2020年05月12日

◆ レムデシビルは有望か?

 新型コロナの治療薬としてレムデシビルがある。これは有望か?

 ──

 (1) 特例承認

 レムデシビルが「特例承認」の形で、早くも承認された。
  → レムデシビル、特例承認 国内初、原則は重症者 新型コロナ:朝日新聞

 重症者向けということで、大いに期待されているようだ。では、これは本当に有望なのか? 調べてみよう。


 (2) 効果

 レムデシビルの治験は、すでにいくらかなされている。報道から引用しよう。
 新型コロナウイルスに感染して重い肺炎になった患者53人に、エボラ出血熱の治療薬として開発された「レムデシビル」を使ったところ、68%で症状が改善したことがわかった。
 米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)……
 対象としたのは、通常の呼吸では肺から十分に酸素を取り込めなくなった患者。
( → エボラ薬、コロナに使える可能性 日米などで投与 重症者の7割改善:朝日新聞

 この記事では、重症者に有効だとのことだ。ただし重症者といっても、「通常の呼吸では肺から十分に酸素を取り込めなくなった患者」ということだから、中等症が混じっているようだ。区別すべき。(人工呼吸器を必要とせず、酸素吸入器だけで足りる程度。)

 別記事もある。いくつかの知見を紹介する形。冒頭の1件は上と重複するが、他に2件ある。
 New England Journal of Medicine。……日本、アメリカ、ヨーロッパ、カナダの症例58例のうち36例(68%)で臨床的改善が得られたとのことです。
 中国で登録された237人の重症新型コロナ患者。……レムデシビル群とプラセボ群とを比べて、臨床的な改善は差がなかったという結果でした。
 NIH。……1063例の重症新型コロナ患者。……プラセボ群と比べてレムデシビル群では臨床的改善が31%早かったとのことです。回復までの期間の中央値は、レムデシビル群では11日であったのに対し、プラセボ群では15日でした。 また統計学的に有意な差ではありませんでしたが、死亡率においてもレムデシビル群で8.0%、プラセボ群で11.6%とレムデシビルを投与された患者群で低い傾向にありました。
( → 早期承認見込み 新型コロナ治療薬レムデシビルの有効性は?(忽那賢志)

 他の2件では、冒頭の1件とは結果が異なる。
 中国の例では、重症患者には効果なしとのことだ。
 NIHの例では、重症患者にいくらかの効果があったとのことだ。
 いずれにせよ、冒頭の1件ほどの効果はなかったことになる。

 一方、プラセボ対比群との治験ではないが、治療実績を述べた記事もある。ただし、初期患者(軽症者)が対象だ。
 特に発症から10日以内の患者で、呼吸の改善や解熱などの治療効果が見られたという。
 重症化前の患者では投与後の24時間に解熱や呼吸改善、症状の緩和などの効果が顕著に認められたと説明。多くのケースで患者が自宅療養に切り替えられたほか、死亡率の低下が認められたと説明した。
( → レムデシビル「初期患者に効果」 治験の米医師が報告 :日本経済新聞

 重症化していない初期の軽症者では効果があった、という報告だ。逆に言えば、重症の患者にはあまり効果がなかった、ということになるだろう。


 (3) 評価

 以上の三つ(と一つ)の結果を見ると、次のように判定できそうだ。
  ・ 軽症者には、かなり効果がある。
  ・ 重症者には、少し効果があるらしいが、不確かだ。

 このことからすると、次のように結論できそうだ。
 「軽症者には使うといいが、重症者に使ってもあまり効果は期待できない」……(*


 では、これではなしは済むかというと、そうでもない。次のことがあるからだ。
 「副作用が未解明である。内臓の機能低下が起こりがちなど、そこそこの副作用もあるようだ」

 ※ 詳細は、後述の [ 付記3 ] を参照。

 このような副作用の大きさを考えると、命に関わるような重症者以外には使わない方がよさそうだ。つまり、こうだ。
 「副作用の危険があるので、軽症者には使わずに、重症者だけに使う方がいい」……(**


