2020年09月29日

◆ 電力の負担増 1.6兆円

 国が電力市場の制度改革をしたせいで、国民の負担が 1.6兆円になる見込み。1人あたり 1.26万円。

 ──

 何もしなければ、どうということもなったのに、余計なことをしたせいで、莫大な負担が発生する結果になった。
 よかれと思った制度改革のせいで、最悪の結果が生じてしまったわけだ。思惑はずれとも言う。
 国が2024年度に始める電力市場の新制度で、最大1.6兆円の国民負担が生じることになった。7月にあった新市場の入札結果が今月公表され、価格が当初想定の1.5倍に膨らんだ。国側は「想像していなかった」と戸惑い、制度ルールの一部見直しを始めた。
 1.6兆円は最終的に電気料金で回収されるため、単純計算だと1キロワット時2円の上昇要因。平均的な家庭(月260キロワット時)の場合、1カ月500円ほどの値上げにあたる。
 新設されるのは、発電所の設備を確保する「容量市場」。将来の電力不足を防ぐために発電所の維持・建設費を捻出するしくみだ。4年後の24年度に必要な容量(約1.8億キロワット分)の初入札が7月にあり、発電会社が参加した。
 当初予定の8月末から遅れて9月14日に公表された落札結果によると、価格は1キロワット1万4137円。新規建設に必要なお金をもとに国がはじいた指標価格1キロワット9425円の1.5倍で、上限にはりついた。
 なぜ高値となったのか。国の中間報告によると、価格つり上げなどの問題事例はなかった。ただ、入札では一部の発電所に対し高めの値をつけることを認める経過措置があり、価格上昇につながったという。
( → 電力容量市場、国民負担1.6兆円 当初想定の1.5倍:朝日新聞

 どうしてこういう馬鹿げたことになったか? 記事では「高値になったわけ」というのが解説してあるが、話の核心が何も記してない。ただ右往左往しているだけだ。

 ──

 そこで、私が真相を記そう。こうだ。
 そもそも、市場原理というのは、買い手の都合と売り手の都合が、うまく均衡したところで成立する。今回も、国は「市場取引をすれば、市場原理で、売り手と買い手の都合の付くところで均衡する」と思ったのだろう。
 しかし、それは正しくない。この電力市場というのは、市場原理が働いていないのだ。
 なぜか? 市場原理が働くならば、買い手がやたらと高い値段を出すはずがない。高い値段を出せば、損が発生するからだ。(高値づかみという損。)
 ところが、今回は、そういうことが成立しない。買い手としては、どれほど高い値段を出しても損しない。なぜか? いくら高い値段を出しても、その値段をすべて消費者にツケ回しすることができるからだ。
 たとえば、現時点の価格に対して、2倍でも3倍でも、はたまた、100倍でも、1万倍でも、いくらでも高値を付けることができる。なぜなら、その高値をすべて消費者に転嫁することができるからだ。
 では、どうして消費者に転嫁できるかというと、国が公定料金制度の下で、「原価プラス利潤」という形で、いくらでも値上げを認めるからだ。電力市場の価格を「原価」とすれば、その原価がそのまま認められるので、消費者向けの電力価格をいくらでも値上げできるのだ。

 一方で、電力市場の価格が上昇すれば、電力会社は(発電で)ボロ儲けできる。

 ここで、電力会社は、「発電会社」であると同時に、「電力販売会社」でもあるから、電力市場で、いくらでも高値で入札できる。
 
 結局、電力会社は、売り手と買い手の双方であるから、買い手として値段をどんどん釣り上げることができる。そのことで、売り手としてはボロ儲けができる。一方、買い手としては、高値づかみした電力をすべてそのまま消費者に転嫁することで、損を免れる。

 ──

 以上が核心だ。
 そして、その本質は、次のことにある。
 「電力販売会社が高値づかみした電力を、そっくりそのまま消費者に価格転嫁することを、国が認めていること」

 電力は、公定料金なのだから、企業の勝手な値上げを国が認めるべきではない。なのに、現行制度では、値上げを認めることになっている。ここに根本的な問題がある。

 だから、今回の電力市場の結果に対しては、次のようにすることが正解だ。
 「電力市場の電力価格が上昇しても、電力の小売価格の上昇を認めない。電力市場の電力価格が上昇した分は、買い手である電力会社の負担とさせる」

