──
※ 長文です。いつもの倍ぐらいの長さ。
(1) 冬の大感染に備えよ
人工呼吸器は、今はまだ不足するほどではないようだ。(患者数が少ないので。)
しかし今後、冬になると、感染者数は爆発的に増えそうだ。そのとき、大量の人工呼吸器が必要となる。そのときになってあわてても遅いので、今のうちに人工呼吸器を十分に備えておくことが必要となる。
このことは、前にも別項で述べた。
→ 冬の大感染に備えよ: Open ブログ
(2) 40代の男性の症例
「自分は高齢者ではないから人工呼吸器なんか必要ない」
と思っている人も多いようだが、由水桂という 40代の男性の体験記がある。ただのインフルエンザと違って、死ぬ寸前にまでなったらしい。
検査結果を待つまでの数日間、症状はどんどん悪化していった。頭は朦朧とし、常に息苦しく、食事はほとんど喉を通らず、トイレまで行って帰るだけでフルマラソン後の様に倒れ込み、咳は止まらずリアルに「たすけて」という呟きが漏れる。夜は頭痛と悪寒で眠りにつけず、ようやく眠っても高熱で真夜中に目が覚めてしまい、やむなく解熱剤を流し込んで無理矢理眠る。次第に胸は痛み出し、ついには死を意識する…。
再び電話が鳴った。「来ますか?」「…ハイ。」
早速サイレンを鳴らして救急車が到着。
点滴をダブルで。モニターをつけられ、酸素マスクをつけられ、いろんな薬を飲まされる。
点滴は1週間続き、……(略)
あれから3週間。全てのチューブが体から取り外され、ようやくひと段落したので今これを書いている。
( → 人は新型コロナにかかるとどうなるのか。|Kei Yoshimizu|note )
死ぬ寸前にまでなったが、それでも統計上は「軽症者」または「中等症」であって、「重症者」ではない。
逆に言えば、「軽症者」または「中等症」であっても、自宅にいるだけで放置されていれば死んでいたはずなのだ。
人工呼吸器は必要なかったようだが、酸素呼吸器と点滴は必要だった。もうちょっと症状が重ければ、人工呼吸器も必要となったはずだ。
多くの人々が思っているほど甘い病気ではないようだ。
(3) イタリアの回復者と死者
イタリアの統計を見ると、もっとひどいことになっている。死者が 32% もいるのだ。
累計では感染者が18万1228人、回復者が4万8877人、死者が2万4114人という。
( → イタリア、感染者減少 外出規制緩和を検討 2月以降初:朝日新聞 )
回復者が4万8877人、死者が2万4114人。回復者と死者の割合は 2:1 だ。3人のうち、2人が回復して、1人が死ぬのだ。
( ※ 実はさらに、統計外での死者数も多い。だから実際の死亡率はもっと高い。33%をかなり上回る死亡率となる。)
で、これはどうしてかというと、患者数が多すぎて、医療崩壊になって、まともな治療が受けられないからだ。
(4) 現状は不足
上の 40代男性も、今のうちに感染したから治療を受けられたが、冬になって感染していたら、治療を受けられないまま死んでいたかもしれない。
冬なら、症状ももっと重くなっていただろうから、人工呼吸器も必要になっていただろう。そのとき、人工呼吸器がなければ、この人は死んでいたかもしれない。
というわけで、人工呼吸器は必要なのだが、現状はどうかというと、とても足りていないようだ。
国内に人工呼吸器は約2万2千台、ECMOは約1400台ある。現状では余裕があるけど、感染が爆発的に拡大する「オーバーシュート」が起きると、あっという間に足りなくなるだろう。
( → 人工呼吸器とECMO、何台あるの?どうやって使うの?:朝日新聞 )
人工呼吸器や人工心肺装置「ECMO(エクモ)」の台数調査を実施した。期間は2月12〜20日で、計1558施設のデータを集計。人工呼吸器は全国に計2万2254台あり、他の病気の治療などに使っている台数を除くと1万3437台が新型コロナ患者にも対応可能だった。
