2020年07月22日

◆ 藤井聡太の特徴(将棋)3

 藤井将棋の特徴は何か? 技術の点で言うと、「敵王の逃げ道をふさぐ」ことだ。

 ──

 藤井将棋の特徴については、これまで思考法に絞って、あれこれと述べてきた。
  → 藤井の妙手△3一銀: Open ブログ
  → 藤井聡太の特徴(将棋): Open ブログ
  → 藤井聡太の特徴(将棋)2: Open ブログ
  → 潜在的な思考 : nando ブログ

 一方、思考法でなく技術に絞って考えると、次のことがある。
  「敵王の逃げ道をふさぐ」


 このことは、特に独創的なアイデアではない。むしろ、アマ有段者ならば、誰でも心がけていることだろう。「王手は追う手」になりがちなので、そうなることを避けて、あらかじめ先の方で待ち構えておくわけだ。
 もうちょっと実戦的に言うと、「王手」よりも「詰めよ」をかけることを心がけるわけだ。

 で、藤井の最近の棋譜を見ても、「敵王の逃げ道をふさぐ」ということがしばしば見て取れたので、「やっぱりうまいなあ」と思っていたのだが、最近、あらためて全体を見直すと、あらたにはっきりと感じた。「敵王の逃げ道をふさぐ」というのは、藤井将棋のめざましい特徴なのである。

 これを換言すれば、「敵王の逃げ道をふさぐ」という藤井の特長を、相手側は理解できていない(予想できていない)ということだ。だからこそ、それが藤井の特徴となる。
 以下では実戦例で示そう。

 (1) 棋聖戦・第2局・△8七歩

 これについては前に解説した。
  → 藤井の妙手△3一銀: Open ブログ

 渡辺のブログで説明されているが、△8七歩と垂らす手が意表を突いた。この手で逃げ道をふさがれて、右側からは△4六桂で攻められて、挟撃される。もはやお手上げ状態である、と突然気づいた。
 △8七歩と垂らされたときには負けていた、という感じだ。ここでは、△8七歩は「敵王の逃げ道をふさぐ」という手だが、渡辺はそれに気づかなかったのである。
 △87歩と垂らされたところで「あれ、全然粘れない」となって、あと数手指したら、もう大差になっていました。

00w2.jpg

( → 藤井の妙手△3一銀: Open ブログ


 (2) 棋聖戦・第4局・△8六桂(2度目)

 これは、渡辺自身が解説している。
  → 棋聖戦第4局。 - 渡辺明ブログ

 最初に△8六桂と跳ねた桂は、あとで取られた。しかその後に、△8六桂と打った。これが渡辺には予想のできない手だった。
 △86桂は気が付きませんでした。意味としては▲78玉を防いでから△47桂ということなんですが△82飛が当たりになっているので、ただ縛るだけの△86桂は見えにくい手です。
( → 棋聖戦第4局。 - 渡辺明ブログ

 ここでは、△8六桂は「敵王の逃げ道をふさぐ」という手だが、渡辺はそれに気づかなかったのである。


 (3) 棋聖戦・第1局

 これは、▲1三角の切れ味がいいということで、話題を呼んだ。
  → 2020年6月8日 五番勝負 第1局 渡辺明棋聖 対 藤井聡太七段

 だが、棋譜を見ると、別の印象もある。▲1三角もいいが、その後の▲3三銀打ちや、▲3二金打ちの切れ味が抜群だ。右から▲1三角で攻めたかと思うと、左から▲3三銀と▲3二金で、左への逃げ道をふさいだ。ここでは、この二つの手は「敵王の逃げ道をふさぐ」という手だ。これによって、後手はもはや「どうにも逃げられない」という状況に陥った。あとは詰まされるのを待つしかない。
 そこで仕方なく、「詰まされる前に詰ます」という方針で、後手は先手玉に王手の連続をかけた。しかしこれは「王手は追う手」の見本だった。先手玉は、追う手をされながらどんどん逃げていって、最終的には、敵王の目の前にまでやって来て、敵王を詰ますのに一役買いそうな感じになってきた。
 この対戦では、「敵王の逃げ道をふさぐ」という藤井の方針が有効だった一方で、渡辺の方はその逆で、「王手は追う手」となった。(とうとう逃げられてしまった。)
 ほとんど好対照という感じである。


 (4) 王位戦・第2局

 木村王位との王位戦・第2局も、わかりやすい。
  → 王位戦 第2局 木村一基王位 対 藤井聡太七段

 指了図を見ると、先手玉は左右から挟撃されて、逃げ道をふさがれている。一方、後手王は、王手をされてあちこちを逃げ回ったが、つかまらずに逃げ切った。いくら王手を受けても、「王手は追う手」になるだけだった。


