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安倍政権は不祥事が続くのに、世論調査の支持率は高いままだ。なぜいつまでも政権が続くのか?
これについて分析した NHK の記事がある。
→ WEB特集 安倍政権は、なぜ続くのか | NHKニュース
いろいろと記してあるが、「民主党政権の記憶」というのが最も重要だろう。安倍政権がどれほどひどくても、「民主党時代よりはマシだ」と思うわけだ。
それが、支持の理由で最大を占める「他の内閣より良さそうだから」「野党政権よりもマシだから」ということの原因だろう。
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ここで問題だ。「民主党政権の記憶」というが、あの時代はそんなにひどかったか? いや、そうでもない。菅直人政権で参院選になるまでは、かなり高い支持率を得ていた。支持率が低下したのは、参院選以降であって、それまでは高い支持率があったのだ。
ではなぜ、参院選を境に、支持率が激減したか? それは、菅直人首相がいきなり「消費税の増税」を打ち出したからだ。これは国民にとって、寝耳に水であった。
「一人で勝手に増税を決めるな!」
と国民は一挙に怒り狂った。
このことは、ちょうど、細川政権における「国民福祉税」(現在の「消費税」にあたるもの)と同様だった。あれも、ある日突然、政権が増税を打ち出した。このときは「人が寝ている間に増税を決めるな!」と世間は怒り狂ったものだ。
一方、安倍政権では、消費税の増税を8%と 10 の2階も実行した。それでいて、世間の反発を(たいして)食っていない。
※ 増税の方針を決めたのは民主党政権だった、ということもあるが。
以上の両者を比べると、民主党の失敗の理由は、次のことだとわかる。
「増税について少しずつ論議するのではなく、いきなり選挙公約として打ち出した。そして、選挙に勝ったら信任されたと見なして増税を実行する、という方針を打ち出した」
これをひとことで言えば、
「選挙における信任を通じて、天下り的に、増税を国民に押しつけようとした」
これはもう、ほとんど「増税の独裁主義」というようなものだと感じられたのだ。だから国民は怒り狂った。
ただし、菅直人首相の意図は、そうではなかった。彼は正直者の善人だったので、こう思ったのだ。
「国家財政の赤字を解消するには、増税しかない。増税を実施するには、国民の信任を得るしかない。それには、選挙の前に増税の方針を示して、増税について国民の承認を得るしかない」
まるで民主主義のお手本のような正直者の発想である。「増税の直前に選挙をして国民の意思を問う」なんて、安倍首相にはとうてい実行できないことだ。安倍首相の場合は、増税を決めてから増税を実施するまでには、長い時間を置いた。そして、選挙の直前には、増税どころかその逆で、多額のバラマキを公約した。(保育所の無料化とか何とか。)
ともあれ、菅直人首相は愚直なまでに、「増税」の承認を求めようとした。だからこそ、国民は「増税は否」と回答することで、「民主党は否」というふうに回答したのである。
そして、このときの(いきなりの増税で)「裏切られた」という思いは、その後にずっと続くことになった。悪印象とともに。
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そして、この悪印象によって、国民の記憶は歪められた。
「民主党政権時代の生活は苦しかった」
というふうに。
実は、これは、間違いではない。たしかにあの時代は、最悪とも言えるほど、経済は落ち込んだ。国民の生活は青息吐息と言えるほどだった。その一方で、安倍首相になってからは、経済はかなり好転していった。……これはまさしく事実なのである。(経済指標の数値を見れば一目瞭然だ。)
ただし、その理由は、こうだ。
「民主党政権の時代(2009-2012)とは、リーマンショック後の大不況と、東日本大震災の被害とが、ダブルパンチで襲った時代だった」
この二つは、超弩級のマイナス要因だった。その二つが相次いで襲ったのだから、国民の暮らしが最悪であったのは当然だろう。
だから、「民主党政権時代は苦しかった」という記憶は、まさしく事実なのである。
ただし、その記憶は歪められた。「リーマンショック後の大不況と、東日本大震災の被害という、二つの外因のせいだ」という真実は隠蔽されて、「民主党のせいだ」というふうに思い込んだ。
なぜか? 一つは、「民主党に裏切られた」という思いである。大好きな女性と愛しあったあとで、いきなり裏切られたなら、その傷はあまりにも大きい。大きなトラウマとなって残る。そのあげく、「あの女はひどい悪女だった」というふうに記憶は歪められる。……かくて、過去の手痛い傷の痛みゆえに、国は歪められてしまったのである。「何もかもあいつが悪いんだ」というふうに。
もう一つの理由がある。それは、「人々があまりにもバカだから、過去の歴史を歪めて記憶している」ということに気づかないのである。「リーマンショック後の大不況と、東日本大震災の被害のせいだ」という事実を忘れて、真実を見失ってしまっているのである。
そこで、アルツハイマー病のように認知症気味の日本国民に向かって、私が教えて上げるのだ。「真実はこうですよ」と。
[ 付記 ]
端的に言えば、民主党政権に対する国民の思いは、「増税ばかり」ということだろう。菅直人政権も、次の野田政権も、やたらと消費税増税ばかりにこだわった。「これ一つが成立すれば政権が倒れようがどうでもいい」というぐらいにこだわった。
増税ばかりにこだわるという点では、「経済音痴」とも言える。民主党政権の支持者でさえ、増税には「経済音痴」という判定を下して批判した人が多かった。さらに、菅直人政権では増税で「寝耳に水の裏切り」まであった。
これほどまでに「増税」の印象が強いので、国民は民主党を毛嫌いするようになった。かくて、たった一つの「増税」という欠点が、他の長所をすべて覆い隠すほどになった。
民主党政権には、たしかに難点があったのである。ただしそのことを当事者は自覚できていないようだ。だから、今の後継二党(国民・立憲)も、「経済政策に弱い」という同じ難点を引きずっている。これが、安倍自民を倒せない一つの理由ともなっている。
【 追記 】
「新聞を見ないで、スマホばかりを見ているせいだ」
という見解もある。
若者を中心に情報源の中心はスマホを使ったSNSなどに移っている。電車の中など移動中に、ツイッターなどを使って断片的な情報を片手間に得ている。仕事を終えてじっくりと新聞を読んだり、テレビのストレートニュースを注視することなどほとんどないだろう。
情報をきちんと伝えるべきマスコミが社会の変化に十分対応できていないことにも問題があるのではないだろうか。そして、スマホでの断片的情報に満足している国民にも問題がある。
( → 安倍内閣の支持率はなぜ下がらないのか | 東洋経済 )
ふむ。これには、一理ある。新聞なら、広い面積で多くの記事を一覧できるから、1面トップで大きく報じる大事件を認識できる。スマホだと、小さな画面だから、何が大事件かもわからない。また、一覧性も弱い。スマホは、携帯性は優れているが、画面の小ささゆえに、情報量の小ささはどうしようもないのだ。こういう小さい画面ばかりを見ているから、思考の視野も狭くなってしまうのかもしれない。……そういう傾向も、いくらかはありそうだ。
スマホ時代には、利便性があるだけでなく、それなりの弱点も生じてしまう。その結果が、駄目な政治の継続だとしたら、笑えないな。
( ※ 東日本大震災のことも忘れて、「震災後に経済が回復したのは安倍政権のおかげ」と思い込んでいるようなのだから、どうしようもなほど思考が狭くなっている、とも言える。)
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