。
→ 【閲覧注意】寄生虫ウジ虫が人間の壊死を食い止める!注目のマゴットセラピー