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SNS や掲示板などで、誹謗中傷が起こることがある。これに対して、被害者救済のために、発信者情報を開示するべきだ、という意見がある。(詳しくは本項末を参照。)
この問題の具体的な事例としては、番組出演者に対する誹謗中傷が続いたことで、出演者が自殺した、という事例がある。
「出場者が素のままに生活するのを放送する」というリアリティーショーの番組で、実はその生活状態の描写はすべてが台本に応じた「ヤラセ」であった。しかもし出演者は、台本通りに従わないと、とんでもない巨額の違約金を請求されるという契約がなされた。(労基法違反の違法行為。)詳しくは下記。
→ 木村花さん 自殺のウラにフジの悪質誓約書=i東スポWeb)
これで台本通りに、他の出演者を殴ったり罵倒したりした女性が、ネット上で大量の非難を浴びたあげく、自殺してしまった。その後、非難した人々はこぞって自分の発言を取り消した。(証拠湮滅)
こういうことがあるので、「ネット上で誹謗中傷した人に損害賠償を求める」ということを目的として、「発信者情報を開示すべきだ」という法制化の問題が検討されている。政府も考慮中だ。
→ 総務省|発信者情報開示の在り方に関する研究会
民間でも問題を考慮している。
→ ネットの誹謗中傷、発信者特定までのハードル 被害者がなやむ「時間とお金」どう解決する?
※ 詳しくは本項末を参照。
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では、さっさと発信者情報を開示すればいいか? 実はそう簡単ではない。というのは、やたらと開示されると、「表現の自由」が抑制されるからだ。
→ SNS発信者、訴訟なしで開示検討 被害証明を簡略化、総務省が提案:朝日新聞
特に、昨今では中国政府(香港政府)が「発信者情報を開示せよ」と要求して、これを拒むツイッターや Facebook との争いが生じている。
→ SNS各社、香港警察への協力を「停止」 国安法受け - BBCニュース
確かに、やたらと発信者情報が政府に開示されたら、たまったもんじゃない。
かくて、あちらが立てば、こちらが立たず。困った。どうする?
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そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。
・ 発信者情報の開示でなく、アカウント停止を目的とする。
・ 裁定者は、公的な第三者機関を設立する。
以下で詳しく述べよう。
(1) アカウント停止
発信者情報の開示でなく、アカウント停止を目的とする。
被害者にすれば、発信者情報をいちいち知って賠償請求することは、本来の目的ではない。誹謗中傷をやめてもらえばいいだけだ。そこで、該当のアカウントを停止することを要求すればいい。
「それでは罰がないので、抑止効果がないだろ。加害者のやり得だろ」
という心配がありそうだが、さにあらず。「該当記事の削除」ならば、その心配通りになりそうだが、「アカウントの停止」だと、投稿者のすべての記事が非公開になる。投稿者にとっても被害が甚大だ。過去の財産(投稿)のすべてを失うことになるからだ。というわけで、「アカウントの停止」だけで、十分に抑止効果はある。
いちいち裁判をする必要もなく、受付場所に該当の URL を入力するだけで問題は片付くので、手間も簡単だ。
結局、裁判のような手間暇をかけるかわりに、一切を電子的な手続きだけで済ませるわけだ。無駄が少ないので、ローコストで多大な処理ができる。ここが重要だ。
※ コストが高いと、処理できる件数が制限されるので、多大な件数を処理しきれなくなって、被害者救済ができなくなる。
(2) 公的な第三者機関
裁定者は、公的な第三者機関を設立する。政府機関の一部でもよさそうだが、第三者機関の方がいっそう公正になるだろう。
ただし、第三者機関だと、費用の問題が生じる。利用者から料金を請求する必要がある。これはかなり多額になりそうだ。(例。判定料1回分が3万円。通知料が相手1人につき 1000円で、相手が 100人なら 10万円。)
これを回避するには、「個人に対するアカウント停止の請求であれば、ごく安価で済むようにする」ことを狙いとして、政府機関による裁定制度も併用するといいだろう。(一般の刑事裁判で、検察が無料で働いてくれるのと同様だ。)
結局、「公的な第三者機関」(有料)と、「政府機関」(ほぼ無料)の併用でいいだろう。
こうして裁定機関から裁定が出たあとは、この裁定を持って、SNS 業者に「アカウントの停止」を要求すればいい。
これで万事が解決する。
(3) 裁判
以上によって SNS 業者は、「公的機関からの裁定」を聞いて、アカウント停止の妥当性を判断したあとで、アカウントの停止を実行すればいい。公的機関からの裁定があるので、躊躇なく、アカウント停止ができるはずだ。(アカウント停止はけしからん、と訴えられる恐れもない。)
