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朝日新聞の記事から。
低額所得者らに割安な家賃で提供する公営住宅で、入居の条件としてきた保証人確保の規定を廃止する自治体が相次いでいる。
公営住宅では入居後に家賃滞納などの問題が生じた場合に備え、ほとんどの自治体が入居条件として1〜2人の保証人確保を希望者に義務づけてきた。
希望者が保証人を確保できずに入居を拒まれたり、あきらめたりした事例があったと回答があった。
( → 公営住宅に保証人廃止の動き 背景に身寄りない高齢者ら:朝日新聞 )
公営住宅は、そもそも低所得の困窮者のためにある。なのに、困窮者は保証人を見つけることもできない。そのせいで、困窮者がかえって公営住宅から排除されてしまう。「困っている人が入れなくなり、困っていない人が入れる」という本末転倒な状況になっている。
では、どうしてこうなった? 記事の後半(見えないところ)には、こうある。
大阪府も存続させる方針だ。昨年度の府営住宅の家賃収納率は96.56%。昨年度末時点の滞納額は積算で計約43億円にのぼる。
東海地方のある県の担当者は「廃止か存続かで揺れている」と打ち明ける。「事務部門が廃止したいと思っても、財政部門は意見が違う。国交省の通知も、廃止して滞納が増えたらどうすればいいかは書いていない。やめるのは難しい」
( → 公営住宅に保証人廃止の動き 背景に身寄りない高齢者ら:朝日新聞 )
家賃を払わない滞納が 43億円になることもあるので、財政部門が反対して、保証人廃止が進まない……というわけだ。
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以上は、報道だ。では、こういう事実を見て、どう考えるか?
はてなブックマークでは、「困窮者のために、保証人を廃止せよ」という意見が多い。これは人道的な意見だ。
→ はてなブックマーク
しかし、それはそれでもっともなのだが、「金がかかる」という財政部門の意見も無視しがたい。「ない袖は振れない」と言われたら、反論しがたいからだ。
ここで、「金は天から降ってくる」なんていう返答をしたら、ただの論理破綻になるだけだ。自滅になる。
「国が金を払えばいい」
というのは、一案ではあるが、自治体は、国が払ってくれる金を自分で決めることはできない。権限的に、無効な案だ。
では、どうする?
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そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「財政的に考えれば、困窮者が公営住宅に入ると、(払えないときに)滞納金の額が増える。だが、公営住宅の家賃も払えないほどの困窮者ならば、(公営住宅から追い出して)民間住宅に入れようとすれば、生活保護を受けざるを得ない。そして、生活保護を受けるようになると、自治体の負担はかえって増えてしまう。だから、滞納金の額を自治体が負担するとしても、その方が自治体の負担額の総額は少なくなるのだ。ゆえに、滞納金の額を自治体が負担した方がいい。つまり、保証人制度を廃止した方がいい」
わかりやすく言えば、次の対比だ。
・ 公営住宅に入れて、滞納額を免除する。(月1万円)
・ 民間住宅に入れて、生活保護にする。(月5万円)
前者ならば、自治体の負担は月1万円で済む。
後者ならば、自治体の負担は月5万円ぐらいになる。(民間住宅の家賃などの費用負担で。さらに、下手をすると、生活保護費は満額支給となって、月十数万円になるかも。)
公営住宅は、もともと家賃が月1万円ぐらいだ。それを滞納されたとしても、自治体は月1万円の負担で済む。
公営住宅から追い出すと、民間住宅に住まわせることになるが、その金を払えるはずがないので、生活保護にするしかない。そうなると、月3〜5万円の民間住宅の家賃を、自治体が丸々払う必要が出てくる。国からの補助金(75%)を受け取れるとはいえ、それでも自治体の負担額(25%)は増える。
ま、自治体の負担は 25%なので、大きすぎる負担にはならないとは言える。とはいえ、国の金を無駄に使うことになるのだから、まずい方策であることは事実だ。こんなことをして儲かるのは、民間住宅の大家だけだ。
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この問題は、経済学的には、最適配分の問題だと言える。
公営住宅は、もともと困窮者向けなのだから、社会でも最も困窮した人々を住まわせるべきだ。そのためには、とにかく「困窮している」ということだけを条件に、住まわせるべきだ。そうすれば、自動的に、最も困窮した人が公営住宅に入るようになる。
一方、現状のように、「保証人」という条件があると、財政的にゆとりのある人が公営住宅に入るようになる。比較的豊かな人のために、福祉の金が回ることになる。これでは筋悪だ。最適配分になっていない。
「公営住宅とは何か?」という本質に立ち返れば、何をするべきかがわかるはずだ。
ここで、「滞納があると、不払いの滞納額が増える」というような財政的な認識は、物事の本質を見失わせることになる。それでは「本末転倒だ」と言っていい。福祉部門において採算性を考えるというのは、まったく筋違いのことなのだ。
(例)「大学生に奨学金を無利子貸与するが、奨学金を無利子貸与するのは、滞納の恐れのない金持ち家庭の学生に限る。逆に、貧乏家庭の学生は、滞納の可能性があるので、奨学金には高い利子を徴収する」
こういう例は、バカげている。福祉部門において採算性を考えるというのは、まったく筋違いのことなのだ。
そう考えれば、公営住宅の保証人というのが、いかに馬鹿げたものであるかがわかる。
しかも、そこでは、「赤字を減らそうとして、かえって赤字を増やしてしまう」という本末転倒の方針が取られているのである。
[ 付記 ]
「滞納をあっさり許容したら、みんなが滞納するようになる。家賃を払う人がいなくなる」
という批判も出そうだ。しかし、大丈夫。次の対策を取ればいい。
「公営住宅で家賃を払えないような人は、低所得の困窮者なのであるから、家賃に相当する額を、部分的な生活保護の形で、公金で補助すればいい。これなら、家賃に相当する額を、自治体から受け取って、それを家賃に回すことができる」
この方法だと、困窮者は「生活保護世帯」と認定される。すると、「部分的な生活保護」の金を受け取れるが、同時に、(生活保護の受給世帯ということで)、貯金や資産の保有ができなくなる。全財産没収みたいな状況にさせられる。
このことゆえに、「家賃を払う人がいなくなる」ということにはならない。(家賃を払わなければ、手持ちの資産を差し押さえられてしまうからだ。)