本項は、一応、取り消しの扱いにしておきます。
ネアンデルタール人との混血については、これまで否定的に考えてきたが、新たな考えを示す。(今度は肯定的)
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ネアンデルタール人との混血については、これまで否定的に考えてきた。次の趣旨。
「現生人類とネアンデルタール人に共通する遺伝子は、共通祖先から引き継いだものだ。ただしアフリカのネグロイドは、その遺伝子を失った。だから、現生人類とネアンデルタール人に共通する遺伝子は、混血によって獲得されたものだと錯覚された」
→ ネアンデルタール人との混血はなかった: Open ブログ
→ サイト内 検索
ただしこれは、「混血はあった、という説を否定する」だけのものだった。「混血はなかった」と積極的に否定するものではなかった。「混血はなかった」という根拠にはなっていなかった。
「混血はなかった」という根拠としては、次の項目も書いた。
→ ネアンデルタール人との混血はなかった(証拠): Open ブログ
ただし、よく見ると、これもまた、「混血はあった、という説を否定する」だけのものだった。「混血はなかった」と積極的に否定するものではなかった。
※ 「共通遺伝子は有利なので、ホモ・サピエンスのなかで急速に拡大した」という説を否定するだけだった。
「混血はなかった」と積極的に否定する理由は、理論的な発想だった。次のことだ。(★)
・ 仮に混血があったとしても、その遺伝子が残るはずがない。(従来遺伝子よりも有利であるはずがない。)
・ ネアンデルタール人において明らかに有利であった「屈強な身体」の遺伝子は、現生人類で残っていない。
・ 一般に別種の遺伝子を取り込んでも、有利になって残ることは滅多にない。(その遺伝子は該当の種においてのみ有利なのであって、他種に取り込まれても有利にならない。進化論的に。)
・ 多少の混血ならば(レイプなどにより)起こることもあるだろうが、大規模な混血は(異種間の共生が必要なので)あるはずがない。
・ 現生人類のなかで2%の遺伝子が取り込まれているというが、本来ならばネアンデルタール由来の遺伝子は 10%ぐらいあったはずだ。(理由は後述 ¶ ) しかし 10%にもなるほどの大規模な混血があったはずがない。
以上のいずれも、「原理的・生物的に不可能」というよりは、「文化的・生理的に不自然だ」というものだ。「不可能だ」と絶対的に否定するというよりは、「ありそうにない」と相対的に否定している。
したがって、完全否定ではない余地がある。
¶ 理由の説明。
ネアンデルタール人の遺伝子は、現生人類にとっては不利なので、たとえ混血があっても、大部分は淘汰されて消滅してしまう。その大部分というのが、とりあえず、8割であったとしよう。残りの2割だけが、交雑のあとで、子孫に残される。
そして、子孫に残された量は、2%であるとすでに判明している。この2%というのが2割なのだから、元の交雑で紛れ込んだ量は 10% であったことになる。(そのうちの8割は不意なので、淘汰されて消滅した。残りの2割が子孫に残された。)
ゆえに、現生人類で2%の遺伝子が残っているとしたら、元の交雑では、10%の遺伝子が流れ込んだことになる。
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さて。近年になって、ネアンデルタール人との混血について、新たな進展があった。
遺伝子そのものを調べるのではなく、遺伝子の塩基差を調べる。対象となるのは、ハプロタイプ(母系のミトコンドリアまたは父系のY染色体)である。
塩基差の量は、遺伝子の組み換えによるので、時間の経過とともに確率的に増える。だから、塩基差の量を見ることで、遺伝子の由来の時期を知ることができる。そこで調べると、現生人類とネアンデルタール人との塩基差の量は、とても小さいので、共通祖先に由来するのではないとわかった。
下記に説明がある。(わかりにくいが。)
49400塩基対のコアハプロタイプが、50万年以上前に存在したネアンデルタール人と現代人の共通祖先に由来するのか、調べられました。ネアンデルタール人と共有される現代人のハプロタイプが長いほど、共通祖先起源である可能性が低くなります。それは、世代ごとの組換えによりハプロタイプはより短い断片に分割されていくからです。1世代29年、組換え率を100万塩基対あたり0.53 cM(センチモルガン)、ネアンデルタール人系統と現生人類系統との分岐年代を55万年前頃、ネアンデルタール人と現生人類との交雑を5万年前頃と仮定すると(関連記事)、このハプロタイプがネアンデルタール人と現生人類の共通祖先に由来するとの想定は除外されます。333800塩基対のネアンデルタール人的なハプロタイプでは、ネアンデルタール人と現生人類の共通祖先に由来する確率はさらに低くなります。したがって、COVID-19と関連するリスクハプロタイプは、ネアンデルタール人から現生人類へと交雑により受け継がれた、と推測されます。この推測は、3番染色体のこの領域におけるネアンデルタール人から現生人類への遺伝子流動を特定した、いくつかの以前の研究と一致します。