( → 東京新聞:人工呼吸器 9府県不足か ピーク時、重症用 )
(5) 増産せよ
人工呼吸器が不足するなら、増産する必要がある。そこで、政府はすでに増産を要請した。しかし、人工呼吸器の専門メーカーは規模の小さいメーカーが多いので、増やせと言われても、2倍ぐらいにしか増やせない。
東京の医療機器メーカー、コーケンメディカルは、福島市にある工場で先月から人工呼吸器を増産しています。
ふだんは月に30台から50台、年間で350台程度の人工呼吸器を生産していますが、現在は工場をフル稼働させ、生産量を2倍程度に増やしています。
( → 人工呼吸器 国内メーカーが増産 新型コロナ感染拡大で | NHKニュース )
2倍ぐらいではまったく足りないので、大手企業の参入が望まれる。
政府は業界や企業に増産を要請している。
国内での生産には限界がある。装置は欧米からの輸入品が多い。欧米での感染拡大で、今後は日本への輸出分が目減りするかもしれない。政府は、技術力のある自動車業界などにも部品生産をお願いしている。
( → 人工呼吸器とECMO、何台あるの?どうやって使うの?:朝日新聞 )
では、大手企業は参入するか? どうも、そうではない。
(6) 大手企業の支援
大手企業は、自社生産することはなく、他社(人工呼吸器メーカー)を、側面から支援するだけであるようだ。
→ トヨタ 人工呼吸器など増産支援 医療用フェイスシールド生産へ
→ ソニー 人工呼吸器の生産で協力方針 異業種の支援の動き加速
自社生産せずに、他の会社を支援するだけだと、規模も限られそうだ。
(7) 生産台数
生産台数はどのくらいになるか?
生産規模を5倍以上の水準に高め、国内向けを中心に今後6カ月以内に計1000台を供給することを目指す。政府からの要請に応えるもので、量産技術などの面でトヨタ自動車やホンダの協力も受ける。
( → 日本光電が人工呼吸器を増産、政府の要請受け :日本経済新聞 )
トヨタ自動車やホンダの協力を受けて、一挙に5倍以上に増やすというが、それでもたったの 1000台だ。「焼け石に水」という感じもする。
(8) 簡易型人工呼吸器
とりあえず簡易型人工呼吸器を生産するプランもある。これはかなり台数が見込めるようだ。
埼玉の人工呼吸器製造会社・メトランでは、既存の動物用人工呼吸器を基盤としたパンデミック用簡易型人工呼吸器を至急で設計し、日本とベトナムの生産拠点で数カ月以内に数千台から1万台の規模で製作するプランが進行中である。
( → 文春オンライン )
(9) 旭化成の子会社
国内メーカーは駄目でも、外国メーカーを利用する、という手もある。旭化成が前に、米国の人工呼吸器メーカーを買収したので、ここの人工呼吸器を使うことができる。
といっても、米国内向けが主となりそうだが、それでも一部は日本にも回ってきそうだ。(トランプ大統領が妨害しなければ、だが。)
旭化成は25日、新型コロナウイルスの世界的流行を受け、医療機器子会社の米ゾール・メディカルが人工呼吸器の増産を決定したと発表した。現状の生産量から約25倍となる月産1万台に増やす。
増産分を米国の医療機関のみに供給する予定ではないという。
( → 旭化成系米ゾール 人工呼吸器の増産開始 コロナ受け現状比25倍へ | 化学工業日報 )
日本でも生産してくれればいいのだが、単に相手企業を買収して、資本的に傘下に入れただけだから、日本で生産するのは容易ではないようだ。
(10) 大手メーカー
日本の大手メーカーは、やる気にならない会社ばかりのようだが、やる気のあるなしは別として、技術的にはどこが可能か?
