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全身の症状
新型コロナは、当初は「新型肺炎」と呼ばれて、肺炎の一種だと思われていた。
しかしその後、これはただの肺炎ではなく、全身の症状をともなうことが判明した。
たとえば、前項では、「全身の激しい痛み」という症状を訴える患者の例がいくつも示されている。
→ 新型コロナの体験記: Open ブログ
では、このような全身の症状をともなうのは、どうしてか? このような全身の症状をもたらす新型コロナの本質は何か? ……そういう問題を考えよう。
( ※ 肺炎の場合には、「サイトカイン・ストーム」という言葉で理解されたが、全身の症状の場合には、どうなるか?)
血管の病気
最近になると、「新型コロナは血管の病気だ」ということが指摘されるようになった。たとえば、6月6日の朝日新聞の記事だ。
《 (新型コロナ)症状、肺炎だけではない? 「脳からつま先まで」、全身に 》
世界で600万人以上の感染が確認されている新型コロナウイルス。当初は「新型肺炎」とも呼ばれ、重症化した患者が肺炎を起こして亡くなる例が目立った。だが最近の知見で、肺だけでなく、全身に症状が出ることがわかってきた。その理由はどうやら、「血管の炎症」にあるらしい。
影響は肺だけにとどまらないことが、最近の報告でわかってきた。
サイエンス誌は「脳からつま先まで、体中を大暴れ」と題する記事をまとめた。記事によると、脳や目の結膜の炎症、腎臓や肝臓の損傷、下痢などの症状も出るという。また手足の指が血流不全を起こし、しもやけのように腫れ上がる症状も出ているという。
子どもではごくまれに、全身の血管に炎症が起きる川崎病に似た症状を起こすことも報告されている。
チューリヒ大学病院のフランク・ルチツカ医師は「新型コロナは肺が主戦場だが、これは血管の病気だ」と、サイエンティフィック・アメリカン誌にコメントしている。
オランダの研究チームが4月に欧州専門誌に発表した論文では、ICU(集中治療室)に入院中の患者184人中、31%に血栓症が確認されたという。研究チームは「31%というのはとても高い割合で、ICU患者への血栓症予防策の必要性を強く示唆する結果だ」と指摘している。
( → 新型コロナは「血管の病気」体中を大暴れ 目立つ血栓症:朝日新聞 )
このことは、実は4月13日ごろには、すでに話題になり始めた。
→ 希望が見えてきた!?新型コロナの死因は肺炎ではなく血栓症という新説!安価な抗炎症剤で治せる!? - Togetter
※ このページに話は、不正確な記述も多いので、注意。
その後、「新型コロナは血栓症をもたらす」という記事や報道がたくさん出た。
→ 新型コロナウイルス感染の重症化と血栓症について | 大宮エヴァグリーンクリニック
→ COVID-19で血栓症発症リスク増大、学会が警鐘:日経メディカル
→ 「COVID-19の三大死因の一つに血栓症が加わった」坂本二哉|日本医事新報社
→ MIT Tech Review: 肺炎だけでない新型コロナの症状、血栓症など報告相次ぐ
→ 新型コロナウイルスの症状として注目される血栓症とは?医師が解説します。
→ 新型ウイルス感染の入院患者、3分の1に危険な血栓 - BBCニュース
→ 新型コロナと子供の川崎病や血栓症の関係について免疫の宮坂先生に尋ねてみました(下)(木村正人)
いろいろと話はあるが、「血栓症をもたらす」ということが強調されている。
では、血栓症は、どうして起こるか? 血小板が凝固することで起こる。(エコノミー症候群に似ている。)
では、血栓症の凝固は、どうして起こるのか? 上記の記事を見ると、「サイトカインが原因らしい」とわかる。免疫が活発化して、サイトカイン(という物質)が大量に産生されると、サイトカインのせいで血栓症が起こるそうだ。特に下記を参照。
→ 新型コロナウイルス感染とサイトカインストームと血栓症の関係について | 大宮エヴァグリーンクリニック
→ 新型コロナと子供の川崎病や血栓症の関係について免疫の宮坂先生に尋ねてみました(下)
