──
いきなり核心を言おう。
日本では爆発的な感染が起こっていない。これを見て、専門家会議は、「日本では、政府の対策がしっかりしている。それが理由だ」と自画自賛する。しかし本当は、政府の対策がしっかりしているからではなく、国民が自発的にマスクをしていたことが理由だ。専門家会議は、見当違いの自画自賛(または政府へのおべっか)をすることで、真実の認識ができなくなっている。そのせいで、見当違いの対策ばかりを列挙する。イベント自粛や、休校など。……そんなものにはほとんど効果がないのに、効果がないものを推奨する。そのせいで、肝心の対策が疎かになっている。
以下では、詳細を示そう。
──
専門家会議の見解は、これだ。
→ 専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」
その要旨・解説は、朝日新聞にある。
→ (時時刻刻)爆発的拡大、防げ 北海道対策「一定の効果」 専門家会議、新規感染者抑制と認定 新型コロナ:朝日新聞
→ クラスター対策、日本に足りない指揮官 専門家会議指摘:朝日新聞
一部抜粋しよう。
新たな見解によると、急速に感染が広がった北海道では、知事の緊急事態の宣言後は新たな感染者の増加が一定程度抑えられたと判断。
重症化リスクの高い高齢者が利用する施設での集団感染も起きている。「クラスター」と呼ばれる患者集団が各地で確認されており、感染源が分からない事例も増えている。この状態が続けば、爆発的に患者が急増する「オーバーシュート」につながるおそれがあるとの懸念を示した。
こうした状況を防ぐためには、クラスターを早期に見つけ、感染の可能性がある人を探し出す作業が必要になるため、専門家を支援する人材を確保するよう政府に提言している。
大規模イベントの実施については、「感染拡大のリスクがあると言わざるをえない」として、リスクへの対応が整わない場合は中止や延期の必要があるとした。
( → 大イベントなお慎重 「持ちこたえているが一部で感染拡大」 新型コロナ、専門家会議:朝日新聞 )
個別に批判しよう。
(1) 北海道では、知事の緊急事態の宣言後は新たな感染者の増加が一定程度抑えられた。
言っていることは間違いではないが、「緊急事態の宣言」が有効であったかのように示すのは、因果関係が狂っている。
第1に、緊急事態宣言はすでに解除されている。緊急事態宣言が本当に有効ならば、今後も続けなければいけないが、そうしない。ということは、緊急事態宣言など、もともと意味はなかったのだ。
第2に、緊急事態宣言の骨子は、「外出の自粛」だが、これは、緊急事態宣言とは関係なく、今後も継続する。
第3に、北海道で患者の発生が急減したのは、気温の上昇が理由だ。他の都道府県が暖かくなったのから1カ月遅れで、北海道にも春が来た。だから北海道も本州並みに、感染者の急増がなくなったのだ。当然ながら、今後も、患者の急増はないだろう。それは、緊急事態宣言の有無とは関係のないことだ。
(2) 「クラスター」と呼ばれる患者集団が各地で確認されており、感染源が分からない事例も増えている。
「クラスター」の検出こそが感染爆発の阻止のキモである、というのが、今回の見解の核心だ。
「@クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」 …(中略)… という3本柱の基本戦略は、さらに維持、必要に応じて強化し、速やかに行わなければならないと考えています。
( → 専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」 )
しかし、とんでもない。クラスターをいくら検出しても、それは統計的な「発見」の効果があるだけで、「発生の抑止」という効果はない。比喩で言えば、殺人事件の犯人をいくら捜しても、すでに起こった殺人を止めることはできない。事件のあとでいくら事件を解明しても、事件の発生を予防することはできないのだ。
なのに、政府は「発見こそが大事だ」という方針で、濃厚接触者をやたらと検査して、クラスターを追うことばかりに熱中している。そんなことをいくらやっても、効果はないのだが。
実際、専門家会議自体が、そのことを認めている。「クラスター(患者集団)の感染源(リンク)が追えない事例が起こっている」というふうに。
というか、そもそも多数の感染が発生している時点で、クラスターを追うということ自体がもはや意味をなさなくなってきているのだ。2009年の豚インフルエンザのときも同様だった。最初は丹念に患者を追っていたが、そのうち患者が増えすぎて、いちいちルートを追うことを諦めた。こんなふうにいくらルートを追っても、それは何の対策にもならないと気づいたせいでもあるだろう。
なお、日本の検査体制は、世界でも最低レベルである。なのに、「検査数が最低レベルの日本が、世界で最優秀の感染者追跡をしているんだ。だから日本では感染者数が少ないのだ」というのは、もはやジョークでしかない。「最も無能だから、最も有能なんです」と言っているのも同然だ。「頭、大丈夫か?」と疑いたくなる。頭がコロナでは?
