2019年08月30日

◆ スパコン京の 悲惨な末路

 スパコン京が引退したが、その末路は実に悲惨なものだった。かわいそうで、涙が出る。

 ──

 スパコン京が引退した。
 理化学研究所は30日、神戸市の拠点でスーパーコンピューター「京(けい)」の電源を停止してシャットダウンした。2012年に本格稼働し、一時は計算速度の性能ランキングで世界首位に輝いた京だが、各国でスパコンの開発競争と性能の向上が急速に進むなかで、およそ7年の歴史の幕を下ろした。
( → スパコン「京」がシャットダウン 7年の歴史に幕:日本経済新聞

 これを見ると、「長い間、ご苦労さん。7年もたったんだし、もう時代遅れだから、仕方ないね」という感想も出そうだ。
 しかし、そうではない。京は、時代遅れであるどころが、いまだに現役バリバリで、日本でもトップ3に入り、世界でも18位だ。(2018年11月)
  → 出典:神戸新聞
 また、朝日の記事には、こうある。
 京は、ビッグデータ解析の世界ランキング「グラフ500」で、15年から19年まで9期連続世界一を維持。実際に科学的成果につながるランキングで、理研の松岡聡・計算科学研究センター長は「チャンピオンを続けて引退するのは京が初めて」と話す。
( → スパコン京、成果は 「2位じゃダメ?」から10年 きょう電源オフ:朝日新聞

 「ビッグデータ解析」という分野の話ではあるが、9期連続世界1であり、今なおチャンピオンである。これはとうてい時代遅れだとは言えない。
 それにもかかわらず、京は強制的にリタイアを迫られた。では、なぜ? なぜそういう理不尽なことが起こったのか?

 ──

 先の記事には、こうある。
 京は近く解体が始まり、同じ場所に後継のスパコン「富岳(ふがく)」が設置される。富岳は京の最大100倍以上という計算速度を目指しており、21年ごろに運用が始まる予定だ。
( → スパコン「京」がシャットダウン 7年の歴史に幕:日本経済新聞

 京が解体されたあとに、新しいスパコンである「富岳」が導入されるから、京が引退するのはやむなし、という論調である。つまり、「新人が来るから、あらかじめベテランは引退して、席を空けておけ」ということだ。

 しかし、これは道理が通らない。なぜなら、このようにすると、2019〜2021年の2年間は、スパコンが空白になってしまうからだ。これでは国力が落ちてしまう。

 では、どうすればよかったか? もっといい案はあるか? そこは、困ったときの Openブログ。いい案を示そう。こうだ。

 「京は引退させずに、そのまま残す。それとは別に、並行して、富岳を建設する。そして 2012年になって、富岳が完成したら、その日をもって、京は引退する」

 これならば、2年間の空白はない。それどころか、空白は1日もない。ある一瞬を境界として、それ以前は「京」、それ以後は「富岳」、となるのだ。
  ※ ただし、発電所は共用するので、併用はできない。
    「京」と「富岳」は、どちらか一方しか使えない。

 ──

 では、京を解体せずに富岳を導入するとして、そのための場所はあるのか? 都会の交通至便な場所で、専用発電所のすぐそばという条件があるのに、そんな場所がうまく見つかるのか?
 調べたら、簡単に見つかった。それは、現在の京の隣接地である。そこにはちょうどうまく、適切な空地があるのだ。Google マップを見ればわかる。





 この地図画像と、次の記事を照合する。
  → 施設運転技術ユニット | 理化学研究所 計算科学研究センター(R-CCS)

 すると、次のことがわかる。
 地図画像のうち、北側の四角い部分は、計算機のある建物で、免震構造となっている。
 その南側にある Д を寝かせたような形の部分は、コジェネによる発電機の部分である。
 そのまた南には、空地がある。だから、ここに新たなスパコンを設置することができる。(発電機はすぐそばにある。)

 ──

 ではなぜ、理研はそういう賢明な方針を取らなかったのか? たぶん、次のことが理由だろう。
 「現在の建物は、免震構造などがあって、コストがかかっている。これをそのまま維持したい。だから、建物を維持して、中身の京を解体して、そのあとに富岳を導入すればいい」

 しかし、たかが建物を重視して、肝心のスパコンをつぶしてしまう(そのせいで2年間の空白期間が生じる)というのでは、本末転倒というものだろう。
 「ヘボ将棋 王より飛車をかわいがり」
 というのと同じだ。飛車である建物を大事にしたあげく、王である京を捨ててしまうのだ。これじゃまるで、「百円玉を救うために、1万円札を捨ててしまう」というようなものだ。あまりにも馬鹿げている。

 ──

 では、どうするべきだったか? どうせ建物を重視するにしても、こうすればよかった。
 「現在の建物の隣に、新たに建物を建設する。そこに富岳を設置する。現在の建物は、富岳設置までは京を設置しておく。富岳設置後は、京を解体する。その後は、空いたスペースに、別の安価なスパコンを設置する」

 スパコンというのは、最高レベルのものが1台あればいいわけではない。それに準ずるレベルのスパコンも、多数必要だ。だからそういうレベルのスパコンを、現在の京の後釜に据えればいいのだ。

