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政府が堤防建設に巨額の金を投入したのを批判する形で、朝日新聞・社説が「遊水地をつくれ」と述べた。
注目されているのが「グリーンインフラ」だ。自然環境がもつ多様な機能を活用して、災害リスクを下げる。そんな社会資本の充実を指向する用語で、コンクリートで固めた堤防やダムを意味する「グレーインフラ」と対置して語られる。
先の台風19号の際は、栃木、群馬など4県にまたがる日本最大の渡良瀬遊水地が受け皿となり、1億6千万トンの水をため、下流の東京方面に流れ出る量を抑えて被害を防いだ。
近年造られた施設も同様に威力を発揮した。ラグビーW杯の会場の一つとなった横浜国際総合競技場は、国土交通省が管理する多目的遊水地の上に立ち、周囲の池や運動広場、草地などとあわせて広大な公園になっている。近くを流れる鶴見川の水位は19号の大雨で6メートル超まで上昇したが、増えた水の一部をここに引き込んで制御した。
( → (社説)相次ぐ水害と減災 逆らわず、いなす力を高める:朝日新聞 )
朝日新聞もようやく、遊水地の重要性に着目し始めたようだ。慶賀すべきことだ。私が何度も口をすっぱくして述べていたことと、同じことを語るようになったわけだ。
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なお、私がこれまでに述べた遊水地の記事は、数え切れないぐらいたくさんある。
→ サイト内 検索
最も古い記事はこれだ。
→ 堤防よりも遊水池: Open ブログ
ただし、遊水地という概念は、かなり前からある。渡良瀬遊水地や、新横浜の遊水地は、ずいぶん前に建設された。立派な先人はいたのだが、それを取り上げる政治家が少なかったのだ。なぜなら、遊水地だと、たいして利権をもたらさないからだ。
「国民の金を浪費して、無駄な堤防を作りたがる」という構造をもたらしたのは、政府の無知ではなくて、自民党政治家の不当利益だったのである。
[ 付記 ]
遊水地は、ダムに比べてコスパが圧倒的に優れている。このことは、前にも言及したが、再掲しよう。
まず、渡良瀬貯水池(遊水地)。
・ 渡良瀬貯水池(谷中湖)
…… 工費 930億円 / 貯水量 2,640万立方メートル
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国土交通省関東地方整備局の発表(速報値)によると、渡良瀬遊水地は、台風19号に伴う雨で、約1.6億立方メートルの洪水をためた。
公称値の6倍の水を貯め込んだことになる。
( → 荒川と江戸川の水害対策: Open ブログ )
次に、八ツ場ダム。
費用は、当初計画の 2,100億円から、4,600億円に上昇したあと、さらに 5,320億円にまで上昇した。
有効貯水容量は、八ツ場ダムが 9千万立方メートル。
現状では、「あらかじめダム容量の7割ぐらいの量に水を貯めておく」というふうに運用されている。その場合、ダムの容量のうち、治水のために利用できるのは、たったの3割だけだ。残りの7割は、「常時貯水」のために使われてしまうので、治水のためには使われないのである。
( → 八ツ場ダムと台風(2019): Open ブログ )
まとめて言うと、次のようになる。
・ 渡良瀬遊水地 …… 930億円で、1.6億立方メートル
・ 八ツ場ダム …… 5320億円で、0.3億立方メートル
圧倒的な差があることがわかるだろう。
しかもこれは、名目的な数値だけだ。実質的な数値は、さらに大差が付く。
・ 渡良瀬遊水地は、平野部にあるので、平野部の氾濫を防ぐ。有効だ。
・ 八ツ場ダムは、山間部にあるが、山間部の降雨が平野部に届くまでには時間がかかる。平野部の大量の降雨に対しては効果がない。ピーク時から1日後の増水を止めるぐらいの効果しかないので、たいして意味がない。
しかも、次のことがある。
「八ツ場ダムなどは、まったく必要がない。すでにあるダムにおいて、事前放流をすれば、八ツ場ダムの貯水量をはるかに上回る治水能力(調節可能な貯水量)を得られる」
この件は、下記項目の (3) で説明した。
→ 八ツ場ダムと台風(2019): Open ブログ
