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前半では現状の問題点を述べ、後半では画期的な案を示す。
現状の問題点
大学入試で英語民間試験を導入するという文科省の方針がある。これについて世論がかまびすしい。
私としてはどう考えるかというと、前に次の項目で言及した。
→ 英語の民間試験の是非: Open ブログ
要旨は下記。
・ 私はこれまで立場をはっきりとさせなかった。
メリットもデメリットもあり、決着しがたい。
・ 否定論を聞いた。「ない能力を測ることはできない」と。
それはごもっとも。
・ ただし私としては、妥協案を示す。それは、
「配点は1割以下」という形で導入することだ。
これが以前の方針だった。(2018年07月04日)
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しかしその後、いろいろと事情がわかってきた。
・ 導入にはいろいろとトラブルが付随する。
・ TOEIC は撤退を強いられた。( → 出典 )
・ 文科省とベネッセは利権で結びついている。( → 出典 )
・ 文科省は異常な形で、ゴリ押ししようとしている。
最後の件は、次の記事だ。
→ 英語民間試験、活用未定大学に「ペナルティー」検討:日本経済新聞
引用しよう。
英語民間試験を巡り、文部科学省が活用方針を30日までに公表しない大学に対し、大学入試センターから民間試験の成績の提供を受けられないようにする措置を検討していることが28日分かった。
同省は措置の検討について27日付で各大学に知らせた。
27日(金曜日)に通知して、土・日を経たあとの30日(月曜日)までの作業を強制する。期間はたったの1日しかない。メチャクチャもいいところだ。
( ※ 期限はもともと 30日だとはいえ、ペナルティを教えたのは 27日だ。)
しかも、ペナルティというのが、「予算の削減」というような大学を罰するものではなく、「大学入試センターから民間試験の成績の提供を受けられないようにする」という形で、受験生に影響が及ぶものだ。大学の方針が気に食わないからという形で、受験生を罰する形になるのだから、呆れるしかない。あまりにも異常だ。「頭大丈夫か?」と疑いたくなるほどだ。
はてなブックマークでも、批判の嵐だ。
→ はてなブックマーク
ここまで文科省がゴリ押しするところからして、この英語民間試験は、よほどひどいものである(だからゴリ押ししようとしている)と判定するしかない。
となると、「即時中止」が最善の策だ、と言っていいだろう。そうすれば、世間で言われるさまざまな難点も解消する。
・ 貧乏人には金銭的な負担が大きい。
・ 金持ちの子弟ばかりが有利になる。(貧富の差の拡大)
・ 離島などの僻地の受験生は、民間試験の受験の機会が少ない。
こういうさまざまな難点も解消する。(試験をやめれば。)
画期的な案
以上は現状の話だ。
それとは別に、私としては新たに決定的な判断を出すことができた。そこで、このあとで示そう。
これまでは、「難点があるとしても、英語の会話能力を促進する効果もあるので、制度を全否定はできないな」というふうに、折衷的な立場を取っていた。それが先の「1割以下の配点での実施」という妥協案だ。
しかしこれは、ピンボケな案であった。物事の核心を突いていなかった。
物事の核心とは何か? 次のことだ。
「英語の会話能力を高めたいのであれば、4〜5歳までに英語の発音能力を体得させるべきだ」
これが現行制度では無理だとしても、小学校に入った段階で、
「遅くとも、6〜7歳(小学1年生〜2年生)までに、英語の発音能力を体得させるべきだ」
と言える。
なぜか? 言語の発音能力は、4〜5歳までに脳で形成されるからだ。このあとで後天的に修得しようとしても、非常に困難なのである。
たとえば、下記だ。
th と s, z の区別。
ジの 3種類の違い。 → 参考サイト
L と R の違い。
これらの発音は、幼年期を過ぎてからでは習得が困難だ。
たとえば、L と R の違いだが、日本語の「ら」行は、L と R の中間的な音だし、発音の仕方も中間的だ。そのことを意識すると、両者の発音もしやすい。
→ 最初からそう言ってくれよ!LとRの発音で違いが理解できる覚え方
→ 日本語の「らりるれろ」は英語の「ra」か「la」か?
