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アビガンの治験をしていた藤田医大は、先に中間報告をしていたが、このたび最終的な報告を出した。「効果は確認できなかった」というもの。
これを聞いて、「がっかり」という思う人が多いようだ。しかし、実は違う。
これは、単に「サンプル数が少なくて、統計的な有意差を見出せなかった」というだけだ。「ないということがわかった」のではなく、「あるとは言い切れない」(何とも言えない)だけだ。
新型コロナウイルスの治療薬候補の一つ「アビガン(一般名ファビピラビル)」について、臨床研究をしている藤田医科大(愛知県)が10日、オンラインで会見し、患者の体内のウイルスが消えるなどの効果は統計的に確認できなかったと発表した。ウイルスが消えたり、熱が下がったりする傾向はあったものの、研究に参加する患者が少なく、統計的な差は出なかった、としている。
( → アビガンの有効性、確認できず コロナ治療で藤田医大 [新型コロナウイルス]:朝日新聞 )
これで話は済んでいる。「何とも言えない」「能力不足でわかりません」というだけのことだ。
もう少し詳しく見ると、こうだ。(記事の続き。)
研究は国内の47の医療機関で、3月から患者計89人を対象に実施した。研究が始まる前に検査で陰性になるなどした20人を除き、
@参加初日から10日間アビガンを使うグループ(36人)と、
A初日から5日間は使わず6〜15日目まで使うグループ(33人)
に分け、6日目までのウイルスの消失率や体温が37.5度未満に下がるまでの時間を比較。アビガンの使用の有無によって差が出るか調べた。
6日目までのウイルスの消失率は@では約67%、Aでは約56%。解熱までの時間は@で平均2.1日、Aで3.2日。いずれも統計的な差はなかった。一方、重症化したり亡くなったりした人はいなかったという。
研究責任医師の土井洋平教授(感染症科)は「5月の大型連休以降、患者が減り、研究の参加者を集めるのが難しくなった。参加者が増えれば統計的な差が出たかもしれないが、流行状況を考え、予定通り研究を終了し、データを公開するのが適切と判断した」と話した。
毎日新聞の記事では、こうある。
特定臨床研究は3月上旬〜5月中旬、藤田医大など全国47の医療機関に入院中の無症状と軽症の患者89人を対象に実施。研究開始初日からアビガンを投与する患者(通常群)と、6日目から投与する患者(遅延群)とに無作為に分けた。参加を取りやめた患者や研究参加時に既にウイルスが消えていた計20人を除外。アビガンを投与した通常群36人と、まだ投与していない遅延群33人について研究6日目の時点で評価した。
その結果、ウイルスが減少する割合は、通常群が66.7%に対し、遅延群が56.1%だった。37.5度未満に解熱するまでの平均日数は、いずれも研究参加から通常群で2.1日、遅延群で3.2日。通常群は遅延群に比べて6日目までにウイルスが減り、解熱に至りやすい傾向がみられたが、統計的に有意な差はみられなかったという。
( → アビガン、有効性判断できず 藤田医大が臨床結果発表 新型コロナ - 毎日新聞 )
これは何を意味するか?
人々はこう思うだろう。
「アビガンを使った人と使わなかった人を比べて、使った人と使わなかった人で、差は生じなかった。つまり、アビガンの効果はなかった」
しかし、実はまったく違う。
正しくはこうだ。
まず、対象者は、軽症者ばかりだった。(毎日の記事による。)
これを、1日目から投与する群(A群)と、6日目から投与する群(B群)に分けて調べたら、両者に差はなかった、ということだ。
ここで、二つの群は、どちらも軽症者である。従って、どちらも「早期投与」に分類される。
( ※ 一方、中等症に投与する場合が「中期投与」であり、重症者に投与する場合が「後期投与」である。)
早期投与のうち、早めに投与する群(A群)と、遅めに投与する群(B群)とに、分けて調べた。その結果、両者には差がなかった。
ここから得られる結論は、こうだ。
「アビガンを早期投与する場合、軽症期のうち、初期に投与しても、晩期に投与しても、どちらも差はほとんどない」
これが、今回の調査でわかったことだ。
ではこれは、アビガンの効能に意味を持つか? 「持つ」と思う人が多そうだが、実は、まったく意味を持たない。なぜか? それは、私が前に述べたことを読めばわかる。
では、それによって、何がわかるか? アビガンの有効性がわかるか? いや、違う。次のことがわかる。
「アビガンの投与の時期を変えることで、どの時期の投与が有効であるかが、判明する」
そして、その結果は、最初から予想されている。こうだ。(★)
「発症の1〜5日目に投与しても、時期尚早であって、効果はあまりない。
発症の 6〜7日目に投与すると、最適の時期なので、効果はある。
発症の 12日目以後に投与しても、症状の悪化を防げない。(もはや手遅れだ。)」
( → アビガンの早期投与の時期は?: Open ブログ )
ここでは、「初期よりも晩期に投与した方が効果的だろう。なぜなら、晩期には高熱が出ていて、ウイルスをやっつける効果が高いからだ。この時期にウイルスを狙い撃ちにすれば、ウイルスを撃退する効果が大きくなるだろう」とされる。
これが私の事前予想だった。
ところが、今回の治験の結果では、その予想は当たっていなかった、と判明したようだ。つまり、こうだ。
「初期に投与しても晩期に投与しても、どっちにしても差はほとんどない。早期投与する(軽症のうちに投与する)のであれば、早めでも遅めでも(初期でも晩期でも)、どっちにしても同じような効果が出る」
