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先の項目(東京の下町を水没させよ)では、次の話を紹介した。
いざという時は江戸川区に沈んでいただいて、都心を守る設計になってるのえぐいな pic.twitter.com/kaFBRdOjMR
— いわ@弁護士(本物)&スポチャン (@yanweigaoping) October 10, 2019
つまり、荒川では、東側の堤防が西側の堤防よりも低くなっているので、いざというときには東側(江戸川区)が水没して、西側(墨田区・江東区)は救われる。こうして東京の大部分を守ろうとしている……と。
これと同様のことを江戸川にも適用できる、とも示した。
江戸川では、東側の堤防が西側の堤防よりも低くなるようにすれば、いざというときには東側(千葉側)が水没して、西側(東京都・江東区)は救われる。こうして東京・江東区を守ろうとすることができる……と。
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この件について、千葉県民から反発が来た。「千葉県民を犠牲にするのはけしからん」と。
なるほど。一方を救うために他方を犠牲にするというのでは、犠牲になる方が「たまったものじゃない」と怒るのは当然だろう。たとえ「多数を救うために少数を犠牲にする」にしても、犠牲になる側が怒るのは当然だ。
そこで、実状を詳しく調べてみた。
まずは、衛星写真を見る。
次に、市川市と江戸川区のハザードマップを見る。
→ 千葉県・市川市のハザードマップ
→ 江戸川区のハザードマップ
両者を比較しよう。
市川市では、江戸川区に比べて、洪水の被害が少ないとわかる。3メートル未満の地域(薄いオレンジ色)の領域が多い。浸水なしの領域(白色)もかなり多い。3メートル以上の領域(濃いピンク色)は堤防のすぐそばの一部だけだ。(左上の田んぼの部分もあるが、ここは人家がない。)
江戸川区では、3メートル未満の地域は3割ぐらいしかなくて、3メートル以上5メートル未満の地域が7割ぐらいある。
明らかに、千葉側よりも江戸川区(東京側)の方が、圧倒的に被害が大きい。
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では、この違いはどこから来るか? それは、よく知られた通りで、江戸川区の大部分は地盤沈下して、海抜0メートル以下の標高しかないからだ。
江戸川・荒川の大河川や海に囲まれた河口に位置する江戸川区は、かつての地下水汲み上げによる地盤沈下の影響も加わり、区面積の7割が満潮位以下のゼロメートル地帯と呼ばれる低地であり、洪水はもとより、区内全域が高潮による浸水被害の危険にさらされている地域です。
( → 江戸川区の地形 江戸川区ホームページ )
上のページには海抜の数字も出ている。

出典:上記 PDF
見ればわかるように、海水面(満潮面・干潮面)よりも低い地域がかなりある。
すると、どうなるか? 江東区に、江戸川や荒川から氾濫した水が流れ込むと、その水は地域に溜まって、外部には流出しにくいのだ。
一方、千葉側ではどうか? 地盤沈下が少ないせいで、地面の標高は海水面よりも高い場所が多い。千葉側に、江戸川や荒川から氾濫した水が流れ込むと、その水は地域から拡散したあげく、南にある海岸に達して、海へ流出しやすいのだ。つまり、市川市に江戸川の水が注ぎ込んでも、地面を伝って、東京湾に流れ出てしまうのだ。だから、ある程度以上には、水深が深まらないわけだ。(特に、白色の場所は、標高が高いらしくて、水はほとんど溜まらないようだ。)
なお、以上は決壊の場合だ。決壊でなくて越水の場合には、被害ははるかに小さい。
ただの越水のときには、千葉側なら、水深3メートルなることはなく、せいぜい1メートルぐらいだろう。床下浸水か床上浸水ぐらいだ。水はどんどん広がっていって、やがては海に行き着くから、水深は深まらない。もちろん溺死する人はいないだろう。
江戸川区は違う。決壊でなくて越水するだけでも、土地が凹んでいるせいで、水がどんどん溜まる。だから、ただの越水であっても、長時間続けば、あふれる水の量が多いせいで、水深はどんどん深まる。地盤沈下のひどい地域(海水面以下1メートル)で、満潮(2メートル)になれば、水深は3メートルになる。こうなると、溺死者も出るだろう。