ソニー、パナソニックなら、自社生産できそうだ。
トヨタ、日産、ホンダも、自社生産できそうだ。マスクなら、中国の電気自動車メーカーはマスク製造装置を自社生産した。それと同様に、日本の企業も生産できそうだ。
いきなり技術開発することはできなくても、設計図を渡してもらえば、生産できるだろう。その設計図は、日本の人工呼吸器メーカーでもいいし、旭化成の子会社でもいい。とにかく、設計図さえあれば、生産は可能だろう。(設計図は、適切なロイヤリティを払えば、利用できるはずだ。)
※ ドラマの「下町ロケット」の佃製作所なら、きっと製造していただろうね。「中小企業でも大手企業以上の技術力があるんだ」と言って。
さらに。キヤノンメディカルがある。この会社は、製造部門が日本にあるし、キヤノンと東芝の双方のコネを使えるだろう。人工呼吸器の製造ぐらいは、できそうだ。
一方、できそうもない会社もある。
日立のヘルスケアは、画像部門が富士フイルムに買収されることが決まって、移行期間の最中だ。むりっぽい。(買収されずに残ったのは、抗体検査の部門ぐらいだが、これだとあまり期待できない。)
家電各社や、アイリスオーヤマも、いちおう候補になるが、精密部品製造にはあまり向いていない感じもする。家電の精度は、かなり低い。精密機械とは全然違う。
精密機械という点では、カメラメーカーの方がまだ向いているだろう。キヤノンやソニーならば最適かもしれない。
とはいえ、いずれも、会社の経営者がやる気にならない。若手の社員には、やるだけの能力があるとしても、経営者がやる気にならないのだ。
肝心の安倍首相も、別に叱咤するわけでもない。
(11) GMとフォード
米国は逆だ。トランプ大統領が、GM などの自動車メーカーを名指しして、人工呼吸器の増産向けて叱咤した。これは立派だ。(4月2日)
→ トランプ大統領 “人工呼吸器増産急ぐ” 新型コロナウイルス | NHKニュース
これを受けて、GM は人工呼吸器の大量生産を始めた。4月20日に出荷している。
トランプはGMに人工呼吸器を製造し、政府との契約を優先するよう大統領令に署名した。GMが人工呼吸器を製造する計画を発表して数時間後のことだ。
GMは8月末までに人工呼吸器3万台を製造するという、4億9000万ドル(約530億円)の政府との契約にこぎ着けた。契約では、GMはVOCSN V+Proと呼ばれる400のパーツを使うシンプルバージョンの救命救急人工呼吸器を製造している。
( → 人工呼吸器3万台、GMが初回出荷 ニーズ切迫で自動車メーカー、アメリカ政府と契約 | ハフポスト )
フォードも大量生産を始めた。
→ CNN.co.jp : 米フォード、人工呼吸器を生産へ 100日内に5万台
いずれも、すばらしい。トランプ大統領も立派だが、GM とフォードもすばらしい。一方、日本ではひどいありさまだ。自動車メーカーや家電メーカーは、やるだけの能力はあるのだが、「やる気」そのものがない。「できない理由」を考えるだけで、頭を使い果たしてしまっている。安倍首相はというと、犬と戯れながら音楽を聴いているだけだ。
(12) ニューヨーク
米国では、人工呼吸器の生産が始まったが、それでどうなったか?