つまり、八ツ場ダムと同等以上の効果を、費用ゼロでもたらすことができる。逆に言えば、八ツ場ダムは、費用ゼロでできることを 5000億円以上もかけていることになる。コスパの点では最悪だと言えるだろう。
以上のことから、「遊水地は、ダムに比べてコスパが圧倒的に優れている」と言える。
※ 遊水地については、用地取得費を気にする人もいそうだ。だが、大丈夫。遊水地の用地は、たいていは田畑を買収するだけで済むから、ごく小額の用地費しかかからない。(ただし、東京の都市部は別だ。そんなところで遊水地を作るのは土地代が高くて無理だ。)
※ 実は渡良瀬遊水地よりも、八ツ場ダムの方が新しいので、物価上昇の分、価格が高くなっている。だから正確には、物価上昇の分を補正する必要がある。(といっても、結論を覆すには至らない。)
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新横浜の遊水地は、「鶴見川多目的遊水地」といい、工費は 1000億円。これも効果は絶大だ。
→ 鶴見川多目的遊水地の工費
→ 鶴見川多目的遊水地の効果
→ 新横浜の遊水地: Open ブログ
→ 新横浜の遊水地(台風の後): Open ブログ
※ 鶴見川では、代案として「山岳部にダムを作る」ということはできない。なぜなら、川の始点(源泉)は、山岳部にあるのではなく、平野部(町田市)にあるからだ。
→ 鶴見川を歩く その3 鶴川から源流まで - 散歩の途中
この遊水地は、(洪水のない)平時には、スタジアムや運動場として利用される。つまり、その土地の取得費は、「スタジアムや運動場の取得費として計上されている」と考えることもできる。その場合には、遊水地としての費用はかかっていないことになるので、土地代はゼロで遊水地ができたことになる。……この意味でも、コスパがいい。
( ※ 実際には「多目的遊水地」なので、土地代は適当に按分するべきだろう。ただ、考え方しだいでは、土地代がゼロだとも考えられる、というわけだ。)
遊水地は、ダムに比べてコスパが圧倒的に優れている、という話。
→ http://openblog.seesaa.net/article/470959024.html
> 「千曲川と阿武隈川は、すごく長い距離を走るが、その長い距離のどこにおいても、そばに広大な田畑があるので、遊水地を作ることは可能である」
田舎は土地がありあまっている。特に、川のそばには、やたらと広大な田畑がいっぱいありあまっている。そこを利用すれば、簡単に安価に巨大な遊水地ができるわけだ。
遊水地を作る場所がないのは、東京や大阪のような人口密集地だけだ。そういう下流を除いて、中流部で探せば、いくらでも土地はありあまっているのである。
たとえば、渡良瀬遊水地だ。谷中湖のそば(北側)には、広大な草原があり、これらはすでに(予備的な)調節池として利用されている。この分は特に考えないでいい。
一方、渡良瀬遊水地を北側にどんどんたどっていくと、川の沿岸に広大な田畑が(四角い区画で)大量にあるのがわかる。
→ http://j.mp/2UqzoMk
それは渡良瀬遊水地の何倍にもなる面積だ。(谷中湖の何十倍にもなる面積だ。)それほど広大な田畑がある。これらを買収すれば、渡良瀬遊水地の何倍にもなる遊水地を新たに接地することもできるのだ。
こういうふうに、遊水地のための土地はありあまっているのである。
→ https://shaddoll.com/2019/10/13/post-1038/#i-5
どちらも暴れ川であって、氾濫の危険はもともと高い。ただし、決定的な差があった。
鶴見川の方は、氾濫の危険性について、「住民への教育がしっかりなされている」そうだ。具体的には、これこれ、と説明されている。
多摩川の方は、そうではなかった。水害の危険性は認識されなかったし、住民への教育もなされなかった。かわりに、都市の発展と宣伝のことばかりを考えた。だから東京五輪のために超巨額の資金を投入した。そういうお祭り騒ぎのために大金を投入しているから、肝心の水害対策はなおざりにされたのである。
なるほどね。よくわかった。
ついでだが、今の横浜市長は、カジノ推進ばかりに血道を上げている。貧すれば鈍す。
昔の人は、偉かった。