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PCR検査
PCR検査の話をいくつか示そう。
(1) 現状
現状はこうだ。
・ PCR検査を受けられずに死亡する、という例がある。
・ PCR検査をもっと受けられるようにせよ、という声が高まった。
・ 政府は新方針で、PCR検査をもっと受けられるようにした。
・ つまり、相談の受付の基準を緩和した。
・ 相談の声が殺到して、相談窓口が破綻した。
以上は、前項で記したとおりだ。
(2) 代案
そこで私は前項で、代案として、別の方針を示した。「検査よりも治療を」という方針だ。
・ 初期は、感度の低い PCR検査は不要だ。
・ 医者の診断だけで、新型コロナだと認定していい。
・ 認定されたら、軽症者向けの施設に収容する。
(陽性なら大部屋へ、未検査ならば個室ホテルへ)
(自宅待機の場合も、6日目以後は必ず収容する。)
・ そのいずれでも、パルスオキシメーターで常時監視される。
・ 状況に異常があれば、CT などの検査を受けたすえ、治療へ。
・ 治療は、酸素吸入器とアビガンが原則だ。
・ 治療は、中等症の施設に移転してから、受ける。
以上の家庭において、PCR検査は、特に必要ない。検査能力に余裕があれば、どこかの時点で検査するに越したことはないが、必須ではない。大事なのは、検査することではなく、患者の命を救うことだ。そのためには、最も重要なのは、PCR検査ではなく、パルスオキシメーターなのである。この異常が生死を左右するからだ。
※ 感染しているかどうかは、生死を左右するとは言えない。感染しても、軽症で済む人が多いからだ。
(3) 全自動装置
ここまでの話は、「日本では検査能力が低い」ということを前提とした話だった。
一方、欧州では、検査能力が圧倒的に高い。おおむね日本の 10倍ぐらいの新規感染者を出している国が多いことから、日本の 10倍ぐらいの検査能力があると見ていいだろう。
ではどうして、こんなに彼我の差があるのか? 外国には機械も人員も 10倍ぐらいの量があるからか?
これが疑問に思えたが、意外な事実が判明した。日本では手作業でやっているから、能率が圧倒的に低いが、外国では全自動機器でやっているから、能率が圧倒的に高いのだ。つまり、検査能力の差は、全自動の PCR検査機器を導入しているか否かに依存しているのだ。
しかも、である。意外なことに、この機械は日本製なのだ。
→ 世界で活躍している複数検体の処理が出来る全自動PCR検査機器は日本製
→ 日本の全自動PCR検査機器メーカーがフランスより感謝状
つまり、欧州諸国は、日本の全自動 PCR検査機器を使うから、大量の PCR検査ができる。なのに、日本は日本の全自動PCR検査機器を使わないから、大量の PCR検査ができない。これが隠れた真相だったのだ。
(4) 認可されない
ではなぜ、日本では日本製の全自動PCR検査機器を使わないのか? 使う気がないのか?
調べてみたら、「使いたくても使えない」という事実が判明した。なぜなら、国が「使うことを禁止している」からだ。というのは、次の方針を示しているからだ。
・ 使うためには、認可が必要。(認可されないと使用不可。)
・ 認可しない。
要するに、日本では、国が「認可しない」という方針を示しているせいで、全自動 PCR検査機器を使えないのだ。このことは、会社の社長が証言している。
geneLEADは8、12、24の3つを用意してありまして。8はすでにヨーロッパの方で発売を致しております。
日本はこれからもちろんですけども、ちゃんと手続きを踏まなければなりませんので、厚労省に認可をお願いしてそれから販売していくことになります。
( → バイオテクノロジーで新型コロナ肺炎に対抗する―PCR検査の観点から― 22:27以降の文字起こし )
ヨーロッパではすでに発売をしている。なのに日本では、「厚労省に認可をお願いして」ということであるから、いまだに認可もできていないようだ。
これは、「認可の基準があまりにも厳しいので、その基準を満たすための書類などに手間がかかっている」ということかと思った。だが、意外なことに、「申請したのに厚労省が許可しない」という異常事態が起こっているそうだ。
3月時点で国に使用を認めるよう申請したというのだが、いまだに進展がないのが現状だ。
( → 日本の「全自動PCR検査システム」なぜ導入されず? 製造メーカーも首を捻る )
3月に申請したのに、いまだに許可が下りない。ここに、根本的な理由が在るとわかった。
なお、会社がこの装置を開発・発売したのは、2018年7月13日である。
→ ニュースリリース(公式)
とすれば、欧米の諸国がこの装置を買ったというのは、当然のことだろう。なのに、日本だけは、申請を受理するのもすごく遅れたし、受理したあとでも認可には手間取っているわけだ。
