2020年01月09日

◆ ミサイルで被害があったわけ

 前項の記述に反して、実は、ミサイルで被害があったと判明した。そのわけは? 

 ──

 前項では「ミサイルで被害がなかった」というふうに記述した。
  → ミサイルで被害がなかったわけ: Open ブログ

 ところが本日の報道では、「ミサイルで被害があった」と報道された。証拠写真もある。
  → イラン攻撃は倉庫などに限定 人的被害避けたか 衛星写真を分析 | NHK
  → 格納庫など7棟の破壊鮮明 イランによる攻撃の衛星写真:朝日新聞

 では、どうしてこうなった? 

 ──

 実は、新たに判明した事実(および写真)は、米国政府の公式発表ではない。米国政府は、相も変わらず、被害の規模を隠したままだ。
 とすれば、前項で「被害がなかった」というふうに私が書いた理由は、こうなる。
 「米国政府が意図的に被害の規模を隠していたから」


 つまり、安倍首相が真相を隠蔽するように、米国政府もまた真相を隠蔽していたからである。
 ここで、安倍首相ならば「どうせ隠蔽するだろう」という推測が成り立つのだが、まさか米国政府までも重大な真相を隠蔽するとは思わなかった。だから、「米国政府が被害を報告しないのならば、被害はなかったのだろう」と推定した。
 しかし、それは妥当ではなかった。米国政府もまた、真実を故意に隠蔽していたのである。「被害は最小限で済んだ」というふうに。

 ──

 上のことの裏付けとなる情報がある。こうだ。
 イラン政府が8日の対米報復攻撃直後、米政府に対し、米国がイランに反撃しなければ、イランは攻撃を継続しないとの書簡を出していたことが8日、分かった。
( → 反撃なければ攻撃継続せず イラン、報復後に米へ書簡 | 共同通信

 アメリカのトランプ大統領は、イランがイラクに駐留するアメリカ軍の拠点を攻撃したことを受けて国民向けに演説し、アメリカ人兵士らに死傷者はいなかったと強調しました。そのうえでイランによるさらなる攻撃の可能性は低いという認識を示すとともに、反撃に言及せず、事態のエスカレートは避けたい考えを明確にしました。
( → トランプ大統領 イランへの反撃言及せず 事態悪化避けたい姿勢 | NHKニュース

 イランは、「米国が反撃しなければ、追加攻撃をしない」とあらかじめ通告していた。
 そのあと、人的被害が発生しなかったことを受けて、トランプ大統領は「反撃しない」と決めた。……これは、事前に述べた「 52カ所の反撃」を撤回したことを意味する。

 ──

 上のことからわかるように、米国は、「反撃しない」という道を取ることが最善だった。しかもそれは、イランに誘導されてのことだった。(イランの思惑通り。)
 そして、そういうふうに「イランの思惑通り」ということを明らかにしたくなかったから、実際には被害があったのに、「被害がなかった」というふうに偽ったわけだ。
 この意味で、隠蔽は意図的だったのである。
 そして、そのような(意図的な)隠蔽があったせいで、私は前項では誤認した(というより、だまされた)という結果になってしまった。ちっ。



 [ 付記1 ]
 補足的に言うことがある。
 前項では、「建物がほとんどない」という衛星写真(航空写真?)を掲載したが、これは、データが古すぎたようだ。
 NHK や、朝日新聞の記事では、爆撃を受けた場所の衛星写真がある。これは、Google の写真ではどこであるかというと、ここだ。





 見ればわかるように、建物はほとんどない。Google で駄目なら、Bing や Yahoo ではどうかというと、ほぼ同じだ。どちらも建物がほとんどない。つまり、すごく古い時期の写真だ。
 これはたぶん、軍事情報だから、なるべく情報を減らそうという意図があったのだろう。そのせいで、まともに建物が掲載されていない情報を「事実だ」と受け取ってしまったわけだ。
 ここでは、Google (など)にだまされたことになる。この点でも、誤認の理由があった。

 [ 付記2 ]
 一方、ミサイルの命中精度については、私の認識自体が間違っていたようだ。「たいしたことはない」と思っていたのだが、実に正確にピンポイントで命中させている。これは意外だった。私の認識ミスがあったとも言える。
( ※ とはいえ、外国のミサイルの性能のチェックなんて、容易にはわからないから、仕方がない。今回の事例で、イランのミサイルの恐るべき性能が明らかになったと言える。)

 [ 付記3 ]
 とはいえ、「ミサイルがたいしたことはない」という前項の主要な結論は、変わらない。
 今回は、意外なことに、建物に命中させたわけだが、それでも被害はたいしたことがなかったようだ。その理由は、こうだろう。
  ・ ミサイルの発射がすぐに探知された。
  ・ 人間はみんな退避した。
  ・ 重要な備品も、トラックで退避した。
  ・ 武器庫の武器も、(トラックで)退避した。
  ・ 滑走路の飛行機も、他基地に飛び立って、退避した。
  ・ 残ったのは、プレハブみたいな簡易な建物だけ。


 結局、「もぬけの殻」となって、その「殻」だけを破壊したことになる。数億円のミサイルを使って、1000万円ぐらいのボロ建築だけを破壊したことになる。コスパが非常に悪い。
 この攻撃では、破壊された米国より、破壊したイランの方が、損失額は大きかったことになる。
 しかも、虎の子のミサイルを1割も失ってしまったことで、肝心の防衛力が大きくそがれてしまった。踏んだり蹴ったりだ。

