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気象庁のサイトに広告が掲載される。
気象庁は15日午後から、ホームページ(HP)にウェブ広告の掲載を始める。HP運営を年約2.4億円で外部委託しているが、来年2月までのウェブ広告の運用を別の会社に委託。実際の広告収入額に関係なく8700万円を支払ってもらう契約で、全額をHP運営費にあてる。
同庁HPの昨年の閲覧数は約79億ページビューで、省庁では多い方。詳細な掲載基準を定め、不適切な広告は掲載しないという。
( → 気象庁HPに広告、税負担軽減に「挑戦」 労組は批判:朝日新聞 )
記事後半では、批判も示されている。
国土交通労働組合は先月、声明を発表。国民の安全に直結する災害情報を載せるHPが、広告掲載により見づらくなったり操作しにくくなったりする恐れがあると指摘する。
同趣旨の批判は、下記にもある。
■ 命に関わる内容に「広告」が掲載されることの是非
命に関わる内容に付随する形で「広告」が表示されることについては、どの程度の理解・賛同が得られるのだろうか。
私は、気象庁にはもっと「強気」でいてほしい。
「命を守る」ための負担であれば、受け入れられるはずだと私は思う。
( → 命に関わる内容に「広告」が掲載されることの是非 )
以上のような批判は、ごもっともだが、しかしそれは問題にならないと思う。なぜなら、「台風・災害情報のページには、広告を掲載しない」というふうにすればいいからだ。つまり、「命に関わるページには、広告を掲載しない」というわけだ。残りのページ(普通のお天気情報のページ)だけに、広告を掲載すればいい。それでも全体の 98% ぐらいには広告が掲載されるから、広告収入にはほとんど影響しないだろう。これで済むはずだ。
というわけで、私としては、「広告を掲載すること」自体については、「特に問題ない」と判断する。ただし、「台風・災害情報のページについては、広告を掲載しない」という条件でだが。
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しかし、それとはまったく別の点で、この方針には大きな問題があると思う。それは、
「広告料が圧倒的に安すぎる」
ということだ。
記事によれば、広告料は、4カ月半で 8700万円だ。年額換算で 2.3億円程度。
HP運営を年約2.4億円で外部委託しているが、来年2月までのウェブ広告の運用を別の会社に委託。実際の広告収入額に関係なく8700万円を支払ってもらう契約で、全額をHP運営費にあてる。
気象庁が公式ページにWeb広告を掲載する試みを15日午後2時に始める。2020度末までに約8700万円の広告収入を見込み、台風シーズンのアクセス集中対策など年間2億4000万円掛かるサーバ運営費の一部に充てるという。
( → 気象庁サイトに異例の広告掲載、15日スタート 収益8700万円見込み - ITmedia NEWS )
この額では、HP運営費もまかなえない。しかし、圧倒的なアクセスのある大人気サイトが、HP運営費もまかなえないほどの広告料収入だということは、ありえないことだ。
とすれば、「実際の広告収入額に関係なく8700万円を支払ってもらう」という契約は、契約会社にとって大幅に有利になる契約であると推定される。たとえば、実際には 8億円の広告収入があるのに、その1割ほどの 8700万円を気象庁に支払って、差額の7億円余りは契約会社の懐に入れてしまう……というわけだ。
すると、こう思う人もいるだろう。
「8億円の広告収入だなんて、ただの憶測だろ。広告料収入は、そんなに多いはずがない」
そこで調べてみたら、こうある。
福岡市のHPには19年度に約7300万回のアクセスがあり、同年度の広告収入は約700万円だった。気象庁HPはその約100倍に当たる年間約79億回のアクセス数がある。
( → 気象庁HPに有料広告枠 災害時も表示に「配慮必要」の声 :日本経済新聞 )
約7300万回のアクセスで、広告収入は約700万円。気象庁HPはその約100倍に当たる年間約79億回だから、広告収入も約100倍だとしたら、7.5億円になる。このくらいの額は、安定して得られるはずだ。(年間で)
なお、これは、広告掲載を重視しない自治体サイト(福岡市)と比較した場合だ。このサイトの広告はどうかというと、トップページの最下部にバナーが1列あって、小さな広告が4つあるだけだ。
→ 福岡市 ホームページ
これに比べると、気象庁のサイトでは、広告が大きく目立つ形で掲載されることになる。
→ 画像( PC版)
→ 画像(スマホ版)

福岡県に比べて、圧倒的な訴求力がある。たぶん、10倍ぐらいの広告効果があるだろう。とすれば、7.5億円の 10倍で、75億円ぐらいの広告収入が見込める。