どうしてこんなに認可が遅れているかというと、理由は三つ考えられる。
・ 袖の下をもらえないと、認可をわざと遅らせる。
・ もともと認可するための人手がない。(公務員不足)
・ 新型コロナで駆り出されたせいで、厚労省全体が人手不足。
ま、この三つが直接の原因だとしても、「何よりもこの装置の認可を早めよ」という鶴の一声があればいいのだが、厚労省の幹部も、大臣も、さらには総理大臣も、そういう鶴の一声を発するだけの知識がない。さらには、専門家会議にも、その知識がない。その知識があるのは、本サイトぐらいだが、どうも影響力が小さくて、世間には届かない。
かくて、いまだに全自動 PCR検査機器は認可されないので、日本全体では PCR検査不足が起こる。
その上に、「 PCR検査をしないと、治療もしない」という馬鹿げた体制がある。せめてこの体制をあらためれば、死者も減るのだが。
(5) 別の全自動 PCR検査機器
上記で紹介した装置とは別の装置が新たに開発された。
→ 新型コロナ:富士フイルム、PCR検査を自動化 件数増へ熟練不要に :日本経済新聞
これを使うと、現状よりは大幅に状況が改善しそうだが、やはり同じく「認可されない」という問題が生じそうだ。
しかし富士フイルムは大会社なので、政治力がありそうだ。自民党に献金をすれば、すぐに認可してもらうこともできそうだ。
先の企業は3月に申請しても、いまだに認可されないが、富士フイルムは献金によって、さっさと認可されることもありそうだ。(先行き不明だが。)
なお、キヤノンの高速 PCR検査機器もある。これも実用化されているが、行政機関で試験運用されているだけだ。一般販売はされない。これもどうやら、認可されないせいで、販売できずにいるようだ。
キヤノンは、献金していないのだろうね。だからいつまでたっても、認可されない。
ともあれ、「他人の命よりは、自分の懐」というのが、自民党の根本体質だ。ここに根源がある。
(6) 認可は不要?
「何でこんなに認可が遅れるんだ。さっさと認可しろ。外国のように」
と思う人が多いだろう。そこで調べてみたところ、実は、この手の機械は、そもそも認可が不要であるらしい。
認可が必要なのは、人間の命や健康に影響があるもの(薬剤)だ。
一方、検査機器は、人間の命や健康に影響がないので、認可は不要で、単に届け出だけをすればいいのが原則だ。
→ U. 医療機器の製造・販売に必要な届出・認証・承認|医療機器を製造・販売する上での確認事項
外国では早くから装置が販売されているのは、もしかしたら、もともと認可不要とされているからかもしれない。
一方で、日本では、「本来ならば届け出が不要」であるものに、省庁の利権で、強引に「認可を受けろ」と強いているのかもしれない。
はっきりとは言えないが、そういう懸念もある。
抗体検査
抗体検査も話題になっている。これにも、いくつかの種類がある。
(1) 以前の抗体検査
抗体検査は、中国製のものが以前から知られてきた。日本や欧州にも輸出された。しかし、感度も特異度も駄目なので、「使い物にならないゴミだ」と認定されたようだ。
クラボウ公式:
中国の提携先企業が開発したイムノクロマト法の原理に基づいた「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検査試薬キット」を日本国内に輸入し、販売することとなりました。
( → クラボウ )
これらの抗体検査キットが駄目だということについては、前に別項で論じたことがある。
感染症学会は抗体式の検査キットについて、「感染症の診断に活用することには推奨できない」と否定した。
( → 緊急事態宣言の2週間後: Open ブログ )
そのリンク先には、こう記してある。
感度は、A社2/5、B社0/5、C社3/5 、D社4/5 となった。一方、特異度についてはいずれも 5/5 だった。
( → 日本感染症学会 4種類の抗体検査キットを性能評価「診断への活用は推奨できない」 )
(2) 抗原検査
抗体検査とは別に、抗原検査というものがある。これが、新たに認可されることになった。
新型コロナウイルスに感染しているかどうかを短時間で調べられる「抗原検査」について、厚生労働省は確定診断に使う方針を固めた。PCR検査と併用する考えで、検査件数の増加につながる可能性がある。13日にも、検査キットが薬事承認される見通し。
抗原検査は、ウイルスを形づくるたんぱく質を直接検出する方法で、インフルエンザウイルスの検査などに広く使われている。鼻やのどの奥をぬぐってその場で検査し、10〜30分程度で結果が出る。
承認される見通しなのは、国内メーカー「富士レビオ」が4月27日に申請した抗原検査キット。
( → 抗原検査、13日にも承認へ PCRと併用で検査数増加:朝日新聞 )
