2020年09月08日

◆ 洋上風力を推進すべきか?

 洋上風力発電を推進するべきだ、という論調がある。エコのためになりそうだ。では、妥当か?
 
 ──

 これは朝日の社説の論調だ。
 《 洋上風力発電 豊かな「資源」の活用を 》
 目の前の豊かな「資源」を最大限に活用すれば、気候危機対策と経済成長の両立を実現できる。官民あげて洋上風力発電の拡大に努めるべきである。
 2018年度の総発電量に占める割合は 0.7%と、世界平均を大きく下回る。国内では現在、陸上風力が大部分を占めているが、騒音や景観などの懸念が少ない洋上をいかに活用できるかが今後の拡大のカギを握る。
 海外では洋上風力の伸びがめざましい。自然エネルギー財団によると、世界の導入量は過去10年間で15倍に増えた。国際再生可能エネルギー機関の試算では、今後10年でさらに10倍になり、今世紀半ばには現在の40倍にもなるという。
 日本は幸い領海と排他的経済水域が世界で6番目に広く、風という資源にも恵まれている。そんな地の利を生かせば、仮に原発がゼロになっても、その分の電力を風力でまかなえるほどの潜在力がある。
 洋上風力の拡大に取り組むことは、脱炭素ビジネスの後押しにもつながる。
( → (社説):朝日新聞 2020年8月24日

 これを読んだときの私の感想は、こうだ。
 「地理(風土)の違いを理解していない。日本には台風があるということを失念している。欧米かぶれで、何でも欧米の真似をすればいいと思っているようだが、単に真似をして風車を持ち運んでも、風車がぽっきりと折れるだけだ」

 これと同趣旨のことは、すでに前に何度も書いたことがある。
  → 風力発電(地理・気候): Open ブログ
  → 風力発電を拡大するべきか?: Open ブログ
  → 風力発電の NHK 記事: Open ブログ
  → 風力発電の妄想: Open ブログ

 これらに上乗せする形で、今回、台風 10号にともなう報道が出た。台風 10号で風力発電の羽根が、折れて、曲がったり断裂したりした例があるそうだ。
  → 【動画】風力発電施設の羽根折れる 鹿児島 南さつま | 台風10号 被害 | NHKニュース
  → 画像【台風10号写真ニュース】記事

 NHK の記事では、破断していない羽根もたくさんある。だから、「全部が壊れるわけじゃないし、たいしたことはないな」と思う人も多いだろうが、そうではない。

 このような機械部品は、いずれも「経年劣化」というものがある。だから、新品のうちはいいだろうが、年数を経て、大型台風を何度も浴びると、そのうちガタが来て、壊れてしまうものだ。最初の5年ぐらいは大丈夫だとしても、10年を越えると怪しい。そして、耐用年数が 10年だとしたら、あまりにも期間が短くて、経費の償却ができない。

 ちなみに、国税庁の規定では、発電事業用の風力発電の耐用年数は 17年である。
  → 風力発電所の寿命 各部品の平均寿命について

 一方、自家発電用の(小型の)風力発電は、耐用年数は9年である。(国税庁の規定)
  → 風力・太陽光発電システムの耐用年数について|国税庁

 自家発電用というのは、例外的だから無視すると、通常の大型の風力発電は、17年ぐらいは使えることが前提となっている。なのに、10年ぐらいで羽根がぽっきりと折れたら、赤字になってしまう。
 羽根が折れるぐらいならまだいいが、台座ごとぽっきりと全体が倒壊する例もあるそうだ。

 ──

 ただし、以上の問題は、洋上風力発電では(技術的に)回避できる可能性がある。
 それは、次のようにすることだ。
 「台風が来たら、洋上風力発電の全体を、横に倒してしまう。そうすれば、風で羽根が折れる心配はなくなる」

 しかしこの方法だと、激しい波で破断する可能性も出てくる。そこで、次の案も出てくる。
 「洋上風力発電の全体を、水中に沈める。特に、全体をひっくり返して、羽根を下にしてもいい」

 ただしこの方法を実現するには、かなり大きな水深があることが必要だ。風力発電の高さが 30メートルだとしたら、水深 50メートルぐらいは必要だろう。それだけの水深があるとしたら、陸地からかなり離れる必要がある。すると、海底との係留などで、問題が出てくるかもしれない。

 ──

 別案として、次の方式もある。
 「強い風が吹いたときに、その風を受け流す。そのために、羽根をたたむとか、力を受け流すリンクを使うとか、何らかの技術的な対処を取る」

 ただし、このような技術は、いまだ未完成だ。だから、導入するとしても、少しずつ手探りでやるしかない。
 一方、一挙に大量に洋上風力発電を導入すると、導入したものが数年後にいっせいにぽっきりと折れてしまう、という危険もある。それはまずい。

 ──

 結論。

 風力発電は、理念はいいが、現実には技術が追いついていない。そのせいで、羽根が折れるという問題も生じる。
 ならば、やたらと焦らずに、少しずつ技術開発するべきだろう。技術開発もしないまま、導入ばかりを焦って実行しても、「台風で大量に破壊される」という問題が起こりかねない。