サイトカインが問題だとすると、「筋肉痛もサイトカインのせいでは?」という疑いが湧いたので、念のために調べると、まさしくそうだとわかった。
炎症の起きた場所ではサイトカインなどが産生されるため、筋肉痛を引き起こすと考えられています。
( → 筋肉疲労にお悩みですか? まずは原因を知っておきましょう! | 疲れに効くコラム powered by リポビタン | 大正製薬 )
サイトカインと免疫
サイトカインが原因だとすると、サイトカインの大量産生を阻害することで、問題は解決するはずだ。
となると、まず考えられるのは、サイトカイン・ブロッカーだ。具体的には、「アクテムラ」などだ。
これを使うと、サイトカイン・ストームを阻害することができるので、肺炎の重症化も防げるし、全身の血管の病気も防げるはずだ。いろいろとうまく行くはずだし、あらゆる問題が解決するはずだ。
では、それで万事解決となるか? 実は、そううまくは行かない。
・ アクテムラなどのサイトカイン・ブロッカーは、モノクローナル抗体であり、対象生産ができない。
・ アクテムラなどのサイトカイン・ブロッカーは、効果があまり大きくない。「いくらかは効果がある」という程度だ。
サイトカイン・ブロッカーというのは、今になって急に開発されたものではない。インフルエンザの重症化するのが「サイトカイン・ストームのせいだ」と判明してから、サイトカイン・ブロッカーを開発しようという研究はずっと前から続いているのだが、すばらしい成果は上がっていないのだ。
なのに、今さらサイトカイン・ブロッカーに期待しても、それは、脇役に主役を期待するようなもので、期待過剰というものだろう。
NHK「サイエンスZERO」
以上は、私の個人的な判断として記したものだが、ここまで(下書きを)書いたあとで、テレビの録画番組を見たら、びっくりした。本日(6月6日)の NHK「サイエンスZERO」で、「新型コロナ特集」が組まれているのだが、そこに記されている内容は、上記の内容とほぼ同じだ。
→ サイエンスZERO「新型コロナ論文解析SP」 - NHK
つまり、私がせっせと書いて、「専門的な判断を示しているぞ」と思ったら、それと同じことを、NHK が放送していた。山中伸弥・教授の監修という形で。
ちっ。出し抜かれてしまった。これでは本記事はただの二番煎じにすぎない……と思ったのだが、実は、大きな違いもあった。
話の途中までは、NHK も本記事も、ほぼ同趣旨である。
ただし、最後が違う。本記事では「アクテムラなどのサイトカイン・ブロッカーには、あまり期待できない」と記しているのだが、NHK の番組では「アクテムラなどのサイトカイン・ブロッカーには、大きな期待がもてる」という趣旨になっているのだ。
たとえば、「アクテムラを使ったら、重症者の 12人中9人が助かった」と記している。
「これはすごい」と思えそうだが、実は、人工呼吸器や ECMO を使った患者の死亡率は3割程度だと判明している。(7割が助かっている。)
→ アビガンの効果が判明: Open ブログ の項末
この例では、たぶんアビガンが使われているはずだ。その場合と比較して、アクテムラを使った場合も同じ程度の効果となっているわけだ。
アビガンとアクテムラの併用の割合はわからないが、仮に、全員にアビガンが使われているとしたら、アクテムラを使っても使わなくても、どっちみち死亡率は3割ぐらいだということになるから、「アクテムラの効果はほとんどないも同然だ」とも言えそうだ。
つまり、NHK の番組は、アクテムラに過剰な期待をいだいており、破れるに決まっている夢を抱いているとも言える。……この意味では、この番組の趣旨は間違いだ、と言えるだろう。
ここで、私と NHK の立場は割れる。「袂を分かつ」と言ってもいい。
免疫の問題
では、どうすればいいか? サイトカイン・ブロッカーが見込み薄だとすれば、他の何に頼ればいいか? それを考えよう。
短絡的に考えるなら、「サイトカイン・ストームで被害が生じるのなら、サイトカインストームを抑止する薬剤を使えばいい」となる。そこで、サイトカイン・ブロッカーというものが研究されてきた。……これが、今までの流れだ。しかるに、その流れでは、まともな研究成果が上がっていないのだ。(長年にわたって莫大な研究費を投じてきたにもかかわらず、だ。)