( → ネアンデルタール人由来の遺伝子に起因する新型コロナウイルス症の重症化: 雑記帳 )
もっとわかりやすい説明もある。
→ 私たちとネアンデルタール人が交配した事実、なぜわかったのか(更科 功) | ブルーバックス
詳しい説明は、上記リンクの文章を見てほしい。一部抜粋すると、こうだ。
つまり、突然変異によってAからTへの変化が起きたならば、【図4】の〈ヨーロッパ人がAで、アフリカ人がT〉となるケースと、【図5】の〈ヨーロッパ人がTで、アフリカ人がA〉となるケースが、同じくらいの頻度で起きるはずなのだ。
ところが、実際にDNAを調べてみると、図4より図5のケースが多かった。
仮に共通祖先から遺伝子を受け継いだのであれば、現世人類とヨーロッパ人は(ネアンデルタール人に比べて)同程度の塩基差を持っているはずだ。ところが、実際に塩基差を調べてみると、ヨーロッパ人の方がはるかにネアンデルタール人に近い。そこにおける塩基差の類似は、数万にも及ぶので、とうてい偶然で片付けられるものではない。
つまり、(ただの偶然による)塩基差において、これほどにも共通点が多いからには、まさしく遺伝子の流入があったと考えるしかない。
結局、「遺伝子が同じだ」という理由ではなく、「塩基差が同じだ」という理由によって、混血が肯定されたことになる。これはもはや揺るぎのない事実であって、「共通祖先から引き継いだ」という批判は成立しなくなったと言えるだろう。(つまり、私の従来の批判は成立しなくなったわけだ。)
なお、すぐ上のリンクの記事には、次の話もある。
DNAが似ていても交配したことにはならない
私たち日本人とアフリカのサン族は、もちろん両方ともヒト(学名はホモ・サピエンス)である。そして、両者の共通祖先がいたのは、10万年以上前だと考えられている。さらに、遺伝学の研究によれば、この10万年のあいだ、両者はほぼ交配していないと考えられている。
ところで、現在の日本人のDNAは、ネアンデルタール人よりサン族のDNAに、ずっと似ている。それなのに、どうして、サン族とは交配しなかったけれどネアンデルタール人とは交配したと、わかるのだろうか。
これに続いて、先の塩基差の話が出るのだが、それはさておき。
「DNAが似ていても交配したことにはならない」ということが重要だ。日本人とアフリカのサン族は、多くの共通遺伝子をもつのだが、だからといって「混血した」ということにはならない。遺伝子が同じだということだけでは、「混血した」という結論にはならないのだ。
その意味で、従来の「遺伝子が同じだから、混血したはずだ」という説明は、(私が批判したとおり)成立しないことになる。その意味で、私の批判が間違っていたわけではない。
一方、新たに、ハプロタイプによる塩基差の違いで証明する研究が出た。これについては、否定の余地がない。私も認める。
ゆえに、この新たな研究に従えば、
「ネアンデルタール人との混血はあった」
と判断していいだろう。
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では、それで話は片付くか?
実は、それほど簡単ではない。なぜなら、冒頭近くの (★) で述べた疑問点がいまだに残るからだ。
特に、次のことが重要だ。
「そんなに大規模な混血があったはずがない」
異種間の交雑というのは、もともと起こりにくいのである。
さらに言えば、次の生物学的な根拠も見つかる。
(i)混血の形態
混血が起こるとして、どういう形で起こったか? レイプか、共生か? これについては、次の記述が参考となる。
ネアンデルタール人女性が交配して遺伝子が移入した場合はネアンデルタール人男性が交配した場合と違ってX染色体が他の染色体と大体同様の比率で移入するはずであるが(女性がXXで男性がXYであるため)、そうなっていないため、ネアンデルタール人の男性と現生人類の女性の混血が多かったと想定されている。
( → ネアンデルタール人 - Wikipedia )
このことからして、ネアンデルタール人の男性が現生人類の女性をレイプした、ということが考えられる。ネアンデルタール人の男性は屈強なので、現生人類の男性では歯が立たず、一方的に襲われていたのだろう。この時期には、現生人類の男性は、無抵抗になるか、殺されるか、どちらかだっただろう。
( ※ 似た話は、南米でも見られる。南米では多数の混血がいるが、これは、白人の男性が有色人種の女性をレイプして、子供を産ませたせいだ。混血人のY染色体が白人由来であることから、そう推定される。)
