2019年10月30日

◆ 統合失調症・研究の今後

 統合失調症の原理の核心部分はわかったようだが、未解明の部分もある。そこで今後の研究について考える。

 ──

 今後の研究は、残った部分(硫化水素の役割や、症状に至る機序)について解明することだ。とはいえ、それはよくわかっていない。わかっていないのに真実を探るとすれば、まずは仮説を出すといい。そこで、本項では仮説を出そう。ただし、ただのヤマカンではなく、科学的な根拠のある仮説だ。
 二つ示そう。

 どこに作用? 


 硫化水素が作用するとして、脳のどの部分に作用するのか?
 まず、今回の研究では、次のことが判明した。(引用ふう)
 「ゲノムDNAでは、Mpst遺伝子領域のエピジェネティック変化の一つであるDNAメチル化が亢進している。このエピジェネティック変化で、Mpstタンパク質(という酵素)を通じて、硫化水素が発生する」
 このことと、「統合失調症は若いときに発症する」ということを結びつけて、次の仮説も出たようだ。
 「エピジェネティック変化は、若いときに生じる。だから統合失調症は若いときに発症するのだ」

 なるほど。これは一つの仮説である。しかし私は、これに否定的だ。理由はこうだ。
 「エピジェネティクス変化は、神経ストレスや体調不良などのせいで、エラーという形で起こるのが普通だ。これは高齢のときにも起こるだろうし、むしろ、高齢のときほど起こりがちだ。だから、若いときに限ってエピジェネティクス変化が起こるというような仮説は、採用しがたい」

 そこでかわりに、次の仮説を提出しよう。こうだ。

 統合失調症は若いときに発症するというのは、若いときには細胞分裂が盛んに起こるからだ。赤ん坊のときには小さかった脳が、子供時代や少年時代を経て、第二次性徴期の終わりのころまで、どんどん成長し続ける。( → 出典
 こういうふうに脳が拡大していく過程では、神経細胞(ニューロン)が細胞分裂することはないのだが、そのまわりの細胞は細胞分裂することがあるはずだ。(だから脳容量が増える。)
 その増える細胞とは、グリア細胞 という名前で総称される、さまざまな細胞だ。細胞数で神経細胞の50倍ほど存在していると推定される。
 グリア細胞が細胞分裂するときには、当然、遺伝子が働く。(それが遺伝子の役割だからだ。)
 この細胞分裂の過程で、遺伝子の働き方に何らかの異常が起こると、正常な細胞分裂ができなくなる。そのせいで、新たに生じた細胞の機能に、異常が起こることがありそうだ。その異常によって、統合失調症の症状が発生する、と考えられる。


 以上が仮説だ。その核心を言うと、こうだ。
 成長期の人間は、脳のグリア細胞が細胞分裂するが、そのときエピジェネティック変化が起こると、細胞分裂してできた新細胞の機能に異常が起こる。そのせいで、異常が起こった細胞が、悪さをする。かくて、統合失調症の症状が発生する。


 以上のことは、仮説であって、実証されてはいない。
 ただしこの仮説は、根拠のない仮説ではない。「名探偵の推理」のように、論理から導き出された仮説だ。そして、このあと推理を実証するのは、証拠である。その証拠が見出されれば、「名探偵の推理」は正しかったと証明される。
 そのときまでは、上記は仮説として扱われる。

 なお、上の仮説について、状況証拠(仮説を部分的に補強するもの)のような事柄はある。次のことだ。
 「硫化水素は、細胞分裂などの遺伝子発現に影響する」
 これもまた仮説ではあるが、これを裏付ける研究がある。下記だ。
  → 硫化水素に応答して遺伝子発現を調節するタンパク質を発見―硫化水素バイオセンサーの開発に道― | 東京工業大学

 レセプターと症状


 今回の研究では、物質的な関係性が示されているだけで、症状との関係についてはまったく言及されていない。統合失調症の症状である「感覚過敏」「幻覚・幻聴」「妄想」「認知障害」「異常な認知」「人格崩壊」などに、どういうふうにして結びつくのかは、まったくわかっていない。
 つまり、今回の研究は、生化学的な面では大きな成果を上げたのだが、精神病理的な意味では何もわかっていないも同然だと言える。
 また、「原因はわかったが、結果としての症状と結びつく過程がわからない」とも言える。困った。
 そこで、困ったときの Openブログ。とりあえずは、説明するための仮説を出そう。

