2020年07月28日

◆ 安楽死・嘱託殺人・高瀬舟

 難病の女性患者の依頼を受けて嘱託殺人をした医師が逮捕された。この問題を解きほぐす。

  ※ 本項は日付を変更しました。


 ──
    ( ※ 本項の実際の掲載日は 2020-07-27 です。)


 これの是非が話題となっているが、話は簡単ではない。
 はてなブックマークでは「殺人なのでけしからん」という声が多い。だが、これは殺人ではなく嘱託殺人である。話を勘違いしてはいけない。
 殺人というのは、本人の意に反して殺すことだが、嘱託殺人は、本人の依頼を受けて殺すことだ。

 今回の特徴は、次のように言える。
  ・ 女性患者は、難病だった。
  ・ 死にたくなったが、自分では死ねない。
  ・ そこで女性患者は、殺人の依頼をした。
  ・ そのために 100万円を払った。
  ・ 男性医師2人は、100万円を受け取った。
  ・ 2人は、こっそりと周囲に隠れて、嘱託殺人をした。


 ──

 これを見て、「ドクターキリコだ」という声もあるが、それはさておき。
 この事例を見て、単純に批判することは簡単だが、それほど単純に済ませるべきことでもない。というのは、森鴎外の「高瀬舟」の問題があるからだ。
  → 高瀬舟 (小説) - Wikipedia
 これが果して弟殺しと云ふものだらうか、人殺しと云ふものだらうかと云ふ疑が、話を半分聞いた時から起つて來て、聞いてしまつても、其疑を解くことが出來なかつた。弟は剃刀を拔いてくれたら死なれるだらうから、拔いてくれと云つた。それを拔いて遣つて死なせたのだ、殺したのだとは云はれる。しかし其儘にして置いても、どうせ死ななくてはならぬ弟であつたらしい。それが早く死にたいと云つたのは、苦しさに耐へなかつたからである。喜助は其苦を見てゐるに忍びなかつた。苦から救つて遣らうと思つて命を絶つた。それが罪であらうか。殺したのは罪に相違ない。しかしそれが苦から救ふためであつたと思ふと、そこに疑が生じて、どうしても解けぬのである。
( → 森鴎外 高瀬舟(青空文庫))

 自殺に失敗して死に損ねた弟が、血を流して苦しんでいるので、刃物を抜いて、一気に死ねるようにした。それをもって殺人罪に問われて、流刑にされる……という例だ。

 小説の最後では、「自分では判断ができない」というふうに終わっている。それほどにも、安楽死や嘱託殺人というのは、複雑な問題なのである。

 ──

 さて。今回の事例では、犯人の二人は、「ドクターキリコになりたい」「嘱託殺人でお金をもらって生計を立てたい」などと、ふざけたことを言っている。こんなのを野放しにしていいとも思えない。
 一方で、安楽死を希求する女性患者の意思をすべて否定していいかというと、そう答えるのはあまりにもむごい。
 
 というふうに、複雑すぎるので、この問題には回答をしづらい。
 「困ったときの Openブログで、うまい案を出せ」
 と言われそうだが、今回は、困っているわけじゃない。何かまずい問題を解決するべきだ、というのとは違う。決めかねて、迷っているだけだ。

 ──

 そこで、本項ではとりあえず、考えるヒントを出そう。こうだ。
  ・ 営利では認められない。
  ・ 公的ならば認めてもいい。

 以下、順に述べる。

 (1) 営利では認められない

 今回は、100万円を受領したが、こういうことは認めるべきではない。ドクターキリコみたいな真似は認めるべきではない。「営利嘱託殺人」という罪名を新たに作って、はっきりと禁じた方がよさそうだ。
  ※ 交通費などの実費程度の受領は別。

 (2) 公的ならば認めてもいい

 営利嘱託殺人を禁止すると、誰もやってくれなくなりそうだ。そこで、「安楽死を望むが実行できない」という難病患者には、公的に安楽死させる制度を作ってもよさそうだ。
  ・ 公的な審査委員会がある。
  ・ 審査委員会で、安楽死を認めるかを判定する。
  ・ 「認める」と判定されたら、別の人が実行する。

 ここでは、判定者と実行者が別だ、ということが重要だ。
 このような形でなら、安楽死・嘱託殺人を認めてもよさそうだ。

 ※ ただし私個人としては、積極的に推進する気はない。制度化について「反対はしない」という程度。

 ※ すぐに実現することはなさそうだが、遠い将来では実現しそうだ。そこで、その遠い将来のために、あらかじめ私が素案のようなものを出しておくわけだ。(遠い将来の世代のために。)



