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7月の熊本豪雨では、特養で水害の死者 14名が出た。
→ 熊本豪雨、「千寿園」の14人死亡確認 死者49人に:朝日新聞
これは人為的なミスのせいだ、という趣旨の報道が出た。
7月の豪雨で浸水し、14人が犠牲になった熊本県球磨(くま)村の特別養護老人ホーム「千寿(せんじゅ)園」で、園の避難確保計画が定める避難行動が取られていなかった。当時いた複数の職員への取材でわかった。計画に記載された施設長や副施設長からの指示がなく、判断が遅れたという。警報発表時に駆けつけられる職員も約10人指定されていたが、浸水前に来たのは1人だった。
取材に応じた複数の職員によると、関連施設も含め当時5人いた職員はおむつ交換などの業務に追われ、こうした情報を把握できなかった。激しい雨に危険を感じ、入所者を起こし始めたのは4日午前4時ごろ。その後、土砂災害を警戒し、同じ敷地内の斜面から遠い建物へ移動した。避難確保計画では避難先も決まっていたが、外出が危険な場合は「施設内での避難」としていた。
また計画では、施設長や副施設長は職員を指揮し、人命を確保するよう求められている。ある職員は4日午前4時以降、副施設長に3回電話。午前5時ごろには、園の東側を流れる球磨川支流の水位の上昇を報告し、「ギリギリまできています」と伝えたが、「しばらく様子をみましょう」と言われ、具体的な指示はなかった、と話す。
園には約80人の職員が勤めており、計画には警報発表時などに駆けつけられる「指定職員」が約10人明記されていた。だが、そのうちの1人は「自分が指定されていることを知らなかった」。別の指定職員は「上司から連絡がきたら駆けつけることになっていたが、連絡はなかった」と明かした。
最終的には現場の職員が避難を判断し、近隣住民の協力も得て4日午前6時半ごろから建物の2階へ入所者を移動させたが、その途中、車いすの入所者らが残る1階が浸水した。ある職員は「指示がないのに避難できない。当直の職員だけでは手が足りなかった」と話した。
朝日新聞は7月下旬、副施設長に取材を申し込んだが、「弁護士に任せている」と断られた。園の代理人弁護士は「当直には消防OBの職員がおり、避難の判断はスタッフに任せていた。副施設長は園に向かおうとしたが、(浸水していて)たどりつけなかった。避難確保計画の内容については書面で配布して職員に周知し、年2回は避難訓練を行っていた。当日の指示の適否については園側で判断できるものではなく、今後の検証で第三者に評価いただきたい」と説明している。
( → 14人犠牲の特養、避難計画機能せず 熊本豪雨で浸水:朝日新聞 )
職員は「指示がないのに避難できない」という。園側は「避難の判断はスタッフに任せていた」という。矛盾。
これは明らかな人的ミスであり、「人災だ」と言っていいだろう。その点では、朝日の記事の趣旨は妥当だ。(「人災だ」とは明言していないが。)
では、問題は、そういう「人為的なミス」ということで片付けられるのだろうか? つまり、「人為的なミス」をなくすことが、この問題を再発させない対処策なのだろうか?
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上の記事には、こうある。
「副施設長は園に向かおうとしたが、(浸水していて)たどりつけなかった」
つまり、これは建物の構造的な欠陥があるわけだ。建物の設計ミスというよりは、立地のミスだが。(危険な土地に特養を建てるということ。)
実は、この件は、同趣旨をすでに述べてきた。
→ 水害の死者は金儲けのため: Open ブログ
→ 水害の死者は金儲けのため 2: Open ブログ
これらの記事で詳しく述べているように、次の基本的難点があった。
・ 水害の起こりやすい危険な土地に特養を建てた。
・ 建物の設備なども、水害対策なしで、手抜きだった。
要するに、最初から最後まで、「金儲けのために必要なコストを徹底的に切り詰める」という形で、安全対策を手抜きしていたのだ。というか、「安全対策をしないことで金儲けをする」という方針でできたのが、この特養だったのだ。
これが本質である。(上記2項目で記したとおり。)
だから、朝日としては、その点を強調するべきだった。一方で、「人為ミスがあったのが原因だ」というようなのは、話を矮小化しており、現場の責任に転嫁していることになる。
そもそも、現場の人手さえ足りないし、たとえ人手が足りても建物に構造的な欠陥があった。(エレベーターもない。)……こういう状況では、現場のスタッフや副施設長の側に責任をなすりつけても仕方ない。
では、責任は誰にあるか? 施設長か? 違う。経営者だ。つまり、施設の建設をして、施設の経営で金儲けをする人だ。この人物の手抜きこそが根源的な原因だ。だから、そこをこそ、突っ込むべきだ。
「人為ミスが問題だ」と思って、副施設長に突っ込むのは、方向違いというしかない。
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最後に一言。
こういう問題を再発させないためには、人為ミスをなくせばいいのではない。むしろ、次のことが大切だ。
「災害の起こりやすい危険な土地には、建物を建てない。居住禁止にする」
これこそが根源的な対策だ。そして、そのことは、先日に別項でも述べた通り。
→ 災害危険地域に居住禁止: Open ブログ(9月28日)
そして、その逆のことをした反面教師みたいなものが、熊本の死者 14名という例なのだ。(最も水害の起こりやすい場所にあえて建物を作って多数の死者を出した、という例。その目的は、悪魔の企みにも似た、金儲け。)
※ こういうことをする悪徳経営者は、ものすごい悪人のようにも見えるが、菅首相ほどではないね。菅首相に比べれば、まだマシだ。
【 関連サイト 】
朝日の記事には、画像がいくつかある。
→ 画像(1/6)
水害の当時の報道はこちら。
→ 熊本豪雨、「千寿園」の14人死亡確認 死者49人に:朝日新聞