なお、地盤沈下については、先に示した図も参考になる。

ここでは、荒川のそばで(元の標高に比べて)地盤沈下が 4.5メートルもあったことが示されている。
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以上をまとめると、こうだ。
江戸川区ではひどい地盤沈下がある。( 4.5メートルの地盤沈下)
そのせいで、江戸川区では海抜0メートル以下の地域がかなりある。そこに江戸川から氾濫した水が流れ込むと、ひどいことになる。ただの越水であっても、地域と時刻によっては水深3メートルにもなる。人が溺死するほどの水深だ。
千葉側では地盤沈下がほとんどない。海抜0メートル以下の地域もない。海面よりも標高の高い土地ばかりだ。
おかげで、江戸川から氾濫した水が流れ込んでも、ひどいことにはならない。ただの越水であれば、水深1メートル以下で済むだろう。水はゆっくり溜まるだろうが、どんどん広がっていって、東京湾に達して、東京湾に溢れ出る。地域には水は溜まらないし、たいしたことにはならない。
先の項目では、越水の場合を論じた。「千葉の川の堤防を低くして、越水の水を千葉の側に流したら」というふうに。
その場合には、千葉の側に被害が出るが、その被害は、水深1メートル以下で済むので、死者が出ることはまずないのだ。たしかに被害は出るのだが、その被害は軽い被害で済むのだ。
一方、逆に、江戸川区の方に水を流し込めば、そこは地盤沈下している土地であるがゆえに、水がどんどん溜まる。最悪、水深3メートル以上になる。そうなると、溺死者が続出する。最悪、数千人の溺死者が出るかもしれない。
こうして、「江戸川の水をどちら側に越水させるべきか?」という問題には、解答が与えられた。「被害が圧倒的に軽く済む方」である。つまり、千葉側だ。
ここでは「東京と千葉のどちらを犠牲にするべきか?」という問題は発生しない。「東京に多大な人命の犠牲をもたらすか、千葉に小さな床下浸水ぐらいの迷惑をもたらすか」という二者択一があるにすぎない。
比喩的に言えば、「冷水をぶっかけることで、病人を大量に肺炎死にするか、健康人を大量に風邪にするか」という問題だ。前者ならば死者多数で、後者ならば死者ゼロ同然だ。その選択だ。
こういうふうに問題を整理すれば、解答を出すのも容易になるだろう。
[ 付記1 ]
上で述べたのは、越水の場合だ。では、越水でなく決壊が起こると、どうなるか?
江戸川区では、決壊による洪水のとき、水深 4.5メートル以上にもなる地域も出る。これは3階にも浸水するほどの水深だ。こうなると、溺死者は非常に多数になるだろう。最大では数万人も溺死する可能性がある。
市川市では、決壊による洪水のとき、急激に水が流れ込むせいで、堤防のそばでは水深3メートルぐらいになる地域もある。それでも、大部分の地域は水深3メートルに達しないので、死者が数万人にもなるということは考えられない。江戸川区の場合よりは、ずっと軽い被害で済むだろう。
ただ、この件は、「堤防からの越水」という本件のテーマとは別の話なので、ここでは特に考える必要はない。
[ 付記2 ]
冒頭のツイートでは、次の言葉があった。
いざという時は江戸川区に沈んでいただいて、都心を守る設計になってる
ただしこの図は、設計の図ではなく、現状の図であるのかもしれない。もし現状の図であるとしたら、次の可能性もある。
「設計した時点では、都心側も江戸川区の側も、どちらも同じ高さで設計されていた。しかるに、江戸川区の側では地盤沈下がひどい。時間がたつにつれて、どんどん地面が下がっている。それにともなって、堤防の高さも下がっていく。だから、現時点では、(これまでの地盤沈下の結果として)江戸川区の川の堤防が下がっているだけだ」
もしそうだとすれば、現状ではこうなっているというだけであって、当初の設計値では、両者はもともと同じ高さで設計されていたかもしれないのだ。
(江戸川区の側を犠牲にするという意図ではない、ということ。)
※ 本当はどうであるかは、不明。
タイムスタンプは 下記 ↓
名案だが、住民への保障が無いとコンセンサスはとれないと思うよ。