ニューヨークでは、もともと人工呼吸器の不足が懸念されたいた。
→ NY州で“命の選択”状態 深刻な人工呼吸器不足
→ 人工呼吸器を強制確保へ 10万人超えたNY州で緊迫
これに対して、上記の記事では、GM の機械は4月20日の出荷だから、ニューヨークの急増期には間に合わなかったことになる。では、問題は発生したか? いや、特に問題は発生しなかったようだ。
人工呼吸器は、不足していると思えたが、あまり不足していなかった。もともと大量にあったので、何とかしのげたらしい。
4月8日、ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長は市内の病院だけで5500台の人工呼吸器を確保していることを明かした上で、「今週はこれで乗り切れる」と話した。1日当たり200〜300台の人工呼吸器が新たに必要になると見込んでいたところ、100台で済んだという。
( → 人工呼吸器、緊急増産の落とし穴 フォードが見付けた現実解:日経ビジネス電子版 )
もともと 5500台もあった。これは、東京都の 1900台ほどに比べて、3倍もある。人口は東京都よりもやや少なめだ。……というわけで、特に不足なしで済んだようだ。
日本では、そうは行かないだろうが。
ただし、まったく大丈夫だったわけでもない。不足があった事例も報告されている。
人工呼吸器が底をつくのももう時間の問題になってきた。実際に知り合いの働くブロンクスのある病院は数日前に人工呼吸器がすでに底をついた。
( → NYの医師、故郷の日本に強い訴え | ハフポスト )
(13) 人員不足
実は、人員の問題もある。人工呼吸器の台数だけを増やしても、操作する人(技師)がいないと、まともに操作できないのだ。こんな感じ。(これは人工心肺だが。)
\しゅんしゅんクリニックPさん登場??/#しゅんしゅんクリニックP さんが演じる役は…人工心肺技師???????
— Doctor-X 外科医・大門未知子(テレビ朝日公式) (@DoctorX_tvasahi) December 18, 2019
本物のお医者さんだけに、機械を扱う姿も様になってます???
明日よる9時?
ついに最終回??????#ドクターX #最終回 #お見逃しなく?? pic.twitter.com/zkhOxj3WyF
その技師が足りているかというと、まったく足りていない。
のみならず、人工呼吸器を使っている患者を扱う看護師も、まったく足りていない。現場の看護師の証言がある。
レシピ(人工呼吸器)付きの患者なんて、1病棟に一人いるだけで業務は逼迫する。呼吸器の管理、頻繁かつ気を遣う吸痰に、2時間ごとの体位交換、全介助の清潔ケア。点滴タワーはシリンジポンプまみれだろう。それが何人?しかも全員新型ウイルスの陽性患者だ。
( → 医療の現場からA|四谷三丁目|note )
機械だけでなく、人員も大量に投入する必要があるのだ。(数カ月の養成期間が必要だ。)
(14) 人工呼吸器の限界?
一方で、「人工呼吸器があっても、無効だ」という見解もある。
「人工呼吸器を必要とするのは、重症化した患者だ。しかし、いったん重症化すると、もはや回復しない。人工呼吸器は、重症患者を数日間、延命するだけだ。治療して、命を救うことはない」
というふうに。下記は米国の医師へのインタビュー。
一度重症化したら、薬はほとんど効果がありません。
そうなるともう対症療法しかない。呼吸困難になったら人工呼吸器に繋いで、それでもだめなら体外式膜型人工肺(ECMO)を使って、治すというよりも症状をなんとか緩和する。その後は患者の治癒力頼みです。そして残念なことに、人工呼吸器に繋いだ患者で「戻って来た」人はほとんどいない。
――「戻る」とは回復するという意味ですか。
人工呼吸器を外して自分で呼吸できるようになる、という意味です。回復するかどうかは別の問題です。戻って来られた患者はほんの一握り。特にお年寄りは、ほとんどがそのまま亡くなります。重症化してから亡くなるまでの時間は、1週間程度です。この1週間というのも、ICU(集中治療室)の医師が何とか持たせた結果です。もし人工呼吸器やECMOがなければ2、3日で亡くなると思います。
( → 日本の緊急事態宣言が遅すぎる理由、コロナ最前線の米医師が戦慄の提言 | ダイヤモンド・オンライン )
これが事実なら、人工呼吸器は、あっても意味がないことになる。
