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朝日新聞の記事がある。
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)をめぐり、広島高裁決定は活断層と火山という二つのリスクから、運転をしてはならないとする判断を導いた。
( → 二つのリスク、規制委判断の誤り指摘 伊方原発差し止め:朝日新聞 )
二つの点を、それぞれ評価しよう。
1. 活断層
今回は活断層の危険性が重視された。朝日新聞に詳しい話がある。
今回の弁護団が重視したのが、伊方原発の沖合600メートルの佐田岬沿岸に「中央構造線(地質境界)」の活断層があるかどうかだった。
きっかけは、2017年12月に国の地震調査研究推進本部が見直した断層帯の長期評価。佐田岬半島沿岸の中央構造線について「現在までに探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる」と活断層である可能性に言及した。
山口地裁岩国支部……決定は、「四電による十分な音波探査などが行われている」などと退けた。
広島高裁決定は……四電の申請を認めた規制委の判断に「過誤ないし欠落があった」として、支部決定の判断を覆した。
( → 二つのリスク、規制委判断の誤り指摘 伊方原発差し止め:朝日新聞 )
<中央構造線断層帯と中央構造線(地質境界)>
国の地震調査研究推進本部は、奈良県香芝市から大分県由布市まで全長約444キロの活断層帯を「中央構造線断層帯」としている。
一方、中央構造線断層帯の付近には、でき方が異なる岩石が古い断層を境に接している境界がある。これが今回の決定で焦点となった「中央構造線(地質境界)」で、伊方原発付近では中央構造線断層帯とは一致しない。
( → (時時刻刻)規制委判断「誤り」と指摘 伊方近くに活断層「否定できない」 広島高裁:朝日新聞 )
「中央構造線断層帯」という活断層帯があるが、それは原発から 10km ぐらい離れているので、今回は問題とされなかった。かわりに、「中央構造線(地質境界)」という、古い活断層帯の名残らしいものが問題とされた。
これは、はっきりと「活断層である」とは認定されないが、古い活断層である可能性があるし、活断層の痕跡がなくても、古い断層活動のあった場所では、(何千年も後で)ふたたび断層活動がある可能性が十分になるので、危険性はあると判断されるわけだ。
※ 地震というのは、百年ないし数百年ぐらいの周期で起こることが多いが、何千年もあとで再発することもある。その途中で、古い断層活動の痕跡が消えかけてしまうこともある。
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今回の高裁決定では、活断層の重要性に着目した。これは好判断であったと思う。というのは、活断層は(従来の認識よりも)大きな意義を持つことが、最近の地震研究で判明したからだ。
要するに、熊本地震で判明したように、活断層タイプの地震は、長周期かつ大規模な被害の地震が起こりやすいのだ。
熊本地震のように、地表に地割れが出るタイプ(地表に近い地層で何らかのズレが出るタイプ)の地震(活断層型の地震)では、長周期の地震が起こりやすい。
要するに、活断層のすぐそばというのは、とても危険なのである。これまでの知見では、「活断層の近くでも遠くでも、たいして違いはない」と思われてきたのだが、実際にはそうではなく、活断層の近くと遠くでは、はっきりと大きな差が出たのだ。
熊本の場合には、低層の家屋も、活断層のすぐそばの地域ではほとんどの家屋が全壊した。その一方で、活断層から離れた地域では、大きな被害を免れた事例が多かった。
( → 活断層地震と超高層ビル: Open ブログ )
活断層タイプの地震では、大きな被害が出やすい。ただし、従来から思われていたように、「2キロ以内が危険」ということはなく、もっと近い距離だけが大きな危険があるようだ。
では、伊方原発はどうかというと、(上記のように)600メートルという近距離にある。(古い)活断層から、これほどの近距離にあるのだとすれば、危険性は十分に考えられる。
結局、「活断層タイプの地震は、従来思われていた以上に危険である」という最新の知見からしても、古い活断層らしい場所のすぐそばにある伊方原発は、危険性が高いと言える。
このことをもって、「運転差し止め」は「妥当である」と判定していいだろう。
2. 火山灰
