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3回シリーズの記事の第1回目は、下記の記事だ。
→ 迫るオーバーシュート、専門家の葛藤 日本モデルの真相:朝日新聞
→ (コロナの時代 薄氷の防疫:上)長引く「瀬戸際」、危機感伝わらず 2月末〜3月、官邸と専門家にズレ:朝日新聞
趣旨は、下記だ。
(日本は)人口あたりの死者数は主要7カ国(G7)で最も少ない。
だが、対策を担った専門家たちの目には、日本も、多くの死者が出る感染の爆発的拡大(オーバーシュート)の一歩手前だった、と映る。
この趣旨でいろいろと話がある。上記記事から部分的に引用しつつ、批判しよう。
(1) 急増期
最大の危機は宣言が出る前の3月にあった。
欧州やエジプト、東南アジアから入国・帰国した人たちからの感染例が10日ごろから急増している。
後の分析では、ウイルスの広がりを示す「実効再生産数」の値は東京で2.5程度まで高まっていた。1人から2.5人の感染者が生まれていることを意味する。オーバーシュートは目前に迫っていた。
「実効再生産数」の値が 2.5 になったのは、二次感染者が次々と誕生したからではない。海外から一次感染者が次々と流入したからだ。(このことはデータからも明らかになっている。というか、上の記事自体に書いてある。着色部。)
とすれば、ここでは「感染が指数的に自己増殖する」という意味の「オーバーシュート」などは、生じていなかったことになる。
当然ながら、海外からの流入を止めたあとでは、この急増はなくなった。
また、増殖を止めたのは、「海外からの流入を止めたこと」であるから、緊急事態宣言をしたことは何の関係もなかった。
※ 時期的に関係がなかったことは、朝日新聞自身も言及済みだ。緊急事態宣言の前に、すでに流行は収まりつつあったのである。
「感染者数が減少した」という言葉は使っていないが、「緊急事態宣言の前に流行は収まり始めていた」と記しているので、同じ内容のことが記されていることになる。ともあれ、朝日新聞は、このことを認定した。
( → 専門家会議の報告(5/29): Open ブログ の (2) 朝日新聞の認識 )
ともあれ、急増があったのは「海外からの流入」があったからであり、急増が止まったのは「海外からの流入」が止まったからだ。そのことは、朝日新聞も過去記事で気づいている。なのに、今回の記事では、それを理解していない。(忘れてしまったのか。)そして、感染を止めたのが緊急事態宣言だと思っている。ひどい勘違いだ。その時にはすでに感染は収束しつつあったのだが。
(2) 国内と海外
海外からの流入が止まったのは、3月26日の入国制限(入国拒否)などが理由だ。そのことは、今回の記事でも言及してある。
26日には、神奈川や埼玉など首都圏の5都県知事が移動や外出の自粛を共同で要請。政府は、全ての海外渡航自粛を求めるとともに、入国を拒否する国や地域の拡大へと動いた。
せっかく言及したのに、それが感染の急増を止めたのだ、と理解できない。自分で自分の言っていることを理解できていないありさまだ。
(3) 欧州からの流入
3月に欧州などから流れ込んだウイルスは広がりが速く、感染経路不明のケースが相次いだ。クラスター対策では追いつかず、重症患者が続出して医療機関を圧迫し始めていた。すべての市民に、感染の機会を減らすための外出自粛を呼びかけるしかなくなった。
これも同様だ。自分で書いているのに、自分で書いたことの意味を理解できていない。
そのあげく、「緊急事態宣言が感染急増を止めた」と勘違いする。次のように。
(4) 緊急事態宣言の効果
全国の感染者数がピークに達したとみられるのは2日後の4月1日ごろ。7都府県に緊急事態宣言が出されたのは7日だった。
ぎりぎりの段階でオーバーシュートを免れた日本。だが、志村さんを含め感染した 950人あまりが亡くなった。
専門家会議メンバーの舘田一博・日本感染症学会理事長は言う。
「感染が深刻になり始めた3月末に緊急事態宣言が出ていたなら、被害はもっと抑えられただろう。だがそれは今だから言えることで、次に同様なことが起きたとき、対応できるようにしなければいけない」
感染急増を止めたのは、緊急事態宣言ではない。(それより前に急増が止まっていたのだから、影響を及ぼしたのは、緊急事態宣言ではなくて、もっと前の入国制限である。)
したがって、上の記事中のように、「感染が深刻になり始めた3月末に緊急事態宣言が出ていたなら、被害はもっと抑えられただろう」などということはありえない。
記事では、これを結論のように示しているが、とんでもないミスリードだ。むしろ、こう書くべきだった。
