2019年11月27日

◆ 集団的自衛権の憲法判断

 集団的自衛権の訴訟で、地裁判決があった。これについて朝日新聞に詳細な解説記事がある。

 ──

 集団的自衛権の訴訟で、地裁判決があった。「門前払い」の形の判決だ。11月7日の記事にある。
 《 安保法制違憲訴訟、原告敗訴 東京地裁も憲法判断せず 》
 集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法が憲法に違反するかが争われた訴訟の判決で、東京地裁(前沢達朗裁判長)は7日、憲法判断をせずに原告の請求を棄却した。
 違憲性については、具体的な権利の侵害があったとは認められないとして判断を示す必要はないと結論づけた。
( → 朝日新聞

 読んでもすぐにはピンと来ない話だが、26日の記事で詳しい解説があった。1頁を費やしている長文の解説。ネットでも無料で読める。(要登録)
  → (憲法を考える)政治の領域、踏み込まない司法 安保法違憲訴訟、東京地裁は憲法判断せず棄却:朝日新聞

 話のキモは、次のことだ。
 日本の裁判所は、「権利が侵害された」などと訴えが起こされてから初めて、制度や行為が憲法違反かどうかを審査する「付随的違憲審査制」をとっている。そして訴えを起こしても、憲法判断をくだすのは訴訟の解決に必要な場合に限るというのが裁判所の考えだ。
 札幌でも東京でも原告は違憲の判断を求めたが、裁判所は、具体的な権利侵害がなく、憲法判断をするまでもないとして、いわば門前払いした。
 立法府や国民の懸念を押し切って行政府が進むとき、歯止めとなりうるのはどこか。
 最高裁は、自衛隊の合憲性について判断をしたことが、これまで一度もない。

 つまり、裁判所の立場は、
 「(個人への)権利侵害がなければ、違憲かどうかを判断しない」
 ということだ。これはあまりにもひどい。

 違憲かどうかを判定するということは、国が憲法を守るかどうかを判定するということだ。ここでは、(主語となる)主体は国であるし、(述語となる)行為は合法か非合法かである。
 なのに裁判所は、それを放棄している。(主語となる)主体は(損害を受けた)個人であるし、(述語となる)行為は損失の有無である。
 話のレベルがまったく違っている。
 「国が憲法を守るかどうかを判定しろ」
 という要求に対して、
 「個人が損失を受けているかどうかで判断する」
 というのでは、話が筋違いであるのも甚だしい。
 これは要するに、「裁判所は法に基づいて法律判断をすることを放棄している」というのに等しい。司法を担当する裁判所が司法機能を放棄しているのだから、これではもう「日本は法治国家ではない」というのに等しい。というか「日本が法治国家であることを、裁判所自体が否定する」というのに等しい。メチャクチャだ。

 ──

 では、どうすればいいか? 簡単だ。もちろん、裁判所は法に基づいて判断すればいい。つまり、(個人のレベルで)権利侵害という損失を受けているか(訴えの利益があるか)を考慮することなく、純粋に「違憲であるか否か」を判定すればいい。
 これで一応、話はカタが付くはずだ……と思えそうだが、実は、そうではない。

 実は、これだと、大きな問題が生じる。裁判所が単純に「法に基づいて判決する」というふうにすると、「自衛隊は違憲である」ということになって、自衛隊の存在が否定されてしまいかねない。これは、大多数の国民の意思に反する。こいつは、あまりにも大きな問題だ。
 困った。どうする?

 ──

 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。……というか、すでに出している。再掲しよう。
 「自衛隊は違憲ではない。なぜか? 自衛権は、憲法以前に、自然権として保有しているからだ。人は、呼吸する権利や、生存する権利を、法律で付与される以前に、自然権として保有している。それと同様に、国家も、法律で規定される以前に、自衛権を自然権として保有している。これについては、憲法で規定することの枠外にある」
 
( → 9条改憲の目的は?: Open ブログ

 人は、法律で規定される以前に、生存する権利を自然権として得ている。そこには「正当防衛の権利」も含まれる。これを拡張することで、国家レベルでの「正当防衛の権利」も導かれる。こうして「国家の自衛権」というものが導き出されるので、自衛隊もまた許容される。
 一方、集団的自衛権は、「正当防衛の権利」には含まれない。たとえば、アメリカが中国やロシアに攻撃されたからといって、日本が「自衛のため」と言って中国やロシアを攻撃するのは「正当防衛」にはならない。したがって、集団的自衛権というものが自然権として与えられることもない。
 以上のようにして、話は片付く。(上記項目)

