──
近所の河川が氾濫しそうだ、という情報を聞いて、「大変だあ」と思って避難したら、途中で氾濫した水に呑み込まれて、かえって死んでしまった……というわけ。
これが、自分の甘い認識のせいであるなら、まだ諦めも付く。ところが、消防団が一軒一軒を訪問して、「氾濫しそうですよ。避難してください」と警告しまくっていることもある。で、その言葉を真に受けて、自動車で避難したら、自動車もろとも流されてしまった……というわけ。
これでは、消防団は、被害を減らすどころか、被害を増やしていることになる。自宅に留まっていれば安全なのに、あえて氾濫した水の中に人々を誘導するのだから、ほとんど悪魔の所業だ。
こういうことがあったので、今回の水害では(現時点で) 79人という多数の死者が発生したようだ。あまりにも多すぎる数だ。その大部分は、自宅に留まっていれば、こんな被害には遭わずに済んだものと思える。
事例はたくさんあるが、たとえば下記。
亡くなった山本紀子さんの長女によりますと、午後8時半ごろ、消防が避難を呼びかける声が聞こえたため、自宅にいた家族6人が2台の車に分乗して避難所に向かったということです。
山本さんは、長女が運転する車に乗っていましたが、車は途中で流され、あっという間に胸の辺りまで浸水したといいます。屋根をつかんで救助を待ちましたが、山本さんは低体温症になり亡くなりました。
亡くなった山本さんの近所に住む男性は「午後8時ごろ、消防団が回ってきて避難を呼びかけていた。それを聞いて自分も母親と一緒に近くの公民館に避難した。公民館に行くには、現場の道路を通らざるをえない状況でした」と話していました。
( → ドラレコに残る“道路冠水” 自宅から4分の出来事とは 栃木 | NHKニュース )
福島県南相馬市の市職員、大内涼平さん(25)は13日未明、職場から車で帰宅中に冠水した道路にはまり、外に出たところを流された。
( → 復興のため、福島に戻った25歳犠牲 南相馬市職員、避難所業務終え帰宅中:朝日新聞 )
避難のためであれ、帰宅のためであれ、氾濫の危険があるときには戸外に出てはいけない。
なのに、多くの人が、「自動車に乗っているから大丈夫だ。自動車ならば流されまい」と思って、自動車に乗る。そのあげく、多くの被害が発生しているのだ。
このような被害が多いということをはっきりと認識するべきだ。その上で、政府や自治体も「台風が来たあとでは外に出ないでください」と広報するべきだ。
「台風が来ます」「避難してください」と広報するだけでは足りない。「避難することがかえって危険をもたらす」ということも十分に広報するべきだ。
[ 付記1 ]
なかでも、最も悲惨なのは、次の事例だ。
台風で浸水被害が起きていた福島県いわき市で、東京消防庁の隊員がヘリコプターから降下して孤立していた77歳の女性をつり上げて救助していたところ、誤って女性が落下する事故がありました。女性は搬送先の病院で死亡し、東京消防庁は、女性の体重を支えるフックをつけ忘れたままつり上げるミスがあったとして、謝罪しました。
( → フックつけ忘れるミス ヘリで救助中に落下の女性死亡 | NHKニュース )
この女性は、そもそも、生命の危機に瀕していたわけではない。ヘリコプターで緊急救助する必要などはまったくなかった。自宅に留まっていても、十分に生きることはできた。
なのに、「自宅で孤立しているから救助する」ということで、おせっかいにも、自宅から避難させようとした。
孤立したことぐらいで、大騒ぎすることはないのだが。13日は氾濫の真っ最中だが、翌日になれば、水は大幅に引いたのだ。そのときまで待てば済んだだけのことだ。
「孤立した人は何が何でも救わなくては」
というような、過剰なおせっかいのせいで、人を死なせてしまったわけだ。
まったく、こういう本末転倒の例が多すぎる。
台風が来る前ならば、避難所に行くことも大事だが、来ている最中や、来たあとでは、急いで避難する必要はないのだ。