 (5) 王位戦・第1局

 この対局は非常に興味深い。
  → 王位戦 第1局 木村一基王位 対 藤井聡太七段

 この対局については、前にも言及したことがある。
  → 藤井聡太の特徴(将棋): Open ブログ

 木村は現代将棋には珍しく、「受け」の将棋だ。じっくりと敵の攻めを受け止めて、敵の攻めの息切れしたところで反撃して、一挙に攻め倒す。
 この対戦でも、木村はじっくりと受けに回った。そこで、藤井は 53手目、▲7三不成として、攻め始めた。そのまま細い攻めを続けたのだが、無理気味なので、そのうち息切れしてしまいそうだった。「例によって木村の受け勝ちかな」とも思われた。ところが、藤井はそのままずっと攻め続けて、とうとう敵を攻め倒してしまったのである。ほとんど驚愕的だ。再掲しよう。
 「守備の将棋」は、木村一基王位も取っている。ただし、「守備の人」である木村王位に対して、藤井聡太は何と、「攻めの継続で攻め倒す」というやってのけた。
 「細い攻めを続けて、最後までせめて、攻め倒す」というのは、将棋の一つの理想だが、普通はそううまくは行かない。細い攻めを続けることは(たまに)可能だが、たいていは、途中で息切れする。「攻撃と王手を長々と続けるが、最後は手持ちのコマを全部渡して、手駒なしになって、王手が続かない状態で、投了する」というふうになる。
 「細い攻めを続けて、最後まで攻めて、攻め倒す」というのは、滅多に見ることができない名人芸なのだ。ところが、藤井聡太は、それを木村王位に対してやってのけた。
( → 藤井聡太の特徴(将棋): Open ブログ

 ここで、注意。藤井はずっと攻め続けたのではない。途中で攻めが切れかけた。78手目の△3一桂で、敵王の詰みがいったん消えている。このままでは下手をすると、敵王が逃げ道を開拓して、敵陣に入玉しかねない。そうなったら、先手はお手上げだ。
 ここで先手(藤井)は1時間1分の長考で、▲1五歩とした。これは取るしかないので後手が取ったところで、▲2六金。これで、詰めよがかかって、挟撃が成立した。後手王はもはや入玉はできない。
 かくて、「敵王の逃げ道をふさぐ」という方針で、後手は最後に息の根を止められた。
 こうなる途中で、先手は後手に王手をかける機会は何度もあったが、あえて王手をかけなかったようだ。そのかわりに、「敵王の逃げ道をふさぐ」という方針の手ばかりが取られていたようだ。

 ──

 結局、藤井の将棋の特徴は、「敵王の逃げ道をふさぐ」という方針にある。そして、それは「詰め将棋の発想」にも似ている。
 詰め将棋だと、間違った手を取ると、あとちょっとというところで、「王手をしたのに敵王に逃げられてしまう」というふうになる。それでは大失敗だ。
 そういう失敗をなるべくやるまいとするように、藤井は心がけているようだ。これは「詰め将棋の方法で勝つ」(王手の連続で勝つ)というよりは、「(王手の連続で逃げられてしまう)詰め将棋の失敗例にはならないようにする」という感じだ。

 イメージ的に言うと、「網を張る」という感じかな。相手はしきりに逃げようとするのだが、いくら逃げても、その先には藤井が網を張っているので、決して逃げ切れない。最後は、がんじがらめにされて、つかまってしまう。蜘蛛の巣にとらわれた蝶のように。
 


 [ 付記 ]
 余談だが、私はコンピュータを相手に対戦するとき、「敵王の逃げ道をふさぐ」という方針を取ると、勝率が上がった。
 単に一方から攻める(相手に打撃を与える)のではなく、相手を追い詰めて、相手の逃げる道を予想した上で、その逃げる先に、罠のような場所を用意しておいて、その罠のような場所に敵王を誘い込む。そこに誘い込んだら、もう敵王は逃げる先がない。
 6手ぐらい先で詰んでしまうような罠に、うまく追い込む感じだ。「落とし穴」に落とすように。
 一方、「考えるのが面倒臭い」と思って、ろくに先読みをしないまま、手先だけでどんどん攻撃していくと、「王手は追う手」になって、敵王を逃がしてしまう。で、最後は負けてしまう。こっちは何十回も王手をしても勝てないのに、相手は一発の王手で必殺技をかけてくる。
 コンピュータ将棋でろくに考えずに(先読みせずに)戦うと、あっさり負けるので、腹が立つね。



 【 関連サイト 】

 → 【全文】藤井聡太棋聖「将棋に頂上はない」 | NHKニュース
 
posted by 管理人 at 23:39| Comment(1) |  将棋 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
管理人さんの将棋の腕は最強アマチュアクラスと
いうことでいいですね。
Posted by 中澤 at 2020年07月23日 12:08
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