2020年09月04日

◆ 将棋 名人戦第5局(2020年)

 玉が詰みになっていないのに、あっさりと投了した、という珍しい一局。

 ──

 普通はどちらかの玉が詰みになるか、詰みになるのがほぼ確実になったところで、投了する。
 ところがこの一局では、詰みになるのがまだまだずっと先だというのに、先手は投了してしまった。なぜか? 
 それは、下の記事において、本図と終了図を比べるとわかる。
  → 挑戦者、3勝目 第78期将棋名人戦七番勝負 第5局第10譜:朝日新聞
 
 この 26手の間に、勝負は決まった。
 初め(本図)の時点で、すでに後手が圧倒的に優勢であって、ここから逆転する目はもうない。
 とはいえ、後手の勝ち方がいかにもえげつなかった。△7一角 と △5一金 がそうだ。いずれも自陣に重要なコマを打っている。といっても、自陣に自玉がいるわけではない。自玉は入玉目前であるから、角や金が玉を守るわけではない。
 では何のために角や金をわざわざ打ったかというと、自陣のコマを相手に渡さないためである。さらに、相手の竜をいじめるためである。(竜取りに打って、かつ、手番も取る。守備と手番で、一石二鳥みたいな手だ。)

 で、こうやって何をしたかというと、じわじわと自陣の優勢を構築していった。そして最終的には、こうなった。
  ・ 先手はもはや、手も足も出ない。だるま状態だ。
  ・ 後手はいくらでも攻撃の手がある。先手を火だるまにできる。


 完全に優勢を構築して、相手を圧迫している。勢力勝ちという感じだ。
 これは、「すばやく王の首だけをかっさらう」という現代的な将棋とは正反対の勝ち方だ。「自陣にコマを打って、優勢を確立して、相手には手も足も出ない状態にする」という点では、大山流の典型だとも言える。

 こういう勝ち方は、現代将棋ではなかなか見られないので、非常に興味深かった。
 常識的には、△7一角 と △5一金 のような手は打たない。自陣に「守備だけのコマを打つ」というようなことはしない。むしろ、玉の首をかっさらおうとして、単刀直入に王手をかけるような手を好むものだ。たとえば、3二の角を8筋に成るとか、手持ちの角を先手陣に打ち込むとか。
 しかし後手の渡辺はそうしなかった。王手をかけるよりも、じわじわと全体を圧迫するという手を選んだ。そして、それがどうやら、「最短の勝ち方」であったらしい。別に玉の首を取らなくても、この時点で先手は自ら玉の首を差し出すしかなくなったからだ。

 こういう勝ち方もあるんだなあ……と感心した一局だった。
 


 [ 付記 ]
 棋譜は:

  ▲6四竜   △7四金2
  ▲6二竜   △7八歩成2
  ▲5九玉5  △7一角5
  ▲7二竜16 △8八と上
  ▲7五歩12 △同金3
  ▲7三桂成  △5四角
  ▲8三成桂3 △8五玉1
  ▲6一竜   △5一金打2
  ▲6四竜1  △8三銀
  ▲6五銀   △同角8
  ▲同歩    △7四歩
  ▲3七銀5  △6六歩2
  ▲5六銀1  △5二桂3
  ▲―――5 まで、渡辺勝ち 
 
posted by 管理人 at 23:45 | Comment(0) |  将棋 | 更新情報をチェックする
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