 ──

 ただし、その方法は必ずしも有効ではない。というのは、売り手も買い手も大手電力会社がほとんどだから、電力会社は損も得もしないからだ。

 とすれば、根源的には、次のように言える。
 「電力市場を成立させるためには、発電会社と電力小売り会社を、分離するべきだ」
 つまり、いわゆる発送分離の発想で、大手電力会社の発電部門と送電(小売り)部門とを、分離するべきだ。そうすれば、電力市場の価格が上昇したときには、発電部門が得をする一方で、送電(小売り)部門は損をすることになる。特に、国が公定料金の値上げを認めない場合には、送電(小売り)部門は損を自分で丸かぶりする必要が生じる。

 こういう形で、買い手の値上げ意欲は抑止される。かくて、市場原理が成立することになる。

 しかるに、現状では、そうなっていない。そういう状況で、無理に電力市場を導入して拡大するから、こういう歪みが生じる。

 売り手と買い手が同一の会社だという状況は、一種の独占状況である。そして、独占状況において市場原理を過度に導入すると、独占による過剰値上げや過剰利益が発生する。いわゆるカルテル状態だ。
 今回は、そういう状況を政府が招いてしまった、という失敗例となる。頭の働きが悪いので、思いもよらぬ結果を招いてしまったようだ。
 

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 【 補説 】

 (1)
 1.6兆円の負担は、国民の負担であるが、それはただの無駄となって消えてしまう金ではない。「配分の変更」による金だ。国民は 1.6兆円の負担が発生するが、その一方で、濡れ手で粟というふうにボロ儲けする人も発生する。それは、電力会社(の株主)だ。
 国民の大部分が損をする一方で、その巨額の富をかすめ取ってしまう、少数の人がいる。

 (2)
 東京電力の株主は、本来ならば、「原発の補償費用の負担」が必要なので、「東電の倒産と国有化」という形で、株式はただの紙切れとなるはずだった。
 なのに、民主党政権の進めた「東電の国有化」を阻止したのが自民党だ。その自民党の方針で、東電の株主は本来はゼロになるはずの株式に莫大な利益を与えられた。さらに今回は、1.6兆円の利益を、国民から奪い取ることができるようになった。
 国民に莫大な損をさせるというのは、自民党の一貫した方針だ。それを支持するのが、日本国民なのである。(自業自得。または、自殺行為か自傷行為。)

 (3)
 1.6兆円は、1.265億人で割れば、1人あたり 1.26万円となる。
 一方、朝日新聞の試算では、「平均的な家庭(月260キロワット時)の場合、1カ月500円ほどの値上げにあたる」ということなので、はるかに低い額で済むことになる。
 では、差額はどこへ行ったのか? 産業用電力の分だ。産業用電力もまた値上げされるが、その分は、(コスト増による)「商品の値上げ」という形で、間接的に国民負担となる。
 朝日新聞の試算は、国民の実質負担をあまりにも軽く見ている。「1人あたり 1.26万円」というのが正しい金額であり、これは、4人世帯ならば 5万円ぐらいになる額だ。
 朝日新聞もまた、自民党の失政・悪政の隠蔽をしているようなものだ。国民の莫大な負担を正しく伝えていない。
 


 【 追記 】
 続報がある。
 負担総額は約1兆6千億円にのぼる。多くの発電所を持つ大手電力に収入増をもたらす一方で、発電設備を持たない新規参入の新電力は負担が大きい。
 今回の価格が英国の約5倍、米国の2倍強、フランスの10倍強で、海外の容量市場と単純比較して高い。
( → 「透明性高い説明を」 小泉環境相が容量市場結果に苦言:朝日新聞

 メチャクチャに高い金額となっているわけで、制度的に問題があるのは明らかだろう。

posted by 管理人 at 22:01| Comment(2) | エネルギー・環境2 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
2000年頃に電力自由化をいち早く取りいれたカリフォルニアで起きています。

電力自由化により売り手市場となり、高止まりになった事をみて、政府が売値上限キャップを設けました。配電会社は上限−利益=買電価格となり、電力市場で売り買いが始まり、ついに、買電が集まらず大規模停電を起きました。
日本ではまだ、旧事業用電力会社の発電シェアが大きいのでその様な自体に発展しませんが、太陽光や第2電力の拡大により、その様な自体に陥る事でしょう。
そして、それらの対策として、各電力会社の規模に応じた強制供給義務を課すことになるのでしょうね。
Posted by ちゃちゃ at 2020年09月30日 14:48
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。海外と比較してメチャクチャに高い価格となっている、という話。
Posted by 管理人 at 2020年09月30日 19:55
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