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ホンダの二足歩行ロボなうット ASIMO は、せっかく先行して開発したのに、結局はお蔵入り(開発中止)になってしまった。それまでの開発チームは解体された。
→ 開発中止!? 続行!? ホンダASIMOを巡る報道の裏事情
ロボット開発自体が中止されたわけではない、と記されているが、実際に継続開発されたものは、二足歩行ロボットとはまったく別のものだった。
2018年12月、本田技研工業はアメリカ・ラスベガスで開催される「CES 2019」(開催期間:2019年1月8日から2019年1月11日)にて「人型ではない“人と共存する”ロボットを出展する」と発表。人と共存することを目的として作られた新型ロボットの名称は「Honda P.A.T.H. Bot(パスボット)」といい、「ASIMO(アシモ)」のような人型ではなく大きな柱のような形状(全高105cm、重量21.5kg、最高時速6km)。
( → ASIMO - Wikipedia )
新しいタイプは、下記だ。
→ 倒れない、ぶつからない “人と並んで歩ける”ホンダのロボット「パスボット」
ともあれ、二足歩行ロボットの歴史は、完全に無駄になってしまったわけだ。
では、どうしてか? それが問題となる。
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ここで、話が変わって、私の体験談。
先日、足を挫いてしまって、捻挫のような状況になった。足首を動かせない状態。(足首を動かすと痛い。)
そこで、足首を動かすことなく歩行したのだ、これがとてもしんどい。いかにもぎこちない動きであり、なめらかな方向とはまったく違う。
ここで、はたと気づいた。
「このぎこちない歩行は、ASIMO の歩行と同じではないか?」
と。
そこで、ASIMO の歩行を調べてみた。
ASIMO の歩行は、まさしく同様だった。その基本は、こうだ。
「足首を固定する。くるぶしから下を回転させない。体の上下動の吸収は、足首を使わずに、膝下と膝で吸収する」
このようにするには、膝を常に曲げている必要がある。その上で、地面から来る衝撃を、膝下と膝で吸収するわけだ。その際、筋力に相当する部分では、かなりのエネルギーを使う。
一方、人間の二足歩行はまったく異なる。原則として、膝を伸ばす。体重の全体を膝で受け止める。そのまま体が前進すると、足は後方に移るが、その時、体重でなく足の重みだけを受け止めるために、足首が回転して、足が地面に接地するようにする。
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基本的に言えば、人間の二足歩行は、二つの円の組み合わせである。
一つは、足全体を振り子のように振ることで、大きな円で動かす。しかしそうすると、初めの方と最後の方では、足が空中に浮いてしまって、足が接地しない。それでは困るので、振り子運動のうち、中央から後の部分(後半部分)では、足首を回転させて、爪先が地面に常に接地するようにする。このとき、足首全体は、小さな円を描く。これが、もう一つの円だ。
この二つの円を組み合わせることで、爪先は直線運動をすることになる。(特に後半では。)
この歩行方法は、非常に省エネである(エネルギー効率が高い)ことが知られている。実際、長距離走が最も得意な動物は、人間であるらしい。他の動物は、長距離走が苦手なので、人間に追いかけられると、いつかは追いつかれて、つかまってしまうらしい。
※ 古代の原始人の狩猟ではそうだった、と NHK の科学番組で放送していた。
一方、ASIMO はどうか? 常に膝を曲げていて、地面からの衝撃を膝と膝下で吸収する。そのためには、体重の全体を可動部で受け止める必要がある。
膝をまっすぐに伸ばせば、体重を(一本の棒のような)足全体で受け止めるのだが、膝を曲げていると、体重を可動部で受け止める必要があるのだ。
そのことは、あなたが実際に立ってみるとわかる。
・ 膝を伸ばして立っていれば、筋力は使わない。
・ 膝を曲げて立っていれば、筋力を使う。(体重を筋力で支える。)
このことは、立っているだけでも、歩いているだけでも、同様である。
したがって、ASIMO のように膝を曲げて立っていると、体重を支えるために、多くのエネルギー消費が必要となるのだ。
多くのエネルギー消費が必要となるということは、単に「省エネに反する」ということだけではない。次の二つの弊害をもたらす。