「緊急事態宣言をしても、感染の急増を止めることにはまったく効果がなかった、と判明した。だから、次の急増期には、緊急事態宣言をしても無意味だ、と理解するべきだ。やるべきことは、マスクの義務化だけで十分だ。それだけで(基本的には)感染倍率を1以下に下げることができる。一時的に流行があっても、まもなく収束するだろう。どうしても何かをしたいのであれば、マスクの義務化を徹底するために、1%程度のマスク非使用者を徹底的に摘発するような《 マスク警察 》でも導入すればいい。それが最も有効だろう」
これなら、理屈になる。
※ 以上の (1)〜(4) は、1日目の記事だ。
※ 次は、2日目の記事から。
→ 病床埋まる恐怖、届かぬ支援 「医療崩壊が起きていた」:朝日新聞
(5) 医療逼迫
医療逼迫があった、と記事では指摘している。一部で受け入れ可能でなくなった事例も多発した、と指摘している。その意味で、記事では「医療崩壊があった」というふうに表現をしているが、それは誇大表現だろう。「救急患者がどの病院にも受け入れてもらえずに、たらい回しにされた」という事例なら、これまで何度も報道されてきた。(近年では緩和されてきたようだが、以前はひどい事例が何度も報道された。)
そのことで「医療崩壊」と呼べるかというと、そうではあるまい。
部分的に「医療不足」が起こったという事実は、「医療崩壊」とは呼ばないのが普通だ。ニューヨークやイタリアでは、収容可能数の2倍以上の患者があふれて、死者が霊安室でなく倉庫に山積み(?)されるような状況になっていた。こういうのを「医療崩壊」という。日本では、そこまでひどい事態にはなっていなかった。あくまで「局地的・部分的な医療不足」が起こっただけだった。
記事は表現が過激すぎると言えるだろう。
また、記事では対策として、緊急事態宣言を考慮しているようだ。
「空いた途端にベッドが埋まり、待機者がたくさんいる。通常では考えられない。緊急事態宣言を早く出してもらわないとだめだ」
しかし、緊急事態宣言を出したところで、急にベッドが増えるわけでもない。対策は、もっと別の形でやるべきだ。では、どんな?
それを知るには、「なぜ医療逼迫・医療不足が起こったか」を理解するべきだ。
これが起こった理由は、こうだ。
「新規感染者を入院させようとしても、病院が満床だったので、入院させることができなくなった」
そのまた理由は、こうだ。
「既存の病院では、軽症者が多数、入院していた。それを外部に転院させることができなかった」
そのまた理由は、こうだ。
「東京都では、(東京都の不手際により)軽症者の専門施設が不十分だったので、軽症者の入院先がなかった」
とすれば、対策はこうだ。
「病院には中等症以上を入院させるために、軽症者は軽症者向け施設に入所させる。そのために、軽症者向け施設を大量に用意する」
なお、それでも間に合わない場合には、こうする。
「馬鹿な東京都知事と違って、まともな頭のある神奈川県知事は、大量の軽症者向け施設をあらかじめ用意しておいた。しかも、神奈川県では感染者が大量発生しなかったので、これらの施設はガラガラだった。そこで、東京都の軽症者を、県境を越えて、神奈川県に移す」
こうすれば、大量の軽症者が神奈川県に移ることで、東京都の病院は満床状態が解消する。そこで、新たに新規感染者が入院できる。
これが正解だ。こうしておけば、岡江久美子さんも死なずに済んだはずだ。
現実には、そうしなかった。だから、岡江久美子さんは死んでしまった。そこを反省するべきなのに、東京都も政府もまったく反省できていない。朝日もそれに気づかない。かわりに「緊急事態宣言を早めに出す」というピンボケなことを言っている。
4月上旬の急増は、海外からの流入が急増したのが理由なのだから、緊急事態宣言をしても止めることはできないのだが。むしろ、入国制限をまともにやることの方がずっと重要なのだが。
( ※ 日本では入国制限の実施が非常に遅れたので、手遅れになって、感染者が急増した。)
( ※ 入国者に 14日間の自宅待機というのもまずかった。これが感染急増の主因だろう。4月3日からは、自宅待機でなく強制隔離になった。だから以後、感染の急増がはっきり止まった。)
朝日は、あれもこれも、「緊急事態宣言の実施でカタが付く」と思い込んでいるようだが、とんでもない勘違いだ。「緊急事態宣言にはほとんど効果がない」と理解するべきだ。
なお、そのことは、「ロックダウンを実施している英国が感染増加をなかなか止められない」ということからも明らかだろう。
→ 前項 の (1)
※ 次は、3日目の記事から。
→ (コロナの時代 薄氷の防疫:下)滞ったPCR検査、偏った負荷 4月保健所逼迫、民間の活用不十分:朝日新聞
(6) PCR検査
検体を民間検査機関に送ると2〜3日後に結果が分かる。
と記事に記してある。以前は、保健所経由で、検査から結果報告まで1週間以上がかかっているせいで、感染から報告まで2週間ぐらいがかかっていた。
しかし今では、検査から報告までの期間はかなり短縮しているようだ。