これが、今回の治験で判明したことだ。「つまり、アビガンを投与する時期はいつが最適か?」という問題提起に対して、「軽症のうちに投与するのであれば、いつ投与してもいい」という回答を得たわけだ。
一方、「アビガン投与には効果があるかどうか?」という問題については、「それについては調べなかったので、わかりません」というしかないわけだ。
以上が、今回の報告の、正しい読み取り方だ。
【 関連項目 】
なお、もっと詳しい話は、下記項目を参照。
→ アビガンの早期投与の時期は?: Open ブログ
[ 補足1 ]
「治験ではわからなければ、かわりにどうすればいいか?」
という疑問への回答も、上記項目に記してある。こうだ。
ランダム試験のかわりに、「アビガンなし」という過去の症例と、「アビガンあり」という最近の症例とを、比較すればいい。ここでは、ランダム試験のかわりに、ビッグデータ(大量の症例)を統計処理することで、真実に近づくことができる。
治験をするかわりに、過去の統計データを調べるわけだ。
これは「コホート研究」と言われる手法だ。
→ コホート研究 - Wikipedia
《 加筆 》
[ 補足2 ] と [ 補足3 ]は、書き直した上で、次項に移転しました。
[ 付記1 ]
関連して、別の話題。
アビガンを使うと致死率が高まるから、アビガンを使うべきではない、というイチャモンを付けた団体がある。
しかしこれは、「治験の集団には、軽症者が少なくて、中等症者や重症者が多いからだ」ということで話はカタが付く。
ちょっと馬鹿馬鹿しい話ですね。統計の勘違い。
この件については、下記項目のコメント欄(2020年07月10日)で説明しておいた。
→ アビガンの人体実験を中止せよ: Open ブログ
[ 付記2 ]
アビガンの効能の有無については、(早期のうちの)「初期と晩期」で調べるのではなく、「使用/不使用」で調べるしかない。しかし日本国内では人道的な意味合いから、(ランダムな)「不使用」という方針は取りにくい。
となると、海外で治験をするしかない。(海外ならばもともとアビガンがないので、アビガンなしにしても人道的な問題は生じないからだ。)
この件については、前に論述した。
→ アビガンを外国に送れ: Open ブログ
[ 付記3 ]
日本がアビガンの使用にグズグズしているうちに、アビガンで海外生産が始まりそうだ。日本の製薬会社が海外から要望されて、ライセンスを与えて、海外で生産するそうだ。
富士フイルム富山化学は1日、新型コロナウイルスの治療薬候補「アビガン」の海外生産を始めると発表した。インドの製薬会社ドクター・レディーズ社に製造権を与え、インド、米国、メキシコで作るという。生産量は未定。100カ国近くから提供の要請がきており、海外での生産体制を整える。
( → (経済ファイル)アビガン、インドなどで生産へ:朝日新聞 )
富士フイルムホールディングスは1日、インド後発薬大手ドクター・レディーズ・ラボラトリーズとアラブ首長国連邦(UAE)の医療物資販売会社グローバル・レスポンス・エイド(GRA)に新型コロナウイルス感染症の治療薬候補「アビガン」のライセンスを供与したと発表した。2社は中国とロシアを除く海外で独占的にアビガンを製造・販売できる。富士フイルムは契約一時金や販売ロイヤルティーを受け取る。
アビガンは日本を除く多くの国で主成分の物質特許が切れているが、製造に関わる特許は有効という。ドクター・レディーズは富士フイルムから製造特許やノウハウの提供を受け、アビガンを製造する。
ドクター・レディーズはインド、GRAはクウェートでアビガンの治験を実施する予定で、承認が得られればアビガンを販売する。富士フイルムが米国で実施している治験はドクター・レディーズに引き継ぐ。2社は販売地域を順次拡大する方針だ。
( → 富士フイルム、印大手にアビガンのライセンス供与 :日本経済新聞 )
米国で治験が始まるそうなので、米国の方が先に承認を得られそうだ。日本の間抜けぶりが際立つね。その分、余計に死者・被害者が出るわけだが。
( ※ 3月から治験を始めていて、その最終的な結論は「サンプル数が少なすぎるので、効果の有無はわかりません」だ。さんざん時間をかけたすえに、「わかりません」と答える。丸出だめ夫だな。)
次項に続きます。
→ アビガンの治験が終了 2: Open ブログ
重症者にはアクテムラ
という声が出てきました。
藤和彦さんという方がおっしゃっています。
http://openblog.seesaa.net/article/475128478.html
http://openblog.seesaa.net/article/475481944.html
効果は小さい割には、価格はべらぼうに高い。生産数量も限度がある。あまり有望ではない。
どちらかと言えば、ステロイド剤の方が有望だ。安価で、効果が大きい。生産数量は余裕たっぷりだ。
ただし最も有望なのは、「軽症者にアビガンを投与することで、重症化を防ぐ」ことだ。いったん重症化してしまえば、いくら薬を与えようと、死者も出るし、後遺症も出る。
だから、重症化の前に治すのが最善だ。費用も格安で済むし、治療も用意だ。(薬を投与するだけで済む。)
熱が出た患者を5日もほっておくとは思えないんだけど
治験とはそういうものなの?
「それでいい」というのが私の見解であり、その私の見解が正しいと証明されたのが 今回の治験です。
詳しくは次項。
※ 熱が出たといっても、高熱ではありません。高熱でない状態では、薬を出す必要はありません。