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通常は多数の細胞をまとめて遺伝子の働きを調べるが、一つ一つの細胞ごとに遺伝子の働きを調べるというのが「1細胞遺伝子解析」だ。その技術開発が進んでいる。
ヒトは一つの受精卵から始まり、最終的には 37兆個の細胞に分裂する。約2万種類ある遺伝子のはたらきにより心臓や筋肉、神経といった様々な組織ができる。渡辺さんは「形で分けるとヒトの細胞の種類は 200種類以上だが、1細胞解析によって機能で分けると数千種類あるのではないか」
( → (科学の扉)人体、1細胞ずつ解析 機能調べる国際計画、「成り立ち」の謎迫る:朝日新聞 )
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さて。これはこれでいいのだが、ここでは次のことが重要だ。
「遺伝子の主要な働きは、遺伝ではない」
たいていの人は、逆に思っている。
「遺伝子の主要な働きは、遺伝である」
と。しかし、そうではないのだ。
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対比的に示すと、生物の細胞は2種類ある。
・ 生殖細胞
・ 体細胞
生殖細胞の遺伝子は、遺伝のために働く。人では 46本の染色体があるが、減数分裂で(半分の)23個染色体となる。そのうち、1個が性染色体であり、他の 22個が常染色体である。
生殖細胞では、その主要な機能は、性染色体の機能である。つまり、生殖の機能である。そこでは、(親の形質を子供に引き継ぐ)遺伝の働きも大きい。
体細胞の遺伝子は、それぞれの体細胞ごとに、個別の機能のために働く。それがどんな機能であるかを調べるのが、本項で述べた新技術だ。
その機能は、それぞれの体細胞ごとに異なるので、多種多様である。決して「遺伝だけ」「生殖だけ」ということはない。つまり、「性染色体の機能だけ」でなく、「22本の常染色体のもつ、さまざまな機能」である。
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つまり、遺伝子において重要な機能は、( 23分の1にすぎない)「生殖」ではないし、生殖のうちのそのまた一部(個体差分)である「遺伝」でもない。
遺伝子において重要な機能は、体細胞の機能である。(それは 23分の 22 にあたる。)
では、体細胞の機能とは? それは、「生命活動の機能」だと言っていい。心臓の細胞とか、血液の細胞とか、神経の細胞とか、さまざまな受容器(レセプター)の細胞とか、生物には多様な体細胞があるが、そういう多様な体細胞では、それぞれの細胞ごとに特別な遺伝子が機能している。その機能が、「生命活動の機能」である。それこそが、本項の技術の研究対象となる。
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遺伝子において重要な機能は、遺伝でなく、体細胞の機能である。
このことは、前に次のように表現した。
「遺伝子は、『遺伝子』と呼ばれるべきではなく、『生命子』と呼ばれるべきだ」
→ 遺伝子の意味(生命子): Open ブログ
ここでは、「遺伝子は、『遺伝子』と呼ばれるべきではない」と示した。そのことは、上記項目でこう説明した。
「遺伝子」とは、「遺伝ないし個体発生のための最小要素」ではなくて、「生命活動のための最小要素」なのだ。
その意味からすると、「遺伝子」という言葉は、はなはだ不適当だ。それは、いわば、われわれの生命活動そのものを「遺伝」と呼ぶのと同様である。
「われわれは生きている。生きているから、歌うんだ」
という書くべきところを、
「われわれは遺伝している。遺伝しているから、歌うんだ」
と書くようなもので、まったく不適切な表現だ。生きているということは、遺伝を受けているということではない。生きていることは、生きていることである。生きていることは、生命活動がなされているということである。そこでは、「生きる」とか「生命」とかの言葉が妥当であって、「遺伝」という言葉は妥当ではない。
だから、こう結論できる。
「遺伝子というものの呼び名は、『遺伝子』ではなく、『生命活動子』もしくは『生命子』と呼ぶべきだ。それでこそ、DNAの本質を示せる」
( → 遺伝子の意味(生命子): Open ブログ )
話はこれで済んでいる。
より詳しい議論を知りたければ、上記項目を見るといいだろう。
[ 付記 ]
遺伝子の機能について「重要ではない」という表現が気になる人がいそうだ。ただ、これは「軽視していい」「無視していい」というような否定的な意味ではない。あくまで「1は 22 よりも小さい」「1は 22 に対して、22分の1 の量でしかない」という、相対的な意味合いだ。
【 関連項目 】
→ 遺伝情報と生命情報: Open ブログ
※ 遺伝子の主要な働きは、生物においては「生命活動」である。ただし進化論においては、「生殖」や「遺伝」の方が重要となる。ここでは主客が交替している。脇役である生殖細胞の方が主役となっている。……そういう話。
「22本の性染色体のもつ、様々な機能」→「22本の常染色体のもつ、様々な機能」