2020年01月23日

◆ イランはアラブではない

 イランはイスラム圏ではあるが、アラブではない。ここには非常に重要な歴史的意義がある。(あっと驚く真実。近代の科学文明の根源。)

 ──

 ちょっとした話題を調べてみたら、意外にも、とてつもなく大きな真実を見出すに至った。以下では順に述べていこう。

 トランプ大統領とイランの紛争について、関連する話として、次の記事を読んだ。
  → 緊張高まるイラン、「旧世界の大国」の存在感 歴史家・樺山紘一さんに聞く:朝日新聞

 「ふむふむ」と思って読んでいたら、ちょっと意外な説明にぶつかった。( Q&A )
 ――イスラム世界は一体という印象があります。

 「私たちはイスラム世界とアラブ世界を同一視しがちですが、ペルシャ語圏でシーア派主体のイランはアラビア語圏やスンニ派とは別の論理で動きます。イスラム世界は少なくともアラブ、イラン、トルコの三つの部分に分けて考えるべきです。北アフリカから中央アジアまで広大・多様な地域ですから多面的、多義的なシステムとして理解する必要があります」

 「サウジがスンニ派で、イランがシーア派で、対立している」という話は、前から知っていたのだが、それだけでなく、次の事実がある。
 「イランはペルシア語圏であり、アラブ世界とは区別される」


 そこでさらに調べると、いろいろと新たな事実にぶつかった。
 「ペルシア人」の民族名称が指し示す範囲は時代、地域、文脈などによってさまざまに伸縮する。
 もっとも広義には、歴史的なイラン地域および中央アジア方面に住み、主にペルシア語を語る人びとのことを漠然と指す。狭義にはイラン・イスラーム共和国籍を有する人(イラン人)のうち、もっぱら定住生活をとり、ペルシア語を主に語る集団を指す民族名称ファールスィー(後述)の訳語である。
( → ペルシア人 - Wikipedia

 ペルシャ人とは?
 現代におけるペルシャ人が意味する人々とは基本的に、ペルシャ語(ファールシー語)という言語を話すイラン系民族のことで、中東または西アジアに含まれるイランを中心に住んでいる人々のこと。
 ペルシャ語は、インドヨーロッパ語族のインド・イラン語派 − イラン語群に含れる最大規模の言語。
 かつてペルシャ帝国が紀元前4~5世紀に最盛期を迎えた頃、その領土は西の中央アジアからイラン高原を通って東は現代のトルコから北アフリカの一部まで広がっていました。
そのため、これら地域に住んでいる、コーカソイド的特徴を持つイラン系民族、人種的にはイラン・アーリア系の人々が総称されてペルシャ人と呼ばれることがあるのです。

 アラブ人とは?
 主に北アフリカおよび湾岸諸国を含めた西アジアの「アラブ世界」に起源を持ち、また同時に、アフロ・アジア語族に含まれるセム語派の言語の一つ「アラビア語」を話す人々のことを指す言葉となっています。

 人種的な特徴は異なることが多々あります。
 アラブ人は人種的に分類するのが難しく、彼らはむしろアラビア語という「言語」と「アラブ文化」によって決定付けられていると言え、中でも言語がアラブ人であることを特定するために最も重要であると考えられています。

( → ペルシャ人とアラブ人の違い|特徴や歴史から分かる違いとは

 歴史的には、古代ペルシア帝国が繁栄したあとで、それが(アラブの)イスラム帝国に征服された。以後、ペルシア文明を吸収したイスラム帝国が繁栄した。……(
 サーサーン朝はゾロアスター教を国教とした最後のペルシア系民族の国家であり、その滅亡とイスラーム教徒による征服は、ペルシア地域に新たな時代を告げるものだった。イスラーム勢力はペルシアを征服し、その技術や学問を吸収することで急速な発展を遂げた。ペルシアの文明は東ローマの文明と共に絢爛たるイスラーム文明の基となったとされる。イスラーム文明を彩る多くの神学、法学、哲学、自然科学の学者たちはペルシア人であった。アラビア文字で表されるようになったペルシア語は、イスラーム世界東部の国際語として機能し、多くの偉大な文学作品を生み出すことになる。
( → イスラーム教徒のペルシア征服 - Wikipedia

 ここで重要なことに気づく。
 「今日の近代文明をもたらした源泉は、14世紀の欧州のルネッサンスにあったが、それをもたらしたのは、12世紀ごろのアラビア文明の流入であった。当時の世界最高の文明であったアラビア文明が流入したことで、欧州では文明が急激に発展して、以後の科学の発達が生じた」
 これは有名な事実であり、本サイトでも前に言及したことがある。
  → なぜ中世アラブは先進国だったか?: Open ブログ

 ところが、そのアラビア文明というのが、ペルシア文明を引き継ぐことによって生じたのだ。( 上記
 換言すれば、今日の近代的な科学文明の源泉には、ペルシア文明があったのだ。それは人類文明の礎(いしずえ)だ、とも言える。それほどにも大きな歴史的重要性があるのだ。