 [ 付記 ]
 現実的には、最も実現性が高いのは、次のシステムだ。
 「自分自身で自殺のトリガーを引けるような、自殺システムの設置」
 これならば、最終的なトリガーを引くのは自分自身なのだから、誰も「嘱託殺人」には問われないだろう。
 ただし「自殺幇助罪」は成立する。現状では犯罪になるので、容易に可能になるとは思えない。

posted by 管理人 at 23:58| Comment(7) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
管理人さんは、仮に自殺願望者が「人はなぜ生きるのか」という質問をしてきたとしたら、それに対して、どのように返しますか?
Posted by ひっきたい at 2020年07月28日 00:24
> 「人はなぜ生きるのか」

 生物だから。ミジンコやボウフラと同じ。

 自殺志願者に言うなら、
「ジョギングするといいよ。それで苦しみは消える」

 体を動かせない難病の人には、何も言えません。
Posted by 管理人 at 2020年07月28日 06:08
私も管理人さんの主張に賛成です。ビジネスとして成立させるものではない。森鴎外の高瀬舟は高校生の頃に読みましたが、ずっと今でも鮮明に記憶しています。印象が強かったのです。
主治医は逃げた。苦みに耐え難く死にたいと言っている患者を殺せば面倒なことになるのはわかっている。患者の苦しみなどどうでもよい。自分が面倒なことになることが嫌だ。だから苦しむままにしておいた。親も逃げたと思います。犯人に対して憤った姿を見せるけれども、ではどうするべきだったか親なら言いやすいが言わない。
相模原障害者殺傷事件の植松聖は自分を救世主と言った。殺された子供がかわいそうだと言うなら、なぜ親は引き取って育てないのか。
私はこの二つの事件は通底しているところがあると思います。
Posted by SM at 2020年07月28日 17:01
公的機関説に反対します。
殺人により無期懲役になった服役囚が肉体的、精神的苦痛から安楽死を希望したとします。
公的機関はかなりの確率で彼、彼女の安楽死、即ち死刑を選択することになるでしょう。
日本での公的機関がどの程度客観的、理性的組織であるか、各種審議会、専門家会議の最近の状況をみれば判断できるのではないかと思います。
今回の例は自殺すら出来ないALS患者なので公的機関は正しい判断をするはずですが、一般には公的機関は何もしないで世間の自由にすべきでしょう。但し、医者や国民の倫理観向上の教育は必要です。
Posted by 新道 at 2020年07月28日 22:23
> 殺人により無期懲役になった服役囚が肉体的、精神的苦痛から安楽死を希望したとします。

 自分自身で自殺できる能力があるなら、公的機関は「不許可」にします。

 本項の提案は「安楽死を一般的に認めるか」ではありません。「自分ではそうする能力がない人」に限定されています。
Posted by 管理人 at 2020年07月28日 23:27
服役囚が自殺しようとした場合、管理者側は自殺されないよう身体拘束をするのが一般的ですが、この状態を自殺可能な人とその審議会は判断できるでしょうか。
最近の例を参考にすると、植松聖死刑囚は、死刑を望んでいましたが、弁護側は精神疾患による減刑を主張していました。法廷で彼は自分の手を傷付けましたが、仮に両手が使えないほど即ち自殺が困難なほど自傷して、且つ、判決では弁護側主張を認めるということもあり得ます。この場合に、植松被告がその公的機関に安楽死申請をして認められ、裁判に依らずに安楽死という名の死刑にされかねないということです。
特に、審議会のような法的根拠の曖昧な組織が裁判の趣旨に反する決定が可能になる点が問題です。
では、裁判官が安楽死の可否を判断してよいか、或いは、可能かといえば、法的根拠なしでは不可能でしょう。
即ち、安楽死法といったものが公的に必要になり、そのような事態が、重度身障者団体が反対していることです。
何故なら、その法律の規定に合うように、一部の人或いは当該者の周囲の人が動きかねないからです。
Posted by 新道 at 2020年07月29日 04:47
> 自殺されないよう身体拘束をする

 自殺できないのは本人の能力のせいではなく国が身体拘束しているせいです。
 本人に能力があるから、国が拘束するわけでしょ? 難病で体を動かせない患者を拘束するわけじゃあるまいし。
 拘束しているという時点で、「能力あり」と判定できる。

> 安楽死の可否

 本項は安楽死の可否については言及していません。先に書いたとおり。
 
 ※ 原則的には現行法で不可となっており、それを変える必要はない。本項は安楽死一般ではなくて、きわめて特殊な例外的事例のみを扱う。

> 重度身障者団体が反対していることです。

 それは理解できます。だから私個人としては推進の側には立ちません。私は推進賛成ではありません。本文に書いたとおり。
Posted by 管理人 at 2020年07月29日 06:51
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