噴火については、阿蘇山の噴火が問題視されたが、これに関して、今回は二通りの評価がなされた。
「原発の立地」についての判断では、160キロ圏内にある火山が噴火した場合の影響を評価することになっています。
伊方原発の位置まで火砕流が到達するような阿蘇山の破局的な噴火については、原発事故に限らず重大な被害が起きるにもかかわらず対策が取られていないことを踏まえ「噴火のリスクが相当程度容認されている」として、伊方原発の立地については、不適切とは言えないと判断しました。
しかし「噴火の影響」については、阿蘇山で破局的な噴火に準ずるような噴火が起きた場合の火山灰の量などが過小評価されていて、四国電力の対応やそれを認めた原子力規制委員会の判断は不合理だと結論づけました。
( → 伊方原発 仮処分の判断 ポイントは | NHK )
1千万人超の死者が出るほどの破局的噴火が発生する可能性は極めて低く、立地に具体的な危険があると認めるのは社会通念に反するとした。
一方、破局的噴火に至らない程度の最大規模の噴火でも、火山灰などの噴出量は四電が見込む約3〜5倍に上り、想定は過小だと指摘。これを前提とした規制委の判断も不合理だと述べた。
( → 伊方原発、運転差し止め 活断層の調査「不十分」 火山灰想定も過小 広島高裁仮処分:朝日新聞 )
破局的な噴火については、可能性がきわめて低いという理由で、問題視されなかった。
もっと小規模な噴火については、火山灰による影響があるとして、危険性を認定した。
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これについて評価しよう。
この件は、私は前にも言及した。
→ 阿蘇噴火の危険性: Open ブログ
ここでは、「噴火の可能性がきわめて低いし、考慮する必要はない」と述べて、阿蘇噴火を問題視しなかった。この点では、今回の判決と同様だ。(ただし分析はもっと詳しい。)
→ 原発と阿蘇噴火の危険性: Open ブログ
ここでは、次のように述べている。
・ 阿蘇山と伊方原発は遠すぎて、火砕流は届かない。
・ 仮に届きそうでも、途中に海があるから、火砕流は海に沈んでしまう。
・ 仮に届くとしても、時間がかかるから、原発を止めることができる。
火砕流は、届かないので、考慮する必要がない。
また、仮に届くとしても、時間がかかるから、原発を止めることができる。
さて。すぐ上のことは、火山灰にも適用できる。火砕流でさえ時間の余裕はあるのだから、火山灰なら、なおさら余裕があるのだ。というのは、火山灰というものは、空気中を漂うものだから、一挙に押し寄せてくるのではなくて、長い時間をかけて、少しずつ降下してくるものだからだ。(雨水とは違う。)
このような大噴火があったとしても、噴煙は1万5000メートルの高さまで舞い上がるというぐらいだから、それが阿蘇山から 125km も離れた伊方原発まで、一挙に届くはずがない。時速 125km で飛んだとしても、1時間もかかる。現実には、早くても風の速度だから、せいぜい時速 30km だ。とすれば、早くても4時間の時間がかかる。
また、大量の火山灰が一挙に降下するのではなく、何十時間もかけて少しずつ降下する。とすれば、伊方原発に大量の火山灰が降下するということは、(たとえあったとしても)噴火から何十時間も後のことなのだ。
そして、何十時間もの余裕があれば、その間に、原発を止めることは可能なのである。そして、いったん原発を止めれば、もはや危険性はほとんどないのだ。
( ※ せいぜい原発全体が火山灰に埋もれるだけだ。もちろん、原発が暴走することもない。燃料棒を抜き取れば、原発は自然停止する。)
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以上のことからして、火山灰については、「高裁の判決は妥当ではない」と評価できる。火山灰の危険性を理由として「運転差し止め」を決定したのは、論理的には妥当ではないわけだ。
ただし、前半の「(古い)活断層の危険性」はあるから、このことだけで、十分な理由となる。
つまり、「運転差し止め」という決定は妥当であると評価できる。ただし、その理由は、前半の「(古い)活断層の危険性」だけだ。「火山灰の危険性」は、理由とならない。
なお、「まったく届かない」と言っているわけではありません。「仮に届くとしても……」というふうに、届いた場合の話もしています。
熊本は火砕流で埋まるだろう
九州山地を越えなければならないからね
地図をみれば
海を渡ったとしても伊方には正面からあたらない
伊予の方へ流れると思う