 ──

 この話のキモは、次のことだ。
 「自衛隊ないし自衛権は、憲法9条に対して合憲なのではなく、言及の対象外である」


 ここに注意しよう。憲法学者は「9条は違憲か」と問われたとき、「違憲か合憲か、どちらかに決めなくてはならない」と思い込んだ。そのあげく、「どちらかにするのであれば、文面通りに解釈するしかないので、違憲だと見なすしかない」と結論した。しかしそれだと、自衛隊を廃止する必要が出てくるので、国家としては自殺行為をすることになる。最悪だ。……こうして、憲法学者は「正しいけれども最悪」か、「間違っているけれども最善」か、二者択一を迫られた。
 そのあと、学者ならば(無責任なので)「正しいけれども最悪」を選ぶ人が多くなり、裁判官ならば(責任感があるので)「間違っているけれども最善」を選ぶ人が多くなった。……これが現状だ。しかし、「間違っているけれども最善」を選ぶために、「権利侵害がなければ門前払い」という方便を取ったせいで、「集団自衛権という真っ黒なものまで白だと見なすことになった」というのが、現状だ。

 ──

 そこで本サイトは、別の道を示す。「違憲か合憲か、どちらかに決めなくてはならない」ということはないのだ、と。むしろ、「違憲か合憲か、という話の対象外なのだ」と。それが「自然権」という概念だ。この概念を持ち出すことによって、「違憲か合憲か」という(窮屈な)判断を免れるのだ。しかも、考え方としては、最も合理的である。また、「個別自衛権は違憲でないが、集団的自衛権は違憲だ」という好都合な結論に導くこともできる。

 ──

 話を根源的に考えるなら、「個人への権利侵害があったかどうかを、違憲審査の条件にする」というようなメチャクチャなことがなされているのは、物事を「違憲か合憲か、いずれかに決めなくてはならない」というふうに思い込んでいる、法学者の驕りがある。それは、「法律はすべてを決めることができる」という驕りである。
 実はそうではない。「人間には生存の権利がある」というのは、法律によって与えられた権利ではない。生まれながらにして持っている権利である。だから、「人間には生存の権利がある」というのを、憲法などの法律から導き出そうというのは、とんでもない見当違いだ。そんなものを規定する法律などはないのだ。また、規定する法律がないからといって、その権利がないと見なすのも間違いだ。

 自衛権についても同様に考えられる。自衛権は自然権なので、合憲でも違憲でもない。憲法論議の対象外なのだ。ここでは、自衛隊を「違憲だ」と見なすことはできないが、同時に、「合憲だ」と見なすこともできない。そういうふうに判断するべきだ。
 しかるに、「合憲か違憲か、どちらかでなくてはならない」と思い込む法学者が多いから、話は混迷して、そのあげく、「個人への権利侵害があったかどうかを、違憲審査の条件にする」というようなメチャクチャな脇道に逸れてしまうのである。そのあげく、「集団的自衛権も違憲ではない」というふうな、誤った落とし穴に落ち込んでしまうのだ。

 こういうふうに、現状を整理できる。



 【 関連項目 】
 集団的自衛権を論じた項目。(時間順)

  → 集団的自衛権と迎撃ミサイル: Open ブログ
  → ( 集団的自衛権は合憲か? ): Open ブログ
  → 集団的自衛権と迎撃ミサイル: Open ブログ
  → 集団的自衛権とタカ・ハト・ゲーム: Open ブログ
  → 機雷掃海と集団的自衛権: Open ブログ
  → 自衛隊の海外活動の拡大: Open ブログ
  → 集団的自衛権と原発: Open ブログ
  → 欧州の集団的自衛権: Open ブログ
  → 9条改憲の矛盾: Open ブログ
  → 集団的自衛権という欺瞞: Open ブログ
  → 集団的自衛権は自衛か攻撃か?: Open ブログ
  → ホルムズ海峡の犯人は?: Open ブログ


posted by 管理人 at 22:58| Comment(7) |  戦争・軍備 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
自然権に基づいて「個別自衛権は違憲でないが、集団的自衛権は違憲だ」という結論がなぜ出てくるのですかね?
集団的自衛権も自然権として認められているというのが国際法の一般的な解釈だと思いますが。
Posted by 変なの at 2019年11月28日 11:21
 前にも述べたけれど、局地的な集団的自衛権は認められます。同一地域で攻撃されたときに、そばにいる友軍を守ることなら、(国家でなく軍隊レベルでの)自衛権を行使できます。

