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実行再生産数
実行再生産数について調べたグラフが掲載された。

横軸の日付は、検査の判明日ではなくて、
その約2週間前の「推定感染日」である。
報告書はこう論じている。
全国における推定感染時刻を踏まえた実効再生産数を見ると、3月25日は 2.0(95%信頼区間:2.0、2.1)であったが、その後、新規感染者数は減少傾向に転じたことにより、4月10日の実効再生産数は 0.7(95%信頼区間:0.7、 0.7)となり、1を下回った。
ここには重大な問題がいくつかある。
(1) 実効再生産数が 2ぐらいから 0.7 ぐらいへ一挙に3分の1も低下したことについて、その理由が示されていない。(考察してもいない。)
(2) 緊急事態宣言に効果があるのなら、4月7日以後に急減があるはずなのだが、そんなものはまったく見られない。つまり、緊急事態宣言には効果がない。そのことへの言及が皆無だ。
ついでに、東京都のグラフも示されている。

報告書はこう論じている。
東京都においては、感染者数が増加しはじめた3月14日における実効再生産数は2.6(95%信頼区間:2.2、3.2)であった。3月25日の東京都知事による外出自粛の呼びかけの前後から、新規感染者数の増加が次第に鈍化し、その後、新規感染者数は減少傾向に転じた。
(1) 「3月25日の東京都知事による外出自粛の呼びかけ」が効果があった、と示唆している。しかし、これはおかしい。同じような減少は、全国にも見られるからだ。仮に都知事の呼びかけに効果があったとしたら、全国民が都知事の呼びかけに従った、ということになる。そんなことはありえない。「東京都民はこういうふうにしてください」という都知事の呼びかけに、大阪や福井の県民が従うはずがない。
ここではむしろ、「全国的に低下する別の要因があって、それが東京都にも見られた」というふうに考えるべきだろう。東京だけに特定の要因があったと見なす報告書は、認識がおかしい。
報告書では、上の引用文に引き続いて、こう記されている。
この結果、4月1日時点での直近7日間における東京都の倍加時間は2.3 日(95%信頼区間:1.8,3.8)であったが、5月1日時点での直近7日間の倍加時間は3.8日(95%信頼区間:2.6, 6.7)となった。
この数値はおかしい。前に説明されていたところでは、次のようになるはずだ。
・ 基本再生産数が 1.7 なら、 1週間で倍増
・ 基本再生産数が 2.5 なら、2〜3日で倍増
これからして、基本再生産数が 0.7 ならば、倍増するための期間は非常に長くなるはずだ。( 20日ぐらい?)
上のグラフによれば、実効再生産数は、4月1日には 0.7 ぐらいで、5月1日にはもっと小さい値だ。とすれば、倍増するための期間は、大きな値( 20日ぐらい?)なのだから、上記の記述のような「2.3日」「3.8日」というような数値にはなるはずがないのだ。データがおかしい。
※ この件は、下記でも指摘されている。“「2.3日」「3.8日」でなく、「2.3週」「3.8週」の誤記ではないか”という指摘もある。……なるほど。それならばおかしくない。
→ 専門家会議2020.5.1付け状況分析・提言のデタラメについて - Togetter
※ 基本再生産数と、実効再生産数は、厳密には異なる数字だが、抗体保有者の割合が5%以下の状況では、特に区別する必要はない。(どちらもほとんど同じ値になる。)
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上の二つのグラフを見たあとで、報告書はこう論じる。
以上のように、市民の行動変容が成果を上げ、全国的に新規感染者数は減少傾向にあることは確かである。
いきなり天下り的な結論が出てくる。「市民の行動変容が成果を上げ」た、と。
しかし、データを見る限り、そんなことはまったく結論できないはずだ。「市民の行動変容」が起こったのは4月7日以後であり、感染率の低下が起こったのは 3月25日〜3月末だからだ。
報告書が述べているのは、「4月7日以後の行動が、3月25日〜3月末の事象をもたらした」ということだ。「未来の行動が過去の事象を変えた」ということだ。呆れるしかない。(タイム・スリップじゃあるまいし。)
細論
報告書では、そのあと細かなことをいろいろと指摘している。
まあ、よくある指摘であるし、各界でも指摘されていたことだ。独自の意見があるわけでもないし、特におかしなことはないようなので、ことさらあげつらうべき点はない。
ただ、気になる点も少しはあるので、言及しておこう。
(1) 施設の拡充