(3) 爆発的に患者が急増する「オーバーシュート」につながるおそれがある
オーバーシュートなどはありえない。イベント自粛や休校をやめても、感染爆発などはありえない。なぜか? 理由は次の二つだ。
・ 気温が暖かくなれば、感染の危険は減る。
・ 感染爆発を阻止する核心は、マスクをすることだ。
(マスクをすることは、すでにほぼ実現している。)
この二つの理由ゆえに、オーバーシュートなどはありえない。なのに、そんなことも理解できないのだから、物事を根本的に理解できていないと言えそうだ。
(4) 大規模イベントの実施については……中止や延期の必要があるとした。
マスクと換気を条件にすれば、開催しても何ら差し支えない。感染の危険性は、イベント自体にあるのではないからだ。
仮にイベント自体が危険であるとしたら、もっと危険なこと(満員電車や会社勤務)の方を禁止するべきだろう。
( ※ これは反語である。もちろんその必要はまったくないので、それと同様に、イベント自粛も不要だ、という意味。)
──────
結論。
とにかく、大切なのは、マスクである。この最も重要なことを推奨していないという点で、日本政府は、まったくの無能なのである。専門家会議もまたしかり。
正しいことをやっているのは、マスクの配給をしている台湾政府ぐらいだろう。あと、中国や韓国の政府も、かなりマシである。日本ほどトンチンカンではないようだ。
なお、欧州の政府は、遅ればせながら、マスクの重要性に気づいたようだ。
欧州連合(EU)加盟国の首脳は10日、欧州で感染が急拡大している新型コロナウイルスについて、緊急のテレビ会議を開き、マスクの提供や経済対策など優先的に実行する分野を決めた。
( → EU、マスク提供を優先実施へ イタリアなど支援で協力 :朝日新聞 )
どうやら、マスクの重要性に気づかないのは、日本政府だけのようだ。
※ 専門家会議の見解では、「マスク」という言葉はたったの1回しか出現しない。それも、カッコの中の文章でだ。それを除けば、本文中では「マスク」という語が1回も用いられていないことになる。……専門家会議がいかにマスクを軽視しているか、よくわかる。無知も極まれり、という感じだ。マスクこそが、最重要の点なのに。
→ マスクで医療崩壊の阻止: Open ブログ
[ 付記1 ]
最も大事なのは、マスクである。なのに、専門家会議の人たち自身が、マスクをしないで会議している。
→ 専門家会議の動画(テレ朝)(前回)
→ 専門家会議の動画(政府公式)(前回)
→ 専門家会議の動画 (ニュース) (今回)
専門家会議では、会議室に一同が集まっているくせに、誰もマスクをしていない。ひどい。何をやっているんだ、この連中は。
ここにいる連中は、最も基本的なことを守らないのだから、全員が素人も同然だろう。だからこそ、見当違いな方針ばかりを打ち出すわけだ。
[ 付記2 ]
専門家会議の見解では、グラフを出している。
→ (時時刻刻)爆発的拡大、防げ 北海道対策「一定の効果」 専門家会議、新規感染者抑制と認定 新型コロナ:朝日新聞
これを見ると、新規発生者数が、最近は激減している。しかし、そんなはずがない。
グラフの下には、「最新の状況が反映されていない」という注記があるが、だったら、いい加減な数字をグラフに出すのではなく、グラフ化そのものをやめるべきだ。嘘のグラフを示すべきではない。
専門家会議は、嘘つきだ。(捏造しているのも同然だ。)
そもそも、1日前のデータもグラフ化できない(2週間ほど前までしかグラフ化できない)というのは、ひどすぎる。何をやっているんだ。
ちなみに、正しいデータは、下記で得られる。(3番目の図)
→ 新型コロナウイルス国内感染の状況 - 毎日新聞
このグラフは、総数(累計)のグラフだが、差分を取れば、1日ごとになる。
なお、毎日の数字の生データは、容易に入手できる。
※ 専門家会議が捏造しているのは、「一斉休校・イベント自粛のあとでは、感染者数が激減した」と見せかけるためだろう。
※ 逆に言えば、「一斉休校・イベント自粛のあとでは、感染者数が激減したので、一斉休校・イベント自粛を実施したのは正しかった」という、間違った結論に導かれている。自縄自縛か。
