台風 19号について、いろいろと書いてきた。そのまとめを記そう。
──
(1) 大雨
今回の台風では、被害が出たところと、出ないところがある。被害が出たところの特徴は、「川のそばだ」というような事情もさることながら、雨量が圧倒的に多かったことが理由であるようだ。
たとえば、大きな被害が伝えられた丸森地区は、24時間雨量が 588ミリもあった。(朝日) これは途方もない雨量だ。
しかも、丸森地区の場所は、宮城県南端である。例年なら台風被害の起こりにくい東北だ。なのに、これほどの雨量があった。かなり異常なことである。というか、偶発的なことである。
とすれば、東日本のどの地区でも、そうなる可能性はあったのだ。台風があと少し東や西にズレていたら、また別の場所が大雨の被害に遭ったかもしれない。ほとんど運しだいと言える。
今回、大きな被害を受けた地域も、小さめの被害で済んだ地域も、その違いはほとんど偶発的な差であるにすぎない。
千曲川や阿武隈川の氾濫は、決して他人事ではないのだ。そういうふうに自覚しておこう。
特に、東京の東部が助かったのは、ほとんど偶然によると言える。
→ 荒川と江戸川の水害対策: Open ブログ
( ※ 25日には台風 21号のせいで、千葉県で途方もない豪雨があったと報道された。となると、台風19号と台風 21号では、東京の東部のあたりはちょうどうまく被害を回避したことになる。あまりにもラッキーだ。……実は、前もって私が台風に、「こっちに来るな」と念力をかけていたんだ。うまく台風が逸れてくれた。)
(2) 逃げ遅れ
大きな雨量が予想されていたからには、あらかじめ避難しておくのが賢明だ。ところが、現実には、なかなか避難しない人々が多かった。それでいて、氾濫の直前または直後に避難する、という事例が目立った。そのせいで、避難所に向かう途中で氾濫した水に呑み込まれて、水没する、というハメになることもあった。
ここでは、危険な場所から逃げるにしても、判断が遅すぎるのだ。そういう問題があった。下記のように。
→ 氾濫の直前の避難はやめよ: Open ブログ
氾濫の3時間後に避難勧告が出た、という例もあった。
→ 氾濫3時間後に避難勧告 すでにひざ下浸水、千曲川支流 [台風19号]:朝日新聞
(3) 1階の危険性
1階に住んでいる場合には、危険性が著しく高まる。特に川のそばではそうだ。こういう場合には、氾濫の警報を待たずに、さっさと避難しておくべきだ。さもないと、いざというときには手遅れになる。
→ 川崎の氾濫で死者1名: Open ブログ
なお、2階でも安全だとは言えない地域もある。
・ ハザードマップで水深3メートルを超える地域。
・ 山際などで土砂崩れの恐れのある地域。
前者の例としては、地盤沈下した江戸川区や、新幹線の車両基地が水没した地域。今回はひどくはならなかったが、ハザードマップでは水深が大きめの数字となっている。
(4) 川のそば
川のそばだというだけで、その地には十分に危険性があるとわきまえるべきだ。
たとえば、新幹線の車両基地や、ホクト。
→ 油断や楽観のせい(台風 19号): Open ブログ
また、二子玉川の世田谷記念病院や、25億円の医療機器水没のあった福島の病院や、川崎の美術館もそうだ。
→ 医療機器の水没(台風19号): Open ブログ
→ 川崎の美術館の水没: Open ブログ
また、山間の渓谷の川沿いも危険だった。
→ 渓谷での水害(2019): Open ブログ
また、次のような氾濫箇所もある。
・ 渡良瀬川と支流の合流点
・ 阿武隈川と支流の合流点
こういう場所では広大な氾濫があったと知られている。(これまでは特に紹介してこなかったが。)
以上のような事例では、川のそばだというだけで、その地には危険性があるとわかっていた。なぜなら、ハザードマップで知ることができたからだ。
こういうハザードマップの知識を得た上で、あらかじめ何らかの対策をしておくべきだっただろう。できれば、その地から移転することが好ましいが、そうでなくとも、機械を退避させるとか、人が避難所に行くとか、いろいろと対処はできたはずだ。