 この点も、前項で述べたことがほぼ確認された、と言えそうだ。(米国が「被害は最小限だった」と言っていることからもわかる。)

 [ 付記4 ]
 今回の紛争で、勝利したと言えるのはどちらだろうか? 上のような損得勘定の分析からは、「イランの方が損した」と言えそうだ。そこで、「米国が勝利したかも」という報道もある。
  → スレイマニ殺害はトランプの政治的勝利に終わったのか | ニューズウィーク

 たしかに、損得勘定だけで言うなら、米国の損よりもイランの損の方がずっと大きいので、「米国の勝利」と言えなくもない。ただし、よく考えると、米国の失ったものも大きい。

 第1に、米国は被害を隠蔽したが、そのことで米国発表の信頼性を失った。「米側の被害は 80人」と発表したイランは、大本営発表と同様で、嘘八百であることが判明したが、それと同様に、米国も(嘘は言わないが)真実を隠蔽するということが判明した。そのことで、(語る言葉の)信頼性を失った。 

 第2に、イランのミサイルの精度が予想以上に高かったことで、安全性(の確信)を失った。これまでは「イランのミサイルなんかたいしたことはない」と、高をくくっていたのだが、予想以上に精度が高いと判明したことで、大いなる脅威にさらされることとなった。トランプ大統領は、事前には「 52箇所を攻撃」と言っていたのに、事後には一転して矛を収めたが、これは、イランのミサイルの精度に恐れおののいたからだとも言える。

 第3に、攻撃対象がイラク国内であるということで、手加減してもらったことだ。これはわかりにくいが、わかりやすく言うと、「クウェートの米軍基地を攻撃されなかった」ということだ。





 クウェートの米軍基地は、上の図からわかるように、イランに近い。その分、ミサイル発射後に、逃げ出すための時間が短い。人的被害が出た恐れもある。
 一方、今回のイラク内の基地は、イランからはかなり通りので、ミサイルが到達するまで、かなりの時間がかかる。その分、退避する時間がたっぷりあった。だから人的被害も物的被害も少なかった。

 さらに、クウェートの米軍基地は、規模が大きい。
 クウェートでは、約1万5000人がキャンプ・アリフジャン(Camp Arifjan)やアハマド・アル・ジャービル(Ahmed Al Jaber)空軍基地、アリ・アル・サーレム(Ali Al Salem)空軍基地に展開している。
( → 45万人超が国外に駐留、世界各地に展開する米軍の最新状況 | Business Insider Japan


Camp Arifjan


アリー・サーリム空軍基地



 これだけ規模が大きいと、ミサイルによる被害の規模も大きくなるだろう。

 以上からわかるように、クウェートの米軍基地を狙えば、イランはずっと大きな被害をもたらすことが可能だったのだ。
 にもかかわらず、実際には、そうしなかった。これはつまり、「イランが手加減した」ということを意味する。
 逆に言えば、もし米国が報復して、「 52カ所攻撃」なんかをしたら、今度こそクウェートの米軍基地が狙われて、米軍には多大な被害が出たことになる。
 それがわかっているからこそ、トランプはびびったはずだ。「被害は最小規模で済んだ」なんて強がっているのは、実際には内心ではびびったことの裏返しなのである。

 [ 付記5 ]
 さらにもう一つ、重大なことがある。イランは「無制限の核開発」という手札を手に入れたことだ。
 米国は「対抗して、さらに経済制裁をする」なんて言っているが、もともと最大限に近い経済制裁をしているのだから、これ以上はほとんど効果がない。つまり、対抗手段がない。
 本来ならば、イランは国際社会の反発を恐れて、「無制限の核開発」なんかをすることはできなかった。やれば、反発を食うからだ。ところが今回、司令官が殺害されたことで、その報復という形で、「無制限の核開発」という手札を手に入れた。この効果はものすごく大きい。
 この分だけを見ても、損得勘定では、「イランの圧勝」とも言えそうだ。

 [ 付記6 ]
 では今後は、どうなるか? 
 米国としては、「イランの核開発」という最悪の事態だけは、何としても避けたいところだった。ところが今回、その最悪の事態を招いてしまった。ヤブヘビというところだ。
 一方、これまでは「自分の方が圧倒的に軍事的有利だ」と信じていたトランプにとって、イランの軍事力をはっきりと目の当たりにすることになった。強気一辺倒ではいられなくなった。
 こうなると、トランプが軟化して、イランと妥協するようになるかもしれない。
  ・ イランの核開発の停止
  ・ 米国の経済制裁の停止

 という形で、元の状態に戻るかもしれない。それならば、「災い転じて吉となす」というか、「雨降って地固まる」というか、今回の司令官殺害事件も、無駄ではなかったということになる。
 ただ、実際にそうなるかどうかは、判然としない。何しろ、決めるのはトランプ大統領だからだ。馬鹿や気違いの判断は、普通の合理的な思考をする人々にはとうてい予想できないのである。何をやらかすかわかったものじゃない。



 【 関連サイト 】





 
posted by 管理人 at 23:05| Comment(1) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
まさか米軍がミサイルを誘導したなんて茶番劇はないですよね
Posted by 老人 at 2020年01月11日 13:08
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