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話は飛ぶが、今季のテレビドラマには、法医学をテーマにしたものが二つもある。
→ 『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』|テレビ朝日
→ 監察医 朝顔 - フジテレビ
たぶん、それに影響されてのことだろうが、「解剖率が低すぎる」という記事が大々的に掲載された。
→ 死因究明の解剖率に地域格差 神奈川41%、広島は1%:朝日新聞
→ 死因究明、解剖に地域差 新制度後も34府県で10%未満:朝日新聞
→ 解剖医1人だけ、手回らず 早朝・夜間も対応、乏しい志望者:朝日新聞
この話自体は、前から知られていたことだが、ひろく一般に啓蒙するという意味では、この記事は有益であろう。そこで内容をざっと紹介しよう。
犯罪が疑われたり、死因がわからなかったりして、警察が扱った遺体で、解剖される割合の地域格差が広がっている。解剖率の向上をねらって、政府は6年前に解剖の新制度をつくったが、解剖医や予算の不足などから、わずかしか増えておらず、特に地方では底上げができていない。
( → 死因究明、解剖に地域差 新制度後も34府県で10%未満:朝日新聞 )
監察医制度という死因究明の仕組みがある一部の大都市では、犯罪の疑いがないとされた遺体の解剖が比較的多い。都道府県が運営し、法医学が専門の監察医が死因を調べ、解剖が必要か判断できる。ただ、対象の地域は現在、東京23区と大阪、名古屋、神戸の3市のみ。その他の地域では司法解剖を担う大学の法医学教室などで対応するケースもあるが数は少なかった。
このため、13年4月に死因・身元調査法(調査法)が施行され、犯罪の疑いがないとされた遺体でも、警察署長の判断で家族の承諾がなくても解剖できるようになった。解剖が大幅に増えた地域もあるが、解剖率の全国平均は12年の11%から18年の12%と微増にとどまる。26府県はこの10年で一度も1割に達しなかった。
多くの大学は財政難で余力がない上、調査法の解剖で支給される額が司法解剖より安い。予算は前年の実績が考慮されることもあり、解剖が少ないままでは予算が増えにくい。
( → 死因究明の解剖率に地域格差 神奈川41%、広島は1%:朝日新聞 )
解剖医や予算の不足、遺族の抵抗感などから解剖されないことが多い。
( → 解剖医1人だけ、手回らず 早朝・夜間も対応、乏しい志望者:朝日新聞 )
良い指摘なのだが、残念ながら、結論が駄目だ。
正しい結論を言おう。この問題の結論はこうだ。
「問題の根源はただ一つ、予算不足である。それも、自治体の予算不足だ。自治体が解剖のための予算を出さないということだけが問題である。だから、自治体が解剖のための予算を出せば、問題は一挙に改善する」
たとえば、神奈川県では解剖率が高い。これは自治体がしっかりと予算を組んでいるからだ。他の件でも、同様に予算を組めば、それですぐに問題は解決する。
しかるに、記事は総花的に理由を列挙するので、話が絞られず、ピンボケになってしまっている。
・ 解剖医が足りない
・ スタッフも足りない
・ 大学の予算も足りない
なるほど、これらも「解剖率が低いこと」の理由ではある。しかしそれは、「自治体の予算不足」という根源に付随する、派生的な問題であるにすぎない。
(1) 解剖医が足りないのは、解剖医に払う予算がないからだ。予算がないのに解剖医だけを増やせるはずがない。(予算が同額で解剖医を2倍にすれば、給料は半分になるので、逆に、解剖医は減ってしまう。いなくなるかも。)
予算が十分になれば、解剖医は自動的に増える。だから、解剖医が足りないのは、予算不足から派生する問題にすぎない。
(2) スタッフ不足も同様である。予算不足から派生する問題にすぎない。
(3) 大学の予算は、関係ない。自治体が金を出さないから、大学が赤字覚悟で、大学の研究費から持ち出しにしているだけだ。ここでは、自治体は大学の予算で行政をしているのであって、乞食も同然である。呆れてものが言えない。行政の費用を教育期間に出してもらうなんて、あまりにもひどすぎる。
逆に言えば、自治体の予算不足が解決すれば、この問題は自動的になくなる。
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以上からわかるように、朝日の列挙した問題はすべて、「自治体の予算不足」から派生するものだ。ここが核心なのだから、ここをきちんと指摘するべきだ。
なのに、「大学の予算不足」なんかを理由に掲げているのだから、あまりにもピンボケというしかない。そこで私が「核心はこうだ」という形で指摘しておいた。
名探偵のように。 (^^);
[ 付記 ]
解剖率がこんなに低いのは、日本だけだ。諸外国では、もっとずっと高い。医者の給料も高い。
日本の医者は、公務員系では、給料が安すぎることが多い。
[ 余談 ]
記事では、死体の画像診断( Ai )というのも取り上げられている。これは、海堂尊によるミステリー小説シリーズで取り上げられて、有名になった。海堂尊は政府の推進部門に関与して、Ai の不休に努力しているのだが、いかんせん、その動きはあまり速くないようだ。
それでも記事では、 Ai が少しずつ推進されつつあるという状況が紹介されている。
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