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医師の不足は声高に叫ばれるので、外部から来てくれる医師もいるようだが、薬剤師の不足は着目されにくいので、放置されがちだ。そのせいで、医療の全体のレベルが低下しがちだ。
つまり、せっかく医師が診断して、薬剤を処方しても、その処方箋を見て調剤する薬剤師がいないせいで、治療そのものが無効化してしまう。
東日本大震災の当時、次の記事があった。
18日までに日本病院薬剤師会に寄せられた情報によると、医薬品不足は深刻で、仙台の卸倉庫は壊滅的打撃を受けており、崩れた医薬品の山からかき集め、自転車で運んでいる状況だ。
避難所部隊に参加した薬剤師からの報告によると、避難所に避難してきた人は、薬切れが非常に多く、医療チームから1〜2日分を処方している状況という。
処方せんがなくとも薬袋、お薬手帳などで、服用中の薬が分かれば、薬局で薬を受け取れるということが、現場の薬局でも知られていない。そのことで、被災者の病状悪化を招いている可能性があるという。
避難所で不足しているのは、降圧薬や副腎皮質ホルモン剤、向精神薬、血糖測定器など。糖尿病治療薬を服用しているにもかかわらず栄養状態が悪く、めまいを訴える患者もいる。
医師からは、専門外の治療に関する処方が必要なため、薬剤師が参加することが、非常に重要といわれているようだ。避難所では、医師の専門外の薬の使い方以外にも、代替薬に関する相談も多い。部隊に参加した薬剤師によれば、「薬剤師がいることで、2倍の患者を診察できる」とも、医師からいわれたという。
( → 【東日本大震災】深刻化する医薬品不足‐宮城県の現状を避難所部隊薬剤師が報告|薬事日報ウェブサイト 2011年03月18日 )
数人の薬剤師がいることで、2倍の患者を診察できるようになるわけだ。これは非常に有効なことだ。
どうしてこういうことが起こるかというと、薬剤師不足がボトルネックとなるからだ。どれほど医師が頑張っても、薬剤師が足りなければ、調剤ができないまま、患者は薬を受け取れなくなるので、治療の効果が上がらない。また、病院にある薬が限定されているときには、どのような代替薬が投与可能であるか、医師のかわりに薬剤師が知識を出すこともあるだろう。
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災害時には、重度の緊急傷病者ばかりでなく、軽度の慢性傷病者も多い。圧倒的多数は、軽度の慢性傷病者だろう。(その大部分高齢者だ。)
なのに、そちらは軽視されがちだ。そのせいで、高血圧や糖尿病などの患者は、薬剤不足で致命的な事態になりかねない。
そして、そういう患者が何十万人もいれば、確率的に、多数の死者が出そうだ。
だから、医師不足ばかりを見ずに、薬剤師不足を見るべきなのだ。こちらにも目を向けよう。
[ 付記 ]
処方箋がなくとも、お薬手帳があれば、これをかわりに使うことができる。(災害時には)
→ 【厚労省】処方箋なしで保険調剤可‐熊本地震での対応を通知
→ おくすり手帳があれば処方箋なしでも持病の薬がもらえる
活用事例もある。
→ 東日本大震災時におけるお薬手帳の活用事例
【 関連サイト 】
お薬手帳を使うと、費用が安くなる、という話。( 2016年の記事。)
今年3月までは、おくすり手帳を持参すれば410円、お薬手帳がない場合は340円かかっていました。患者は窓口で1〜3割を負担することになりますが、おくすり手帳がない方が安かったため、普及の妨げになっていました。
今年4月からは、この薬剤服用歴管理指導料を、おくすり手帳を持参した場合は380円に引き下げ、おくすり手帳がない場合は500円に引き上げました(ただし、おくすり手帳を持参して安くなるのは、6ヶ月以内に同じ薬局で薬をもらった場合に限られます)。おくすり手帳を持参した人の医療費を安くすることで、普及を進めようというのです。
ちなみに、以前はおくすり手帳を忘れると薬の名前などが書かれたシールをもらうこともあったかと思いますが、今ではほとんどありません。2年前の診療報酬改定で、シールを渡すだけでは薬局がおくすり手帳の料金を請求することができなくなったからです。
( → 熊本地震で再認識される「おくすり手帳」の重要性…災害時の備え、今こそ確認を )
また医師は自分で処方した薬剤については調剤が認められていますが、他の医師が処方した薬剤を調剤することは無資格調剤ということになり処罰の対象になります。
そういうわけで災害時にお薬手帳をもって医師のところにいっても、その薬の処方をしたのが他の医師であれば薬を渡すことはできません。
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最後の [ 付記 ] に、リンクを二つ、追加しました。災害時特例の話。
お薬手帳の話。