それというのも、保健所の検査数が激減して、民間検査機関による検査数が激増しているせいらしい。この点では、新たにデータが出た。

出典:朝日新聞
民間研究所が利用できるようになった当初も、民間研究所の利用は進まなかった。この点については、こう説明されている。
厚労省は医師が必要と判断すれば検査を頼める仕組みは整えた。だが、地方衛生研究所や保健所での検査は4月のピークに最大1日5千件余に増えた一方、民間は2千件台にとどまった。
病院から日本郵便で民間に検体を運ぶ際、厳重な包装に加えてジュラルミン容器に入れる必要があった。手間も時間もかかった。民間より近くの地方衛生研究所に検体が集中して局所的に検査能力が逼迫(ひっぱく)した、と厚労省は分析している。
普通の医療用の密閉容器に入れて、消毒するぐらいで済むものを、ジュラルミン容器だって。まるで生物兵器並みの扱いだ。馬鹿げた話だ。これじゃ、まともに検査がなされないのも仕方あるまい。
もうこの点では改善されたと期待したいが、記事には何も記してないので、現状ではどうなっているかは不明だ。記事は報道不足と言える。
記事には、次の記述もある。
厚労省は新型インフルのワクチン備蓄や医療機関の人工呼吸器の整備を進めたものの、10年度以降の予算でPCR検査体制の強化を概算要求はしなかった。厚労省新型コロナウイルス対策本部の正林督章(とくあき)事務局長代理は「危機意識が続かなかった」と話す。 行財政改革や地方分権などにより、全国の保健所は1995年度の845カ所から今年度は469カ所に。常勤職員も95年度の約3万4千人から17年度には約6千人減った。
財務省幹部はいう。「財政状況を考えれば、平時に不要な人員を抱えておくことは現実的ではない」
田村憲久衆院議員(元厚労相)は、「財政的にも行革の観点からも余裕がなかったのが本当のところかもしれない」と振り返る。
「予算不足だから仕方ない」という立場のようだ。
しかしこれは嘘八百だ。予算はありあまるほどあった。それは、東日本大震災における復興費だ。 20兆円以上という超巨額の金があって、湯水のごとく使い放題だった。
そのせいで、(陸前高田で)ほとんど人の住まない土地を造成するために 5000億円をかけたり、(各地で)地元の人が誰も望まない巨大防潮堤を建設したりした。そういうゴミを建設するために何兆円もの莫大な金をかけた。この件は、本サイトでたびたび、批判してきた。
→ サイト内 検索
特に、海辺の防潮堤は最悪だ。こんなものは、津波が来ればひとたまりもなく破壊される。そのことは、田老地区の巨大防潮堤でも判明している。
では、どうするべきか? 海岸に巨大防潮堤を作るのでなく、海岸から 500メートルぐらい下がった内陸部に、内陸堤防を作るべきなのだ。これならば、小さな堤防で大きな効果を得ることができる。そのことは、「仙台東部道路」という高速道路の大部分が堤防として働いて、津波を阻止したことからもわかる。
※ ただし、堤防状にはなっていない部分(欠落部分)もあったので、そこでは津波は侵入した。そういう例外はあったが、大部分の場所では、津波の侵入を阻止した。
→ サイト内 検索
こういうふうに「低コストで大きな効果」という方法をもたらす方法がある。なのに、そういう方法を取らずに、無意味な後方を取るせいで、「効果のないもののために 20兆円以上をかける」という馬鹿げた浪費がなされた。
( ※ 政府が馬鹿だからではない。巨額の金を公共事業にかけることで、自民党が私腹を肥やそうとしたのだ。最近話題の電通優遇と同様だ。)
かくて、東日本大震災以後、莫大な金が公共事業に浪費される一方で、年 1000億円程度の保健所拡充がなされなかった。そのせいで、2020年には、コロナの感染急増を招いて、超巨額の金が無駄に支出されるハメになったのだ。一文惜しみのや空士ない。
( ※ 第1次補正予算 13兆円、第二次補正予算 32兆円、合計45兆円。これは国の年間歳入にほぼ匹敵する額だ。それほどの無駄金を支出するハメになった。)
( ※ こういう馬鹿げた支出をするハメになった一因は、安倍首相が休校やらイベント中止やらで、やたらと業界に損失をもたらしたことも理由だ。緊急事態宣言の解除が遅れたことも理由だ。)
( ※ 私の言う通り、緊急事態宣言という無駄を一切やらなければ、これらの莫大な支出は、一切不要だった。しかも、国民の経済的被害は、はるかに少なくて済んだ。また、「入国制限」と「マスク義務化」の実施によって、感染者を実際よりも大幅に減らすことができたはずだ。)
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結局、政府の方針は何から何まで間違いだらけだったが、それを指摘できない朝日新聞も、同様にアホすぎると言えるだろう。ほとんど政府の失敗を隠蔽する三下だ。
日本の次期総理は富岳かな