2020年08月24日

◆ 名誉毀損のリツイートで賠償金?

 名誉毀損のリツイートをすると賠償金を取られる……という記事があったが、これは間違いだ。

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 名誉毀損のリツイートをすると賠償金を取られる……という趣旨の記事があった。本日の朝日新聞。
 ツイッターで他人の投稿にコメントをつけず転載する「リツイート」をしただけで、名誉毀損(きそん)が成立する――。大阪高裁が6月、そんな司法判断を示した。
( → そのリツイート、名誉毀損かも 安易な情報発信に警鐘:朝日新聞

 これは次の事例を受けたもの。
 岩上氏は、府知事時代の橋下氏が「幹部職員を自殺に追い込んだ」などとする趣旨の第三者のツイッター投稿(元ツイート)を、自らのコメントを付けずにリツイートした。
 この大阪高裁判決は……岩上氏に33万円の支払いを命じた一審・大阪地裁判決を支持し、岩上氏の控訴を棄却した。

 これを報じたあとで、次のように結論する。
 ネット上で誹謗中傷の拡散が社会問題化するなか、識者は「手軽にできてしまう情報発信で生じる法的責任を十分に自覚すべきだ」と警鐘を鳴らす。

 つまり、「中傷するリツイートをやると、多額の賠償金を請求されるので、注意しよう。やたらと中傷しないようにしよう」という趣旨だ。
 いかにも、ごもっとも、という感じだが、これは間違いだ。倫理的には、これは正しい方向性にあるのだが、法的には間違いだ。
 なぜか? 日本の法制度は欠陥状態にあって、「正義は挫(くじ)かれ、悪が勝つ」という制度になっているからだ。これが事実である。この事実を、新聞は正しく報道するべきだ。(虚偽を報じるべからず。)

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 では、事実とは? それは、こうだ。
 「相手を誹謗中傷をすると賠償金を請求されるのは、その相手が金持ちの相手の場合だけである。相手が金持ちでなければ、誹謗中傷しても賠償金は請求されない」

 これはつまり、「金持ちと庶民とでは、法律によって守られる度合いが異なる」ということだ。「金持ち優遇、庶民冷遇」ということだ。
 「正義は金で買える」ということでもある。逆に言えば、「金がなければ正義は変えない」ということでもある。だから、「金のない庶民には正義は来ない」ということでもある。
 これが現実だ。少なくとも、日本の法制度はそうなっている。そのことを正しく指摘するべきだ。

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 ちなみに、記事にはこういう例も示されている。
 茨城県の常磐自動車道で昨年8月、男性会社員があおり運転を受けた後に殴られた事件では、無関係の女性を「傷害容疑で指名手配された男の車に同乗していたガラケー女」とするデマ情報がネット上で拡散。女性の代理人弁護士によると、女性はデマを拡散した人たちを特定して賠償請求を進めている。
 今年5月には、テレビ番組に出演していたプロレスラーの木村花さんが、ネット上で匿名の多くの中傷を受けた末に亡くなった。

 ここで、賠償請求ができるかどうかは、被害者が金持ちであるかどうかによる。上の記事では、「女性の代理人弁護士」がいるということだから、たぶん、金持ちなのだろう。その場合には、正義を主張できる。
 一方、木村花さんは貧乏人だった。だから彼女には正義は来ない。たとえどれほどひどく誹謗中傷されても、彼女には正義は来ないのだ。賠償金を請求することはできず、ひたすら耐え忍ぶしかない。要するに、「殴られ放題」も同然である。これが(貧乏人の)現実なのだ。

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 では、どうしてそういうことが成立するか? それは、こうだ。
 「名誉毀損で訴訟をすると、賠償金をもらえるが、その額は弁護費用よりもずっと少額なので、大赤字になる」

 橋下・元知事は、名誉毀損の訴訟を二つかかえていた。その一つが上記判決だが、もう一つの訴訟では、こういう判決だった。( → 出典
  ・ 弁護士費用 …… 50万円
  ・ 費用の負担 ……  3万円
  ・ 賠償金   …… 30万円


 弁護士費用は 50万円かかったが、そのうち相手が負担する分はたったの 3万円だけ。賠償金は 30万円。合計して 33万円だ。出費は 50万円だから、差し引きして、17万円の赤字となる。
 勝訴したのに 17万円の赤字だ。これでは、金持ちしか訴訟できない。(他に、裁判に出席して、時間を失うことの損失もある。)

 ──

 もう一つの方でなく、今回の方の訴訟では、どうだったか? こうだ。( → 出典
  ・ 賠償金は 33万
  ・ 訴訟費用は、原告が2割負担で、被告が8割負担

 こちらは、1審と2審があったので、裁判費用は 2回分あって、75万円ぐらいになっているだろう。そのうち、原告が2割負担だと、15万円の支払いだ。賠償金は 33万円だから、差し引きして 18万円の黒字となる。(赤字ではない。)

 これなら黒字になるだけマシだと思えるが、そうでもない。
  ・ 裁判に出席することで多大な時間を奪われる。
  ・ この判決は、かなり偏った判決であったらしい。


 後者のことからして、この判決は一般的でないらしいので、同じことが適用されるとは限らない。
 そもそも、「裁判費用の8割が敗訴側の負担」というのは、日本ではかなり珍しいことだ。たいていは、大半を勝訴側が払うことになる。(その場合は勝訴しても大赤字となる。)