これはどうしてかというと、免疫というのはあまりにも複雑怪奇なので、人間がそう簡単にやすやすと解明できるものでもないし、人間がそうやすやすと制御できるものでもないのだ。
※ 免疫の基本原理は、利根川進むが解明したが、それは「 100年に1度」と言われるような大きな成果だった。
※ しかも、免疫の基本原理は解明されたとはいえ、その細部は未解明である。免疫の遺伝子そのものは判明しているが、免疫の遺伝子を組み合わせるにはどういう原理が働いているかという細部は、まだよくわかっていない。
→ 医療の挑戦者たち(19)北里が発見し、利根川が解明した「抗体」一○○年の謎。(北里柴三郎)
※ 遺伝子の発現を制御するのは、DNA の遺伝子部分(エクソン)ではなく、非遺伝子部分(イントロン)であるらしい。この件は、2019年ごろから急に研究が進んでいる分野であり、いまだ未解明のことが多いようだ。……NHKの番組で放送されていた。
→ NHKスペシャル 人体2 遺伝子「がんを抑えるDNAスイッチをONにする臨床試験が始まった!人類はエピジェネティクスによって運命を克服できるのか?」
→ NHKスペシャル!人体II遺伝子:あなたの中の宝物“トレジャーDNA
自己免疫との関係
サイトカイン・ストームは免疫の暴走である。それは「自己免疫」に似ている。この件は、前にも述べた。
→ 新型コロナの薬(免疫系): Open ブログ
これに基づいて、本質を探ることにして、私は次のように考えた。
(1) サイトカイン・ストームは、自己免疫の一種とも見なせるが、そもそも自己免疫というものは、非常に稀な病気である。インフルエンザの場合でさえ、サイトカイン・ストームになる人は、ごく限られている。なのに、新型コロナでは、重症化する人が5%ぐらいもいて、かなり多い。これは不自然だ。
(2) このようなことが起こるのは、新型コロナが、人体に過大な負担をかけるからだろう。新型コロナは、いわば、ラスボスのようなものである。人は、小物と戦うときには、全力を発揮しなくてもいいが、ラスボスと戦うときには、全力を発揮する必要がある。それと同様に、新型コロナは非常に強力なので、人体の免疫力がフル稼働を強いられる。そのせいで、一部の患者では、免疫機能が無理を強いられたあげく、壊れて、暴走してしまうのである。
( ※ エンジンが高回転になって、壊れて、止まらなくなってしまったようなものだ。 → 前出 )
(3) このようなことが起こるのは、なぜか? (たぶん、)新型コロナウイルスは、増殖率が大きいからである。感染力が強いだけでなく、増殖率が大きい。どんどん急増していく。免疫機構がちょっと働いて、ウイルスの1割を撃退しても、その間に、ウイルスは2割も増えてしまう。こういうふうに「急増する」という性質をもつので、免疫機構はものすごい活動度を強いられるのだ。
( ※ エンジンが高回転を強いられるようなものだ。)
(4) では、どうすればいいか? ウイルスの増殖率を下げればいい。あまりにも増殖率が高いのであれば、その増殖率を下げて、弱いインフルエンザぐらいの増殖率にまで下げればいい。そうすれば、免疫機能に過大な負担がかかることはないので、免疫機構は暴走しないだろう。つまり、自己免疫の状態にはならないだろう。
(5) では、そのような薬剤はあるか? ウイルスの増殖率を下げるという薬剤は? もちろん、ある。それが、アビガンだ。
(6) ただし、アビガンが有効だとしても、いったんウイルスが多大になりすぎると、もはやアビガンだけでは手に負えなくなる。アビガンがうまく効果を持つには、敵のウイルスがまだ巨大化していない状態に限られる。敵のウイルスが巨大化したあとでは、アビガンでは対抗できないのだ。
(7) だから、アビガンを投与するとしたら、まだ敵のウイルスが巨大化していない時期、つまり、早期に限る。こうして、「アビガンの早期投与によって、免疫機構の暴走を防ぐ」ということが可能になる。つまり、重症化を阻止できる。
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以上が、私の考えだ。
