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前項では、ビールの利尿作用の話をした。ここでは、俗説が間違いであることを示したが、この俗説がどうして生じたかを説明しよう。
「ビールには利尿作用がある」
と聞くと、たいていの人はこう思う。
「腎臓は、フィルター機能によって、血液のなかの老廃物を濾して、残ったきれいな成分を血液中に残す」
これだと、フィルターをお掃除する装置が必要となる。では、その装置は何か? そんなうまい装置があるのか?
実は、次のようにする。
「腎臓は、フィルター機能によって、血液のなかの老廃物を濾す。そこでできたものを、原尿と呼ぶ。原尿は、さらに(別の)フィルター機能によって濾されて、原尿中のきれいな成分は再吸収され、原尿中の汚い部分はそのまま排泄される」
ここで、大事なことがある。この「再吸収」される量は、何と 99% にもなるのだ。
糸球体で濾過された尿(原尿とよびます)は、健康な方では1日におよそ150リットルにもなります。実際の尿は1.5リットル程度ですから、99%は再吸収されることになります。この再吸収する働きをするのが、尿細管です。
( → 1.腎臓の構造と働き:一般の方へ|一般社団法人 日本腎臓学会|Japanese Society of Nephrology )
第1のフィルターは「糸球体」であり、第2のフィルターは「尿細管」である。糸球体で作られる原尿は 150リットルだが、そのうち 99%が尿細管で再吸収される。
では、利尿物質はどこに働くか? 原理的には、尿を作る過程のすべての部分で働くことが可能だが、通常は、「再吸収される過程」で働く。その「再吸収する過程」を阻害することで、原尿が再吸収されずに、そのまま尿になるので、尿の量が増える。
つまり、「利尿」というのは、「腎臓で作られる尿の量を増やす」というよりは、「腎臓で作られる原尿のうちで、尿にならない量(再吸収される量)を減らす」という作用を意味する。
比喩的に言うと、「会社の利益を0から1万円に増やすには、売上げを1万円増やすといいのではない。収入が 150万円で支出が 150万円の状況で、支出を 150万円から 149万円に減らせばいい」
元の状況が0なのは、収入も支出も0なのではなく、収入も支出も 150万円だからだ。両者が釣り合っている。このあと、収入と支出のどちらかが余計に増えれば、バランスが崩れて、黒字または赤字になる。
利尿物質も同様である。もともとは釣り合っている状態だが、利尿物質によって、再吸収される量を減らすと、バランスが崩れて、排出される尿の量が(通常よりも)増える。ここでは、作られる原尿の量がいきなり1から2に増えたのではない。原尿のうち再吸収される量が、150から 149 に減ったのである。(正確に言えば、148.5 から、147.5に減ったのである。)
ともあれ、「利尿」というのは、「作られる液体が増える」という意味ではなくて、「大量に作られる液体のうち、再吸収される量が減る」という意味だ。そこのところを間違わないようにしよう。
[ 付記 ]
一般に、アルコールには利尿作用がある。
特にビールでは利尿作用が強いが、そのわけは、ホップに利尿作用があるからだ。
このホップに、利尿作用の原因があります。ホップに含まれるフムロンとルプロンという化合物が、強い利尿作用を持っているのです。
( → ビールを飲むと、ほかのお酒のときよりトイレが近くなるのはなぜ? )
ホップのあの苦味は、単に味を与えるためだけにあるのでなく、利尿作用のためにもあるのだ。それによってビールをガバガバと飲ませるわけだ。
なるほど。うまいことを考えたものだ。賢い詐欺師か手品師みたいなものだ。酔っ払いをだますのが上手だね。まあ、だまされる方が、気分がいいとも言えるが。
【 関連動画 】
腎臓糸球体の動画。