「小さな親切、大きなお世話」
みたいな感じである。しかも、それで人命が奪われるのだから、悲惨な皮肉だ。人が愚かだと、こういうことになる。
[ 付記2 ]
悲惨と言えば、次のような事例もある。
背丈の高さまで水が迫る中、夫は妻の手を握り「長いこと世話になったな」と別れを告げて沈んでいった−。夏井川(なついがわ)の氾濫で大きな被害が出た福島県いわき市の自宅で亡くなった関根治さん(86)は最後の瞬間、妻に感謝の気持ちを伝えた。
百合子さんは治さんの手を引っ張ってベッドに上げようとしたが、大量の水の中で、足腰の不自由な治さんはどうしてもベッドに上がることができず「世話になった」と言い残して沈んでいった。治さんの手の冷たい感触が今も残る。
( → 目の前で夫「長いこと世話になったな」夏井川氾濫 - 社会 : 日刊スポーツ )
治さんは約5年前から腰の病気で足が不自由になり、この1年は何かにつかまって立つのがやっと。治さんは窓際まで移動し、窓から外に叫んで近所に助けを求めた。百合子さんが自分の部屋で、貴重品を部屋の高い所に移していると、水位は一気に上昇した。
「体冷えるから、早くこっちに来て」。百合子さんは自分の部屋のベッドに上り、治さんを呼んだ。「しっかりして!」。手を握り、ベッドに上げようとしたが、水につかった治さんは体に力が入らない。「長いこと世話になったな」。ぐったりしたまま、治さんはこう言い残して泥水に沈んでいった。
( → 寝室で増水 目の前で夫「世話になったな」…86歳妻「1人はつらい」福島・いわき (毎日新聞) )
病気で動けなくなった身障者が、避難することもままならないまま、水に沈んでいったのだ。
こういう身障者を事前に避難させる行政システムはなかったのだろうか? 行政の欠陥としか言えない。
※ なお、避難先は、普通の避難所でなく、介護施設のデイセンターが適当だろう。そこにある介護用の自動車を使えば、寝たきりの人を運ぶこともできるはずだ。
※ 現実には、福祉施設との連携もできないまま、見殺しにしたわけだ。行政の欠陥とはいえ、ひどいものだ。
平均値で人口1000人当たり約60名の高齢の要介護者がいて、その内約40名が在宅生活しています。
対象は全体のうち、ごく限られた少数だけなので、十分に保護が可能です。かける時間だって、1日ぐらいはたっぷり取れる。
デイセンターの車で集めて回れば、簡単でしょう。
要介護といっても、半分ぐらいは自力歩行可能なので、普通の乗用車・マイクロバスに乗せることができる。
寝たきりだと、もともと施設に入っていることが多い。だから、寝たきりで在宅の人は、そう多くない。
特に被災1日前に、叛乱する危険のある川のそば(避難指示が出そうな川のそば)は相当な範囲になり、福祉施設の通常のスタッフでも介護人員不足で難しいので、行政職員か地域の応援部隊が必要な気がします。それさえクリアできれば可能ですが、行政職員を使うことに、たぶん、市区町村行政がOK出さないでしょう。
荒川圏域で浸水人口250万人と仮定して、自力移動困難な在宅者は3〜5万人ぐらいいそうです。
家族自身が助けて介護センターまで運ぶことにすれば、対象者の数は減る。一般的には、十分にまかなえる。
> 荒川圏域で浸水人口250万人と仮定して、自力移動困難な在宅者は3〜5万人ぐらいいそうです。
東京の下町地域は、大半が水没の可能性があるので、この地域だけは助けられない。そもそも普通の人でさえ助けられない。この地域については、水没の場合には、見捨てるしかない。
助ける方法は、水没したあとのことではなく、絶対に水没しないようにすることだ。
それについては、本日の項目を参照。(あとで書く。)
この指針を都道府県は出して、被災推計の1〜2日前は災害時の移動困難な人への対応をデイセンターは行うとし、定員を超えても返還金は徴収せず、人件費は税金で賄うとすれば全ては丸く収まりそうです。
災害時に介護関係の職員をタダ働きさせようとするから行政との連携がうまくいかない。