ホテルや施設の拡充を進めるべし、と言っている。それ自体は問題ない。だが、重要な点が抜けている。「軽症者の重症化に注意するべきだ」ということだ。そのためには、「軽症者を自宅から施設に移す」ということが必要となる。特に、発熱後6日後以後には、そうするべきだ。なのに、その点への言及がない。これでは、自宅で死んでしまう患者が続出するだろう。
この件は、先に 50代男性の例を示したが、また新たな事例が出た。
東京・港区のマンションで、発熱があり自宅療養していた50代の男性が死亡しているのが見つかり、その後の検査で新型コロナウイルスに感染していたことが関係者への取材でわかりました。発熱から9日後のことで、……
男性は9日前の先月6日から発熱などがあり、自宅療養していたということで、この日は朝、妻が仕事に出かける際は男性は会話ができる状態で異変はみられませんでしたが、夜、妻が帰宅すると男性は布団の上で死亡していたということです。
都内では自宅や路上で容体が急変して死亡したあと、感染が判明したケースが11件確認されていて、このうち7件は発熱後、1週間から12日たって死亡していました。
( → 朝異変なく 夜死亡で発見 自宅療養の57歳男性 新型コロナ | NHKニュース )
「7件は発熱後、1週間から12日たって死亡」とのことだ。こういう急変への対処が必要なのだが、報告書では何も論じていない。
(2) パルスオキシメーター
急変に対処するには、軽症者向けの施設に収容するだけでなく、パルスオキシメーターで常時監視する必要があるのだが、それについての言及がない。
※ 以上の (1)(2) では、最重要の課題についての言及がない、とも言える。間抜けすぎ。
(3) 重症者と病床
重症者によるベッド占有の問題が指摘されている。
重症患者の収容においては人工呼吸器を使用した呼吸管理や集中治療による全身管理を要する患者が多く発生しており、中核都市や地域においてクラスターの発生に伴う高齢者の感染が多発した際に多くの病床がすぐに占有されてしまう状況にある。
指摘はあるが、解決策が述べられていない。この点では、本サイトでは解決策を示している。
→ 症状別の対応 (新型コロナ): Open ブログ (救急病院の箇所)
つまり、救急病院は、救急外科などの高度な治療に専念すればいい。コロナの治療は、比較的簡単なので、別の(準)大病院に委ねればいい。これで解決する。
なのに、報告書では、何も解決策が提言されていない。
(4) 運搬車
ちょっと目新しい提言もあった。
患者の搬送調整の中心となる「患者搬送コーディネーター」の配置
なるほど。これは一案だ。だが、その前に、搬送手段を確保することが先決だ。つまり、救急車ではない、専用の運搬車だ。これの導入を提言するべきだろう。
→ 症状別の対応 (新型コロナ): Open ブログ (運搬車の箇所)
行動制限
今後の対策としての行動制限(外出自粛など)についても、報告書は言及している。
4月7日及び4月16日の緊急事態宣言には、新規感染者数を減少させることにより、医療崩壊を防止すること等といった狙いがあった。
うんうん。そういう狙いがあったね。で、その効果は?
その話は、まったく記されていない。「狙いと結果」という話は、まったく記されていないのだ。
それでいて、「この狙いは十分に結果を出した」ということが前提となって、「さらに緊急事態宣言を続けるべし」という主張が出る。
これまでの「徹底した行動変容の要請」を緩和した場合には、緩和後まもなく感染者数の拡大が再燃しそれまでの市民の行動変容の努力や成果を水泡に帰してしまうおそれがある。このため、新規感染者数等が一定水準以下まで下がらない限り、「徹底した行動変容の要請」を続けなければならないものと考えられる。
どうしてだよ! すでに「緊急事態宣言の効果はまったくない」とわかっている。4月7日以後の急減などはまったく見られていない。新規感染者数でも、発症者数でも、実行再生産数でも、「緊急事態宣言の効果はまったくない」とわかっている。なのに、まったく効果がないものを、どうして続けるべきなのか? その説明が抜けている。
ここには、論理的な説明も科学的な説明もない。むしろ、論理や科学では否定されるものを、頭ごなしに押しつけている。これはただの「オカルト」もしくは「トンデモ」であろう。科学とは正反対の立場だ。
接触頻度
非科学的であることを自分たちでも自覚しているらしくて、とりあえずは何らかの説明を出そうとした。そこで、「接触頻度」という概念を導入した。
新規感染者数の減少につながるような「接触行動の変容」をどのように評価していくかについては、学術的にも技術的にもまだまだ課題が多い。こうした中で、現在、利用しうるデータを用いて、可能な限り、行動変容を評価するため、今回は、後述する「接触頻度」を利用して評価を試みた。
