2019年10月17日

◆ 堤防の決壊の対策(2019)

 堤防の決壊を防ぐには、どうすればいいか? 

 ──

 今回の台風 19号では多大な被害が発生したが、その理由は堤防の決壊だった。
  → 甚大な被害 台風19号 77死亡 59河川で決壊 全容は不明 | NHK
  → 堤防決壊、過去もほぼ同じ場所 「ハード対策」頼み限界:朝日新聞

 では、堤防の決壊を防ぐには、どうすればいいか? それをテーマとして考えよう。

 ──

 ここでいきなり核心を言えば、次のことが大切だ。
 「氾濫と決壊は別のことである。決壊を防ぐには、その前の氾濫を防げばいいのではなく、その前に氾濫を起こせばいい」


 これは通常の常識とは逆である。このことが大切なので、解説しよう。
 まず、氾濫と決壊とは別の概念である。このことは、前に次の図とともに解説した。( → 堤防決壊の原因と対策: Open ブログ


kekkai.gif
出典( PDF )


 つまり、こうだ。
 氾濫とは、(川の)内側の水が堤防を越えて、外側に出ることだ。
 決壊とは、氾濫が起こったあとで、堤防の外側が水に削られたあとで、堤防の本体が崩壊することだ。

 ──

 こう理解したあとで、たいていの人は、次のように考える。
 「氾濫のあとで、決壊が起こるのか。ならば、決壊を防ぐには、その前段階である氾濫を防げばいい」

 ところが、氾濫を防ぐことは、非常に困難なのである。なぜなら、氾濫を防ぐために、ある箇所で堤防を高くすれば、今度は別の場所で氾濫が起こる。そこで堤防を高くすれば、また別の場所で氾濫が起こる。……こうしてどこまでも、いたちごっこが続く。結局、対処するには、沿岸の全部で堤防を高くする必要がある。しかしそれには巨額の金がかかりすぎる。こうして、金の問題ゆえに、実現は困難となる。

 そこで、発想の転換をしよう。
 「大切なのは、氾濫を止めるという無理難題を実現することではない。堤防の決壊という最終的な被害を防ぐことさえ実現すればいい」


 つまり、堤防の決壊という大惨事を防ぐことさえできれば、氾濫による浸水ぐらいは我慢すればいい、という発想だ。
 ただし、それを実現するには、次のことが必要だ。
 「氾濫は起こるが、決壊は起こらないようにする」
 そのためには、次のようにすればいい。
 「氾濫の起こるところだけは、決壊が起こらないように、堤防をコンクリで強化する」

 堤防の決壊が起こるのは、堤防の外側の斜面が、氾濫した水で削り取られるからだ。ならば、その部分をコンクリで強化すればいい。そうすれば、堤防の決壊は起こらない。
 問題は、どこで波乱が起こるかを、あらかじめ予想しておくことだ。(そして、その部分だけで、外側の斜面をコンクリで強化しておけばいい。全域でやるのは無理だとしても。)

 では、どうやって予想するか? それには、「越流堤」というものを利用する。前に述べたことを転載しよう。

 ここで疑問が生じるだろう。
 「堤防の決壊が起こる場所を、あらかじめ予言できるのか?」
 と。
 もちろん、私は予言者ではないから、予言するようなことはできない。
 そこで、予言するかわりに、うまく指定すればいいのだ。つまり、決壊しやすい場所として、特定の場所を弱く作っておけばいいのだ。
 具体的には、特定の場所だけで、堤防の高さを低くする。下図のように。


( → 堤防決壊による被害(岡山で): Open ブログ

 このように越流堤を作っておけば、川水をその部分で氾濫させることができる。
 具体的な例は、新横浜の遊水地だ。そこには越流堤がある。だから、川の水位が一定以上になると、越流堤から遊水地へと水が流れ込む。しかも、その部分では堤防がコンクリで強化されているので、堤防が決壊することもない。

 ──

 新横浜の場合は、越流堤の外側に遊水地があった。
 一方、越流堤の外側に遊水地がなくてもいい。そこがただの市街地であっても、越流堤を作るといい。そのことで、堤防の決壊を防ぐことができるのだ。

 「そんなことをしたら、その市街地が浸水するだろ」
 と疑念に感じる人もいるだろう。しかし、それは現実になされているところがある。(意図せざる形であるが。)

 それは、多摩川の二子玉川だ。この地では、堤防がなかったと言われている。実は、堤防がなくても、もともと堤防があるぐらい、土地が高いのだ。だから、堤防がなくても、他の場所の堤防と同じぐらいまで、川の水位上昇に耐えることができた。
 ただし、二子玉川では、耐えられる水位が、他の場所よりもほんの少し低かった。そのせいで、そこから水が氾濫した。
 これは、事実上、この部分が越流堤であったことに相当する。
 また、この部分は、外側がコンクリで強化されることはなかったが、もともと堤防がないので、強化する必要もなかった。堤防がないので、堤防が決壊する恐れもなかった。

 その結果、どうなったか? 二子玉川で、氾濫が起こった。同時に、水がそこであふれた分、川の水位は下がった。これ以上は川の水位が上がることがなくなった。
 要するに、二子玉川の周辺が遊水地の役割を果たしたことで、多摩川全体の決壊を防ぐことができたのだ! 