なのに、そうしない人が多かったのは、「油断や楽観」のせいだったと言える。つまり、事態を甘く見ていたわけだ。このことが、被害をやたらと増やす結果になった。
→ 油断や楽観のせい(台風 19号): Open ブログ
上記の (2)(3)(4) のすべてで、油断や楽観があったと見て取れる。
(5) 江戸川・荒川
江戸川・荒川は、今回は氾濫を免れた。これを「八ツ場ダムのおかげ」とか「地下神殿のおかげ」とか言う人もいるが、違う。
八ツ場ダムは確かに多くの水を溜めたが、その水が下流に届くまでには1日ぐらいかかるはずなので、下流で洪水を防いだ効果はほとんどない。
地下神殿に至っては、効果があるどころか、逆効果だった。なるほど、春日部のあたりの中小河川の氾濫を防ぐ効果はあった。その意味で春日部の当たりの水没を防いだ。しかしその水は、江戸川に送り込まれたので、江戸川の氾濫の危険はかえって高まったのだ。江戸川が氾濫しないで済んだのは、地下神殿があったからではなく、(地下神殿のせいで増水したにもかかわらず)東京の東部への降水量が少なかったからなのだ。それだけのことだ。だから、「次回も同様に大丈夫だ」とは思わない方がいい。次回は、地下神殿の送り込んだ大量の水のせいで、江戸川区は水没するかもしれないのだ。
→ 荒川と江戸川の水害対策: Open ブログ
また、荒川はもっと危険だ。今回も氾濫寸前だった。次回は氾濫する可能性は十分にある。
ただし、江戸川と荒川の場合は、幸運なことに、対処のしようがある。中流域に広大な田畑があるので、その地域に大規模な遊水池を作ることができるのだ。そうすれば、被害を免れることはできるだろう。
実際、すでに一部の遊水地は建設中である。さらに、いっそう多くの遊水地を追加で建設すれば、氾濫は十分に防ぐことができるだろう。
→ 荒川の遊水地が建設中: Open ブログ
(6) 多摩川
多摩川はどうか? 二子玉で氾濫したことで、「堤防建設に反対した人々のせいで氾濫が起こった」という、勘違いの批判も生じた。(実際には無関係)
→ 堤防の決壊の対策(2019): Open ブログ
→ 二子玉川地区の河川氾濫は人災か? 堤防建設問題を反対派と国交省に直撃《台風19号水害》 | 文春オンライン
しかし実は、二子玉川で(小規模な氾濫である)越水があったおかげで、多摩川では(大規模な氾濫をもたらす)決壊を免れたのだ。
ひるがえって、上記のような批判を受けて、今後、二子玉川に堤防が建設されたら、どうなるか? 二子玉川では越水が起こらないが、かわりに、他のどこかで越水が起こるだろう。しかもその場所は、(二子玉川と違って)越水対策がなされていない。となると、堤防は決壊する。
つまり、「二子玉川に堤防を建設する」という方針のせいで、将来的には多摩川が決壊する可能性が高いのだ。これでは、自分で自分の首を絞めるようなものだ。自殺行為。
→ 堤防よりも遊水地 2: Open ブログ
こういう危険を、ここで強く警告しておこう。
なお、多摩川では、遊水地を作るべき場所はほとんどない。かわりに、「多摩川の直線化」という案がある。
→ 多摩川の水害対策: Open ブログ
(7) 遊水地の有効性
洪水対策には遊水地を、と私は前から何度も言っていた。(ダム、堤防、地下神殿などではなくて、遊水地。)
今回もその説の正しさが実証されたと言っていいだろう。
→ 堤防よりも遊水地 2: Open ブログ
鶴見川では、新横浜の遊水地の効果があった。
→ 新横浜の遊水地(台風の後): Open ブログ
江戸川と荒川では、今回、渡良瀬遊水地と彩湖が大きく頑張ってくれたおかげで、下流域は救われたようだ。(渡良瀬遊水地は江戸川・利根川。彩湖は荒川)
千曲川、阿武隈川ではどうか? 今回はともかく、将来的には、遊水地を作るための場所はいっぱいあると示した。つまり、これらの川では、将来的に被害の再発を十分に防げるのだ。決して悲観的になるべきではないのだ。
→ 千曲川・阿武隈川の決壊を防ぐには?: Open ブログ
(8) 避難所の問題