・ 体重を支えるための巨大なモーターが必要。
・ 巨大なモーターの電力をまかなうための、巨大なバッテリーが必要。
つまり、モーターとバッテリーが巨大化する。これが ASIMO の決定的な難点となった。
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同様のことは、Boston Dynamics が開発したロボットにも当てはまる。
いかにも自然な歩行のように見えるが、常に膝を曲げており、足首を回転させることがない。人間の歩行とはまったく別の歩行である。一方で、捻挫状態だったときの私の歩き方にはそっくりだ。
このような歩き方は、歩くことはできるとしても、エネルギー消費が多大になるので、下手な歩き方なのである。
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一方で、もっと省エネな歩き方もある。小型ロボットでは、足首を動かすことなく実現していることもある。
ロボットの歩行スタイルとしては一般的に膝を曲げ腰を落として歩くものが殆どですがこのロボットの場合、人間のように膝を伸ばし、自然なかたちで歩行することが出来ます。
http://ai2001.ifdef.jp/
と解説されているように、「人間のように膝を伸ばし、自然なかたちで歩行する」タイプだ。
これと同じことを大型ロボットで実現することは難しそうだが、足首を回転させるようにすれば、「膝を伸ばして歩行する」ことは可能だろう。
そして、その場合には、巨大なモーターや巨大なバッテリーを必要とすることもないだろう。
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結論。
ホンダの ASIMO が失敗したのは、人間の歩行とはまったく別の原理による歩行を目指したからである。
人間の歩行と同じ原理による歩行(膝を伸ばす歩行)を目指せば、二足歩行ロボットはやがては実用化するだろう。……ただし、そのためには、ASIMO とはまったく異なる原理の制御技術を開発する必要がある。
ASIMO の開発の歴史は、ただの無駄だった。まったくの無意味だった。初めの方向性がまったく狂っていたからである。
[ 付記 ]
ASIMO が足首を可動させる方式を選ばなかったのは、足首を可動させる方法だと技術的に困難だと思えたからかもしれない。くるぶしを回転させるには、精密加工技術が必要そうだからだ。
「自動車技術の延長でロボットを作る」
という発想が、根本的に間違っていた、とも言える。
ホンダはたぶん、ロボットというよりは、「自動走行機械」を作りたかったのだろう。自動四輪車のかわりに、自動二足機を作りたかったのだろう。
彼らは「新しい自動車を作る」というふうに考えていて、「生物に学ぶ」というような発想は全然持たなかったのだろう。
それが ASIMO が失敗したことの根本的な理由だったと思える。
【 後日記 】(2021-08-03)
本項で提案したタイプ(踝を回転式にしたタイプ)のロボットは、約1年後に実現した。下記項目で解説している。
→ 二足歩行ロボット(ダチョウ型): Open ブログ
二足に限らず汎用性の高い脚ロボットはこういう理由で基本的に曲げた状態が基本姿勢となっているはずです。
ボストン・ダイナミクスの動画でも、0:50 のところで、こけかけてしまう。たまたまコケずに済んだが、下手をすればコケていた。
足元がガレキだらけのようなところでも、容易にコケるだろう。当然、廃棄原発の内部で動かす場合にも、コケやすい。
これを解決するには、足首を動かすタイプにして、少しずつ慎重に足を置いてから体重をかける、というふうにする必要がある。人間のように。
どっちみち、ガレキの上を歩けるようにするには、足首を柔軟に動かすタイプが必要だ。さもないと、コケる。
※ 動画のロボットは、常に足を踏み換えている。足を止めると、コケてしまうのだろう。止まれないロボット。
→ https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2106/21/news168.html
この方針を嘆く人が多そうだが、実は、この方針は正しい。 Boston Dynamics の二足歩行の技術は、どん詰まりだからだ。そのことは、本項で説明したとおり。
この技術は、歴史上では、捨ててしまってもいい技術だ。ASIMO の開発がただの無駄であったのと同様だ。