そして、レイプがあったからには、二つの種の間には、友好的な共生関係などはありえなかったはずだ。むしろ敵対的な関係があっただろう。
さらに言うと、共生があったなら、ネアンデルタール人の遺伝子にも、現生人類の遺伝子が流れ込んでいたはずだが、その痕跡は見られない。ネアンデルタール人の遺伝子が現生人類に流れ込むという一方的な方向があるだけだ。ここでは、共生や共存という対照的な関係とは別のものがあったはずなのだ。(レイプという一方的な関係ならば、それに適合する。)
(ii)Y染色体
上のようにネアンデルタール人のレイプがあったなら、ネアンデルタール人のY染色体が大量に残っていていいはずだ。しかし、そうはならなかったらしい。次の記事が参考となる。
《 ネアンデルタール人が父親の混血男児はできなかった? 》
父親がネアンデルタール人の混血男児が生まれなかった可能性があるという。
これまで完全ゲノムが解読されたネアンデルタール人5人は全員女性だ。
著者らはツールを使ってY染色体の中で機能に影響がある変異を洗い出した。そのうちの一つは母体免疫応答を誘導する抗体を作る遺伝子だった。ネアンデルタール人のY染色体を持つ男児が流産になったことが示唆される。これが両種の生殖隔離をもたらしたのではないかと著者たちは提唱した。
( → miosn's blog )
Y染色体を持つ男児が(異種間の生殖隔離の形で)誕生し得なかったのであれば、ネアンデルタール人のY染色体が現生人類には引き継がれなかったことが説明される。(屈強な身体が引き継がれなかったことも。)
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では、以上の問題をうまく説明するには、どうすればいいだろうか?
ここで、次のことを考える。
「そもそも、大量の混血が起こるためには、大量の個体が必要である。だが、当時はネアンデルタール人の個体数は少なかったので、大量の混血が起こるはずがなかった」
ここから、次の結論が得られる。
「ネアンデルタール人との混血はあったが、その数は少なかった。事例としては、あまり多くなかった」
一方で、次の結論も成立する。
「ネアンデルタール人との混血はあったが、その比率は高かった。もともと 10%ぐらいあった」(理由は前述の ¶ )
さて。すぐ上の二つの結論からして、三段論法ふうに、次の結論が得られる。
「ネアンデルタール人との混血はあったが、その数は少なくて、その比率は高かった。ならば、ネアンデルタール人との混血があったとき、現生人類の個体数はきわめて少なかった」
これが新たな結論となる。
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そこで、以上をまとめる形で、(私が)新たな説を出そう。こうだ。
・ ネアンデルタール人との混血はあった。ただしその混血は、恒常的に長い時代に渡って続いたのではなかった。現生人類がアフリカから中東に達した直後に、ネアンデルタール人と出会ったばかりのころ(ごく初期のころ)に、混血があっただけだ。
・ その混血は、共生するような形で起こったのではない。ネアンデルタール人の男性が、現世人類を強襲して、現生人類の女性をレイプすることによって起こった。
・ そこで生まれたのは、混血の女性だけだった。混血の男性は生まれなかった。
・ かなり時間がたつと、現生人類の数も増えた。そうなると、強力な村を作って、ネアンデルタール人の強襲に対抗することもできるようになった。すると、この時期以後、もはや混血は起こらなくなった。
・ 初期の混血によって生まれた人々は、子孫を残した。それらの子孫には、ネアンデルタール人の遺伝子も引き継がれた。
・ ネアンデルタール人遺伝子は、ほとんどが、現生人類においては不利だったので、ほとんどが時間的に淘汰されて消滅した。
・ ネアンデルタール人遺伝子の一部は、わずかに有利か、ほぼ中立だったので、現生人類のなかでも残った。
・ ネアンデルタール人遺伝子は、ごく初期の混血だけのものだったので、ヨーロッパ人とアジア人に分岐する時点よりも前のものだった。ゆえに、ヨーロッパ人とアジア人で、ほぼ同等の量でネアンデルタール人遺伝子が残された。(*)
・ 結局、ネアンデルタール人の遺伝子の一部だけが残されたが、それは、ごく初期の混血で導入されたもののうち、たまたま残ったものばかりだった。だから、個々の遺伝子ごとに、残されている比率(現生人類中の保有者の比率)は、それぞれかなり異なる。逆に言えば、この比率がかなり異なることから、残っている遺伝子は「たまたま残されたものである」と判明するわけだ。(**)
なお、最後のあたりの (*) の件については、次の補強となる事実がある。
新しい分析法により、現代ヨーロッパ人のゲノムの中に、これまで見落とされていたネアンデルタール人由来のDNAが新たに発見された。これまでヨーロッパ人と東アジア人の間には、ネアンデルタール人由来のDNAの割合に20%もの差があるとされてきたが、それが縮小した。
