2020年08月11日

◆ 津波予報は時刻が大事

 津波予報は、津波の高さが大事だと思われているが、津波の到達時刻もまた大事だ。人々は気づきにくいが。

 ──

 「津波の到達時刻なんて、早めの時刻を示しておけばいいだろ。その時刻までに逃げ出せばいいんだ」
 と思いがちだが、そうではない、ということが判明した。

 朝日新聞に、当時の経験が掲載されている。
 《 (午後2時46分 あのとき)宮城・山元町、中浜小学校 東日本大震災10年目 》
 海から200メートル余りに位置する宮城県山元町立中浜小学校。大津波が迫る中、校長が決断したのは、屋上への避難だった。子どもたちの命を守った2階建て校舎はこの9月、震災遺構に生まれ変わる。だが校長は今も迷い続ける。あの判断は正しかったのか――
( → 朝日新聞

 地震発生は午後2時46分。
 その3分後のテレビでは、津波到達の予報時刻は午後3時。
 ここで決断を迫られた。
 「避難先は(高台の)中学校だが、そこまで徒歩では 20分以上かかる。そこに行くか? しかし、その途中で津波に襲われたら、ひとたまりもない。高台には行かずに、自校に留まった方がいい。しかし自校は低い。2階までしかない。大きな津波が来たら、2階も水没する。どうする?」

 迷った末の判断は、こうだ。
 「外には出ない。2階の上に屋根裏部屋があるので、屋根裏部屋に避難する。その高さまで津波が押し寄せたら、死ぬのも仕方ない」

 結果はどうだったか? 運がいいことに、津波は2階を水没させたが、屋根裏部屋は水没を免れた。結果的には成功だった。しかし、それはあくまで運だ。下手をすれば全員が死んでいたかもしれないのだ。

 一方で、確実に助かる方法はあった。それは、(高台の)中学校へ逃げることだ。そこまで時間が 20分以上かかるが、実際に津波が到達したのは午後3時50分ごろだったから、十分に余裕があった。( 30分ぐらいを余していた。)
 結果論ではあるが、「(高台の)中学校へ逃げること」が正解であった。ただし、それを選択するための情報は与えられていなかった。なぜなら気象庁は、「津波が到達するのは午後3時」と予報していたのであって、正しい時刻を予報しなかったからだ。
 つまり、気象庁が正しい時刻を予報しなかったせいで、学校側は正しい選択をすることができなかったのだ。

 ──

 ここで、事実を明白にするために、時間の遅れが生じる理由を示す。


singen.png
出典:気象庁


 女川や石巻のある半島(牡鹿半島)と、仙台湾の西側(仙台や相馬など)とでは震源(震央)までの距離が大きく異なることがわかる。この距離の違いゆえに、津波の到達時刻が大きく異なることになった。

 さらに、実際の津波は、予報よりも大きく遅れたようだ。
  → 津波の到達時刻
 早い方では大船渡で3時15分。石巻で3時19分。女川で3時32分。仙台3時46分。相馬では3時48分。とすると、冒頭の小学校は3時49分だったはずだ。





 結局、震源までの距離に差があったことと、津波の速度が遅かったことという、二つの理由のせいで、津波の到達時刻を正確に予報できなかった。そのせいで、被災地における避難の選択肢を狭めてしまった。

 予報官としては、「早めの到達時刻を伝えておけばいいだろう。そうすれば早めに逃げるから、危機感を増すことができて、有効だ」と思いがちだ。
 しかし、それはバイアスのかかった発想である。科学においては何よりも大切なのは、正確な情報だ。それをないがしろにして、「バイアスのかかった不正確な情報の方が有益だ」という発想は、あってはならないのである。

 ※ 情報を伝える人と、判断する人とは、別だからだ。情報を伝える人が勝手に判断して、情報を歪めると、ろくなことはない。



 【 追記 】
 改めて検証したところ、気象庁の予報にはミスがあったようだ。

 津波の速度はどのくらいか? 
 震央から牡鹿半島までの距離は 約 130km 弱、震央から仙台湾西岸までの距離は 約 180km 。約 130km 弱 を 14分で到達するとしたら、時速 600km の速度だったことになる。気象庁の推測した速度がこれだ。
 一方、実際には 約 180km を 63分で到達したので、時速 190 km の速度だったことになる。時速 600km よりもはるかに遅い。

 一般に、津波の速度は水深が浅いほど遅くなることが知られている。その関係のグラフは下記だ。
  → 津波の速さはどれくらい?
   ※ 大学の物理学の時間に習う公式でも分かる。
 一方、水深はどうかというと、震央の水深が 2000メートルぐらいで、そこから沿岸までなだらかに浅くなっている。
  → https://j.mp/3fL3DVz

 グラフと照合すると、最初は時速 500km ほどで、そこから徐々に遅くなっていくはずだ、とわかる。平均時速は 200km ぐらいだと見積もれる。これは、実際の時速である 190 km とほぼ等しい。つまり、理論的数値と実測値は、ほぼぴったりと合っている。
 なのに、気象庁の予報の数値は、大幅に狂っていた。
これはつまり、気象庁がとんでもない計算ミスをした、ということだ。(水深が浅くなると津波が遅くなることを考慮していなかった、とも言える。)

 気象庁の津波予報システムには根源的なミスが含まれていたことになる。これは非常に重大なことだ。
 ※ 今現在、修正されているかどうかは不明。

     《 注記 》
     ただし、津波が最初に到達するのは、震央からの津波ではなく、震源地のうちの最も陸地寄りの部分からの津波である。そのことを考慮すると、実際の時間はもっと短くなっていい……とも言える。
     とはいえ、上で計算したとおりで、震央から津波が来ると仮定しても、その推測値は、実際の測定値と、ほぼ合致する。だから、この件でのズレは、あまり考慮しなくてよさそうだ。



posted by 管理人 at 19:59| Comment(2) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
やや話がズレますが、誤差に関する授業で震災時の津波予報の話が印象的でした。

「数字をだすなら、責任を持って誤差まで示せ。例えば、波高10mだけの情報と10±5mや10+10,-0mという情報で判断が異なる可能性がある」という趣旨のイントロでした。

この記事を読んで、到達時刻にも精度情報を含めるべきかもと思いました。
Posted by 元大学生 at 2020年08月11日 22:39
 最後に 【 追記 】 を加筆しました。
 気象庁の予報にはひどいミスがあった……という話。
Posted by 管理人 at 2020年08月12日 07:59
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