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政府は高齢者向けに、自動ブレーキ車の購入を支援する制度を整えた。「サポカー補助金」という。
政府は3日、65歳以上の高齢ドライバーを対象にした「サポカー補助金」の申請受付を9日から開始すると発表した。緊急自動ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置など。
( → サポカー補助金9日から受付 政府 高齢者の安全対策加速|行政・政治|紙面記事 )
新車購入で3万円から10万円、中古車で2万円から4万円、後付け装置で2万円から4万円が交付される。
( → 3月9日からサポカー補助金の申請受付を開始!最大10万円を補助 | Park blog )
高齢者向けに限定されるが、支援する制度は素晴らしい、と思えるかもしれない。
また、私はこれまで「高齢者向けには自動ブレーキ車を義務づけよ」と主張してきたので、それに合致すると見えそうだ。
しかし、これは私の主張とは全然違う。
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そもそも、「義務づけ」ならばコストはかからないが、「補助金」ならば莫大なコストがかかる。これでは「運転者向けの補助金」であるにすぎない。簡単に言えば、「歩行者の金をむしり取って、自動車運転者に分配する」というものだ。馬鹿げている。
こんな無駄金を費やす必要はない。単に「義務づけ」だけをして、違反者からは罰金を取り立てるだけでいい。それが最善だ。
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さらに、別のことがある。そもそも自動ブレーキ車は、国際基準で、2020年はじめから義務づけられるはずなのだ。
国際欧州経済委員会(ECE)が2019年2月12日、日本や欧州連合(EU)など40カ国・地域で「衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)」の導入を義務付ける規則の原案に合意したと発表しました。自動ブレーキの義務化については、2020年はじめに運用開始予定となっています。
( → 自動ブレーキ義務化で何が変わる?新しい国際基準について|クルマづくりコラム | キーエンス )
ところが日本政府は、この合意をないがしろにして、実施日を大幅に遅らせた。
赤羽一嘉国土交通相は17日、国産の新型乗用車を対象に、2021年11月から自動ブレーキの搭載を義務付けると発表した。歩行者への衝突を回避するなど国際基準と同等の性能を求め、メーカーに認定試験を課す。既存の車種やモデルは25年12月以降に販売する車に適用する。
( → 新型車の自動ブレーキ、21年11月義務化 事故対策で :日本経済新聞 )
とんでもなく遅らせている。現実には、国内発売のモデルのほとんどは、すでに自動ブレーキに対応している。だから、さっさと義務づけを実施していいはずだ。かろうじて、生産販売の義務づけを回避するとしても、購入者には(なかば)義務づけていいはずだ。
( ※ 自動ブレーキのない車を「購入禁止」にするのではなくて、「購入する人には課徴金をかける」という形。)
なのに政府は、そういう「義務づけ」の形を回避した。しかも、義務づけの日をすごく遅らせた。その一方で、「購入者には補助金」という形で国民の血税を食いつぶそうとしている。ふざけた話だ。
結局、「自動ブレーキで国民の生命を守る」ということは目的とされず、(部分的に)「自動ブレーキで国民の生命を守る」ということを名分として、自動車業界に補助金を落としているだけだ。
一種の税金泥棒だ。ひどいものだ。(自民党にはありがちだが。)
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なお、私がかわりに提案するものは、こうだ。
・ 65歳以上の高齢ドライバーには、自動ブレーキ車を義務づける。これ以外は運転不可。違反には罰金。
・ 自動ブレーキ車の購入に補助金を出すなら、新車のすべてに一律で少額を出す。(中古車は対象外。)
・ 自動ブレーキ車以外には、課徴金を課す。(中古車を含む。保有に対して課す。)
・ 補助金総額と課徴金総額は、トントンとする。
・ モデル的には、補助金が購入時に3万円、課徴金が年額1万円。
[ 付記1 ]
中古車に後付けで「誤発進防止装置を付ける」という案もある。トヨタが後付けで、超音波式の装置を販売している。
しかし、このような「中古車に後付け」という方式は、お薦めできない。「中古車に後付け」では、コストが新車以上にかかる。それでいて、寿命は無駄に長いから、本来の寿命が来る前に、廃車になってしまう。無駄だ。
こんなものを買うくらいだったら、「自動ブレーキ付きの中古車」を買う方が、よほどマシである。そして、それを促進する方策が、上記の
「自動ブレーキの付いていない車には、(保有に対して)年額1万円程度の課徴金」
という方式だ。
世の中には「自動ブレーキ付きの中古車」があふれているのだから、それを購入すればいいのだ。下記のことがあるので。
[ 付記2 ]
「誤発進防止装置」よりも、自動ブレーキの方がずっといい。
自動ブレーキ車には、「誤発進防止」という機能のほかに、「衝突防止」という機能がある。これが高齢者の事故を減らすのに大幅に効果がある。
たとえば、「走行中に歩行者の列に突っ込む」というような事例は、自動ブレーキならば防ぐ効果があるが、誤発進防止装置はまったく無効だ。
肝心の「誤発進防止」でも同様だ。いったん誤発進して、速度を上げたあとで、店の壁に衝突する……というような事故は、超音波式の誤発進防止装置では防ぎにくい。(目の前に壁があるような停止状態ではないからだ。衝突時にはすでに走行中である。)
こういうタイプの誤発進を防ぐには、超音波式ではなく、自動ブレーキが必要だ。
超音波式の誤発進防止装置は、「停止時に駐車場の壁にぶつかるのを防ぐ」というぐらいの効果しかない。たとえ効果があっても、低速度の自損事故の防止ぐらいしかできない。もともと被害の限定された事故であるので、防げたとしてもたいして意味がない。
誤発進による大きな事故を防ぐには、超音波式よりも、自動ブレーキが有効だ。
※ 壁にぶつかるの事故を防ぐには? 単眼カメラ方式では(原理的に)困難だが、ステレオカメラ方式なら、ある程度は可能だ。通常は、ステレオカメラ方式の自動ブレーキがあるだけで、目の前にある壁への衝突は防げる。(コンクリの壁に付いている汚れなどをステレオカメラで認識することで、壁との距離を測定できるから。)