2019年10月13日

◆ 八ツ場ダムと台風(2019)

 台風 19号による大雨のとき、八ツ場ダムが大活躍した……という情報があるが。

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 台風 19号による大雨のとき、八ツ場ダムが大活躍した……という情報がある。





   → 八ッ場ダムが試験湛水(たんすい)中にも拘らず台風19号の豪雨を…… - Togetter

 これを見て、「民主党はクソだ」という声を上げる人もいる。だが、八ツ場ダムを止めたのは民主党の前原だが、八ツ場ダムを建設したのは民主党の野田だ。「民主党が止めて自民党が建設した」のではない。「民主党が止めて民主党が建設した」のだ。お間違えなく。

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 ま、それはそれとして、これはよく考えると、実に皮肉なことである。
 なぜか? ここでは、ダムが「空っぽの状態から、一挙に満杯になった」というふうになっているが、そういうことは、通常のダム運用ではありえないからだ。
 私が前から何度も言っているように、「ダムは事前放流して、あらかじめ空っぽに近い状態にしておく」べきなのである。
 にもかかわらず、現状では、「あからじめダム容量の7割ぐらいの量に水を貯めておく」というふうに運用されている。その場合、ダムの容量のうち、治水のために利用できるのは、たったの3割だけだ。残りの7割は、「常時貯水」のために使われてしまうので、治水のためには使われないのである。
 ところが今回は、好都合なことに、試験運用中であった。つまり、「常時貯水」がなされていなかった。だからこそ、もてる能力のすべてを治水のために使うことができたのである。

 こういうことは、通常の運用ではありえない。今回、そういうことができたのは、「たまたま試験運用中だった」という幸運があったからだ。つまり、「前原が止めて、野田が建設した」というふうに、ちょうどうまく時期を合わせた。だからこそ、今回のように、「能力の 10割を治水のために使う」ということができたのだ。
 仮に、自民党政権が続いていたら、何年も前に八ツ場ダムは完成していただろう。その場合、「常時貯水」で運用していたから、治水の能力は3割しか使えなかった。今回のように 10割の能力を使うことはできなかったのだ。
 まさしく民主党のおかげだった、と言えるだろう。(意図した成果というよりは、ケガの功名みたいだが。)




 さて。それはそれとして、八ツ場ダムをどう評価するべきか? 「やっぱり建設しておいてよかった」となるか? いや、そうではない。その理由を以下で述べよう。

 (1) 費用対効果

 八ツ場ダムを建設したことの効果はある。しかし、巨額の費用を掛けたからには、多少の効果があることは当り前だ。
 費用は、当初計画の 2,100億円から、4,600億円に上昇したあと、さらに 5,320億円にまで上昇した。では、これほど巨額の費用を掛けた価値はあるのか? 費用に相応するだけの効果があったのか? それは別問題だ。
 今回のような台風が毎年のように来るのであれば、5,320億円をかけた価値はあると言えるだろう。しかし、こういう台風が数十年にいっぺんしか来ないのであれば、とうていそれだけの費用を掛けた価値はないと言える。


 (2) 遊水地

 どうせ金を掛けるのであれば、別の案もある。(対案だ。)
 それは「遊水地」である。八ツ場ダムは利根川水系であるから、利根川水系の中流部に、遊水地をいくつか作っておけばいい。そうすれば、下流での氾濫を防ぐことができる。
 そこで、「八ツ場ダムよりは遊水地をいっぱい作れ」というふうに私は前に提案した。
  → 利根川の遊水地: Open ブログ
  → 東京の水害対策(荒川・江戸川): Open ブログ

 このような遊水地は、巨大ダムに比べて、費用は安く済む。だから、コスパがとてもいい。
 また、効果が大きいことは、前項でも示したとおりだ。(新横浜の遊水地は大きな効果があった。)
 また、スーパー堤防という金食い虫に比べると、遊水地はコスパでは圧倒的に上となる。
 とにかく、遊水地は堤防に比べて、コスパがとてもいいのだ。
  → 堤防よりも遊水池: Open ブログ

 さらに、地域的にも、効果がある。たとえば、八ツ場ダムは、多摩川の氾濫を防ぐ効果はまったくない。しかし、多摩川に遊水地を作れば、多摩川の氾濫を防ぐことができるのだ。
 荒川についても同様だ。(荒川は利根川水系ではない。)

