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電力には、火力・原子力・再生エネ(太陽光や風力や水力)などがある。
このうち、再生エネ 100%を謳う電力供給もある。また、需要の側でも、「再生エネ 100%を導入しました」と誇る団体もある。たとえば、東京都がそうだ。
都庁第一本庁舎に限定した話だが、そこで使う電力を「再生エネ 100%だ」と誇っている。
→ 東京都が第一本庁舎を「再エネ100%」に、非FIT電力の供給で
→ 都庁第一本庁舎 再生可能エネルギー100%電力に切替え|東京都
しかし、「これはおかしい」と私は直感した。元の電力は、火力や水力や風力などがいろいろと混じっているのに、そのうちの一部だけを見出して、「再生エネ 100% だ」などと言っても無効だろう。電力は、混じってしまえば、区別は付かないからだ。
たとえば、あなたの家庭で取り出した電力に、「これは火力発電所から発電された電力です」というような表示は付いていない。電力というのは、系統電力につながれた時点で、すべては混じってしまうのだ。
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換言すれば、こうなる。
都庁が「再生エネ 100% だ」と言って、再生エネの使用率を高めたとしても、その分、他の需要家が再生エネの使用率を低くしてしまうので、何の意味もない。
わかりやすく言えば、こうだ。
再生エネの比率で重要なのは、その電力会社の発電の総量における再生エネの比率だけである。
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では、総量ではどうか? 調べれば、データはわかる。
東京都は8月、第一本庁舎で使う年間3千万キロワット時の電気をすべて再生可能エネルギー由来に切り替えた。都道府県や指定市の一定額以上の電力調達は一般競争入札が望ましいとされるが、都は再エネの利用率や利用量などを評価して点数化し、価格以外も考慮する総合評価方式による入札を導入。日立造船が6億3千万円余で落札した。
( → 電力の入札、環境配慮も 再エネ利用を評価 東京都など:朝日新聞 )
日立造船……の電源構成はFIT電気が28.3%、FIT以外の再エネ電気が8.2%、廃棄物(ごみ焼却、バイオマスを含む)が33.3%、卸電力取引所(火力、水力、原子力、FIT、再エネを含む)が22.3%など。
( → 東京都、第一本庁舎を「再エネ100%」に、日立造船が供給 | 日経 xTECH )
要点は次の二つ。
・ 電力の購入先は、日立造船だ。
・ 日立造船の電力構成は、再エネ電気が8.2%だ。
つまり、日立造船から購入している限りは、再生エネの比率は 8.2% であるにすぎない。FIT で売電する分を除いた料を分母として計算しても、いくらか増える程度であるにすぎない。卸電力取引所から購入する分に含まれる再生エネの分を加算しても、いくらか増える程度であるにすぎない。両方合わせても、再生エネ電気は 15%〜20%ぐらいにしかなるまい。これは 100%には遠く及ばない数値だ。
なのに、これを「再生エネ 100%」と称するのは、ペテンも同然だ。
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本質的に言えば、先に述べたとおり。つまり、「東京都で再生エネの利用が増えた分、他の需要家では再生エネの利用が減るから、トータルでは何の意味もない」ということだ。
東京都がやっていることは、ただの「項目の付け替え」だけだ。つまり、書類上の操作だけだ。そこでは 再生エネの利用を増やしているように見える。しかし実際には、書類上で、「東京都」という項目の再生エネ利用が増えて、「他の需要家」という項目の再生エネ利用が減るだけだ。
一部の項目だけを見れば、再生エネ利用が増えているように見えるが、項目の全体を見れば、何も変わっていないわけだ。
[ 付記 ]
炭酸ガスの減少を狙うのであれば、再生エネの利用を増やすよりは、石炭発電を LNG 発電に変更することの方が、よほど有益だ。これによって圧倒的に大規模の炭酸ガスを削減できる。
ただし、日本は国全体で、石炭発電を推進しようとしている。「新世代の石炭発電は、旧世代の石炭発電よりも、炭酸ガスの排出量が少ないから」という理屈。
これはいわば、「大金を盗む泥棒よりは、小金を盗む泥棒の方が、悪は少ない。ゆえに、小金を盗もう」と主張するようなものだ。あるいは、「百人殺すよりは、十人殺す方が、悪は少ない。ゆえに、十人殺すことは正しい」と主張するようなものだ。ひどいね。頭がおかしいというか、倫理観が狂っているというか。……いかにも自民党らしい詭弁だ。
で、こういう詭弁で、日本は石炭発電を推進しつつある。この件は、他の項目で何度か述べたので、ここでは再論しない。下記を読むといいだろう。
→ 石炭火力の論理ペテン: Open ブログ
→ 石炭発電をどう規制するか?: Open ブログ(コメント欄も)
→ https://www.hitachizosen.co.jp/csrsp/solution/
右のグラフと左のグラフを照合すると、次のことがわかる。
「日立造船の再エネは、廃棄物発電に含まれる」
このことから、こう結論できる。
「日立造船の再エネは、バイオマス発電である」
つまり、木材チップなどのバイオマスを燃焼させる再エネなのだ。太陽光や風力とは違う。
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さらに、このグラフでは、再エネが二重にカウントされていることになる。
・ 東京都に販売する分
・ 一般需要家に販売する分
この両方でカウントされている。本来ならば、東京都でカウントした分は、上のグラフでは除外して、「売約済みなので一般には販売されない量」のように分類するべきなのだが。
ともあれ、東京都のやっていることは、まったく意味をなさないことだとわかる。東京都が善行をやっているように見えるのは、二重にカウントしている量を増やしているからだ。それだけの話だ。