L と R ならば、上記の方法で比較的区別しやすい。しかし、th と s, z の区別となると、かなり難しくなる。さらに j 、 dg の音まである。
こういうのを、後天的に修得しようとしても、かなり困難なのである。とすれば、幼児期のうちから学習することが必要となる。
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以上は原理だ。この原理から、政策についても結論できる。こうだ。
音声の民間テストをすることで、音声の能力を上げる、というのが文科省の方針だった。しかし、「テストをすれば成績が向上する」ということは、(他の科目はともかく)英語の音声能力については成立しないのだ。なぜなら、「努力して勉強すれば能力が上がる」ということが成立しないからだ。むしろ、幼児期の環境次第なのである。幼児期にその環境があるかどうかで、英語の音声能力は決定的に違いが生じる。
とすれば、文科省がなすべきことは、(能力を高めるために)「テストをする」ことではなく、(能力を高めるために)「幼児期の英語音声教育を充実する」ことなのである。
以上で、何をするべきかを示した。
同時に、何をしてはいけないかもわかる。それは、現状のように、「テストで能力を上げようとすること」である。そんなことをしても、たいして効果はないのだが。
というわけで、文科省の方針は決定的に間違っている。あさっての方向を向いていると言ってもいい。(あっち向いてホイ、だ。)
[ 付記1 ]
「競争原理を導入することで、全体の能力を上げる」
というのは、進化論の応用で、社会進化論とも言える。で、この手の方策は、たいていが大失敗となる。
日本下は、企業において「成果主義」というのが導入されたことがある。
「成果を上げた者は給料を上げて、成果を下げた者は給料を下げる。そうすれば全員が必死になって成果を上げようとするので、全員が成果を上げるようになる。かくて会社の業績は自動的に向上する」
こんなことを考えるのは、「経営とは何か」ということも理解できない馬鹿経営者だろう。経営の本質とは、「社員が最大限の能力を発揮できるように、働く環境の整備をすること」なのだ。
一例として、佐野 SA の例で言えば、「 40度を超える職場でエアコンを導入する」というようなことだ。( → 出典 )
一方、駄目経営者の例としては、富士通がある。「成果主義を導入して経営改革」というふうに唱えた。しかしその結果は、大失敗であった。
→ 富士通 成果主義 - Google 検索
http://j.mp/2mPr9ey
たとえば、成果は相対評価で評価されるから、自分の業績ばかりを上げようとして、他人の足を引っ張る。部の全体の業績を上げようとするかわりに、部の内部で他人よりもどれだけ上であるかを示そうとする。かくて、足の引っ張り合いで、部の全体の業績は落ちていく。……そういう感じだ。
こういうバカげた発想と同じ発想を取るのが、「競争原理の導入で音声能力を高めよう」という文科省だ。競争するだけで能力が高まると信じている。実は、そこで大切なのは、音声の能力よりも、親の資産や、生徒の学習環境(都会の英語塾など)なのだが。
こういうバカげたことがわかったから、東大は「英語の民間試験は導入しない」と決めた。国立大学の多くもそれに従った。しかるに文科省は、「それではまずい」と思ったらしく、ゴリ押しすることにした。 ← 今ココ。
文科省の方針に振り回される受験生が可哀想だ。
[ 付記2 ]
どうせなら、英語のヒアリング能力を高めるために、音声施設や学習機器やソフトウェアなどを配備して、普及させることの方が重要だろう。その方がずっと意味がある。
( ※ センター試験用にヒアリングの装置はあるから、それを利用する、という手もある。)
なのに、それもやらずにテストだけ導入するというのは、本末転倒というものだ。
【 関連項目 】
(1)
→ TOEIC,TOEFL で高得点を取る方法: Open ブログ
一部抜粋しよう。
以上の方法で、高得点を得ることができるようになる。ただし、英語力はあまり身につかないことが多いようだ。あくまで「点数だけ」が目的となる。そしてそれは、可能だ。
これが可能だということからしても、英語民間試験がかなり無意味だということがわかる。それは、英語力向上をめざす方法ではなく、テストの得点技術だけをアップさせる方法(チートする方法)なのである。
文科省の推進する制度とは、そういうものなのだ。
(2)
→ 英語の早期教育 : nando ブログ
英語の言語能力についての、かなり長い話。基礎的な話。
〜大学入試の英語民間試験 見直しに向け検討〜
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20190925-00000319-nnn-soci
>>しかしこれは、ピンボケな案であった。物事の核心を突いていなかった。
>>物事の核心とは何か? 次のことだ。
>>「英語の会話能力を高めたいのであれば、4〜5歳までに英語の発音能力を体得させるべきだ」
管理人さんの主張がピンボケですね。以下の発音は幼少期からトレーニングしないと習得できない、との主張をされていますが、英語でコミュニケーションをとるだけなら、そんなものできなくたってやっていけます。そもそもどんなに頑張っても現地に赤ん坊のときから住むとかでない限りはネイティブのように話すことは普通出来るようにはなりません。
@th と s, z の区別。
Aジの 3種類の違い。 → 参考サイト
BL と R の違い。
これは私の個人的な主張ではなくて、言語の発音能力の形成を調べた脳科学者の研究成果です。こんなこと、私が個人的に主張するわけがない。
引用元を失念したので、引用元を書いていないだけです。
> 赤ん坊のときから住むとかでない限りは
4〜5歳で日本から米国に移住して、以後はネイティブ同様に英語を使える人は、たくさんいます。実例多数。