 神経のレセプターには、興奮タイプと抑制タイプの二通りがある。前者は覚醒剤に対応し、後者は麻薬性鎮痛剤に対応する。覚醒剤を使うと神経が活性化され、麻薬性鎮痛剤を使うと神経が鈍麻される。このような薬剤が脳に特有の効果を及ぼすのは、それに対応するレセプター(受容体)が脳にもともとあるからだ。
 ここで、何らかの理由で、抑制タイプのレセプターが埋められてしまう(キャップを はめられてしまう)と、抑制タイプレセプターはもはやまともに機能しなくなる。そのような脳は、興奮タイプのレセプターだけが働き、抑制タイプのレセプターは働かなくなる。
 これはいわば、「アクセルだけがあってブレーキのない自動車」みたいなものだ。こうなると、自動車は暴走する。
 これがつまり、統合失調症の症状だ。


 この仮説は、従来からあるドーパミン仮説とは異なる。
 ドーパミン仮説は、「神経を活性化するドーパミンが過剰に分泌される」というものだ。これは、「興奮タイプのレセプターが刺激される」ということに相当する。
 なるほど、統合失調の患者には、「異常な興奮がある」というふうに見えるので、「興奮タイプのレセプターが刺激される」というふうに解釈することは、ありがちかもしれない。
 しかし私は「そうではない」と考える。統合失調の患者では、「興奮タイプのレセプターが刺激されている」のではなく、「抑制タイプのレセプターが作動不能になっている」のである。すると、外部から何らかの刺激があったり、あるいは患者自身の自発的な神経励起があったりしたあとで、それを抑制するためのブレーキが効かなくなる。そのせいで異常な暴走が起こる。
 自動車で言えば、異常な暴走が起こるのは、アクセルを過剰に踏んでいるからではなくて、ブレーキを踏むことができなくなっているからなのだ。(ブレーキを踏めば正常になるのに、ブレーキを踏むことができなくなっているので異常を起こす。)

 以上は、仮説だ。
 ただし、これはただの思いつきではない。事実に合致する面がいくつかある。先に述べた「感覚過敏」「幻覚・幻聴」「妄想」「認知障害」「異常な認知」「人格崩壊」などは、上の仮説でいくらか説明可能だ。また、症状がどんどん悪化していくことも、上の仮説でいくらか説明可能だ。

 なお、「抑制タイプのレセプターを埋めるものは何か」ということが問題となる。これが免疫ならば、カギとなる物質が遺伝子で作られるので、割と話は容易になる。だが、そういうことがあるかどうかはわからない。
 ここで硫化水素が何らかの作用を及ぼしているのではないか、とも推定できるが、その点ははっきりとしていない。(まったく不明だ。)
 Mpstタンパク質が影響している、という可能性はある。この場合、Mpstタンパク質はレセプターを埋める役割を果たしているだけであって、硫化水素の方はただのオマケふうの付随現象であるにすぎない、というふうになりそうだ。ただし、実際にそうであるのかは、まったく不明だ。
 Mpstタンパク質ではない別のタンパク質が影響している、という可能性もある。その場合にどうなっているのかは、やはり不明だ。

 上に述べた仮説は、あくまで仮説だ。「これがそのまま真実にドンピシャリで当てはまる」というのは、ちょっとありそうにない。
 しかし、これに示唆されるような似た事象ならば、現実に起こっているかもしれない。上の仮説は、真実に近づくための一里塚ぐらいにはなっていそうだ。

 なお、「抑制タイプのレセプターを埋める」というのが本項の仮説だが、逆に、「興奮レセプターを埋める」というのは、すでに現実にある。「ドーパミンレセプターアンタゴニスト」というものだ。これは、統合失調症に対して、何らかの効果または影響はあるらしいが、不十分であるようだ。詳しくは下記。
  → 統合失調症 | Sigma-Aldrich



 [ 付記 ]
 「(抑制タイプの)レセプターを埋める」
 というふうに述べたが、これはいかにも免疫ふうの発想なので、実際にはちょっと違っているかもしれない。
 神経細胞(ニューロン)を植物にたとえると、レセプターは花の部分に当たるが、一方、根の部分もある。花はきちんとしても、根や茎が損傷すると、「花としてのレセプターがきちんと働かない」という場合と同様の症状が起こりそうだ。
 ここで、「根や茎」に相当するものが、グリア細胞だと考えるといい。
 こう考えると、本項の前半の「グリア細胞の話」と後半の「レセプターの話」が、うまく結びつきそうだ。

posted by 管理人 at 23:59| Comment(0) | 医学・薬学 | 更新情報をチェックする
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