 以上で、二つの結論を示した。(*)と(**)だ。それぞれ、矛盾した結論を出す。
  ・ 効果の点では、軽症者だけに使う方がいい。(重症者は不適)
  ・ 副作用の点では、重症者だけに使う方がいい。(軽症者は不適)


 症状別に言えば、こうだ。
  ・ 軽症者にとっては、効果が大きいが、副作用の危険が大きい。(ゆえに使わない方がいい。)
  ・ 重症者にとっては、副作用の危険は無視していいが、効果は期待薄である。(使っても期待できない。)


 つまり、どっちにしても、有望ではない。


 (4) 難点1(変異)

 さらに、難点がある。
 「レムデシビルは、変異で耐性型が出やすい」と言われている。
 どういう原理かははっきりとしないが、私の推定では、こうだ。
 「レムデシビルは、複雑な構造の化学式を持つので、それに対応するウイルスの構造もまた複雑であり、双方の適合性は特殊かつ限定的である。そのせいで、ウイルスが少しでも変異すると、薬剤の効果が失われてしまう。その薬剤は、特定のウイルス構造に特化したものであるからだ」

 これと同様のことは、タミフルにも起こった。タミフルは、複雑なな構造の化学式を持つ。そのせいで、ウイルスが少しでも変異すると、薬剤の効果が失われてしまう。実際、タミフルには耐性型のインフルエンザ・ウイルスが出現して、すぐにタミフルは(体制型に対して)無効になってしまった。翌年には耐性型のインフルエンザが蔓延した。
 
 タミフルと同様のことが、レムデシビルでも起こる可能性が十分にある。レムデシビルが有効だからといって、軽症者にやたらと濫用すると、短期間で耐性型のウイルスが出現して、レムデシビルは無効になるだろう。(タミフルが濫用されたあとのように。)

 なお、アビガンならば、その危険は低い。アビガンは簡単な構造の化学式をもつもで、わりと万能型であり、さまざまなウイルスに対して幅広く効果を持ちやすい。つまり、少しぐらい変異したウイルスに対しても、同じように効果を持ちやすい。
( ※ ただしその分、薬としての効果は高くない。アビガンの効果は、タミフルの効果の半分以下であるらしい。だから、タミフルやリレンザでは対処できない特別な病気にのみ使うべきであって、普通のインフルエンザでは、インフルエンザ専用のタミフルやリレンザを使うべきなのだ。その方が薬効は高いのだから。)


 (5) 難点2(価格)

 レムデシビルには、「価格が非常に高い」という難点がある。
 米国でのレムデシビルの適正価格については、推計値に大きな幅がある。
 ギリアドはレムデシビルの開発コストを約10億ドルと推計しており、一部投資家は、同社がこのコストを上回って利益を出すため、価格を1患者当たり4000ドル以上に設定すると予想している。
( → レムデシビル、1患者42万円超の治療費予想も | ロイター

 4000ドルというと、42万円だ。これを超える価格が予想されている。(1患者あたり)
 実際にそうなるかどうかは不明だが、4分の1の 10万円でさえ、まだまだ高い。アビガンは 8000円以下であるようなので、アビガンの方が圧倒的に低価格だ。
 価格の点だけから見ても、「レムデシビルは有望だ」とは言えないだろう。特に、軽症者にとっては、(命に関わるとも思えないので)そんなに大金を払うことは無理だろう。
 かといって、軽症者のうちに治さないと、重症化する危険もある。そして、重症化したあとで、「命のためには大金を払うのもやむを得ない」と思ったとしても、もはやレムデシビルは効果が期待薄なのだ。(重症化には効果が弱い。)

 レムデシビルは、現在では試験的に無料提供されているので、この状況では無料で使うこともできる。だが、いったん発売されたあとでは、その高価格が問題となって、あまり使われることはなさそうだ。


 (6) 結論

 レムデシビルは、あまり有望ではない。
 軽症者には、効果がありそうだが、そもそも何もしなくても、自然治癒する例が大半だ。また、使うにしても、価格が高すぎる。
 重症化した場合には、金を払っても期待したいところだが、残念ながら、重症者には薬効が薄いようだ。