今回の大規模な氾濫では、「避難所不足」という問題が発生した。千曲川や阿武隈川では、大規模氾濫が起こったのだが、事前および事後に非難した人が大量にいるにもかかわらず、避難所の数が足りていない。避難所が満員となって、避難所から追い出された人もいるそうだ。そうなると、避難所ではない請うて危険地区に一時退避して、自主避難所を運営することになるが、そこは公的支援の対象から漏れてしまって、援助もろくに届かないことがあるそうだ。
→ 台風19号で千曲川決壊の長野市、ある避難所の壮絶な1週間
つまり、キャパオーバーである。避難所の収容能力に対して、避難者の数が多くなりすぎたので、収容できなくなる。これは大変な問題だ。
台東区の避難所がホームレスの受け入れを拒否した、という話が大いに話題になった。しかるに、千曲川や阿武隈川の氾濫箇所では、普通の避難者が大量にあぶれてしまっているのである。(あまり報道されていないが。)
こういうことでは困る。避難所をちゃんと用意するべきだ。特に、「体育館だけ」というのが駄目だ。少なくとも氾濫した当日は、鉄筋校舎の2階以上も使うべきだろう。どうせ翌日以降には、氾濫した水も徐々に引いていくのだから、そのときには鉄筋校舎の2階以上の教室は明け渡される。だから、一時的には、鉄筋校舎の2階以上を使うべきなのだ。
その後、大量の避難者をどこに移すか……という問題が生じる。もはや体育館には収まらない。では、どうする? そこで、困ったときの Openブログ。うまい案を出そう。こうだ。
「氾濫した地域の近隣の自治体の避難所(体育館)に移す。被災した地域ではなく、被災していない周辺地域へと移す」
これなら、余力もあるので、十分に解決が可能だろう。
なお、このように「被災地以外に被災者を移転させる」というのは、地震のときにも応用できる。(というか、地震のときの方針を、洪水にも適用する。順序は逆だ。)
→ 地震のときは疎開を: Open ブログ
→ 地震のあとは疎開を 2: Open ブログ
→ 地震の被災地から脱出するべきか? : Open ブログ
(9) 防災庁
今回の台風では、被災者の情報管理や、対処の方法で、各省や自治体がバラバラでやっているせいで、いろいろと食い違いなどの不手際が発生した。
そこで、防災庁という組織が一元管理することで、こういう問題に対処できる。今回の台風では、防災庁の必要性がいっそう高まったと言えるだろう。
なお、気象庁との関係も大事だ。気象庁の「大雨特別警報」の解除後に氾濫が発生して、人々が被害に遭った、という例があった。
→ 氾濫の直前の避難はやめよ: Open ブログ
→ 「大雨特別警報」の解除後に「氾濫発生情報」 全国8河川で | NHKニュース
こういう問題も、防災庁が情報を一元管理することで避けられるはずだ。
にもかかわらず、官房長が(政府の方針として)防災庁の設置を否定している。
→ 防災庁を政府が否定: Open ブログ
無能な政府が輪をかけて無能になろうとしている。困ったことだ。
今回の事例でもわかるように、全国規模の台風には、市町村レベルの自治体で対応するべきではない。県レベルでも対応できない。国レベルで一元的に対処するべきなのだ。
とはいえ、対処するのが「内閣総理大臣と災害対策本部」というのでは、実効性がない。そもそもそこには専門家がいない。ただの連絡機関があるだけだ。それでは意味がない。ここはどうしても、専門家集団としての防災庁が必要なのだ。
なお、それは次のような組織だ。
→ 防災庁をどう組織するか?: Open ブログ
こういうものがあれば、将来の被害を減らすことができるだろう。
2019年10月25日
過去ログ
これはほとんどの人は避難所に来ないだろうと想定して出されていると思ったほうがいい
収容しきれない人数です
体育館が避難所として開放された学校は
教室も開放されたのでしょうか。
もし私が避難民で「体育館が一杯だから
別の避難所へ言って下さい」と言われたら
「教室でも廊下でもいい。毛布にくるまってるから
ここに居させてくれ!」というと思います
「明日から生徒の授業をするので、お断り」
となるのが普通です。