これは概算なので、数字のブレも考慮すると、年間 50〜 100億円というのが、実際の広告収入となるだろう。少なく見積もって、年間 50億円というところか。
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なお、私の推計とは別の形で推計した人もいる。
・ 年間アクセス数:79億回(各報道による数字)
・ 使用ウェブ広告:G社
・ 平均クリック率:2%
・ 平均クリック単価:30円
広告がワンクリックされるごとに約30円の広告収入が入るならば、1億6千万×30円で、約48億円の広告収入が入る計算となります。
( → 気象庁HPに広告掲載|広告収入でどのくらい稼げるのか調べてみた | アンバランスな日常 )
ここでも、約 48億円という数値が出ているので、私の推計の 50億円という数値とほぼ合致する。
異なる推計で、ほぼ同じ額が出たのだから、この 50億円という数値は、かなり信頼度が高いと見ていいだろう。
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結局、年間 50億円ほどの広告収入が見込まれるのだが、そして、それを、たったの 2.3億円(年間換算)という少額で1社に権利委譲してしまうわけだ。
これはもう、ほとんど「癒着」というのに近い。
ついでが、次の記述もある。
長官は、「気象庁の予算が足りないからやるということではなく、国として、気象庁ホームページをこれだけの方に見ていただいているおかげで、広告を出せば一定程度の収入が得られるわけですので、それをしないということは、本来得られる収入を無駄にしているということにもなるわけです。そのため、気象庁がどうこうということではなく、国として、これはある意味国民の財産でございますので、そういったものを有効活用していくという観点です。」と述べている。
( → 気象庁ホームページ「ウェブ広告掲載」の議論から国の防災対策・体制のあり方を考える(片平敦) )
しかし、現実には、そうなっていないのだ。「国民の財産を有効活用する」のではなく、「国民の財産を1社のために提供する」(プレゼントする・利益供与する)というふうになっているだけだ。一種の汚職である。

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結論。
気象庁の広告掲載は、年間 50億円ほどの広告収入が見込める。ところがそれを、特定の1社に格安で権利委譲してしまう。
これは、広告収入を得ることが目的なのではなく、広告収入を特定の1社に供与すること(その1社がボロ儲けすること)が目的となっている。そっちが本当の狙いなのだ。つまり、癒着・汚職である。
[ 付記1 ]
提携先の広告会社は、電通かとも思ったが、そうではなく、下記の会社だ。
広告の運用は、天気予報専門メディア「tenki.jp」などを運営するALiNK インターネット(東京都新宿区)に委託する。ただし、気象庁は2021年2月に約6年ぶりの公式サイトの更新を予定していることから、同社との契約も2021年2月までとなっている。その後、新たに運用会社の入札を実施する方針。
( → 気象庁サイトに異例の広告掲載、15日スタート 収益8700万円見込み - ITmedia NEWS )
[ 付記2 ]
ホームページ作成・維持と、広告収入の管理は、どちらも同じ会社が担当することが好ましい。そうすれば、
「アクセスアップで、手数料アップ」
ということで、広告管理会社の収入も増えるし、気象庁の収入も増えるからだ。
現在の気象庁のサイトは、「ページビューを増やす」という目的には合致しておらず、いかにも堅苦しいサイトだ。
もっと見やすく・わかりやすくすることで、ページビューを増やせるし、それによって広告収入も増やせる。
現状では 50億円の収入が見込まれるが、どうせなら、100億円か 200億円をめざすべきだ。
民間の気象情報サイトなら、そういうことを狙っている。それを見習うべきだ。
[ 付記3 ]
「台風・災害情報のページには、広告を掲載しない」と述べた。
だが、台風・災害情報のページも、災害が起こる1日前までなら、広告を掲載してもいいだろう。広告掲載が不適切なのは、災害が起こっている最中だけだ。それ以前ならば、広告掲載は別に問題ないだろう。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200916/k10012620451000.html
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6371245