2019年11月10日

◆ 英語民間試験の混迷

 英語民間試験は、中止が決まったが、なおも混迷が続く。では、どうするべきか?

 ──

 個別に章分けして述べよう。

 混迷


 英語民間試験については、政府が推進の方向を示して強行しようとしたが、民間からは多大な批判が続出した。なおも政府は強行しようとしたが、萩生田大臣が「身の丈」発言をして、これが世論の大反発を招いて、政府は方針撤回を結論した。これで一安心かと思いきや、しっかり準備していた受験生は「今までの苦労が水の泡」と反発した。結局、世間では混迷が続く。これが現状だ。
  → 筑駒生、大学入学共通テスト中止を訴える 「ぼくたちに入試を受けさせてください」
  → 「はらわたが煮えくり返る」高校からは憤り 英語民間試験延期 | NHK
  → ババ引かされたのは受験生だ! 英語民間試験 なぜ国は推進した | NHK

 ──

 賛成論(推進論)の論拠は、「読む・書く」だけでなく「聞く・話す」の能力を向上させたい、ということ。
 反対論(中止論)の論拠は、平等性や公正さが保てないこと。たとえば、
  ・ 地方受験生が不利だ(受験機会が少ない)
  ・ 貧乏人が不利だ(複数回受験には費用がかかる)

 などだ。

 この両者は、真っ向から対立しているわけではない。
 賛成論のめざす目的は悪くないのだが、それを実行しようとすると、現実にやっていることがメチャクチャすぎる、というふうに判定できる。
 つまり、「目的はいいが、手段が駄目だ」とも言える。文科省の方は「目的は手段を正当化する」という方針で主張しているが、生徒や学校の側は「目的は手段を正当化しない」というふうに主張しているわけだ。

 未定


 で、結果はどうなったか? 一応、「中止」と決まった。だが、これは完全中止ではない。2年間の猶予または延期。2年間の延期のあとでは実施される。ただし、どういうふうになるかは未定だ。
 このあと、どうなるのか? もちろん、わからない。延期だけは決まったが、その先のことは何も決まっていないのだ。困りましたね。

 希望者だけ


 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。といっても、すでに出した案の再掲だが。
 英語民間試験は、希望者だけに実施するのがいいだろう。
( → 英語民間試験は希望者だけに: Open ブログ

 今回は、全員について「中止」という方針を出した。しかし私の提案は、こうだ。
 (英語民間試験を)
  ・ 受験したい人は、受験する
  ・ 受験したくない人は、受験しない

 これなら、どちらも望み通りになるのだから、不満はあるまい。これがベストだ、と判定する。

 補正1(希望者と非希望者)


 上記のようにした場合には、(受験の)希望者と非希望者で、有利・不利が発生しないようにする仕組みが必要だ。つまり、一種の点数補正である。
 その方法は、上記項目で記したとおり。再掲すれば、こうだ。
「英語民間試験を、取るか取らないかを、受験生はあらかじめ決めておく。取る人のグループと、取らない人のグループを、それぞれ人数で集計する。その人数の比率に従って、合格者を配分する」

 たとえば、受験生のうちで、「取る」が 67%で、「取らない」が 33% であるならば、合格者もまた、この比率で配分する。
( → 英語民間試験は希望者だけに: Open ブログ

 これなら有利・不利は発生しないので、不公平にならない。

 補正2(6段階)


 点数補正は、別の点でもなす必要がある。次のことだ。
 「異なる民間試験では、尺度が異なる。異なる尺度のものをうまく換算する仕組みが必要だ」


 このことは、もともと問題となっていた。そこで、審議会の検討の際に、そのための仕組みが考案された。
 「それぞれの点数を換算するための換算法をあらかじめ決めておく。そのために、それぞれの民間試験における点数のレベルを、段階的なレベルで示す」
 
 具体的には、民間試験の点数を、CEFRの6段階に「対応づけ」をする。このことで、CEFRの段階という形で評点を付ける。

 とはいえ、「この対応づけの根拠があやふやだ」と批判された。まったく非科学的なのだ。詳細は下記。1−(3)。
  → 新制度の問題点 | 2021年度(2020年度実施)の大学入学共通テストにおける英語民間試験の利用中止を求めます。