 ──

 この件については、次のように整理することができる。

  ・ 古代ギリシア時代の古典文明があった。
  ・ 西欧社会(ローマ帝国)は、それを引き継ぐべきであったが、引き継がなかった。
  ・ 東欧では、東ローマ帝国がギリシア文化を引き継いだ。
  ・ それがペルシア帝国に流入し、発展した。
  ・ ペルシア帝国がイスラム帝国に征服されたあと、ペルシア文明はイスラム帝国に引き継がれた。
  ・ その高度な文明が、12世紀に欧州に流入して、14世紀ルネッサンスをもたらした。


 以上の流れは、図示するとわかりやすそうだ。

         (ローマ)  ( 断絶 )  ルネッサンス     
 ギリシア                   ↑
         東ローマ → ペルシア → イスラム


 詳細説明は、下記にある。
 ● エジプトやバビロニアといった古代オリエント文明の影響を受けて、イオニアやイタリアにあったギリシャ人植民地で自然哲学が始まり、その後ギリシャ本土のアテナイを中心として高度な哲学と科学が発達した。アレクサンダー大王による遠征で、ヘレニズム文化は東方に広がり、学問の中心は、エジプトのアレクサンドリアに移った。
 ● 地中海はその後、ローマ帝国の支配下に入ったが、ローマ人は実益に直接つながらない深遠なギリシャの学問に興味を示さず、ギリシャ語の文献はほとんどラテン語に翻訳されなかった。このため、476年の西ローマ帝国滅亡後、ラテン語圏の西欧は暗黒時代を迎えることになる。これに対して、ギリシャ語を公用語にした東ローマ帝国では、ギリシャ語の文化遺産が保存された。
 ● 431年のエフェソス公会議でネストリオス派が、451年のカルケドン公会議で単性論者が東ローマ帝国から追放されたが、彼らは、ギリシャ語文献をシリア語に翻訳し、サーサーン朝ペルシアの領内で布教活動を続けた。529年にアテネのアカデミアが閉鎖され、多くの学者が亡命した。彼らが集結したジュンディー・シャープールは、サーサーン朝ペルシアの学術的中心となり、中国やインドの文献までが翻訳された。
 ● 651年にサーサーン朝ペルシアは滅亡し、イスラム帝国が中東を支配する。830年にアッバース朝の第7代カリフのマームーンが、バグダードに「知恵の館」を設立する。そこでは、ギリシャ語やシリア語の文献がアラビア語に翻訳され、ヘレニズム文化と古代オリエント・ペルシア文化とインド・中国の文化が融合し、当時世界最高の学術水準を誇った。
( → 十二世紀ルネサンスの背景は何か | 永井俊哉ドットコム


 ──

 今日のわれわれは、イランを「文明の僻地」のように見なすことがあるが、とんでもない。イラン人とはペルシア人であり、そのペルシアは古代において、人類全体の文明の礎となっていたのだ。それほどにも大きな重要性をもつのだ。

 そのイランに対して、トランプ大統領はこう語る。
 《 「イラン文化財標的」発言が波紋 ユネスコ、トランプ氏に警告 》
 トランプ氏は4日、イランが司令官殺害への報復として米国の国民や資産を攻撃した場合、「イランおよびイラン文化にとって極めて重要なもの」を含む52カ所を標的に反撃すると、ツイッターに投稿した。イランには国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産の古代遺跡ペルセポリスなど、数多くの文化遺産がある。
 ユネスコは6日の声明で「武力紛争時の文化財保護を定めた条約や、世界遺産保護に関する条約に、米イラン両国は署名している」と指摘。文化財への攻撃が条約違反に当たると警告した。
 ポンペオ国務長官は5日、米FOXニュースに「大統領は文化財を狙うと言ったわけではない。発言をちゃんと読んでほしい」と釈明した。ところがその直後、トランプ氏は記者団に「イランが自国民を拷問し、米国人を爆弾で吹き飛ばしても許されるのに、われわれが文化財に触れるのは許されないのか」と強弁した。
( → 時事ドットコム

 イラン文明を「敵であるアラブの文明」と見なして、攻撃・破壊しようとしている。それがほとんど自分たち自身の文化を破壊することだと気づいていない。そこにはどれほど大きな無知があることか。(それはほとんど、ギリシャやローマの古代遺跡を破壊することに近いのだが。)



 [ 付記 ]
 「自分と敵」という発想だけがあって、「人類全体の共同性」という概念のトランプが、いかに愚かであるかがわかる。
( ※ 前項を参照。)
  → トランプに対抗するには?: Open ブログ



 【 関連項目 】

  → なぜ中世アラブは先進国だったか?: Open ブログ (前掲)

 
posted by 管理人 at 21:00| Comment(0) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
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