これは、4月28日に開発成功と報じられたばかりのもので、短期間でいきなり認可されるようだ。
→ 【新型コロナウイルス】国産初の抗原簡易検査キットの開発に成功 ウイルスを15〜30分の短時間で検出 横浜市立大学
短時間で結果が出るというのは素晴らしいことだ、と思える。だが、難点もある。
上記ページで示されているように、これは、モノクローナル抗体だ。モノクローナル抗体は、一般に、化学的につくることはできず、バイオ技術で細胞などから作ることになる。そのせいで、大量生産ができず、とても高額になることが多い。そうなると、量的にも価格的にも、一般には普及しそうにない。
一方で、感度は低いそうだ。(どの記事にも書いてある。)
感度が低いとなると、PCR検査に取って代わることはできないだろう。偽陰性が大量に発生するからだ。
となると、次のような使い方になるだろうか。
・ まずは抗原検査をする。
・ それで陽性ならば、感染者と認定する。
それで陰性ならば、PCR検査を受け直す。
これでも、効果はあるだろうか? ないよりはマシだろうか? 少なくとも安倍首相は、これに大いに期待しているようだ。
→ 安倍首相、「抗原検査」の導入に意欲|TBS NEWS
だが、私の判断を言うと、「期待できない」となる。なぜなら、検査対象の陽性率は、現時点で 7.5% しかないからだ。
→ 東京都が陽性率を初公表、平均7.5% 平日は毎日発表:朝日新聞
どういうことか、わけを示そう。
仮に陽性率が 50% ならば、そのうちの5割ぐらいを「陽性だ」と判定できると、「 50% × 50% = 25% 」なので、全体の 25% を削除できる。つまり、PCR検査を受ける人を 25% 減らせる。
しかし、陽性率が 7.5%ならば、そのうちの半分5割ぐらいを「陽性だ」と判定できたとしても、せいぜい 4% だけだ。残りの 96% は、PCR検査を受け直すことになる。つまり、ほとんどの人が PCR検査を受けることになるので、PCR検査を受ける人を減らす効果はない。その一方で、全員に抗原検査を受けさせることになる。
これじゃ、二度手間をかけることになる。追加した1回分は、ただの無駄手間だろう。やらない方がマシだ、というレベルだ。
抗体検査・抗原検査をやるのならば、少なくとも PCR検査と同程度の感度があることが必須となる。 PCR検査よりも感度がはっきりと劣るのならば、そんな検査はやる意義がないのだ。
ここではっきり、「駄目だ」と言って、駄目出ししておこう。
(3) ロシュの抗体検査薬
では、抗体検査はまったく期待薄なのだろうか? PCR検査に頼るしかないのだろうか?
ここで、朗報がある。ロシュの抗体検査薬だ。これはきわめて高性能であって、PCR検査をしのいで、感度も特異度も 100%に近い。
世界中に普及しているcobas e分析装置にかけて使うRocheの検出感度ほぼ100%(99.8%)、特異度100%の新型コロナウイルス感染(COVID-19)抗体検査Elecsys Anti-SARS-CoV-2を米国FDAが承認しました。
( → Rocheの血中COVID-19抗体検出検査をFDAが承認〜感度99.8%、特異度100% 2020-05-04 )
詳しい話は下記。
→ Roche - Roche’s COVID-19 antibody test receives FDA Emergency Use Authorization and is available in markets accepting the CE mark
というわけで、今後は、ロシュの抗体検査薬を使えばいいのだ。
手動の PCR検査機器、全自動の PCR検査機器、低精度の抗体検査キット、低精度の抗原検査キットもあるが、それらは、使わないでいいのだ。
※ ロシュの抗体検査薬の生産量が心配だが、ロシュは大量に供給する旨を表明しているので、量的な心配はなさそうだ。モノクローナル抗体とは違って、大量生産できるものであるようだ。
参考記事もある。
→ 新型コロナ:ドイツ、ロシュの抗体検査薬300万個調達 5月中に
→ 新型コロナ:ロシュの抗体検査薬、米が承認 正確性「ほぼ100%」
→ 新型コロナ:ロシュの抗体検査薬、米で許可 日本でも5月申請へ
→ コロナ抗体検査薬 大手ほど精度高く FDA、ロシュなど12品評価
「疑陽性ゼロ」のコロナ抗体検査薬 日本は5月下旬に
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58942880R10C20A5000000/
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5月下旬から試験販売するとのことだ。量はごく限られているようだ。