「まさか」と思う人が多そうだが、同種の記事は他にもある。
たとえば、中国の武漢での治療経験だ。
人工呼吸器が主な対処法になっていたが、「重症患者に対しては効果が薄かった」と話す。
任務を3月末に終えるまで、武漢で受け持った患者のおよそ10人に1人が死亡した。「重症者は何をしても改善せず、呼吸器や感染症の専門家が集まっても有効な治療法を見いだせなかった。これまでにない挫折感や敗北感を感じた」と話す。
( → 武漢で治療経験「進行非常に速い」 中国医師、感染予防訴え 新型コロナ:朝日新聞 )
ロンドンでの体験報告もある。
人工呼吸器不足が叫ばれる今日この頃ですが、呼吸器で回復する人の割合は驚くほど低いのが現実です。ロンドンの集中治療国立監査研究センターでは98人中退院できたのは33人どまり。武漢は22人中わずか3人。米シアトル市内の病院に呼吸困難で入院した24人の場合、人工呼吸器が必要な人は18人で、入院段階で蘇生禁止令が出た人は4人でした。けっきょく12人が死亡し、5人が退院、4人がICUから一般病棟に移動し、3人はICUで人工呼吸器継続となっています。
( → ギズモード・ジャパン )
(15) 薬剤と併用
ただし、注意。「重症患者は助からない」というのが世界共通の認識であるようだが、日本では違う。日本では「重症患者が助かった」という報告がいくつも出ている。それは、アビガンを使った場合だ。
→ アビガンの話題: Open ブログ
重症患者にも効果があるようだが、重症になる直前の中等症の段階で使えば、さらに効果があるようだ。
しかも、重要なことだが、ここではアビガンを単独で使っているのではない。必ず、人工呼吸器または酸素吸入器を併用しているはずだ。(すでに呼吸困難になっているからだ。)
アビガンの薬効は、ウイルスを殺すことではない。ウイルスの増殖を妨げることだけだ。ウイルスを殺すことは、あくまで患者自身の免疫力による。そして、その免疫力を支えるのが、患者の生命力を助ける人工呼吸器だ。
つまり、人工呼吸器もアビガンも、それ単独ではウイルスに勝てないのだが、両者を合わせて使うことで、ウイルスに勝てるようになる。
その意味で、人工呼吸器は必要不可欠なのだ。
また、「人工呼吸器だけ(アビガンなし)では患者はみんな死んでしまった」という報告があるとしても、その報告にはあまり意味がないのだ。(アビガンを使うかどうかが重要だからだ。)
(16) ECMO は不要
【 訂正 】 ECMO については、下記記事をご覧ください。
→ 医療体制の誤認: Open ブログ の後半
一方、以下の記述は取り消します。
人工呼吸器の必要性はわかった。では、さらに高機能の ECMO も必要だろうか?
いや、必要ではないようだ。というのは、ECMO を操作するには、あまりにも大量の医療資源(医師や看護師など)を必要とするからだ。
平時ならばともかく、緊急事態では医療資源は枯渇している。こういうときに大量の医療資源を食い潰すような治療は、やっていられない。もしやれば、「一人の瀕死の患者を救おうとして、大量の医療資源を食い潰したあげく、治せるはずの患者を大量に見捨てる」ということになる。その上、ECMO で救おうとした患者も、通常は死んでしまう。最悪だ。
・非常に大きな人的資源を要する
人工呼吸も100点満点をめざせば熟練した医療者が必要ですが、不慣れな医療者により50点であっても中等症程度であれば人工呼吸の恩恵をうける患者は多いと感じます。いわば1科目、50点であっても合格はありえます。
ECMOにおいては、熟練した複数の医師・看護師・臨床工学技士のパワーを必要とします。おそろしく多人数の医療者のエネルギーを注ぎ80点以上をとることをめざさなければなりません。
( → 小尾口 邦彦 )
人材の少なさは高度な機器の稼働率にも影響する。人工肺(エクモ)は国内に約1400台あるものの、専門人材不足のため同時利用できるのは300床分とみられる。
( → ICU、43道府県で不足の恐れ コロナ重症者ピーク時 :日本経済新聞 )
その一方で、ECMO の増産をめざす動きもある。
→ 人工肺「ECMO」の増産急ぐ 年百数十台の倍増めざす :朝日新聞
しかし、これはまったくの無駄だ。いくら機械があっても、それを操作する人がいないからだ。この機械が増えれば増えるほど、死者は大幅に増えてしまう。