 ──

 では、どうしてこうなるか? 理由は二つ。
  ・ 日本では名誉毀損の賠償金がとても低額だ。
  ・ 日本では名誉毀損の訴訟費用負担が敗訴側に甘い。

 この二つのせいで、「正義は通らない」というふうになっているのだ。
 これが日本の現実なのである。(それを正しく報道するべきだ。)



 [ 付記 ] 
 ちなみに、米国では、そんなことはない。
  ・ 米国では名誉毀損の賠償金がとても高額だ。
  ・ 米国では名誉毀損の訴訟費用負担が敗訴側に厳しい。

 この二つのおかげで、「正義が通る」というふうになっているのだ。米国では。
 


 【 追記 】
 コメント欄で、次の指摘が来た。

> 判決文にある「訴訟費用」というものには、「弁護士費用」は含まれません

 その通り。この点を失念していたので、本文中では、言葉遣いが不正確になっていた。全体の趣旨は特に間違っていないのだが、費用というところで、弁護士費用を含むかどうかで、話がゴッチャになっており、不正確になっていた。

 本文をいちいち書き直すのは面倒なので、そのままにしておくが、用語については不正確なところが多々あるので、ご注意ください。

  ・ 「弁護士費用も敗訴側が払うべきだ」という趣旨はそのまま。
  ・ 裁判所の判決部分の説明では、「訴訟費用」と「弁護士費用」がゴッチャになっているところがあるので、区別するべき。

 というふうにまとめられます。
posted by 管理人 at 20:45| Comment(2) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
> 橋下・元知事は、名誉毀損の訴訟を二つかかえていた。その一つが上記判決だが、もう一つの訴訟では、こういう判決だった。( → 出典 )
  ・ 弁護士費用 …… 50万円
  ・ 費用の負担 ……  3万円
  ・ 賠償金   …… 30万円

 弁護士費用は 50万円かかったが、そのうち相手が負担する分はたったの 3万円だけ。賠償金は 30万円。合計して 33万円だ。出費は 50万円だから、差し引きして、17万円の赤字となる。

⇒ すみません、収支計算は大体そのとおりなんですが、少しご理解が違うところがあります。判決文にある「訴訟費用」というものには、「弁護士費用」は含まれません(裁判所というか、法律家の文法上)。

 https://www.mc-law.jp/kigyohomu/26881/

 上のリンクの「2(民事訴訟法上の訴訟費用の内容)のう=vに記載のあるとおり、印紙,証人の日当,送達の郵券(切手)代,鑑定費用などがこれ(訴訟費用)にあたります。弁護士費用(報酬)は含まれません。とはいえ、原告が訴状に何を請求すると書くかは自由なので、原告の橋下知事は今回、弁護士費用の50万円も℃x払え、と書いたわけです。そして、裁判所はこの部分は(基本的に)認めませんでした(ただし、意表を突いたかたちで一部を認めました)。
 ちょっとややこしいので整理しますと、

 @ 「慰謝料」として500万円を支払え→「慰謝料」として30万円が認められた。
 A 「弁護士費用」50万円を支払え→「損害賠償金」として3万円が認められた。
  ※ 上の「慰謝料」も精神的苦痛という人的損害を回復させるための賠償金の一種なのですが、それとは別の実損、例えば交通事故の際の休業補償みたいな位置付けでしょうか。
 B 「訴訟費用」を支払え→ 50分の3を被告が負担することが認められた。「訴えの提起」にかかる印紙代は、訴額550万円の場合 32,000円。その他、切手代やらツイッターの開示費用やらで、全部で推定10〜20万円くらいが認められる「諸費用」? このうち、50分の3の実質6,000〜12,000円が被告の推定負担額。

 ということになります。Aの50万円ぶんの3万円と、Bの50ぶんの3が同じ割合になっているのは、とても味わいがありますね(笑)。訴状の内容を確認したいところですが、ひょっとしたら、原告(橋下氏)は「訴訟費用は被告の負担とする」旨の通常よくある請求をしていない(よって、裁判所が勝手に割合を決めた)のかもしれません。

 なお、原告が被告に対して訴訟費用の負担を求めないことは、(事実であれば)大変珍しいと思います。その代わりといいますか、橋下氏は、民事訴訟の慣例にない「弁護士費用の負担」を被告(米山氏)に求めているのですが、実はこのことが大変な「常識外れ」だということは、原告被告双方とも弁護士資格がある方々なので、お二人とも良くわかっています。重々わかっていながら橋下氏がそれを請求したということは、同じ弁護士資格を持つ「米山氏」への嫌がらせというか、「こんなに俺は怒ってるんだ!」という彼なりのアピールみたいなものでしょう。橋下氏も、裁判所が「弁護士費用」の一部支払いを認めるとは最初から考えていなかったはずで、損害賠償金というかたちでそれが一部でも認められたということは、例外中の例外が起こったということで、橋下氏には大きな勝利ポイントでしょうね。

> そもそも、「裁判費用の8割が敗訴側の負担」というのは、日本ではかなり珍しいことだ。たいていは、大半を勝訴側が払うことになる。(その場合は勝訴しても大赤字となる。)

⇒ 蛇足かもしれませんが、これまで述べたとおり、「弁護士費用」を敗訴した相手方に支払わせるのは殆ど無理です(橋下、米山裁判は例外中の例外かと)。いっぽうで、「訴訟費用」については、判決で敗訴側の負担とされることが一般的です。
Posted by かわっこだっこ at 2020年08月26日 03:45
 ご指摘ありがとうございます。
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2020年08月26日 07:12
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