ただし例外的に、 SNS 業者が裁定を認めず、アカウントの停止をしない場合も考えられる。この場合に備えて、SNS 業者に裁定を実行するように、担保する仕組みが必要だ。
では、どんな? こうだ。
「アカウント停止を要求しても、その要求が受け入れられない場合には、誹謗中傷の被害者は、SNS 業者を共犯者と見なして、SNS 業者に賠償金を請求できる」
たとえば、こうなる。
・ ツイッターで誹謗中傷がなされる。
・ 被害者が公的機関に裁定を求める。
・ 公的機関が「誹謗中傷」と裁定する。
・ その裁定を、ツイッター社に通告する。
・ 通常は、ツイッター社は、該当アカウントを停止する。
・ 例外的に、該当アカウントを停止しない。
・ その場合には、被害者は裁判所に訴える。
・ 裁判所が裁定して、ツイッター社に賠償金の支払いを命じる。
この場合、ツイッター社は、二者択一だ。
・ 該当のアカウントを停止する。
・ かわりに自社で賠償金を支払う。
常識的には、賠償金を支払いたくない。だから、該当のアカウントを停止するしかない。
かくて、「アカウント停止」という形で、誹謗中傷はなくなる。
被害者としては、該当の誹謗中傷記事の URL を登録するだけで済むので、手間は簡単だ。
[ 付記 ]
実現に当たっては、細かな条件を整備する必要もあるだろう。たとえば、悪戯防止のために、下記。
・ 自分の身元も登録する必要がある。
・ 少額の手数料の支払いも必要だろう。
・ 誹謗中傷には当たらないような記事への請求に対しては、高額の手数料を徴収してもいい。(あらかじめ保証金を徴収しておいて、場合によっては没収する。)
細かな点では、いろいろ整備する必要がありそうだが、それについては、今後の課題としておく。本項では原理だけを述べておいた。
【 関連サイト 】
→ (耕論)SNSが牙をむく時 松谷創一郎さん、荻上チキさん、志田陽子さん:朝日新聞
→ 海外でも30名以上が自殺 木村花を追い詰めた「リアリティショー」番組作りに問題はなかったのか
→ ネットの中傷地獄で自殺未遂、そして出家…元女性アナ、執念で加害者を特定
【 関連情報 】
本項では「アカウント停止」という案を示した。
一方、政府は「裁判で解決する」ということを基本にして、「発信者情報を開示する」という形の解決策を打ち出している。
SNS上で誹謗(ひぼう)中傷を書き込んだ投稿者の情報開示のルールについて、総務省は10日の有識者会議で、投稿者の特定を簡単にする「新たな裁判手続き」の創設が適当とする中間とりまとめ案を示した。ただ、委員から慎重論が相次ぎ、修正される見通しとなった。
いまは、SNSやネット接続のプロバイダー事業者を相手に2回の裁判手続きをへないと、投稿者を特定できない場合が多い。
そこで、中間とりまとめ案では、事業者が開示できる情報に投稿者の電話番号を加えることが「適当」とされた。
( → 急いだSNS中傷対策、修正へ 訴訟なく情報開示、総務省案に慎重論:朝日新聞 )
※ 詳しくは、記事の続きを読むといい。(無料で読める。)
政府は「発信者情報を開示する」という形の解決策を打ち出しているが、これは「裁判で解決する」ということを基本にしている。そのため、手間と金がかかって、面倒臭いので、被害者にとってはハードルが高い。
そこで、もっとハードルを低くするのが、本項の案だ。
その点に関する対策も必要です。例えば「誹謗中傷を判定する裁定機関」に、本人情報の開示を請求し蓄積する権限を与え、凍結されたアカウントの本人情報を集約し、同一人が複数回(3回以上くらいが適切か?)のアカウント停止を受けた場合は、本人が持っている他アカウントも停止請求するような運用が必要ではないでしょうか。いろいろと他にも運用を工夫すべき点はあると思いますが、「裁定機関」には、公的な性格を持たせて頑張ってもらいたいものです。裁判ではコストがかかりすぎる問題を低コストで公平でバランスの取れた処理が出来るような制度設計が必要です。
あと一つ、5chに代表される匿名掲示板的な場所での「誹謗中傷」は裁定機関では取り扱わないのが良いと考えます。それこそ嫌なら見るなの世界ですし、エゴサーチしてまで見に行かないほうが精神衛生上よろしいと思います。また、「誹謗中傷」が普通に書き込まれる場所という前提で多くの人がそのメッセージについて判断する場所、そんな場所も人間には必要ではないでしょうか。
春名風花さんが「ネット中傷」の投稿者と示談成立 示談金315万4000円
https://www.bengo4.com/c_23/n_11484/
ただし、反日キャンペーン中に親日の書き込みをして高校生が逮捕されるなどの事例が発生するが。
そんなサービス、誰も利用しないと思うけど。政府に筒抜けになったら、思想管理されて、最悪の情報管理社会。
一歩間違えれば論拠に基づく批判すら誹謗中傷とされる可能性もあります。
それと第三者機関は恒常的な設置ではなく都度の設置と責任者のある程度の情報開示も考えたほうがよろしいかと。