2019年10月19日

◆ 川崎の美術館の水没

 川崎の美術館が水没して、貴重な資料が被害を受けた。その事情を探る。

 ──

 下記の記事がある。
 《 川崎市民ミュージアム、収蔵庫すべて浸水 漫画など所蔵 》
 台風19号で地下部分が浸水した川崎市市民ミュージアム(同市中原区)で、地下にある所蔵品を収めた九つの収蔵庫すべてが浸水被害を受けていたことが明らかになった。
 九つの収蔵庫全てに浸水が認められ、内部の物が散乱している状態だったという。詳しい被害状況はわかっていない。
 市によると、地下の中央監視室には4人のスタッフがいたが、12日午後7時半に浸水が始まったという連絡があったという。収蔵庫の廊下につながる防火扉の前に土嚢(どのう)を積むなどの作業を行ったが、浸水がひどくなったため、午後8時半ごろまでに避難したという。
 同館は1988年に開館。国内の美術館では珍しい漫画や写真、映像などの近代メディアの資料など約26万点を所蔵している。
 古文書や絵画、浮世絵など水に弱い所蔵品が浸水によって被害を受けている可能性は「否定できない」
( → [台風19号]:朝日新聞

 これについて、二つの観点から考えよう。

 (1) 対策

 今回は被害を受けたが、では、どう対策すればよかったか?
 これについては、次のような意見がある。
clclcl  収蔵庫が地下にあること自体は問題ない。温湿度を管理しやすいとか、地震に強いとか、長所は多い。問題なのは立地。
( → はてなブックマーク

 このコメントが1番人気になっているが、論理がおかしい。建物というのは、どこでも立地が先に決まって、そのあとで建物が決まる。「立地が良くないから立地を変えます」という具合には行かない。立地をあからじめ与件として与えられた上で、建物については自由に決めることができる。「先に建物を決めてから、立地を決める」というような上記コメントは、順番が逆だ。
 今回は、「川のすぐそば」という立地が先に与えられた。ならば、その上で、建物をどうするかを決めるべきだった。
 実際には、そのときに洪水のことなどまったく考慮していなかった。そこが駄目だった。

 ちなみに、洪水のことを十分に考慮して、高床式にした美術館もある。
  → 空虚なるモニュメント 江戸東京博物館|フード・レストラン|NIKKEI STYLE
 この記事によると、設計者が洪水のことを強く意識する人だったので、この建物も高床式にしたらしい。
 のみならず、この1階部分は貯水槽になっている、という話もある。
  → 両国 江戸東京博物館 | YAMAP / ヤマップ
 一部抜粋しよう。
ここは洪水防止と雨水利用を兼ねた大型貯槽(2,500m3)でも有名です。

 では、川崎市民ミュージアムも、高床式にするべきだったか? それが理想だろうが、いったん建物を作ったあとでは、今さらどうしようもない。では、どうするべきだったか?
 誰もが思いつくのが、こうだ。
 「資料室を地下から地上2階以上に移す」
 まあ、これなら安全だが、肝心の展示室が激減してしまう。かといって、展示室を地下にするのも、利便性で難がある。

 私のお薦めは、こうだ。
 「水密扉を用意する。1階から地階への入口部分と、地下の各部屋の入口部分に、水密扉を設置する」
 こうしておけば十分だっただろう。
  → 水密扉(建物への浸水防止)|株式会社環境総合テクノス
  → 水密扉 - Google 画像一覧

 現実には、どうだったか? 耐水性のことを考えていないので、平凡な防火扉が用いられていたようだ。その結果は、こうだ。


boukatobira.jpg
出典:朝日新聞


 かくて、貴重な資料は水没した。

 (2) 場所

 この洪水があった場所では、どんな水害があったのか? 「氾濫があった」という情報はないので、すぐそばの武蔵小杉と同様に、地面から下水があふれたのだろう。
 そう推測していたが、それを裏付ける記事が見つかった。(地方版。)
 川崎市中原区上丸子山王町2丁目の自宅を片付けていた山崎嘉夫さん(83)によると、一帯は12日夕方、急に水があふれ出し家の中にも流れ込んできた。
( → 神奈川)ごみ山積、全容見えぬ被害 川崎市の多摩川沿い:朝日新聞