 図示すると、こうだ。

 《 現案 》
   ━━━━━━━     ━━━━━━━━
               富岳

 《 新案 》
                  別スパコン
   ━━━━━━━━━━━━    ━━━━
               ━━━━━━━━
                富岳

 説明すると、こうだ。
  ・ 富岳の開始時期は、いずれも同じ。
  ・ 京の引退時期は、新案の方が2年遅れる。
  ・ 空白期間は、現案にはあるが、新案にはない。
  ・ 新案では、建物は2館となる。(一つは別スパコン)


 以上のようにすれば、空白期間がないので、日本の科学技術の進展に遅れが出ない。また、京をあっさり捨ててしまうという無駄がない。
 これが名案というものだろう。そして、そういう名案が思い浮かばなかったから、京は現役トップレベルでありながら、強制的に引退させられたのだろう。何と悲惨なことか。人々の愚かさのせいで、悲惨な運命を強いられたのである。涙なしにはいられない。



 [ 付記 ]
 次の話もある。(前出記事)
  → スパコン京 移設、再利用が「非現実的」な理由

 ここでは、京が解体されたあとで、「移設・再利用」が不可能であることを説明している。
 なるほど。それはごもっとも。たしかに、解体されたあとでは、「移設・再利用」は無理だろう。発電所・冷却器・建物などにかかる巨額費用を負担できるはずがないからだ。(新規建設は無理だ。)
 しかし、解体しないで、今のまま使うのであれば、新規建設などは不要なのだ。単に現状のまま使うだけなのだから、追加費用などはゼロで済む。単に維持費がかかるだけだ。
 この維持費は、かなり巨額ではあるが、スパコンの償却費(本体費用)がゼロであることを考えれば、維持費込みでも格安のスパコンだと言えるだろう。(他のスパコンだと、本体の償却費が莫大になって、かなりコスト高となる。)

 上の記事は、それなりに参考にはなるが、本項の話とはまったく関係のない話だ、と言えるだろう。
( ※ よそに移設するなんて、誰も言っていないからだ。)



  【 関連サイト 】
 京の成果を紹介する記事。
 国内外の大学や公的研究機関や企業などに活用され、地球環境や防災、生命科学、医学・医療といった分野の公的研究ばかりでなく、数多くの企業の開発研究に貢献した。
( → スパコン「京」、多くの成果残し30日にシャットダウン 後継機「富岳」に引き継ぐ | マイナビニュース

 運用を終了した今月16日までに、延べ1万1095人が利用。大学などの研究者だけでなく、企業関係者も2869人(25.9%)含まれる。京を使った研究の論文も1240本発表され、医療や防災、ものづくりなど多様な分野で世界水準の研究成果が生まれた。
( → 神戸新聞NEXT|総合|スパコン「京」引退 多様な分野で成果、後継「富岳」へ

 《 「京」コンピュータの経済波及効果は1兆円超 》
 理化学研究所計算科学研究機構は12月22日、「京」およびポスト「京」の利用で想定される波及効果の調査報告書を公表した。この調査は理研が米国IDC(International Data Corporation)社に委託して行われた。
 「京」コンピュータにおいては、収益は約27億ドルでコスト削減は約69億ドルと算出されており、合計額は約96億ドルで日本円では1兆円規模となっている。これまでに「京」コンピュータの開発から運用までに掛かった経費は1,500億円を超えると見られる。この6倍以上の経済的効果があったということになるのだろう。
( → HPCwire Japan

 一方、はてなブックマークには、次のようなコメントが見られる。
  ・ 成果はちっとも上がっていなかった。
  ・ 2年間の空白があるなら、なくてもいいわけだ。
  ・ 年間 1000億円もかけるのは巨額すぎる。

 いずれも誤解である。(費用は7年で 1500億円)
 無知な人が多いので、広報に努めるとよさそうだ。

posted by 管理人 at 22:14 | Comment(3) | コンピュータ_04 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
新規建設費用を政府が出さないからでしょうね。
政府のプライマリーバランス黒字化目標がある限り国力は衰退していくのは避けられません。
Posted by K'z at 2019年08月31日 06:21
先進国の国力ランキングを高位で維持し続けることは前例がないですからね。
Posted by 先生 at 2019年08月31日 07:37
 日本のスパコン1位は、ABCI で、AI用スパコン。2018年8月に開始。
 2位は、オークフォレスト・パックスで、2016年12月に開始。京を少し上回るが、京とほぼ同じぐらいの性能。
 3位は京。2位と大差ない。

 上位の二つがあるから、日本としては(京がなくても)特にひどく困るというほどではないのだが、高い金を払って導入した新型でも京と大差ないのだから、京を解体するというのはまったくの無駄な方針だと言える。(解体しなければ、本体費用ゼロで、スパコンを使えた。)

 京が解体される運命だから、それに合わせて、あわてて二つのスパコンを導入したということだろう。高い金をかけて。……しかしそれはコスパが悪い。

 それにしても、日本はスパコンの数が国全体で少なすぎる。中国や米国には大きく負けている。
  → https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1906/18/news057.html

 こういう状況で、2位に匹敵するような3位のスパコンを解体するのだから、まったくもってひどいものだ。涙がこぼれる。
Posted by 管理人 at 2019年08月31日 12:25
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