全国の ECMO は、今すぐ撤去するべきだろう。それで死ぬ人が出たとしても、やむを得ない。トリアージの一種である。重い赤の1人を救うか、軽い赤の 20人を救うか、という問題だ。重い赤の1人を救おうとすれば、軽い赤の 20人を死なせることになる。そういう選択はありえない。
( ※ 重い赤の1人を救おうとしても、たいていは死んでしまうとなれば、なおさらだ。)
(17) 酸素吸入器
人工呼吸器ばかりが注目されているが、酸素吸入器も大切だ。
先に述べた 40代の男性は、酸素吸入器で助かった。
英国首相も、酸素吸入器で助かった。
→ ジョンソン英首相「安定した状態」=酸素治療も自力で呼吸
(18) うまい方法
人工呼吸器の増産を促進するには、政府の主導が必要だ。補助金を出してもいいが、むしろ、高値で購入する方がいいだろう。台数と金額をあらかじめ決めておけばいいわけだ。
だが、もっとうまい方法はないか? ありそうだ。それは、自国で生産するのでなく、他国で生産したものを買うという方法だ。
米国の例では、530億円 で3万台を契約したそうだ。だったら、日本も布マスクの 466億円をやめるだけで、ほぼ同量を購入できるはずだ。
特に、GM から買うことにすれば、「もう機械は償却したから、あとは安く売ってもいいよ」と思うかもしれない。「今すぐ納入でなく、11月までに納入すればいいのなら、もっとやすくしますよ」と言うかもしれない。
人工呼吸器を今すぐ必要とするのは、欧米諸国だ。一方、日本は春の大感染を免れており、大量の人工呼吸器を必要とするのは次の冬からだ。その時期の違いを、うまく利用すればいいのだ。
野菜だって、出回りの時期には高額だが、そのうち品物があふれるようになるとか価格は下がる。人工呼吸器も同様だ。欧米の大感染が収まったあとでなら、価格はこなれるだろうし、入手も容易になりそうだ。
となれば、次の冬になる前に、GM やフォードと大量購入の契約を結ぶといいだろう。これが「うまい方法」だ。
この辺りの障壁懸念と許認可の速さが求められます。
書面調査で薬事手続きを数日に短縮
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/07587/
書類審査でもたついたら、それこそ監督官庁が世間の袋だたきに遭う。
「日本では厚労省による認証試験が厳しく、製造承認が下りるまでに海外よりもはるかに時間がかかる。時間の分だけ企業のコストは高くなり、しかも、医療事故のリスクは常につきまとう。「まったく割にあわない分野」だからこそ、国内企業は医療機器に進出しないのだ」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/46713
2015年末の記事なので約4年経過しているので状況は変わっているだろうし、今は非常事態であればなおさら。
変わっていなかったら、国内医療器具開発はダメでしょう。
医薬品だけでなく、医療機器も、製造販売のためには物を作る能力だけでなく、医療情報の提供、「有害事象(製品の不具合に限定せず、使用中の誤操作等も含む好ましくない医療上の事柄」の収集、評価、当局への緊急報告、医療機関への迅速なフィードバックができる体制が求められます。
お気の毒なことではありますが、従来の肺炎において年齢や持病などで回復が困難と判断されれば無理な延命措置は取られなかったと想像されます。一方、新型コロナについても患者数が増えたことと、五輪の開催が延期されて死亡者数を極小化するモチベーションなくなったことで、従来レベルの処置でお亡くなり頂くことになったのが最近の増加として表れていると推測しています。
まだ一日の死亡者は30人程度ですが、不謹慎ながら、見込みのない方に順次お亡くなり頂けば、従来+アルファの医療資源で間に合うのではないでしょうか。
人工心肺装置の操作をするには臨床工学技士の国家資格が必要です。
専門教育を3年以上受け国家試験に合格する必要があります。
医療機器の「おいしい」所は製造販売業者が持って行ってしまうため、協力メーカーどまりでは魅力的な仕事に感じられず、真剣に取り組もうとするメーカーが出てくるのか疑問に感じられます。社会貢献をアピール出来るかとは思いますが、本腰を入れるまでのものかどうか。
> 製造のゴーサインを出す時点では各種手続きは完了して認可を得ておく必要があるのでは?
