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明治初期の風刺画が朝日新聞に紹介されている。文明開化で西洋の金属印刷技術が導入されたので、それまでの木版浮世絵師が、精密な絵画を描くようになった。

出典:朝日新聞
小林清親の「眼を廻す器械」という絵画だ。記事のタイトルには「浮世絵師が皮肉るのは」という語句があり、これは適切だ。だが、その回答がおかしい。
多くの懸案に追われる下級官吏の忙しさを、文明開化の時代らしく、労働者が回すからくりに擬して描いている。
( → (美の履歴書:657)「眼を廻す器械」 小林清親 浮世絵師が皮肉るのは:朝日新聞 )
絵画の解説には、こうある。
机の周辺には収税、徴兵などの様々な問題が山積みになっている。
ここまでわかっているのなら、次のことに気づくべきだった。
・ 「収税」「徴兵」という二文字だけが極端に目立つ。
・ 「収税」「徴兵」は、国民にとって苦痛だった。
以上のことから、この風刺画の真意がわかる。それは、
「忙しさに悩む下級官吏の戸惑い」
なんかではなくて、
「国による収税や徴兵で苦しむ国民の苦しみ」
である。
ここでは、役人は「国」の省庁である。そして、「役人が忙しくて大変だ」ということを描くことで、「役人(国)がしきりに働くことによって苛まれる国民の苦しみ」を暗示しているのだ。
それが風刺画というものの意味だ。
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朝日新聞の夕刊のマンガにはときどきあるが、「市井の庶民のつまらない愚行」を描くことで、「政府の愚行」を暗示していることがある。いわゆる寓喩(アレゴリー)という手法だ。
本項の風刺画も、そういう表現形態を取っている。そこでは、描かれたものを額面通りに受け取ったのでは、正しい解釈はできないのだ。
風刺画とはどういうものであるかを、批評の際には理解するといい。
※ 朝日の記事の執筆者は、同社の編集委員。
※ 紙の新聞には、精密な大画像がある。是非、紙の新聞で見てほしい。
【 関連項目 】
他にも絵画論の項目はある。
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