そして、この考えは、基本的には、すでに述べたことと同様だ。そこでも同じ発想(アビガンの早期投与によって、免疫機構の暴走を防ぐ)が、すでに述べられている。
→ アビガンを早期投与せよ(少量で): Open ブログ
※ なお、ここでは、アビガンは「新型コロナを治療する」という目的よりは、「新型コロナによる重症化を阻止する」という目的をもつ。換言すれば、「早く治るか否か」が問題なのではなく、「生きるか死ぬか」が問題なのだ。「死ぬのを阻止すること」が最大目的なのだ。その点では、「早く治るか否か」を調べる現在の臨床研究は、評価方法が間違っているとも言える。自分たちがめざすべきことを理解できていない、というありさまだ。
結論・まとめ
新型コロナの重症患者は、肺炎を起こすだけでなく、全身の重い症状が生じる。
それは、この病気が血管の病気だからである。そのまた理由は、サイトカインの過剰産生だ。そのまた理由は、免疫機構の暴走だ。
この問題を解決するための薬剤として、サイトカイン・ブロッカーが有望だとされたが、重症者に投与しても、効果は はかばかしくない。
むしろ、軽症者にアビガンを早期投与するべきだ。すると、ウイルスの増殖率を下げることができる。そのことで、免疫機構の負担が軽くなるので、免疫機構の暴走を防ぐことができる。つまり、サイトカインの過剰産生がなくなる。自己免疫状態にもならなくなる。
こうして、アビガンの早期投与によって、問題は解決する。
[ 付記 ]
NHKの番組に出てくるのは、山中伸弥を初めとする、世界的にも有名な大物教授たち。これらの人々の立場が、「アクテムラ支持」であるようだ。
一方、私は「アクテムラ不支持・アビガン支持」である。
両者の違いは、こうだ。
・ 前者は、重症化した後の患者に、対症療法をする。(症状の緩和)
・ 後者は、重症化する前の患者に、根源対策をする。(ウィルス急増の阻止)
学界の最高峰の人々と、私とは、真っ向から対立しているわけだ。どちらが勝つか、ご期待ください。
※ 本文中では、「 NHK の立場」という表現を使ったが、これは山中教授たちの立場だと言ってもいい。また、そこで示されたのは、個人的な立場ではなく、全世界の最新論文を AI で分類・整理して得られた結論である。つまりそれは、「世界の立場」とも言える。……だから、私が対立しているのは、NHK でもなく、山中教授たちでもなく、全世界の専門家たちだ、とも言える。
※ ちなみに、「マスク有効論」では、私は WHO を初めとする感染症の専門家たちに完勝した。
※ なお、アクテムラは大量生産できないので、もともと大量の患者には対応できない。アクテムラが勝つ目は、初めからない。
[ 余談 ]
関係ないが、エボラ出血熱の話。
エボラ出血熱も、血管の病気だ。ただしこれは、血液が漏れることが理由であるようだ。そのまた理由は、血管の細胞壁をくっつける糊のようなものが、ほどけてしまうせいかもしれない。
この件は、「カドヘリン」「クローディン」などの用語で説明されている。
→ 細胞同士をつなぐ分子の世界 がんや進化と関係も:朝日新聞
エボラ出血熱は、「カドヘリン」「クローディン」がうまく働かなくなっているせいかもしれない。
ただし、ググっても、そういう話はまったく見つからない。では、代わりにどんな説明がなされているかというと、実は、代わりとなるものはない。エボラ出血熱の症状の記事はたくさんあるが、症状の機序について説明している文書は見つからないようだ。
かろうじて、下記が説明しようとしているらしい。
→ エボラ出血熱の重症化メカニズムの解明ならびに予後を予測するためのバイオマーカーを同定 | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構
解明のための道具を作っている段階で、解明には遠く及ばないようだ。
一つ疑問なのは無症状感染者が相当数存在していそうな現象である。無症状の状態が本来の正常状態と比べてどうなのか私には全く分からないのだが、エイズ耐性もっている人と同じようなものなのか、気になることではある。