要するに、人と人とがどれだけ接近しているか(人数や時間などで)を、スマホの位置情報から測定する……というわけだ。そのことを、渋谷や新宿の駅周辺で調査するわけだ。
すると、駅前の各区画ごとに、50%減とか、60%減とか、そういう数値が区画ごとに判明する。
そのすえに、こう結論する。
〇 これらの結果から分かることは、次のようにまとめられる。
@渋谷駅や難波駅のような地域では年齢群によって達成状況が異なっており、日中の30歳台以上の接触頻度の減少は8割に達していなかった。他方、東京都の丸の内の夜間における接触頻度は、8割減を達成していた。
A都道府県を跨ぐ移動を見ても、3〜5割の減少に留まるところが多く、都心等への通勤を続ける限り、生産年齢人口の接触頻度の減少度合いが少ないことが分かった
〇 このように、行動変容の調査については、技術的な課題も多いが、今後、個々人の属性や行動パターン別のよりリアルな行動変容の評価を行っていくため、様々なデータの組み合わせや、社会調査データの活用を視野に入れた研究や検証が必要である。
馬鹿馬鹿しい。結局、何も新たな結論を得ていない。
「最先端のIT技術で調べました。ちゃんとデータを出しました。だけど、その意味はわかりません」
というわけだ。まったくの無駄だ。
そもそも、このような調査自体に、まったく意味がない。なぜなら、人は駅周辺の戸外で感染するのではなく、屋内で感染するからだ。その屋内というのは、主として、職場なのである。
さらにまた、そこで感染の経路は、「人と人との接近」ではなく、「人と物との接触」なのである。そのことは NHK の調査で判明している。
→ 接触感染とマスク: Open ブログ
なのに、「人と人との接近」を感染の理由としているところで、感染の理由を根本的に勘違いしているというしかない。
※ そもそも、感染学では、「接触」という言葉は「接触感染」をもたらす「人と物との接触」という意味で使うのが基本だ。なのに、「人と人との接近」のことを「接触」と呼ぶなんて、言葉をまともに使えていないことになる。呆れるしかない。
※ どうしてこういう初心者染みたことをするかというと、もともと「接触感染」という概念がないからだろう。だから「接触」という言葉を平気で誤用するし、「接触感染を防ぐにはマスクが重要だ(飛沫を飛ばさせなくすることが重要だ)」という発想もない。
マスク
この報告書では、「マスク」という言葉が1回しか使われていない。
マスクという語は1回しか登場しない。それは「コロナへの対策」という話題で、「感染防止のために、マスクをしましょう」という話があるだけだ。
ここでは、「マスクで飛沫の拡散を防ぐ」「マスクで接触感染を防ぐ」というような記述はない。
また、「マスクをすると、クラスターの発生を抑えることができる」「マスクをすると、感染の拡大を防げる」という話もない。
そもそも WHO や CDC は、「マスクは有効である」(自分の感染を防ぐことには無効でも、他人への感染を防ぐためには有効である)というふうに説明している。(方針転換のあとで。)
なのに、専門家会議の報告は、そういう方針への言及がまったく抜けているのだ。これはたぶん、WHO や CDC が方針転換したあとでも、専門家会議の人々は方針転換ができないからだろう。だから従前の「マスクは無効だ」という古臭い発想に縛られているのだ。( ※ 高齢学者の特徴だ。)
かくて、真実に近づく道はふさがれる。
・運動不足による新肺機能の低下
・外出しない事によるビタミンD不足と免疫力の低下
をもたらす、
過ちて改めざる人達の提言を真に受けた狂気の施策が
“ステイホーム週間”ではないかと思います。
仮に上のような接触頻度が意味あるとしても、繁華街での減少が地元商店街や観光地などの減少と相関があるようにも思えないし。
このような分析自体に意味がないことが分かった、という結果。もう辞めたほうがいいんじゃなかろうか。
ご指摘ありがとうございました。訂正しました。
と記したのに、「下記」という肝心のリンク情報が抜けていたので、加筆しました。( Togetter へのリンク)
4/10までのグラフでは緊急事態宣言の効果はわからないはずですが。
> 横軸の日付は、検査の判明日ではなくて、
> その約2週間前の「推定感染日」である。
報告書にはその旨が記してある。
・ 4月14日 …… 7509人
・ 5月04日 …… 15057人
なので、21日間(3週間)で倍増したことになる。
倍加期間は 3週間。(期間平均で)
やはり文中に示したように、「2.3日」「3.8日」でなく、「2.3週」「3.8週」であるようだ。