2019年11月30日

◆ 進化は突然変異だけでなく……

 進化は突然変異で起こる、という説があるが、不十分だ。ただの突然変異では、確率が低すぎるからだ。ただの突然変異とは別の原理が必要だ。

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 進化は突然変異で起こる、という説がある。これで説明できるように思えるが、それでは不十分である。なぜなら、その説では、突然変異の確率が低すぎるからだ。

 たとえば、1塩基変異の確率が1万分の1だとしよう。1塩基変異は、何のメリットももたらさず、やや有害か有害であるだけだから、通常は淘汰されてしまう。有益な突然変異が起こるには、1塩基変異では足りず、タンパク質を発生させるために、数十の塩基が同時に突然変異を起こす必要がある。とすると、それがすべて同時に起こる確率は、「1万分の1」の「数十乗」(たとえば 30乗)であるが、これは、事実上、ゼロに等しい。
( ※ 1万の 30乗は、10の4乗の 30乗 だから、10 の 120乗である。)
( ※ 宇宙全体の原子数が 10 の 80乗である。→ Wikipedia

 というわけで、「突然変異によって進化が起こる」という説は否定される。そんなことでは数学的に確率が低すぎるからだ。

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 では、進化はどういう形で起こるのか? それについては、こう説明できる。
 「1塩基ずつの突然変異が起こるのでなく、数十個の塩基が同時に起こる。つまり、1塩基単位でなく、グループ単位で突然変異が起こる」


 これは原理だ。しかしこの原理は、通常は成立しない。これが成立するためには、特別な条件が必要だ。それは、次のことだ。
 「変異を蓄積した遺伝子集団は、遺伝子としての機能を ON にしないで、休眠遺伝子として DNA のなかで不活性化されている」


 一般に、遺伝子である塩基集団が遺伝子として働くためには、遺伝子として働くためのスイッチが ON になっている必要がある。これが ON になっている塩基集団だけが遺伝子として機能して、これが OFF になっている塩基集団は(遺伝子ではない)ただのガラクタとして DNA のなかで休眠している。
 この休眠している塩基集団は、遺伝子として働いていないので、淘汰されることもなく、単に次世代に引き継がれる。(有利でも不利でもないまま。)
 しかもこのとき、突然変異は(普通の遺伝子の場合と)同じ頻度で起こる。たとえば、1万分の1で。
 
 ここから先が大事だ。
 普通の遺伝子ならば、1塩基変異を起こした遺伝子は、やや有害または有害なので、淘汰されてしまう。その変異は次世代には引き継がれにくい。その遺伝子は自動的に消えていく。
 休眠遺伝子ならば、事情は違う。1塩基変異を起こした遺伝子は、(休眠したままなので)有利でも不利でもないまま、そのまま引き継がれていく。
 こうして休眠遺伝子では、1塩基変異が淘汰されずに次々と引き継がれるせいで、何世代または何十世代も経たあとでは、さまざまな1塩基変異が多様に取り込まれる。そのほとんどは、スイッチが ON になったとしたら、とんでもない欠陥遺伝子となるようなものだ。しかし、多種多様な個体のうちには、非常に有益な塩基集団をもつものも生じる。それが特別に有利な形質をもたらす。そして、それのスイッチが ON になったとき、突発的に「有利な遺伝子」が誕生する。

 こうして、あるとき突然、「有利な遺伝子」が突発的に誕生する。それは決して、「1塩基ずつの有利な突然変異が蓄積した結果」ではない。換言すれば、「(1塩基ずつの突然変異である)小進化が蓄積して、大進化になった」わけではない。小進化の蓄積は、大進化をもたらさないのである。種のなかの個体の形質が少しずつ変化したからといって、まったく別の種が誕生するわけではないのである。
 新たな種が誕生するためには、特別な形質のある遺伝子が、突発的に出現する必要がある。そして、特別な形質のある遺伝子は、1塩基変異が蓄積して起こるのではなく、休眠遺伝子における多大な変化が、スイッチの OFF から ON への切り替えによって起こるのである。
 この違いを理解しよう。

 ※ 新しい種が誕生するときには、1つの新遺伝子だけで済むのではなく、複数の新遺伝子がたくさん集まる必要がある。これについては、「クラス交差」という形で、別のところで説明した。本項では省略する。



 【 関連サイト 】

 休眠している遺伝子は「偽遺伝子」と呼ばれる。
 この用語を使って、詳しく説明することもできる。この件は、前に別のページで論じた。(要約版)
  → 第2部 概要

 ※ 要約版でない正式版は、未公開。



 [ 付記 ]
 本項の話は、理論的な話だが、現実レベルでは、実際に当てはまると思える事例がある。下記だ。
  → 「二酸化炭素を食べる大腸菌」が遺伝子操作で誕生 - GIGAZINE

 大腸菌は、酸素を消費して二酸化炭素を排出する。ただし、高濃度の二酸化炭素ガスのなかに、糖といっしょに大腸菌を入れておいたら、あるとき突然、「二酸化炭素を消費して酸素を排出する」という新タイプの大腸菌が発生したそうだ。(逆コースを取るのではなく、糖を消費するので、別の経路になりそうだ。)
 ここでは、「特別な機能をもつ特別な遺伝子が発生した」と見える。しかし、そのような特別な遺伝子が、ただの1塩基集団の繰り返しで起こるはずがない。では、どうしてそんなことが起こったのか? 
 それを説明するのが、本項の理論だ。



 [ 余談 ]
 あまり関係はないが、ちょっとだけは関係のある話。昨年のノーベル化学賞が、ちょっと似た話題を扱っている。人為的に進化に介入する形で、タンパク質の進化を高速化する、という手法。
  → 【2018年ノーベル化学賞 解説記事】タンパク質の人工的な進化とは? - BuzzScience

 ※ さすがにノーベル化学賞だけあって、生物学よりは化学の話。たいした話ではない。
posted by 管理人 at 23:39 | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
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