 では、どうするべきか? 治療としては、以下のようにするべきだろう。
  ・ 重症者向けには、第1選択はアビガンだ。
  ・ 第2選択としては、ステロイド剤のオルベスコがいい。
   (肺炎の改善が望める。アビガンと併用するといい。)
  ・ その二つが効果を上げない場合には、第3選択として、レムデシビルを使うといい。


 最後の場合だけが、レムデシビルの出番だ。一般的には、ECMO を使うような患者だ。その総数は、あまり多くないようだ。( ECMO の使用例とほぼ一致するだろう。)
 しかも、使ったとしても、重症者に対する効果は限定的だ。たぶん、第3選択としてレムデシビルを使った患者の半分以上が、薬効が虚しいまま、死に至ることになりそうだ。これもまた、あまり有望ではないということになる。

 レムデシビルの最大の効果は、患者の命が助かることではなくて、米国のギリアド社の収益を改善させることぐらいだろう。 (^^); つまり、患者の命を救うという点では、あまり期待しない方がよさそうだ。



 [ 付記1 ]
 「レムデシビルがあまり期待できない」
 というのは、他にアビガンという本命があるからだ。これが大量にある日本では、アビガンを使う方がいい、という結論になる。
 しかし米国や欧州では、アビガンの備蓄もないし、購入予定もない。(日本での生産量の全量は日本政府に納入されるらしい。)
 となると、米国や欧州では、(アビガンの入手ができないので)「レムデシビルに期待するしかない」という状況になりそうだ。

 それゆえ、今後、「レムデシビルは効果があった」という報道・報告が何度も出てきそうだが、それは話半分に聞いた方がいい。それはあくまで「アビガンを使えない場合には」という限定が付いているのである。
( ※ その限定は、日本には当てはまらない。)

 [ 付記2 ]
 アビガンには、催奇性という副作用があるので、出産適齢期の人には向いていない。
 しかし、現実にアビガンを処方される人のほとんどが高齢者であって、出産適齢期の人に処方されることはほとんどないので、この件はあまり問題視されないだろう。
 とはいえ、例外的に、出産適齢期であって重症化する人もいそうだ。そういう場合には、レムデシビルが第1選択になるかもしれない。(きわめて稀な例だが。)

 [ 付記3 ]
 レムデシビルは、治験の数が圧倒的に不足している(まだ始まったばかりである)ので、副作用の情報はまったく不足している。
 今回、特例的に早期の承認が得られたのは、「使わないと命に関わる重症者」に対象が限定されているからだ。
 一般の軽症者については、副作用のデータがろくに出ていないので、まともに承認されるのは、ずっと先のことになるだろう。
 レムデシビルが軽症者にも広く利用可能になるとしたら、1年以上あとのことになりそうだ。そのころには、コロナもすでにピークを越えているだろう。下手をすると、コロナの流行が過ぎたころに、レムデシビルの一般利用(軽症者向け利用)が承認されるかもしれない。

( ※ その点、すでにインフルエンザ用の薬剤として大規模な治験が済んでいるアビガンとは、まったく事情が違う。)

posted by 管理人 at 23:15| Comment(4) |  感染症・コロナ | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 最後に [ 付記3 ] を加筆しました。
Posted by 管理人 at 2020年05月13日 00:24
若い人には使ってほしくない
腎不全なんか起こしたら一生、人工透析のお世話になる
Posted by 老人 at 2020年05月13日 06:57
私の疑問:アビガンは中国で原料を製造しているし、後発医薬品(商品名「法维拉韦」)として製造している。これがすでに全世界に大量供給されていると思うのだが、その情報が見当たらない。
Posted by おく at 2020年05月13日 07:40
 中国は自国用に備蓄するだけで精一杯でしょう。1億人分を備蓄する必要がありそうだ。冬に備えて。
Posted by 管理人 at 2020年05月13日 08:00
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