今回の分析は、両者の差が8%未満であることを示唆している。「つまり、私たちが持つネアンデルタール人由来のDNAのほとんどが、共通の歴史から来ているということです」
( → ネアンデルタール人のDNAがアフリカ人にも 定説覆す|ナショジオ|NIKKEI STYLE )
また、(**) の件では、次のように言える。
現生人類には、ネアンデルタール人の遺伝子が残っているが、それは、「その遺伝子が利だから残った」のではない。「有利だから残った」という従来の説は否定される。むしろ、特に有利でもないのだが、たまたま残ったのだ、と言える。
そして、その理由は、初期の混血が起こったときに、そのときの現生人類の集団の個体数がきわめて少なかったからである。そういう状況だったからこそ、その少数の集団において、いくつかの遺伝子は(たまたま)急激に増えることが可能だった。
※ 有利さが従来の遺伝子と同等だとすれば、残る確率は 50%だ。ここで、勝敗の確率を ●● と ●○ と ○○ で考えれば、4分の1は ○○ になる。遺伝子の総数が 2万ぐらいあれば、そのうち 5000 は ○○ になる。こういうふうにして、ネアンデルタール人の遺伝子がたまたま多く残ることは、確率的にいくらかは起こるはずだ。特に有利ではなくとも。特に、集団の個体数が少ない状況では。
[ 付記 ]
以上で、私の新たな説を示した。
そこで、本項のタイトルでは、最初に [新] という文字を入れて、新たな説であることを明示した。
※ 従来の項目は、過去のものとして、棄却される。あえて削除はしないが。
【 補説 】
現生人類においてネアンデルタール人の遺伝子がどのくらい残されているかについては、次の記事が参考となる。
現代人の各地域集団におけるネアンデルタール人のコアハプロタイプの頻度は、アジア南部で30%、ヨーロッパで8%、先住民系とヨーロッパ系とアフリカ系など多様な地域系統の混合であるアメリカ大陸では4%、アジア東部ではそれ以下です。本文中では言及されていませんが、オセアニア(パプアニューギニアとオーストラリア)でも高頻度で、とくにパプアニューギニアではアジア南部諸国並に高くなっています。最も頻度が高い国はバングラデシュで、63%の人々がネアンデルタール人のリスクハプロタイプを少なくとも1コピー有しており、13%の人々がこのハプロタイプをホモ接合型で有しています。
( → ネアンデルタール人由来の遺伝子に起因する新型コロナウイルス症の重症化 )
この事実は、本項の話と、おおむね整合的である。というのは、次のことがあるからだ。
出アフリカをしたグループで最も古いのは、C グループであるとわかる。つまり、北方系モンゴロイドと、オーストラロイドだ。
このことと、「デニソワ人の遺伝子の消失」( → 参照 )とを合わせて考えると、こう推定できる。
「出アフリカをしたなかで最も古いのは、オーストラロイド。彼らはデニソワ人との共通遺伝子を有していた。その後、北方系モンゴロイドや、欧州系コーカソイドや、南方系モンゴロイドなどが分岐した。このとき、(それまで持っていた)デニソワ人との共通遺伝子を失った」
( → 人類の移動 2: Open ブログ )
つまり、初期人類に相当するオーストラロイドでは、ネアンデルタール人との共通遺伝子を多く残している。
その子孫を含む南方アジア人でも、ネアンデルタール人との共通遺伝子を多めに残している。
一方、それよりあとになって生じた欧州コーカソイドや北方モンゴロイドでは、共通遺伝子が少ない。
※ なお、オーストラロイドについては、次の記事も参照。
→ 人類の進化(総集編) 2: Open ブログ
→ 人類の移動 (まとめ): Open ブログ
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オマケで言うと、デニソワ人との共通遺伝子については、従来の私の説が踏襲される。
つまり、「現世人類とデニソワ人との共通遺伝子は、混血によって流入したのではなく、共通祖先から引き継がれただけだ。ただし、アフリカのネグロイドでは、その共通遺伝子が消失した」
これで問題は生じない。
なお、デニソワ人についてハプロタイプをよく調べられていないようなので、上の説は実証的には、肯定も否定もされない。
※ デニソワ人の遺伝子については、ミトコンドリア遺伝子が調べられているが、核遺伝子の塩基差についてはよく調べられていないようだ。(核遺伝子は、細かな差を見るほど十分な形では残されていないようだ。「ドイツで発見された大腿骨化石に含まれる核DNAの保存状態は悪く、完全な核DNAを採取することはできない」という情報がある。→ 出典 ) / ただし、ある程度は、デニソワ人の核遺伝子との比較もなされたようだ。 → 出典