※ 「最近の数字が少ないのは、発症日ベースだからでは?」というコメントが、はてなブックマークにあった。そうかもしれない。だが、それならそれで、その期間のデータを非表示にするべきだし、また、その旨の注記もするべきだ。なのに、この期間の数字が激減しているように見せかけるのは、捏造に近い。少なくとも、誠実な学術的な態度ではない。(あと、3月5日から 19日までという期間も長すぎる。)
※ 原文では「感染時刻による」という文句があるぞ、という指摘のコメントもあった。これはすぐ上のコメントと同じ趣旨だから、返答も同じになる。つまり、「感染時刻による」のであれば、最近の分は未集計なのだから、最近の分はグラフには表示してはいけないのだ。なぜか? 「日時は判明していないが感染が判明している者」の数が多数になるからだ。たとえば、「3/12〜3/16 のいずれか」というふうにはわかっているが、そのどれであるかが判明していない感染者が多数になる。それを計上すれば、グラフは2月中と同じぐらいのレベルになる。なのに、「未判明」を「無」のように扱うから、グラフ上の数値が極端に下がってしまう。「わからないものは表示しない」のが正解であって、「わからないものをゼロだと表示する」のは不正解なのである。ここを理解しないまま、世間を誤誘導するのだから、ほとんど捏造に近い。
※ そもそも、経路や感染日時が未判明でも、すでに感染した人々の人数は「3月中も従来通りだ or 若干増えている」ということが判明している。だったら、そのグラフを示すべきだった。なのに、激減しているかのようなグラフを示すのは、作為的すぎるし、詐欺的ですらある。
[ 付記3 ]
「クラスターを追跡する」という方法が、なぜ駄目なのかを、説明しよう。
最初の感染者を検出したあと、そこから出る二次感染者を検出する、というのが「クラスターを追跡する」という方法だ。そこでは、最初の感染者の濃厚接触者を調べて、その人々に PCR検査を実施する。日本では、症状のある患者への検査はやたらと拒否されているのに、濃厚接触者については丹念に検査がなされる。
前に「17日の検査実施数は、いきなり 3416人にアップした!!」と記した。
→ 新型コロナウイルスの話題 16: Open ブログ
これは、日立製作所で感染者が発生したせいで、千人が自宅待機になったのにともない、2000人規模で「濃厚接触者への検査」がなされたせいらしい。だからこの日に限って大量の検査実施があった(?)らしい。
《 加筆 》
「そうではない」という趣旨のコメントがあった。 3月20日 20:56 の箇所。
ともあれ、日本では濃厚接触者には PCR検査がなされる。ところが、である。濃厚接触者に PCR検査をしても、初期にはウイルス量が少ないので、(感度の低い)PCR検査では「陰性」になりがちだ。つまり、偽陰性になる。
こうして濃厚接触者のなかの感染者が見逃されたあとで、潜伏期を経過すると、あちこちでいっせいに感染者が発生する。しかし、そのときにはもう、手遅れだ。今さら何をしようと、感染者が非感染者に転じるわけではない。
要するに、「感染者からルート追跡をする」という「クラスター追跡」の方法は、まったく意味がない。そんなことをいくらやっても、統計的な検出ができるだけで、予防の効果はまったくないのだ。やるだけ無駄。
どうせやるなら、「感染者を検出したあとで、濃厚接触者には、自宅待機やマスク装着を要請する」ということの方が、ずっと有効だろう。(通常なら、マスク装着だけで足りる。)
予防するのなら、「クラスター追跡」よりは、「検査を多くなす」ということの方がずっと大切だ。そうすれば、一次感染者をたくさん検出できるからだ。そのあとは、「濃厚接触者は自宅待機やマスク装着をしてくれ」と頼むことで、予防ができる。ここではあくまで、一次感染者を発見することと、二次感染者を予防することが大切だ。一方、二次感染者を発見することなどはどうでもいいのだ。
このことを、専門家会議はまったく理解できていない。おそらく、「潜伏期」という概念を、まともに理解できていないせいだろう。だから、潜伏期の濃厚接触者を調べることで、感染拡大を予防できるなどと、馬鹿げたことを考えているのだ。
[ 付記4 ]
「マスクが大事だというが、マスク不足の状況で、マスクをどうやって入手すればいいんだ?