 これは非常に重要なことである。
 今回は、二子玉川で氾濫が起こったことで、「堤防がなかったのは失敗だった」という批判が生じた。
 その一方で、「多摩川の氾濫が起こらなかったのは幸運だった」と胸をなで下ろす人が多かった。
 この二つは矛盾している。実は、二子玉川で氾濫が起こったから、(川の水位が下がって)多摩川の決壊が起こらなかった、とも言えるのだ。

 では、仮に、二子玉川に堤防ができていたら、どうなったか? そうなったら、他の場所で氾濫が起こっていた可能性が高い。その場合、その場所では堤防の外側は強化されていないから、30分〜60分ぐらいしたら、堤防は決壊していただろう。そうなったら、東京または川崎の広範な範囲で、大規模な被害が発生していたはずなのだ。たとえば、こんなふうに。(鬼怒川)





 多摩川が決壊して、こういうふうになっても、おかしくなかった。ただし、現実にはそうならなかった。それは、多摩川が決壊しなかったからだ。それというのも、二子玉川に(実質的な)越流堤があって、二子玉川が(実質的な)遊水地となったからだ。

 なお、この次もそうなるとは限らない。たぶん、二子玉川には、今回のことを教訓として、新たに堤防が建設されるだろう。そして、そうなったら、そのときには(二子玉川が守られる代償で)多摩川の堤防は決壊するのである。そして、上の動画のような事態が起こるのである。

 自殺行為とは、このことだ。大金を掛けて工事して、それによって堤防を決壊させて、都会を洪水で崩壊させる。これこそ狂気の沙汰と言えるだろう。そして、その方向に向かって、日本は邁進しつつあるのである。

( ※ なぜそんなことをするか?  Openブログの声を聞かないからだ。)



 [ 付記1 ]
 二子玉川で堤防をつくるべきだ、という声は、たとえば下記にある。
  → 二子玉川地区の河川氾濫は人災か? 堤防建設問題を反対派と国交省に直撃《台風19号水害》 | 文春

 このページの最後の地図を見ると、「旧堤」というものがわかる。つまり、昔からあった堤防(の名残)だ。
 今回の越水で水が流れ込んだ部分は、旧堤の外側(川側)だ。つまり、本来ならば河川敷であった場所だ。そんなところを(歴史的な事情で)占拠して、家を建てたわけだ。こんなふうに。





 これは、水死者の出た川崎の場合と同様だ。
  → 川崎の氾濫で死者1名: Open ブログ

 [ 付記2 ]
 二子玉川で越水した箇所は、土地が高いので、浸水の被害は少なかった。しかしそこから東に移った場所では、土地が低いので、流れ込んだ水を浴びて、かなり大きな浸水被害が発生した。
 多摩川沿いにある世田谷記念病院の男性職員(55)は嘆く。1階の機器が水没して故障し、万全な治療ができないとして13日朝から、重症患者など約160人を別の病院に移送する作業に追われた。
 12日夜のピーク時は1階に高さ1メートルぐらいの水が流れ込んだという。事前に書類や検査機器などを机の上に移動させ、重くて運べない機器は柵で囲って備えをしていたが、ほとんどが水にぬれてしまったという。
( → 多摩川氾濫で浸水「怖かった」 東京・二子玉川:日本経済新聞





 しかしまあ、このあたりが遊水地になってくれたおかげで、多摩川は決壊を免れたとも言えるのだ。

 [ 付記3 ]
 越流堤があるのと同じ効果を、もっと川の沿岸全体で分かちあうこともできる。それは、「雨水ポンプを働かせない」(地上の水を川に排水しない)という方針だ。
 これだと、地上部は薄く浸水するが、川に流れ込む量が減るので、川が決壊する危険性は大幅に下がる。私は台風の前に、これをお薦めした。(覚えている人もいるだろう。)
  → 今からできる氾濫対策(台風直前): Open ブログ
  → 雨水を川に入れるな: Open ブログ

 [ 付記4 ]
 現状での対策としては、「越流堤」や「雨水ポンプの停止」ぐらいでいい。だが、ひょっとしたら、将来的には異常気象が頻発して、超巨大台風が次々と襲ってくるかもしれない。上の方針だけでは足りなくなるかもしれない。
 そのとき、「多摩川の直線化」という工事が間に合わないとしたら、どうすればいいか? 「多摩川の加工に巨大ポンプを設置する」という案もある。
 ただし別途、次の案もある。
 「多摩川の沿岸にある唯一の巨大緑地であるゴルフ場を、遊水地に改造する。そのためには、このゴルフ場のある丘陵地の土地を、削り取る必要がある。そのとき生じた大量の残土を使って、多摩川の堤防をかさ上げする。残土を運搬するには、堤防上でトラックを走らせればいい」