 結局、英語民間試験を実施するのはいいとしても、それで得た点数をきちんと評価する仕組みがまったくできていないのだ。これではナンセンスだというしかない。

 また、6段階の評価というのは、おおざっぱすぎるにもほどがある。英語民間試験の比重が1割以下であるなら、6段階の評価でもいい。しかし政府の方針では、「読む・書く」に対して、「聞く・話す」の配点の比重を 50%という高い比率にしようとしている。当初は 10% と言っていたのだが、その後に 20%以上と示したあとで、最終的な正式決定では 50% にまで高めることにした。
  → 民間試験、配点は英語全体の1割弱か:朝日新聞 2018年2月20日
  → 大学入学共通テスト、英語民間試験の配点は「2割以上」 | 平成30年6月12日
  → 大学共通テスト英語、リスニングの比重20→50%へ:朝日新聞 2019年6月7日

 何と 50% だ。これほどにも高い比率で配点しながら、その尺度が6段階という荒っぽさ。しかもその換算法はメチャクチャだ。
 受験生は「もてあそばれている」という状態だ。まったくひどいね。

 補正3


 そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。といっても、まったく新たな方法ではない。前に示した「国語の記述式試験」の採点法を、そっくりそのまま流用する。
 その原理は、こうだ。
 「得点の点数をそのまま採用するのではなく、成績の順位だけを見る。その順位を、正規分布に換算して、偏差値を得る。また、その偏差値に対応する換算点を得る」


 たとえば、200人中の 100位ならば、中間となるので、偏差値は 50 だ。それに相当する得点は、50%の得点だ。( 80点満点ならば 40点)

 より細かい話は、下記で。
  → 小論文試験の採点法: Open ブログ

 この方式を取れば、異なる民間試験に対して、統一的な尺度を得ることができる。
  ※ 点数の絶対的な数値は無関係で、相対的な順位だけが問題となるから。相対評価の一種である。そこでは絶対評価ゆえの問題点はなくなる。
  ※ 通信簿の5段階評価に似ている。それをもっと細分化したものだと考えればいい。50段階ぐらいに。

 なお、順位を見るには、大学ごとに受験生を調べてもいいのだが、望むべくは、それぞれの民間試験ごとに、全受験生の得点分布を調べてから、換算表を作ることが望ましい。そうすれば、各大学は、換算表を見て、受験生の実力を知ることができる。
  ※ 実際にはコンピュータですべて自動処理される。

 試験よりも教育


 最後に、本質的な話をしておこう。
 そもそも、英語民間試験というものは必要か? いや、そうは言えない。
 英語民間試験の狙いは、「聞く・話す」という能力を高めることだ。しかし、そのためには、英語教育において「聞く・話す」という能力を高めるような教育をなす必要がある。
 ところが、政府は、英語力を高めるために、教育で高めるのではなく、試験で高めようとしている。これでは順序が逆である。
 「試験で合否を決めれば、みんなが合格を目指して努力するので、みんなの水準が向上する」
 と思っているのだろう。一種の市場原理主義である。
 しかし、市場原理主義というのは、「劣者を排除する」には有効だが、「全体を向上させる」ことには無力である。経済の分野では、市場原理が成功しているように見えるのは、「劣者である企業を倒産させる(消滅させる)」ということが可能だからだ。しかしそれと同じことは、人間についてはできない。「劣者を死なせる(消滅させる)」ということは不可能だからだ。
 仮に政府が「試験をすれば競争原理で全員が向上する」というふうに思っているのであれば、そのためには、「試験で落ちた人は死刑にする」ということが必要なのだ。そうすれば、「生き残った人はみんな英語が上手になる」ということが成立する。(企業の場合と同様に。)
 実際には、政府はそんなことはしない。不合格者を死刑にすることはしない。だったら、「試験をすれば、みんなの英語力が向上する」なんていう妄想を捨てるべきだ。そのかわりに、「試験ではなく教育によって会話力を高める」という王道を取るべきだ。
 こんな当たり前のこともわからないまま、「試験をすれば英語力が向上する」という妄想を信じているのだから、政府は度しがたいとしか言いようがない。
  → 英語の民間試験の是非: Open ブログ

 ※ 市場原理とは、質を向上させる原理ではない。劣者を排除し、優者を増やすことで、優者の比率を上げることだ。そのことで全体的な質(平均点)は向上するが、個別に質を向上させることはできない。ここを勘違いしているのが、「市場原理主義者」だ。
 ※ 市場原理を推進するなら、「劣者を排除する」というシステムが必要不可欠だ。企業なら倒産させる。個人なら死なせる。(または「退学させる」「国外追放する」という手もあるが。)……そのことを理解できないのであれば、市場原理というものをまったく理解できていないことになる。なのに、自分の理解できないものを信じているとしたら、あまりにも愚かすぎる。それが政府だ。かくて、「試験によって英語力が向上する」という妄想を信じる。
 ※ ついでだが、日本の学校教育全般が成功してきたのは、入学試験があったからではない。その前に、きちんとした教育があったからだ。「教育なしに試験だけをやればいい」なんていう馬鹿げた方針を、先人が取らなかったからだ。このことに気づかないのが、今の政府だ。