という疑問があった。これについては、下記項目の最後で示しているので、そちらを参照。
→ マスクで医療崩壊の阻止: Open ブログ
つまり、「小分け販売」と「再利用」によって、1億人の全員がマスクを入手できる。
何しろ月に6億〜7億枚も生産できているのだから、うまく配分すれば、不足が起こるはずがないのだ。(この項目の (7) で説明済み。)
小分け販売については、下記で説明済み。
→ 新型コロナウイルスの話題 9: Open ブログ の (5)
検査数vs患者数のグラフです。日本は最低では無いかな。
> ※ 専門家会議の見解では、「マスク」という言葉はたったの1回しか出現しない。
⇒ 昨晩の会見の動画(下のリンク)をみても、マスクのことは一切言ってませんね。例の3つの条件が重なるところを避けろとは、複数回アナウンスしてますが(ただし、質疑のパートまでは確認できていません)。
> 最も大事なのは、マスクである。なのに、専門家会議の人たち自身が、マスクをしないで会議(会見)している。
⇒ 大阪府と兵庫県の知事も、この3日間の往来自粛を呼びかける会見などで、マスクをしていませんね〜(笑)。「率先垂範」が出来ているのは、北海道の鈴木知事くらいでしょうか。だから、昨日の会見でも言及されていた「北海道モデル」が一定の効果を上げて、評価されるのでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=hH79Wv4ys0o
⇒ こちらも含めて、筆者の論考などから導き出されることは、日本の感染症専門家の嗜好(思考・指向)しているところは、まず公衆衛生(命や健康を守る)ではなくて、まず学問(研究に使いやすいデータを取る、論文を書く)なんですよ。
> このことを、専門家会議はまったく理解できていない。おそらく、「潜伏期」という概念を、まともに理解できていないせいだろう。
⇒ そうかもしれませんが、昨晩の会見でもその他の会見でも、冒頭で必ず、「今回示すデータや見解は、少なくとも2週間より前の流行実態の把握から得られるものであって、今現在のものではありません」旨の断りを入れるので、後から追及された場合のエクスキューズは用意しているみたいですよ。
最も客観的な疫学データはクルーズ船の感染者から得られます。
それによると、感染者の致死率は1%となっています。
他方、国内の感染者の致死率は既に3.4%を超えています。
これに肺炎による死者の一部を追加しなければならないがそれは漏れていること請負です(様々な背景がありますので)。
イタリアはさておき(?ウイルスの違い(亜種)、高齢化)、韓国などと比べると、異常な高さです。
信用のおけない、恣意的な(検査)体制極まりない状況となっています。
他方、国内の感染者の致死率は既に3.4%を超えています。
サンプルに大きな偏りがあるので、「感染者の致死率」を客観的に推定することはできません。
大きな偏りは、高齢者の割合が多い方向での偏りになりますので「クルーズ船の感染者の致死率」は高めに推定されていると思われます。
なので両者を比較できません。むろん他国のデータとも比較できない。
ただ[ 付記3 ]
>2000人規模で「濃厚接触者への検査」がなされたせいらしい。だからこの日に限って大量の検査実施があったらしい。
これはないと思います。茨城県の18日の報告累計も454人ですし、厚労省発表の人数は集計などに問題があって、そのまま活用できないものです。
3月19日の発表数はマイナス453人です!
すぐに二千人位検査できる能力があったほうが良いのですけどね。
> 最も大事なのは、マスクである。なのに、専門家会議の人たち自身が、マスクをしないで会議している。
⇒ 3/13に開設された、山中伸弥教授による「新型コロナウイルス情報発信」のサイト(下のリンク)では、
「マスク着用は感染拡大の低下に貢献している」
は、「正しいかもしれないが、エビデンスが不十分な情報」に今のところ分類されています。
正しいことかもしれませんが、まだ十分に疫学的な裏付けは取れていない、という山中先生のスタンスのようですね。
https://www.covid19-yamanaka.com/cont7/main.html
すでに専門分野を確立している医師としては、慎重な言い回しになるでしょう。
第一線に立って議論をリードしよう、という立場とは違って、「専門家と一般民衆の間に立つ」という立場。新聞やテレビと同じですね。
第一線に立って議論をリードしよう、という立場とは違って、「専門家と一般民衆の間に立つ」という立場。
⇒ 私も、当初コメントから同意見です(立場=スタンス)。サイト自体は中身も濃く、情報・知見がしっかり区分け・層別されていますので、感心しました。よろしければ、ご総覧をおすすめします。
感染を完全防護するのではなく、感染率を下げる。
感染率を、0にするのではなく、1以下にする。(時間的に収束させる。)
患者の発生をゼロにするのではなく、患者の大量発生を止める = 感染爆発を防ぐ。
あと、病院は感染者が大量にいるという、特別な状況だ。病院と一般社会とは、異なる基準にする必要がある。病院ではなるべく完全防護服と空気洗浄室が望ましい。一般社会では、そこまでは望まれない。