 このように、遊水地によって、平野部の多くの河川で氾濫を防げる。これは、利根川水系にしか効果のない八ツ場ダムにはなしえないことだ。


 (3) 事前放流

 実は、さらにうまい方法がある。それは「事前放流」だ。
 冒頭のツイートでは、「八ツ場ダムは頑張った。偉い」というふうに表されている。だが、八ッ場無なんかがなくても、おなじ効果を発揮することはできたのだ。
 それは、他のダムの「事前放流」だ。


tonegawa-dam.png
出典:国交省 2019-10-11


 13日の午後になっても、データは 11日のままである。(週末のせいらしい。自動処理でなく、人手でやっているのかな?)
 ここでは、いずれのダムも7割程度の貯水量となっている。
 しかし、事前放流して、貯水量を1割ぐらいにまで減らせば、多大な量の水を受け止めることができる。そうすれば、八ツ場ダムなんかがなくても、同等以上の効果を発揮できるのだ。

 つまり、5320億円もの金を掛ける必要はまったくない。「事前放流」という知恵さえあれば、八ツ場ダムを建設すること以上の巨大さで、治水能力を発揮することができるのである。
 それは、「眠っていた能力を発揮する」という形で可能となる。そして、そうさせるためには、単に「事前放流」という知恵さえあればいいのだ。
  ・ 台風が来るまでは、 7割の貯水量を維持する。
  ・ 台風の3日前には、 3割の貯水量まで削減する。
  ・ 台風の来る直前には、1割の貯水量まで削減する。

 このように運用すれば、ダムを水不足にすることなく、治水能力を最大限にまで発揮することができるのだ。そして、そうして使えるようになる治水能力は、八ツ場ダム一つよりも、はるかに大きな量となるのである。
( ※ 有効貯水容量は、八ツ場ダムが 9千万立方メートル。利根川水系8ダムの合計は、46千万立方メートル。つまり、八ツ場ダムの5倍である。)( → 出典
 ざっと計算すると、8ダムの事前放流で新たに利用できる量は、46千万立方メートルの6割だから、28千万立方メートルだ。これは八ツ場ダムの三つ分だ。それだけの貯水容量が、事前放流によって確保できるのだ。しかも、そのための費用は、タダ同然である。(知恵にはお金は1円もかからない。)
 これこそが、うまい方法だと言えるだろう。



 【 関連項目 】

 → 桂川 氾濫 とダム制御: Open ブログ
 → 豪雨時のダムの事前放流: Open ブログ
 → 事前放流で貯水量増加: Open ブログ



 【 関連サイト 】

  国が建設中の八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)で、試験貯水が10月1日に始まる見通しになった。3〜4カ月で満水位の標高 583メートルまで水をためる予定。半年間でダム本体の強度、基礎地盤とダム湖周辺の斜面の安全性などを確認し、異常がなければ来春以降、ダムとして使い始める予定だ。
( → 八ツ場ダム、貯水開始へ 数カ月で満水、橋など湖底に:朝日新聞 2019年9月30日




 【 追記 】
 八ツ場ダムが完成していた場合、ものすごくひどい氾濫が起こっていた可能性が高い。なぜなら、八ツ場ダムは発電用のダムだからだ。そして、発電用に運用していた場合には、ダムの放流を電力会社が決める。その場合、
  ・ 台風の直前には、最大量(ダム容量全部)まで貯める
  ・ 台風が来たら、一挙に大量放出をする
 というふうに運用するので、通常(ダムがない場合)よりも、大幅にひどい洪水が起こるのだ。
 これが起こったのが、タイの洪水だ。タイの洪水は、発電会社が(治水よりも)発電を優先して、自分勝手な運用をしたせいで、大きな洪水被害が発生した。
 この件は、下記項目で詳しく述べた。
   → 八ツ場ダムの是非: Open ブログ

 【 追記2 】
 八ツ場ダムの効果は下流に行くほど減衰される……という話がある。
  → 台風19号、利根川における八ッ場ダムの洪水調節効果 | 八ッ場(やんば)あしたの会

 たしかにそうだ。そもそも時間的な遅れがあるから、八ツ場ダムの流域に降った豪雨が、下流の東京の下町にまで達するには、1日ぐらいの遅れがある。1日もたてば、下流域での水位はずいぶん下がっているから、そのころに上流部の水が来たとしても、たいして影響はないのだ。
 その意味からしても、八ツ場ダムが(東京の)洪水防止に果たした効果はほとんど皆無に近いと言っていいだろう。
posted by 管理人 at 15:41|  地震・自然災害2 | 更新情報をチェックする
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