 このゴルフ場は、下記だ。





 名称は、右下部が「多摩カントリークラブ」で、左上が「桜ヶ丘カントリークラブ」とあるので、二つの部分に分かれているらしい。そうだとしても、両者を一体化して、遊水地にするといいだろう。

 このあたりがどの程度の丘陵地であるかは、ストリートビューでおおまかに見当が付く。





 残土によって堤防のかさ上げができれば、一石二鳥だ。
 残土がさらに余るようであれば、一般家屋について「盛り土用の残土」として提供してもいい。ついでに「水害対策で盛り土をしましょう」というキャンペーンも張るといい。



 【 関連サイト 】

 本項に似た発想は、下記に見られる。
  → 「決壊しない堤防」をつくった武田信玄の発想法に学べ | Forbes JAPAN

  ※ 発想は似ているが、方法は異なる。(堤防に、斜めに切れ込みを入れる、という方法。)
posted by 管理人 at 22:50 | Comment(4) |  地震・自然災害 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
細かいことですけど
世田谷記念病院の浸水は内水氾濫です
多摩川からの逆流を防ぐため近くにある水門を閉じたけど
この水門には排水ポンプがなかったらしいです
武蔵小杉は水門を閉じる判断が遅かったらしく
多摩川の水が逆流したらしいです

Posted by 老人 at 2019年10月17日 04:54
> 情報ありがとうございました。

 出典となるテレビ番組を見ました。
  https://www.youtube.com/watch?v=pwMYVukPOHw

 内水氾濫だという理由は、水は堤防を越えて横からやってきたのではなく、道路の側溝などの地下部分から水が溢れ出たかららしい。「下から地上へ」という形で。
 なるほど。その意味ではまさしく内水氾濫だと言える。排水ポンプがないせいで水を排出できなかった、という意味でも、内水氾濫だと言える。

 ではどうして内水氾濫が起こったのか? それも、急激にあっというまに?
 その理由は、すぐそばの上流部で氾濫があったからだ、と考えるのが妥当だろう。そこで氾濫して大量の水が地面に注いだ。ただしその水は、道路を伝って坂道を下ったのではなく、道路の側溝を伝って坂道を下った。(当り前だ。水は高きから低きに流れるからだ。)
 そうして標高の低い場所(病院のそば)に達してから、そこで水が噴出した。
  だからそこでは短時間で一挙に水が溢れ出た。「ボコボコと水が溢れ出た」という証言もあるらしい。
 また、「病院の方から波が押し寄せるように水が来た」という証言もある。
  https://www.youtube.com/watch?v=MRS-NUp819Q

 通常の内水氾濫ならば、そんなに急激に起こることはないはずだが。(長時間を掛けて少しずつ水位が上がるはずだ。)
 この意味でも、内水氾濫が起こった理由は、すぐ上流部分で氾濫が起こったからだ、と言えるだろう。時刻的にも符合する。

 ────

 なお、ついでにひとこと。
 1番目の動画では、「二子玉川で氾濫が起こったのは、地元住民が堤防を作ること? 反対したからだ」というふうに大学教授が言っていたが、これは間違いだと判明している。地元住民が反対したのは、もっと下流川であり、そこではすでに堤防が作られている。堤防が作られなかった箇所は、地元住民が反対していた場所ではない。(その隣である。)
 作られなかった理由は、役所の都合であるらしい。
 詳細は、 [ 付記1 ] のリンク先に記してある。そちらを参照。

Posted by 管理人 at 2019年10月17日 07:54
 上の話の続きを言うと、形式的には「内水氾濫」みたいだけど、実質的には「普通の氾濫」だろう。なぜなら、地面の下から湧き出る水を供給したのは、堤防の住宅側の水ではなく、堤防の川側の水だからだ。
 川の水が堤防を流れ込んで、それが側溝を通じて、別の場所で吹き出した。ならば、実質的には、普通の氾濫と同じ構造だと言える。ただし、被害が生じる場所が、そばでなくて遠くだ、というだけだ。
Posted by 管理人 at 2019年10月17日 20:51
 世田谷病院のある位置が低地であることは、確認できた。
 確認するために、ハザードマップを見ると、そこが洪水の危険地であることがわかる。つまり、低地だ。
  → https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kurashi/005/003/003/d00006073_d/fil/PDF05.pdf

  このページの一番右下の青い ■ が、世田谷病院のある位置だ。
 Google マップで照合すると、下記だ。
  → http://j.mp/35HTmWb


  
Posted by 管理人 at 2019年10月17日 20:54
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