 ──

 この問題は、かつて原発の導入に焦った例に似ている。ろくに安全対策もしないまま、やたらと導入ばかりに焦ったが、その結果は、安全対策をおろそかにしたがゆえの原発事故だった。
 それと似たことが、風力発電についても言えそうだ。かつての自民党が原発に入れ込んだように、今は朝日のような環境保護派が風力発電に入れ込んでいる。そのいずれも、安全対策をなおざりにしている。
 もっと安全対策や技術開発に力を入れるべきだ。また、自然を見くびって津波を軽視した過ち(原発事故)を反省するべきだ。自然を見くびって台風を軽視するという過ち(風力事故)を未然に避けるべきだ。……この点では、朝日はまったく安全問題をないがしろにしすぎている。

 ──

 ついでだが、国産の風力発電メーカーは、撤退した。
  → スクープ 日立、風力発電機生産から撤退へ:日経
  → 日本製鋼所、風力設備から撤退、MW級の国産陸上風車が姿消す | 日経

 どうしてこうなったかというと、次の二点による。
  ・ 日本では、風力発電の市場規模が非常に小さい。(欧米比)
  ・ 日本では、台風の威力が大きく、技術的に困難。


 以上の二点からして、現状では、日本における風力発電は「現実的ではない」と言えるだろう。
 欧州のように一定の風が一年中吹いているような地域ならともかく、台風が来て暴風が吹くような日本では、風力発電よりも太陽光発電の方が現実的だろう。(日本は欧州よりも熱帯に近いので、太陽光発電の点では有利だ。)
  → ヨーロッパと日本の緯度の比較



 [ 付記 ]
 風力発電の是非は、風土に依存する。台風が来るようなモンスーン気候の日本では不適だが、穏やかな風が一年中吹くような西岸海洋性気候では適する。その典型は、イギリスだ。
 イギリスは世界でも風力発電に最適な場所の1つで、ヨーロッパでは最適と考えられている。2017年に風力発電はイギリスの発電の15%、2017年の最終四半期には18.5%を占めた。陸上の風力発電は、発電技術に炭素原価が適用される場合、イギリスにおける発電技術のMWhあたり最も低い均等化発電原価(LCOE)になる。2016年、風力発電はイギリスの発電において初めて石炭を上回り、2018年の第1四半期に原子力発電を初めて上回った。
( → イギリスの風力発電 - Wikipedia

 朝日の社説担当者ならば、「イギリスはいいなあ。エコだなあ」とうらやましがるだろうが、とんでもない。イギリスは一年中、曇りがちで、まともに陽が射さないことが多い。だから、太陽光発電には、まったく適さない。
 のみならず、農業もろくにできない。日射量が少ないから、野菜もろくに育たない。イギリス料理がまずくて、「イギリスはメシマズだ」と言われるのは、イギリスでは野菜が乏しいからだ。ドイツと同様で、根菜類ならばできるが、まともな青菜のようなものはできにくい。柑橘類なんて、もってのほかだ。(→ 出典 ) そういう土壌だから、料理もメシマズになる。

 日本が豊かな風土で、豊かな野菜を食べることができて、多様な料理を味わえるのは、日本には日光がたっぷりと射すからだ。同時に、その代償として、熱帯から来る台風を受けて、風車が壊れることになる。
 世界の各国は、おおむね、風力と太陽光のどちらか一方だけが有力だ。どちらもできるのは、アメリカや中国のように、超広大な面積の領土がある場合だけだろう。
 そういう風土の違いも理解できないで、「欧州の真似をしよう」とばかり望むのは、欧州かぶれのエセ知識人の発想なのである。



 【 追記 】
 日本企業の状況は、こうだ。
 三菱重工業はかつて10位以内にランクインしていたが、すでに単独での新規販売を停止し、世界トップのヴェスタス(デンマーク)と洋上風力発電事業に特化した折半合弁会社「MHIヴェスタス」を2014年に設立することで、生き残りを図っている。
 日立製作所も2019年1月、欧州2位の独エネルコンとの提携拡大を発表。従来は、日立製作所が自社風力発電機を、グループ企業の日立パワーソリューションズがエネルコンの風力発電機を販売してきたが、日立製作所でもエネルコン製を販売していくと同時に、エネルコンとの共同開発体制に転換した。
( → 【日本】日本製鋼所、風力発電機事業から撤退。三菱重工・日立も欧州勢と提携し生き残り図る | Sustainable Japan

 三菱重工業(東京都千代田区)とデンマークのヴェスタス社の合弁による洋上風力発電設備専業の新会社であるMHI Vestas Offshore Windが4月1日発足し、営業を開始した。
( → 三菱重工業、洋上風力専業の新会社が営業開始 | ニュース | 環境ビジネスオンライン

 なお、南さつまの風力発電は、事業体はいくつかあるが、いずれも製造者は三菱重工だ。
  → 日本における風力発電設備・導入実績
 
 報道によると、壊れた風車は、鹿児島風力発電研究所の所有だ。
  → かごしま水族館の水路に流木 風力発電施設が破損 台風10号で新たな被害(KTS鹿児島テレビ)
 これは、すぐ上の()によると、2004年の稼働だ。16年目で破断したことになる。
 
posted by 管理人 at 23:28| Comment(3) |  太陽光発電・風力 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「2004年の稼働」なら、「6年目」ではなくて、16年目では?
Posted by 松本直樹 at 2020年09月09日 11:33
 ご指摘ありがとうございました。修正しました。
Posted by 管理人 at 2020年09月09日 12:22
洋上風力発電に関しては、基礎技術を中心に、海上技術安全研究所(国研)が研究開発を長く実施しているようです。ご参考まで。

国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所
https://www.nmri.go.jp/
Posted by 反財務省 at 2020年09月09日 22:37
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