 [ 付記1 ]
 政府がこういう馬鹿げた方針を取ったのは、楽天の三木谷が(政府の方針決定の場で)この方針を推進したせいであるらしい。
 大学入試にTOEFL、GTECなどいかがなものかと、専門家から強い疑問が呈されるなか、三木谷氏は官邸の産業競争力会議、文科省の有識者会議をリードし、文科省を動かした。

 三木谷氏は官邸に設けられている産業競争力会議のメンバーでもあり、ビジネスに役立つ英語力アップをという同会議の議論の流れをひっさげて文科省を動かそうとしたのである。 出来レースだったのだろうか、三木谷氏の意見はすぐに採用され、7月に小委員会が開かれて、英語民間試験導入へと大きく前進した。

 かなり激しいやり取りだったが、座長が三木谷氏の意見を重視したため、英語民間試験の導入を前提とした協議会の設置へと話は進んだ。後日、発足した協議会のメンバーが英語試験業者だらけだったのは言うまでもない。もちろん、英語など学習コンテンツの供給に熱心な楽天の三木谷氏やドリコムの内藤裕紀社長らも加わった。 英語の入試利権は、IT企業も巻き込んで大きく広がるところだった。
( → 落胆の三木谷氏。ゴリ押し英語民間試験「身の丈」発言への恨み節

 産業界における英語力の向上は、企業の国際競争力そのものを左右するので、何としても英語力を上げよう、と三木谷は思った。ま、それは悪くない。ところが、金については詳しいが教育については素人である悲しさ。「英語民間試験をやりさえすれば会話力が向上する」と単純に思い込んだ。「教育なんかしなくても、試験さえやれば能力は向上する」というわけだ。
 
 ま、こういう発想をする人はいる。
 「社員に成果主義を当てはめれば、社員はみんな成果を上げる」
 と信じた富士通が代表例だ。その結果は、「会社の業績向上」ではなく、「会社の業績の大幅悪化」だったのだが。
  → 成果主義 富士通 - Google 検索

 [ 付記2 ]
 この件については、「官僚が悪い」「官僚が天下り先を確保したがっているからだ」という「官僚悪玉論」も出た。しかし、先に引用した記事を読むと、真相がわかる。
 「文部科学省は、どうしても民間試験をやりたがっていた」こういう論調もあるようですが、取材するかぎり、この政策を危惧した職員は少なからずいました。
 一方の永田町。延期が決まるや否や、その責任を文部科学省、特に官僚に矛先を向けました。
( → WEB特集 ババ引かされたのは受験生だ! 英語民間試験 なぜ国は推進した | NHKニュース

 この件についてはあくまで「政治主導」でなされた。官僚の「拙速すぎる」という反発を抑えて、大臣の一方的な強硬策で、どんどん話が推進された。そして、最後に世論の反発で「中止」が決まると、政治家たちは「官僚が悪い」と声をそろえた。
 詳しくは上記記事を参照。



 【 関連項目 】
 英語民間試験については、前にも何度か述べたことがある。そちらも参照。
  → 英語の民間試験の是非: Open ブログ
  → 英語民間試験の異常事態: Open ブログ
  → 英語民間試験は希望者だけに: Open ブログ
 
 ──

 「6段階評価は駄目だ」という件については、前に別項でも論じたことがある。
  → 入試改革:1点刻みを廃止: Open ブログ
   ※ 「1点刻みを廃止する」という方針への批判。

 
posted by 管理人 at 23:38| Comment(3) | 一般(雑学)6 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
横道にそれますが
新しい天下り先の確保だったらしい
Posted by 老人 at 2019年11月11日 01:12
 最後のあたりに [ 付記2 ] を加筆しました。
 「官僚悪玉論」があるが、実際はそうではない……という話。
Posted by 管理人 at 2019年11月11日 07:56
 最後にリンクを一つ追加しました。「1点刻みを廃止する」という話。
Posted by 管理人 at 2019年11月11日 21:08
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

  ※ コメントが掲載されるまで、時間がかかることがあります。

過去ログ