「住民の命より、生徒の授業の方が大切なのか」
と言われたら、
「当り前でしょ。ここを何だと思っているんだ。学校ですよ」
と言われておしまい。
ま、それをやめろ、というのが本項の提案。
──
( ※ 25日には台風 21号のせいで、千葉県で途方もない豪雨があったと報道された。となると、台風19号と台風 21号では、東京の東部のあたりはちょうどうまく被害を回避したことになる。あまりにもラッキーだ。……実は、前もって私が台風に、「こっちに来るな」と念力をかけていたんだ。うまく台風が逸れてくれた。)
全国でも先進的な「防災専用のホール。普段はスポーツ施設としても利用」
https://www.kamisu-arena.com/concept/
これが今回の台風では使えず、ここに避難した人は追い出される。(少しは使えたが。)
理由は? 民間に管理を委託したので、利益優先。スポーツ施設として貸し出すことが主目的となり、売上げに悪影響となる避難者は追い出される。
https://dot.asahi.com/dot/2019102500073.html
170億円もかけた防災専用の施設が、防災のためでなく、民間の利益活動のために使われる。ま、汚職も同然だ。
自民党政治では当然かも。どうせ袖の下をもらっているのだろう。いつものごとし。
管理人様は東京東部にお住まいですか?
調べてみると、管理者さまの唱える総合的な治水事業だったようです。
釜無川と御勅使川を溶岩流が固まってできた崖(高岩)に垂直にぶつけて水勢を抑えるとか、霞堤で遊水地に水を引き込むとか。
過去にもできる人は居るのですね。
http://www.mizu.gr.jp/kikanshi/no32/02.html
http://www.mizu.gr.jp/images/main/kikanshi/no32/32_b_img07P.pdf
高さ倍で貯水量5倍になった例もあるそうです。
北海道の夕張シューパロダムは、高さが67.5mを110.6mと約1.6倍にする工事が行われ、貯水容量は8700万立メートルから4億2700立方メートルへと、5倍近くにもなったそうです。
発電量も増やせるし、治水対策にもなると思うのですが、どうでしょうか?
→ http://openblog.seesaa.net/article/470880271.html
費用が高さの2乗に比例するが、貯水量はそうではない、という理由。
ただし、地形によっては、貯水量が高さの2乗以上に増える場合もありそうだ。ご紹介の事例は、そういう例らしい。
とはいえ、そういうことが可能なのは、地形的に特別な場合のみ。一般的には、そういううまい具合には、行かないだろう。
なお、治水の面では、あまり意味がない。上流でいくら貯水しても、下流に降った水は貯水できないし、また、上流に降った水が下流に届くころには、もはや洪水の危険のピークを過ぎている。治水の面では、気休めぐらいの効果しかなさそうだ。遊水地に比べれば、費用対効果は、圧倒的に劣る。
あと、環境面でも、遊水地の豊かな環境効果に比べると、ただの湖では、負けてしまうね。
それは単純すぎる。
通常は、ダムの貯水池の水位は、もともと限界ぐらいまで高くなっている。ある程度以上に高くすると、貯水池の水が、山稜からあふれて、隣の谷にこぼれてしまう。ダムをいくら高くしても、ダム以外のところから水がこぼれてしまうので、効果なし。
夕張の例では、最初からダムの規模が(工費不足で)小さなダムにしておいたのだろう。だからのちに拡大することができた。
通常は、もう拡大の余地がないはず。最初から目一杯の大きさで作っているはずなので。
──
3乗にはならないというのは、別の理由もある。
もともと現場の貯水池は、直方体に近い。このあと、高さを上げることはできるが、幅や奥行きは、あまり増やすことができないのが普通だ。
貯水量の加減を発電各社に依頼する方針」との趣旨で掲載されま
したね。
業務上の機密事項でしょうから発表されるまで表には出ない
でしょうけど、ここでの論説で同様の内容がシミュレートされて
いる所が興味深いです。