 しかし、遠く離れた国同士での紛争にまで、自衛権を行使できるはずがない。それは屁理屈だ。そんなことを言い出したら、(現地民を守るという名目で)中国がウイグルを侵略するのも許されるし、ロシアがクリミアやウクライナに侵攻するのも許される。シリアがクルドを攻撃するのも許される。さらにはヒトラーの侵略も、旧日本軍の中国・満州侵攻も許される。あらゆる侵略が自衛の名目で許されてしまう。……そんな屁理屈は認められない。
 集団的自衛権(同盟)は、何らかの権利として認めることは可能だが、自然権として認められるはずがない。自己の生存には直接的に影響しないのだから。
 たとえば、アメリカがイラクを侵攻するのを日本が助けないからといって、日本が生存の危機になるわけではない。利害や損得には影響するが、生存には影響しない。
Posted by 管理人 at 2019年11月28日 12:09
失礼ながら、概念の話とcaseの話を混同されているみたいですね。
国連憲章ではこのように書かれていて、集団的自衛権について固有の権利として認められています。
「第51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。」

挙げられているcaseで、それが自衛のための軍事行為として認められるか認められないかは、安保理での議題にはなるでしょうが、結局はパワーバランスの問題でしかないというのが現実かと思います。
Posted by 変なの at 2019年11月28日 13:44
 国連憲章の規定はわかっています。だから本項では「自然権」と書いたんです。国連憲章は、自然権ではなくて、明文化された規定ですから、本項の話とはまったく別です。

 なお、国連憲章の規定は、「固有の権利を害するものではない」と書いてあるだけで、国連憲章が各国の権利を認めているわけではありません。
 各国は、それぞれの憲法などの法律で、自国の軍事力の規定を明文化しています。そういう明文化された規定(固有の権利)を国連が害するわけではない、というだけです。各国の軍事力を、国連が認めているわけではありません。(それはでしゃばりすぎ。)

 一方、日本の場合は、軍事力の規定が憲法にはなく、自衛隊の法律があるだけです。この場合には、国が自衛権を持つという話はどこにも成文化されていないので、本項では「成文化されていない権利」(自然権)として認めるという話になります。

> 挙げられているcaseで、それが自衛のための軍事行為として認められるか認められないか

 ただの侵略が自衛だと認められるわけがないでしょう。そんな屁理屈は、さすがのトランプ大統領だって言いませんよ。「中国の香港介入を自衛とは認めない」という感じだ。ここで屁理屈を言うとしたら、あなただけでしょう。

 《 注 》
 固有の権利とは、(各国ごとに)成文化された権利のことです。一方、自然権は、普遍的な権利です。
Posted by 管理人 at 2019年11月28日 21:21
相変わらず乱暴な物言いされますね。

国連憲章の言う「固有な」の元の英語は「inherent」です。その意味するところは、「生来の」「元からある」「本質的な」「生まれつきの」であり、誰かによって定められたという含意はありません。
もちろん国によっては憲法や軍法に自衛権や交戦権を謳っている事もあるでしょうが、そこに明文化されていければ自衛権は認められないという解釈はここではあり得ません。

> ただの侵略が自衛だと認められるわけがないでしょう。そんな屁理屈は、さすがのトランプ大統領だって言いませんよ。
ブッシュJr.も自衛と言ってイラクに侵攻しましたし、プーチンのウクライナ侵攻もそうですね。
安保理でこれらを侵略だという決議を通す事は今の仕組みでは不可能ではあります。
Posted by 変なの at 2019年11月29日 11:29
> 国連憲章の言う「固有な」の元の英語は「inherent」です。

 そうでしたか。原文を見ていないので、そこは気づきませんでした。その箇所については、主張を取り下げます。

> そこに明文化されていければ自衛権は認められない

 そんなことは誰も言っていませんよ。認めるとか認めないとかの対象外である、というだけです。国連には、そんな権限(各国の自治権を侵害する権限)はない、ということです。話の対象外だ、ということ。
 あなたが「国連が認めている」と主張するので、私は「国連にはそんな(でしゃばる)権限はない」と言っている。単に、邪魔しないだけです。
Posted by 管理人 at 2019年11月29日 12:11
 リンク切れの箇所を修正しました。
 最後の 【 関連項目 】 のうち、

  → ( 集団的自衛権は合憲か? ): Open ブログ

 という箇所。
Posted by 管理人 at 2019年11月29日 19:02
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