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スパコンの富岳が「世界一の性能だ」と話題になった。ただしそれはハードだけのことだ。ソフトはどうか? これまでの京は、独自のソフトしか使えなかったので、使えるソフトが少なかった。
しかし富岳では、さまざまなソフト(アプリ)を使えるようになったので、先行きの見通しは明るい……というふうに報道された。
→ スパコン「富岳」がライバル圧倒で4部門首位達成。まだ100%の性能は発揮せず
→ 1位にこだわらないスパコンとして生まれて1位を獲った「富岳」。日本の技術者たちが開発で目指したものとは
とはいえ、それは将来のことだ。一方、今日を開発した 2011年から今現在までの日本のスパコン環境はどうだったか? 実は、とんでもなく低いものだったらしい。
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朝日新聞の外部筆者コラム「経済気象台」が、「バーチャル開発」について論じている。
感染リスクを避けるため、対面で打ち合わせがしにくいなか、自動車開発分野では「バーチャル開発」の取り組みが加速している。
コンピューター上で部品やシステム、車両を開発し、バーチャルに動かして解析することで問題点や課題を洗い出す。この手法を繰り返して徹底的に解析しながら改善する。
バーチャル開発は欧州勢が圧倒的に先行してきた。
( → (経済気象台)バーチャル開発の潮流:朝日新聞 )
たとえば、自動車を実際に衝突させるかわりに、コンピュータでその衝突状況をシミュレーションする。それによって開発のコストと期間を大幅に短縮できる。
こういうことは、20〜30年ぐらい前からずっと言われていた。当初は計算と実際との差が大きかったようだが、その後はソフトの水準が大幅に向上したので、計算と実際との差が小さくなり、現時点ではもはや計算だけでほとんどを済ませるようになったらしい。
そういうふうにこれまで報道されてきたのだが、実は、それは「井の中の蛙、大海を知らず」というありさまだったらしい。日本が京を使って、いくらバーチャル開発を進めていたとしても、欧州や米国でははるかに高性能のスパコンを用いて、はるかに多様なアプリを走らせて、日本よりも圧倒的に先んじていたらしい。日本が「階段を3段も上がったぞ」と威張っていたら、その間に欧米の会社は 10段も 20段も先へ進んでいたらしい。
日本のスパコン 京 も、当初の4年間ぐらいは世界トップレベルに伍していたらしいが、その後の4〜5年では世界のトップレベルから大きく遅れていたようだ。その上、台数では、圧倒的な差があった。日本のスパコンの台数は、中国にも大きく負けていたようだ。
何より致命的なのは、スパコン 京 が専用ソフトしか使えなかったことだ。富岳では「多様なソフトが使えますよ」というふうになったが、それに近いことは、すでに欧米はやっている。だから自動車のバーチャル開発は、日本は欧米に大きく遅れることになった。
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ついでだが、日産はゴーンがコストカット最優先の経営をしていたので、スパコンによるバーチャル開発はまともにやってこなかったはずだ。「それはおまえの勝手な想像だろ」と思う人もいそうだが、実は、裏付けはある。日産は、ろくに新車開発をしてこなかったことだ。ここでは、モデルチェンジをほとんどやらなかったのだから、バーチャルであろうとなかろうと、どっちみち、新車開発は(少ししか)なされてこなかったのだ。
その点、トヨタはその間に、大量の新車を開発していた。ただしどうも、トヨタは電子関係では、非常に弱い。電気自動車は言うまでもなく、自動運転技術でも大きく出遅れている。
→ 自動運転の現状(各社別): Open ブログ
こんな状況では、スパコンに強いとはとても思えない。
というわけで、トヨタも日産も、バーチャル開発では大きく出遅れているようだ。「富岳というハードがあるから日本は世界一になれる」というような甘い楽観は成立しないのだ。
むしろ、これまでのソフト開発の遅れのせいで、せっかくのハードもうまく生かせないままでいる期間が長く続きそうだ。
自動車会社を初めとする各産業の各社が、バーチャル開発をうまく使いこなせるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。というか、経営者自身が、頭が固いせいで、バーチャル開発に踏み込む経営ができていないようだ。
富岳が世界一になっても、ソフト不足のせいで、「仏作って魂入れず」みたいな状況になりそうだ。「ハード作ってソフト入れず」みたいな。
《 加筆 》
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
という質問には、こう答える。
「富岳のように多様なアプリを使えるようにしたことは、正しい方策だった。ただしその方策は、5年前に取るべきだった。スパコン開発は、10年にいっぺんではなく、5年にいっぺんにするべきだった。スパコン開発予算を倍増するべきだった」
要するに、安倍が悪い。こんなところで金をケチるな。電通やパソナに回す金(※)で、スパコンを何台も調達できる。すべては安倍が悪い。
※ キャッシュレス・キャンペーンの補助金もそうだ。あれも電通に丸投げ。
→ キャッシュレスポイント還元も電通に 再委託316億円:朝日新聞
[ 付記 ]
本項では「バーチャル開発」が「スパコン使用」とほぼ同義で使われている箇所もあるが、それは、「バーチャル開発」が「スパコン使用」を前提としているからだ。シミュレーションでは、精度の向上には多大な計算力が必要となるので、どうしてもスパコンが必要となる。
低性能だと、粗い精度になるので、使い物にならない。昔はそうだった。
でも今は資本関係だったりAICE(自動車用内燃機関技術研究組合)などで日本勢はホンダを除いてほぼオープンで情報をやりとりしているのでトヨタや日産も活用しています。ホンダは秘密主義なのでどうしているかわかりませんが。
問題はシミュレーション技術よりも型式証明などをシミュレーションデータのみで認めることに難色をしめしている国土交通省など行政側によるところが大きいんですね。ヨーロッパなどは実車テストなしでオーケー、ということになっています。(裏でこっそり試作車をお役所に持ち込んで試験したりしてますけど、そこはそれ。)
検索すると結構びっくりすると思います。燃焼現象がこれだけきちんと再現できているんだなあと。
シミュレーション畑出身の人見さんという方が副社長になっています。
https://biz-journal.jp/2020/02/post_139438_2.html