 やはり、上記の推測通りだったようだ。堤防から水が氾濫したのではなく、地面から地上へ溢れ出たようだ。それも、
   「川 → 下水管 → 地上」
 という経由で。

 ──

 ……と、ここまで書いたあとで、夕刊を見たら、新たな情報が記してあった。まさしくそうであるとの趣旨。(より確実)
 市上下水道局によると、中原区では多摩川の水が下水管を通じて逆流し、地上に噴き出した可能性が高いという。水路や下水の水が行き場を失って起こる内水氾濫だ。
 付近の下水道は雨水と汚水を同じ管に流すタイプで、処理能力を超えるような大雨の場合、下水が多摩川に流れ込むようになっている。排水口は普段の川面よりも高い場所にあるが、今回は川の水位が上回った。下水道には逆流を防ぐ扉があるが、この日は閉めなかった。市の担当者は「強い雨が降っており、閉めると下水が流れずにあふれるおそれがあった」と説明する。
( → タワマンエレベーターまだ動かず 武蔵小杉を襲った泥水 [台風19号]:朝日新聞

 画像もある。
  → 参考画像

 まさしく下水が地表にあふれたわけだ。
 しかも、その原因は、意外なことに、「市の担当者の操作ミス」であった。「扉を閉めると、水を外に流せない」とだけ思っていた。このとき、「排水口は普段の川面よりも高い場所にあるが、今回は川の水位が上回った」ということを知っていたにもかかわらず、川の高い水面と、地上の低い下水を見たとき、「川の水が下水管に押しよせる」とは思わなかった。つまり、「水は高きから低きに流れる」とは思わなかった。
 ああ。悲しいかな。川崎市に水害が起こった原因は、「水は高きから低きに流れる」という原理を知らない職員が操作をしたことなのだ。
 市職員がこれほどにも馬鹿なら、せめてそこいらの小学生にでも任せればよかったのだろうが、たぶん、「人件費抑制」のために、非常勤の職員に任せていたのだろう。(下は国家公務員の例。)
  → 国家公務員「4人に1人が非正規雇用」
 こういうふうに、安くて駄目な公務員ばかりになった結果が、今回の川崎の被害だ。

( ※ 他の地域では同種の問題が起こらなかった。たぶん「水は高きから低きに流れる」ということを知っていたので、きちんと扉を閉めたのだろう。だから逆流は起こらなかった。よかったね。)

 ──

 さて。公務員の件は別として、このような危険性(洪水の危険性)に対しては、一般的には、どう対策できたか? 
 住民は「寝耳に水」と思っている人が多いようだ。だが、そんなことはない。現地のハザードマップを見れば、この地域は最も危険な地域だと表示されている。もともと危険性は予測されていたのである。(川のそばで、かつ、低い土地だから。)
 とすれば、最初から「建物を高床式にする」とか、「マンションの2階以上に住む」とか、そういう対策を取っておくべきだった。

 全般的には、「危険は予測されていた。なのに十分に対策を取らなかった方が悪い」とも言える。
( ※ お馬鹿な公務員の問題は別にあるが。)



 [ 付記1 ]
 他にも、似た例(水没)がある。
 東京都市大学の図書館が水没・浸水した。
  → 東京都市大学、世田谷キャンパスが水没。図書館地下が大打撃。 - Togetter
 台風19号による大雨で多摩川が増水した影響で、東京都市大世田谷キャンパス(東京都世田谷区玉堤)の建物の半数にあたる8棟が浸水し、14棟が停電中で授業ができない状態にあることが、同大への取材で分かった。図書館の蔵書約9万冊も浸水の被害が出ている。
( → 【台風19号】東京都市大、地下の図書館で9万冊浸水 - 産経ニュース

 ここは、堤防のすぐ近くだ。しかも堤防の高さは1メートル弱だ。
  → http://j.mp/33se5vo
 したがって1メートルぐらいの浸水は十分に予想されていた。ここでも、対策を取らなかったことが問題となる。(大学のレベルが低すぎるのかも。)

 ※ ここは、二子玉川のそばにあって、世田谷記念病院の被害に似ている。

 [ 付記2 ]
 大阪にも川のそば(中之島)に東洋陶磁美術館があるぞ……という声があった。
  → はてなブックマーク
 そう言えば、大阪にも台風 21号の被害があったな……と思って、調べてみた。すると……
 台風 21号のときには、大阪で氾濫は起こっていなかった。上流部に豪雨が降ったわけではないからだろう。氾濫がないから、氾濫による被害もない。
 東洋陶磁美術館そのものは、ストリートビューを見た限りでは、高床式にするというような対策は練っていないように見える。ただし、壁などで水を阻止するつもりなのかもしれない。
  → http://j.mp/2MrAhA3
 対策をしているのかしていないのか、この画像だけではなんとも判断をしにくい。
 ただし、収蔵物は陶磁であるから、紙の収蔵物とは違って、浸水による被害は生じないので、もともと問題は少ないのかもしれない。

posted by 管理人 at 21:27 | Comment(0) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
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