リンク先の記事で説明済みです。引用:
「製造工程の品質管理を書面で調査し、事後確認する」
つまり、事後確認でよい。
> 死亡者数が増加しています
感染者数のピークから1〜2週間で死亡者が出ます。ピークの時期は1〜2週間ずれます。現在は4月11日の感染者数のピークのころの死者なので、死者が増えています。11日以後に感染者数はどんどん減ってきているので、今後は死者もどんどん減るでしょう。
次のピークは、たぶん、秋以後でしょう。(すでに入国規制は済んでいるので、今後は国内の感染はあまり増えないはず。たとえ外出自粛を解除しても。)
> 人工心肺装置の操作をするには臨床工学技士の国家資格が必要です。専門教育を3年以上
操作が複雑なエクモは使うべきではない、と本文で記しています。
人工呼吸器は、操作の簡単な簡易型(単機能形)のものを増やすべきだ、と医師会などが言っています。どこかの記事では、数カ月の講習を開始するというような話があったはずです。
> 医療機器の製造業(資格)を持たないメーカーが製造部隊として参加をしやすくするものだと思います。
日本の現状はそうなので、その現状を改めて、米国並み(GM,フォード)にするべきだ、……というのが本項の趣旨です。現状を示してから、対案を示しています。(政府も 530億円を投入すればいい。)
朝日新聞社の死亡者数のグラフは、22日が異常に急増しています。
これは、20日、21日のデータがエラーで少なくなっているせいです。データの取得ミスがあるようです。
正しい数値は下記で。
→ http://openblog.seesaa.net/article/474354326.html
>リンク先の記事で説明済みです。引用:(中略)
>つまり、事後確認でよい。
了解ですが、これは「この工場なら医療機器を作っても大丈夫」と認定する部分かと思いますが、「事後確認」する品質管理(特に実運用状況)が数日で済むような「書面調査」でどこまで確認できるのかが心配です。
ホンロン様
>医療機器の「おいしい」所は製造販売業者が持って行ってしまう
私の先のコメントにも書きましたが製造「販売」業者には多大な義務と責任が課されます。「おいしい所は製造販売業者が持って行ってしまう」と言われるのは構造的にそのような面はあるかもしれませんがちょっと気の毒な気がします。
心配しなくても大丈夫。品質管理が駄目だったら、全品を回収させればいい。リコールだ。リコールすれば、信用を失うだけでなく、莫大な損失が発生する。
ゆえに、いちいち検査しなくても、大手メーカーならば十分に自社で検査します。役人よりもはるかに高度な能力で検査するでしょう。トヨタみたいな大メーカーであれば当然です。
ちなみに、アベノマスクでは、品物の品質がひどすぎて、「会社名を出せ」と大いに話題になった。
たいした会社ではないから、人々は無視したが、これがトヨタのような大メーカーであれば、致命的でしょう。人工呼吸器を作って、ひどい欠陥品だったら、本体の自動車の売れ行きに影響する。
だからこそ、GM もフォードも、ものすごく細心の注意で作るはずです。その能力はある。
※ 新規開発するわけではなく、既存品のコピーを作るだけだ。あとは機械精度の問題であるにすぎない。